「友達の唄」
人 物
佐伯優香(16)高校1年生
浅野和樹(16)そのクラスメート
矢部葵(16)そのクラスメート
佐伯佳奈(18)優香の姉
担任教師
○葉山南高校・正門
門柱に『葉山南高等学校』のプレート。
○同・職員室・中
浅野和樹(16)が担任教師に近付く。
担任教師が和樹に大きな封筒を手渡す。
担任教師「クラスの皆にはもう言ったのか?」
和樹「いえ、まだ言ってないです」
担任教師「そっかぁ。でも寂しくなるなぁ」
和樹「俺、そういうの慣れてますから」
○同・1年C組教室・中
大きな二重の瞳。鼻がスッとして整った顔の佐伯優香(16)がヘッドホンをして1人で弁当を食べている。斜め前の席に和樹が戻ってくる。優香がチラッと見る。和樹、鞄に大きな封筒をしまい、取り出した小説を読み始める。
クラスの男子達がチラチラと優香を見ている。矢部葵(16)が男子達の視線の先にいる優香を冷たい目で見ている。
○同・図書室・中(夕)
和樹、空いている席に座ると、大きな封筒を鞄から取り出す。
封筒には『宮城県立石越高校』の文字。
× × ×
和樹、帰り支度をして席を立つ。
窓の外、雨が降り出す。
○同・廊下(夕)
男子生徒が優香に告白している。優香、深く頭を下げ、足早にその場を離れる。
○同・下駄箱前(夕)
和樹がぼんやりと外の雨脚を見ている。
優香がやって来て和樹に気付く。ドギマギした口調で、和樹に声をかける。
優香「浅野君、まだ居たんだ。どしたの?」
和樹、優香の声に振り返る。
和樹「えっ?あぁ佐伯かぁ。いや、雨降って来ちゃったなぁって」
優香「傘は?持ってないの?」
和樹、苦笑いしながら、
和樹「うん。天気予報は見るべきだよね」
優香、和樹と目を合わせず、小声で、
優香「あ、あの、もし嫌じゃなければ、その」
○道路(夕)
1つ傘の下、並んで歩く優香と和樹。
和樹「入れてくれてありがと。でも大丈夫?」
優香、ポーっとして頬が紅潮している。
優香「……えっ?大丈夫って?何が?」
和樹「いや、あの、ほら、佐伯にはファンが多いみたいだからさ。この状況は……」
優香「えっ?大丈夫、大丈夫。全然、大丈夫」
優香が傘を持つ手を振り、水滴が飛び散る。優香、慌てて謝る。和樹、小さく笑う。優香も小さく笑う。
× × ×
和樹「佐伯って、いつも何聴いてるの?」
優香「えっ?」
和樹「お昼、いつもヘッドホンしてるじゃん」
優香「あぁ、うん。好きなジャンルは色々。でもね、一番好きなのはバンプ」
和樹「バンプ・オブ・チキンのこと?」
優香「そう!浅野君も聴いたりする?」
和樹「『天体観測』知ってるくらいかなぁ」
優香「知ってるんだ!でもね、他にも良い曲いっぱいあるんだよ!『友達の唄』とか『ray』とか、もう本当にいっぱい!」
優香、声のテンションを上げてバンプを語り続ける。和樹、興味有り気に、
和樹「そんなに良い曲多いんだったら、佐伯を信じて、今度聴いてみようかなぁ」
優香「本当!だったら私、全部持ってるから今度持ってくるよ!浅野君も聴いてみて!」
○土手(夕)
オレンジのグラデーションが綺麗な雲。
遊歩道を並んで歩く優香と和樹。
優香、バンプのCDを和樹に手渡す。
○葉山南高校・1年C組教室・中
優香、ヘッドホンをして一人で弁当を食べながら、斜め前の和樹をチラチラと見る。和樹もヘッドホンをしている。
○土手(夕)
遊歩道を並んで歩く優香と和樹。
和樹、優香に小説を手渡す。
○葉山南高校・1年C組教室・中
優香、ヘッドホンをして一人で弁当を食べながら、小説を読んでいる。
和樹がチラッと優香の方を振り返る。
優香と目が合う。2人で小さく微笑む。
○マンション・外観(夜)
5階建て。築年数を感じさせる外壁。
