<登場人物>
佐藤 睦月(12)(32)会社員、露出狂
早川 志保(12)(32)佐藤の同級生
栗林 (12)同
教師
女性オペレーターA、B
○夜道
「変質者に注意」の看板。
物陰に隠れる佐藤睦月(32)。コートを着込んでいるがその下は裸。荒い息。
一人で歩いてくる早川志保(32)の姿を見つけ、駆け出す佐藤。志保の前でコートをはだけさせる。
佐藤「うらぁ!」
志保「きゃっ!」
佐藤の顔をしばし見つめる志保。
志保「……佐藤君?」
佐藤「え? ……早川!?」
○メインタイトル『同級生は露出狂』
○オフィスビル・外観
電話の鳴る音。
○同・コールセンター
あちこちの席で電話応対するオペレーター達。
× × ×
電話応対する女性オペレーターA。困惑の表情。
女性A「ですから、その場合は返金対応というものは難しくてですね。いや、そうおっしゃられましても……」
女性Aの元にやってくる佐藤。スーツ姿。女性Aの肩を叩き、自身を指さす。
女性A「(佐藤に頭を下げつつ)お客様、ではあの、上の者に代わりますので」
自分の席に着く佐藤。受話器を取る。
佐藤「お電話代わりました。佐藤と申します」
女性Bの声「佐藤さん、大変そうだよね」
× × ×
上司の席で頭を下げる佐藤。
女性Bの声「部長からはいびられて」
× × ×
謝る女性Aに笑顔で対応する佐藤。
女性Bの声「部下のフォローをして」
× × ×
電話応対する佐藤。
女性Bの声「お客様からはクレーム入れられて」
× × ×
並んで座る女性オペレーターA、B。
女性B「ストレスたまるだろうなぁ」
女性A「どうやって発散してるんだろうね?」
○同・トイレ
個室内。便座に腰掛ける佐藤。ネクタイを緩める。
佐藤「(低い声で)はぁ~……」
○(フラッシュ)夜道(夜)
対面する佐藤と志保。佐藤はコートを着込んでいる。
× × ×
何かを要求するように手を差し出す志保。そこに名刺を置く佐藤。
○オフィスビル・トイレ
個室内。便座に腰掛ける佐藤。
佐藤「(首を横に振り)昨日の今日なんだから、ダメダメ」
○同・コールセンター
戻ってくる佐藤。女性Bの脇を通る。
女性B「あ、佐藤さん。(佐藤の席を指し)さっき、電話があったそうですよ」
佐藤「あぁ、了解。ありがとう」
自分の席に戻る佐藤。「お電話あり 株式会社ILOE 早川様」と書かれた付箋が貼ってある。
佐藤「早川……」
○居酒屋・外観(夜)
○同・中
向かい合って座る佐藤と早川。グラス内の酒を飲み干す。
志保「おかわり!」
佐藤「……」
志保「……何? 何か文句ある?」
佐藤「いや……思ってたより飲むな、と思って」
志保「そりゃあ、せっかくの奢りなんだもん」
佐藤「え、そうなの?」
志保「何? 嫁入り前の娘に、ありのままの姿を見せつけといて、慰謝料やら口止め料やら払う気はないと、そう言いたい訳?」
佐藤「もう、店の酒飲み干しちゃって」
佐藤の声「それにしても、意外だった」
× × ×
二人の前には空の皿が多数。
佐藤「早川が、俺の名前なんか覚えてた事」
志保「そう?」
佐藤「だって、当時もし『スクールカースト』って言葉があったら、俺は三軍で、早川は一軍だろ?」
志保「あぁ、なるほどね。でもさ、あったじゃん。アレ」
佐藤「やっぱ、ソレ?」
○(回想)小学校・外観
栗林の声「何言ってんだ、お前~」
○(回想)同・教室
栗林(12)らにからかわれる佐藤(12)。その様子を見ている教師。
栗林「昭和六四年なんて無ぇよ。昭和は六三年まで」
佐藤「そんな事ない。俺は、昭和六四年一月六日生まれなんだって」
栗林「先生~、佐藤君が嘘ついてま~す」
教師「佐藤。いい加減にしろ。平成元年生まれって書きなさい」
佐藤「……はい」
志保の声「先生」
挙手し、立ち上がる志保(12)。
志保「私も昭和六四年生まれです」
教師「え、早川……?」
志保「平成になったのは一月八日からなんで、その前に生まれた私とか佐藤君が、『平成元年生まれ』って書くのは、それこそ嘘をつく事だと思います」
着席する志保。
気まずい沈黙。そんな中、志保を見つめる佐藤。
志保の声「あの先生、本当無知だったよね」
○居酒屋・中(夜)
向かい合って座る佐藤と志保。
志保「ウチらに私文書偽造を強要したようなもんだからね。最悪」
佐藤「もし俺一人だったら、間違いなく折れてたよ」
志保「その男の子が、今や露出狂とはね」
佐藤「……」
志保「アレは何? 性癖?」
佐藤「いや、ただのストレス発散」
志保「ストレス発散なら、もっと他にやり方あるでしょ」
佐藤「今の仕事がさ、上司に気を使って、部下に気を使って、お客さんに気を使って。流れ流され」
○(回想)公衆トイレ
個室内。服を脱ぎ始める佐藤。
佐藤の声「今、自分が本当に言いたい事が言えなくて、思った事をごまかして、本当の自分が何なのかわからなくなって」
○居酒屋・中(夜)
向かい合って座る佐藤と志保。
佐藤「裸になった、ありのままの俺を誰かに見て欲しかった、って事なんだと思う。多分」
志保「え、何? 私、感想聞かされてるの?」
佐藤「そんな、改めて考えた事なかったから」
志保「……でもまぁ、サラリーマンってのは、大変だね。やった事ないからわからないけど」
佐藤「そういえば、早川は今、仕事何してんの?」
志保「……どこまで知ってる?」
佐藤「? いや、何も知らないけど?」
志保「そっか……まぁ、イベント関連、かな?」
佐藤「ふ~ん」
○マンション・外観(夜)
○同・佐藤の部屋(夜)
パソコンに向かう佐藤。
佐藤「これで良し、と。(時計を見て)あ~、こんな時間か」
脇に置かれた「株式会社ILOE 早川様」と書かれた付箋。
佐藤「……」
検索エンジンに「株式会社ILOE」と入力する佐藤。
佐藤「……え?」
さらに検索を進める佐藤。
佐藤「え……え!?」
○(動画)スタジオ
志保のグラビア映像。
最初は服を着ているが徐々に脱いでいき、露出度高めな水着姿となる。
○マンション・佐藤の部屋(夜)
志保のグラビア映像をパソコンで観ている佐藤。息をのむ。
× × ×
その後も映像は続き、Tバックやランジェリー姿、ノーブラ状態で腕を使って隠すなど、露出度は激しくなっていく志保。
佐藤「マジか……」
スマホを手に取る佐藤、志保のSNSが映っており、プロフィール蘭には「グラビアアイドル」の文字。
佐藤「お前もなかなかに、露出狂だよ」
スマホを置き、ティッシュを手に取る佐藤。
(完)
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