パール ドラマ

妻と死別し、男手一つで娘の愛菜を育てる堀内。しかし、羆の出没する山で、愛菜が行方不明になってしまう……。 シナリオ・センターの課題「憎しみの一瞬」で書いたものです。長編を想定して書いています。2時間もの 映画用脚本の一部
桐乃さち 3 1 0 11/08
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第一稿

登場人物

  堀内一(32)(46) 生物学者
  深山泰司(56) 猟友会会長
  川上達樹(19) 大学生
  堀内愛菜(5)(19) 堀内の娘
  堀内美琴(3 ...続きを読む
「パール」(PDFファイル:287.34 KB)
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登場人物

  堀内一(32)(46) 生物学者
  深山泰司(56) 猟友会会長
  川上達樹(19) 大学生
  堀内愛菜(5)(19) 堀内の娘
  堀内美琴(30) 堀内の妻
  事務員
  巡査

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〇病院 個室

   堀内美琴(30)がベッドに寝ている。美琴、痩せて、毛糸の帽子をかぶっている。
   美琴、真珠が付いた指輪をしている。堀内愛菜(5)は美琴にくっついて遊んでいる。
   堀内一(32)が眉を顰めて新聞を読んでいる。
   新聞には「羆被害死傷者2名」と書かれている。

美琴「また、熊?」
堀内「あぁ」
美琴「最近、増えてるわね」
堀内「温暖化の影響で、十分な食料を確保出来なくて人里に下りて来るんだ」
愛菜「熊―?」
堀内「それに、山を削られて冬眠する場所も少なくなってるしな」
愛菜「愛菜、熊、怖い!」
堀内「愛菜、熊は怖い動物じゃないんだよ。本当なら、人間を襲ったりしないんだ」

   愛菜、首をかしげる。

堀内「人間と同じように、熊も生きるのに必死なんだよ」
美琴「そんな難しいこと言われたって、分かんないわよねー?」

   美琴と愛菜、笑い合う。堀内も笑う。

〇山(夕)

   人里離れた山。木々が色づいている。
   タイトル「14年後」

〇同 山小屋 居間(夕)

   簡素な丸太小屋。堀内(46)、手で顔を覆って座っている。
   片腕に包帯を巻いた川上達樹(19)、うなだれて座っている。
   制服を着た巡査が立っている。堀内、腕時計を見て、ため息をつく。

堀内「捜索隊からは連絡ありませんか?」
巡査「えぇ、まだ……」

   川上、立ち上がって深くお辞儀をする。

川上「おじさん、ごめんなさい。俺が……」

   堀内、拳をぎゅっと握る。

堀内「川上君は、傷は大丈夫か?親御さん、心配してるんじゃないか?」

   川上、泣きそうな顔で頭を振る。堀内、立ち上がり、川上の肩に手を置く。

堀内「熊は普通、人間は食わない。急に人間に出くわして、驚いただけだろう。
 愛菜はきっと、大丈夫だ」

   堀内、何度も頷く。

堀内「それより、熊に襲われた時の動画、もう一度見せてくれないか?」
川上「は、はい」

   川上、スマホを堀内に渡す。

〇同 個室(夕)
   ベッドと机のある簡素な部屋。堀内、ベッドに座ってスマホを観ている。

〇(スマホの画面)森の中
   うっそうと茂った森の中。揺れる画面。
   後ろを気にしつつ、走っている堀内愛菜(19)の姿。

愛菜「早く!走って!」
川上の声「まじでさっきの、熊?」

   カメラ、森にズームする。

愛菜「撮ってる場合じゃないって!」

   木々がガサガサと動く。熊がすごい勢いで画面の方へ走って来る。空が映る。

川上の声「うわー!」

   熊の荒い息遣い。熊のうなる声。「バシッ」と言う音。

熊の声「ぐお!」

   血の付いた川上の手。愛菜が、木の棒を構えて、熊と対峙している。
   熊は、うめきながら地面に倒れている。

愛菜「川上君!助けを呼んで来て!」
川上「だ、だけど……」
愛菜「いいから、早く!」

   後ずさりする画面。全速力で走っている川上の足。画面が暗くなる。

〇元の山小屋 個室(夕)

   堀内、頭をかきむしる。

堀内「愛菜……!」

   ドアが開く音。人が入って来る足音。堀内、慌てて立ち上がる。

〇同 居間(夕)