○同・佐伯家・玄関・外(夜)
玄関扉に『佐伯』と書かれた手製のプレート。
○同・キッチン(夜)
優香がチョコを作っている。佐伯佳奈(18)が部屋から出てくる。
佳奈「あんたねぇ。私が受験地獄の真っ最中だってのに、そんな甘い匂いさせて!もしかしてバレンタインの手作りチョコとか?」
優香「あっ、お姉ちゃん。毒見して、毒見」
優香、佳奈の口にチョコを放り込む。
佳奈「まぁチョコで振られる事はないかもね。でもさぁ、あんたが男の子にチョコって、誰?前から気になってた子?教えなさいよ」
佳奈、優香をくすぐる。優香、逃れようとする。次第に、じゃれ合う姉妹。
○土手(夕)
遊歩道を並んで歩く優香と和樹。
立ち止って2人ともスマホを取り出す。スマホをシャカシャカする。
優香と和樹を、遠くから見ている葵。
○葉山南高校・屋上
男子生徒が優香に告白している。優香、深く頭を下げ、足早にその場を離れる。
○同・1年C組教室・中
ヘッドホンをして小説を読んでいる和樹に近付き、話し掛ける葵。
葵「和樹君、何聴いてるの?」
和樹「えっ、何?」
和樹、ヘッドホンをはずす。
和樹「珍しいじゃん。話し掛けてくるなんて」
葵「えーっ、そんなことないじゃん」
優香が教室に戻って来る。和樹と話している葵に気付く。葵、思わせ振りな笑顔を優香に見せ、和樹から離れる。
○土手(朝)
T.2月14日
遊歩道沿いの土に霜柱が立っている。
○葉山南高校・1年C組教室・中
優香は席に着き、机の上に置いた鞄の中のチョコを手で触っている。和樹が教室に入って来て席に着く。
葵が和樹の席に来て、これ見よがしに和樹にチョコを手渡すと甘えた声で伝える。
葵「和樹君。私の気持ち受け取って下さい!」
和樹、呆気に取られる。
葵「和樹君、これ、義理チョコじゃないよ!」
優香、和樹と葵のやり取りを見つめる。
和樹が葵に答える。
和樹「ゴメン。受け取れない」
葵「えーっ、何で?」
和樹「っていうか、俺、矢部の事知らないし」
葵「……」
葵、教室を見渡して大声で話す。
葵「あーあ。振られちゃったぁ。やっぱり和樹君も見た目重視な男子かぁ。やっぱり女子は『顔』ってことね。なんか、がっかり」
教室内の視線が和樹に集中する。和樹、言い返そうとして止める。
優香、葵を見る。葵と目が合う。
葵の目は笑っている。
優香、肩を震わせ机に視線を落とす。
○マンション・優香の部屋・中(夕)
ベッドでうつ伏せの優香。
枕元のスマホに和樹からのメッセージ。
『土手で待ってる』の文字。
○土手(夜)
遊歩道に並んで立つ、優香と和樹。
優香「浅野君。今日は本当、ごめんなさい」
和樹「何で佐伯が?。悪いのは矢部だろ」
優香「そうだけど、浅野君を嫌な気持ちに」
浅野、遮るように話す。
和樹「佐伯。俺は矢部の事、大っ嫌い。ムカつく。消えちゃえばいいのにって思う。佐伯は?」
優香「そんなの、私だって同じ気持ちだよ」
和樹「じゃあ、そう言っちゃえば良い」
和樹、夜空に向かって大声で叫ぶ。
和樹「矢部!ムカつくんだよ!消えちまえ!」
和樹、優香を促す。
和樹「佐伯。大声で言っちゃえよ。叫べよ」
優香、和樹を見つめる。
頷いて、大きく息を吸い込み、夜空に向かって叫ぶ。
優香「矢部!あんたの事、絶対に許さない!」
和樹「矢部!お前ムカつくんだよ!」
優香「消えちゃえ!矢部!ブス女!」
優香と和樹、大声で夜空に叫び続ける。
優香「人を見た目で判断する奴。皆消えちゃえ!」
和樹「親父!お前のせいでいつも俺はな!」
和樹が優香を見つめる。
優香、慣れない大声に時折り咳込むが、叫び続ける。
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