   深山泰司(56)が立っている。腕に「猟友会」と書かれた腕章を付けている。
   巡査が心配そうに立っている。

巡査「お父様に確認していただきましょうか」

   深山、考え込むように腕組みをする。堀内、入って来る。
   深山と巡査、一瞬堀内を見るが、すぐ目を逸らす。

堀内「何か、あったんですか」

   深山、眉を寄せる。堀内、唾を飲み込む。堀内、手が震え始める。

堀内「……見つかったんですか?」
深山「お父さん、愛菜さんの持ち物と思われる物が出てきまして」
堀内「えっ」
深山「その近くに、熊がいる可能性があります。今猟友会のメンバーで捜索しています」
堀内「本当ですか!物って言うのは?」

   巡査と深山、顔を曇らせる。

深山「指輪です。お心当たりありますでしょうか」
堀内「もしかして、真珠がついていますか?」
深山「えぇ、そうです」
堀内「妻の肩身です。娘は、肌身離さず持ち歩いていたはずです!」
深山「あぁ、そうですか……」

   深山、沈痛な顔で俯く。

深山「猟友会の詰め所にあります。出来れば、お父様に確認していただきたいのですが」
堀内「えぇ、もちろんです!」

〇同 小屋の外(夕)
   堀内、外に出る。川上、小屋の外にしゃがみ込み、顔を覆って泣いている。
   堀内、驚いて目を見開く。堀内、川上に近づいて、肩に手を置く。

堀内「川上君、どうした」

   川上、びくっと肩を強張らせる。

堀内「危ないじゃないか。中に入りなさい」

   川上、後ずさり、地面に頭をこすりつける。川上、泣き崩れる。

川上「ごめんなさい、ごめんなさい!」

   巡査が来て、川上を助け起こす。堀内、愕然とする。深山が後からやって来る。

深山「さぁ、行きましょうか」

   深山が歩き始める。川上、怪訝な顔で深山の後をついて行く。

〇山 猟友会 テント 前(夕)

   「保善町 猟友会」と書かれた大きなテント。深山と堀内が歩いてやって来る。
   炊き出しをしている女性達、堀内から目を逸らす。
   堀内に向かって手を合わせて念仏を唱えている年配の女性もいる。
   堀内、足が震え始める。

〇同 テント 中(夕)

   毛布や段ボールなどが積んである。数人の男性がお茶など飲んでいる。
   深山と堀内が入って行くと、蜘蛛の子を散らすように人がいなくなっていく。
   堀内、目を泳がせる。

深山「実は、これなんですけどね」

   深山、小さなビニールを堀内に渡す。
   透明のビニールに、真珠のついた指輪が入っている。堀内、何度も頷く。

堀内「間違いありません。娘のです」
深山「そうですか。普段は指につけていたんですか?」
堀内「確か、鎖をつけてネックレスにしていたはずです。どこにあったんですか?」

   深山、気まずそうに俯く。

深山「実はですね、これが見つかりまして」

   深山、布をどかす。泥のような黒い塊が出て来る。堀内、目を見開く。

堀内「それは……」
深山「熊の糞です」

   堀内、顔が強張る。

深山「今、警察に分析を依頼しているんですがね。
 どうも人間の皮膚の一部も一緒に入っとったようなんですわ」

   堀内、わなわなと震えて、後ずさりをする。堀内。指輪を見つめる。
   指輪にも、黒い汚れがついている。

深山「もし、お嬢さんを襲った熊だとしたらですね……」

   堀内、走って外に飛び出す。

〇同 外 木の側(夕)

   堀内、木の根元に向かって嘔吐している。堀内、泣きながら指輪を見つめる。
   風が吹き、雨が降り始める。堀内、木を殴りつけ始める。

堀内「うわあーーーー!」

   堀内の手が、血で染まっていく。堀内の血で染まった拳が、わなわなと震え始める。
   堀内、山を睨みつける。堀内、ふらふらと歩き始める。
   テントの近くで、猟友会の男性達がタバコを吸って談笑している。

   堀内がやって来る。男性達、堀内の姿を見て真顔になる。
   堀内、男性達の方へ走って行く。堀内、男性の猟銃に手をかける。

男性「お、おい!何する!?」

   堀内と男性、もみ合いになる。堀内、男性を背負い投げで投げ飛ばす。

男性「うわ!?」

   男性が地面に叩きつけられると同時に、銃が暴発する。深山が出て来る。

深山「堀内さん!?」

   堀内、猟銃を手に取る。

深山「何してる、止めろ!止めろー!」

   堀内、男性達の制止を振り切って、山の中へ入って行く。

                                    了

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