<登場人物>
乾 玲央(20)大学生
段田 風香(20)同
花房 (20)
作業員
<本編>
○アパート・外観(夜)
○同・乾の部屋(夜)
1K程度の間取り。
無人の室内。タイマーの設定も何もなく、動き出すエアコン。
× × ×
帰宅する乾玲央(20)。汗だく。
乾「暑……(部屋に入るなり)涼しっ。あ~、マジで神」
エアコンを見つめる乾。
乾M「我が家のエアコンは、空気を読んでくれる」
○メインタイトル『我が家のエアコンは、空気を読んでくれる』
○大学・外観
風香の声「あ~、癒されたい」
○同・教室
並んで座る乾と花房(20)。その前列に座り会話する段田風香(20)ら女子生徒達。風香を見ている乾。
風香「実家では猫飼ってたんだけどさ、今は会えないし、飼えないし」
乾「(小声で)猫、か……」
風香「猫カフェだとお金かかるしさ~」
○アパート・乾の部屋
無人の室内。突如、稼働するエアコン。
○同・庭
室外機の稼働する音が、何故か猫の鳴き声っぽくなる。
○アパート・乾の部屋
帰ってくる乾。
乾「ただいま……ん?」
窓から庭を見やる乾。集まる野良猫。
乾「うおっ!?」
× × ×
窓から庭にいる猫を見やる乾と風香。風香はスカート姿。
風香「あ~、癒される……」
乾「触ったりしなくていいの?」
風香「いや、それで『飼ってる』とか誤解されたら、乾君に迷惑かかるし。私は見てるだけでも満足だから」
乾「まぁ、衛生的にもその方がいいかもね」
風香「あ~、尊いわ……」
窓から覗き込むように庭の猫を見ている風香。乾の位置から風香の下着が見えそうで見えない。
僅かにかがむ乾。それでも風香の下着は見えない。その時、エアコンから強めの風が吹き、風香のスカートが一瞬舞う(風香は気づいていない)。
乾「!?」
風香「(振り返り)? 乾君、どうかした?」
乾「ん? い、いや、何でも?」
風香「そっか」
再び窓の外へ目を向ける風香。エアコンに向けサムズアップする乾。
○大学・外観
○同・教室
仲良さげに話す乾と風香の様子を遠くから見ている花房。
風香「ねぇ、乾君。また行ってもいい?」
乾「もちろん。いつでもいいよ」
花房「……」
花房の声「で、どうなんだ?」
○アパート・乾の部屋(夜)
酒を飲む乾と花房。
花房「猫を口実に風香ちゃん連れ込んで、どこまでやったんだよ。白状しな」
乾「だから、何にも無ぇって」
花房「じゃあ、コレは何だ?」
花房の手にはコンドームの箱。
乾「な!?」
花房「さっきベッドの下から見つけたぞ?」
乾「いや、それは、まだ使ってない……」
花房「まだ?」
乾「あ、いや……」
突如、異音を発し出すエアコン。
花房「え? 何なに、何の音?」
乾「エアコンからだ。(花房に)悪い、ソッチにイスあるから、持ってきてくんねぇ?」
花房「仕方ねぇな」
その場を離れる花房。それを見て、エアコンを撫でる乾。
乾「助かった……サンキュー」
○同・外観
冬。
○同・乾の部屋
貯金通帳を見ている乾。残高は少ない。
乾「風香ちゃんの誕生日か……プレゼント代、このままじゃ厳しいよな……」
エアコンのリモコンを手にする乾。ボタンを押すも、動かないエアコン。
乾「あれ? (何度もボタンを押し)おい、おい。……わかったよ。節約するよ」
エアコンのルーバーが頷くように上下動する。
○大学・教室
風香にプレゼントを渡す乾。受け取り、喜ぶ風香。
○アパート・外観(夜)
○同・乾の部屋(夜)
ベッドに並んで座る乾と風香。緊張している様子。
乾「あの……その……」
静かにエアコンが稼働する。
風香「何か、この部屋暑いね」
乾「え? あ、確かに……」
服を一枚脱ぐ風香。息をのむ乾。意を決し、風香の肩を抱き寄せる。そしてそのまま倒れ込む二人。
花房の声「結局、二人は付き合ってんのか?」
○大学・構内
並んで歩く乾と花房。笑みを隠せない乾。
乾「いや……そういう言葉を交わしてはねぇな」
花房「じゃあ、気をつけろよ? 倉先輩が風香ちゃん狙ってるらしいからよ」
乾「倉先輩って、あのイケメンで金持ちで手が早い?」
花房「クリスマス、風香ちゃん誘ったのか?」
乾「バイトだから会えない、って……」
花房「男だな」
乾「そんな訳ない。そんな訳……」
花房「まぁ、それでもいいんじゃね? 今現在、既にヤれる関係な訳だし。下手に告ってフラれたら、今のその関係だってパーだもんな」
乾「……」
○アパート・外観(夜)
○同・乾の部屋(夜)
帰ってくる乾。稼働していないエアコン。
乾「寒……(部屋に入るなり)暖か……くない?」
エアコンを見つめる乾。
○同・同
作業員の修理作業を見守る乾。
作業員「う~ん……特に異常はないですけどね」
乾「いや、帰ってきた時に動いてくれてなくて」
作業員「タイマーの故障、って事ですか?」
乾「そうじゃなくて。今までは空気を読んで勝手にやってくれていたんですけど……」
作業員「空気を読む? そのような機能はないんですけど……」
乾の声「なぁ、どうしたらいいんだよ」
○同・同(夜)
電気もつけずに座る乾。
乾「俺は風香ちゃんに何て言えばいい? 何をすればいい? 逆に何を言っちゃダメなんだ? なぁ、教えてくれよ」
涙を流す乾。
乾「恐いんだよ。俺一人の力で、風香ちゃんとこれ以上距離縮められる訳ねぇんだから。なぁ頼むよ、力貸してくれよ」
立ち上がる乾。
乾「おい、動けよ。(涙を指し)見えてんだろ? 乾かせよ。空気読めよ!」
全く起動する気配の無いエアコン。
乾「(壁を叩き)ちくしょう!」
○大学・構内
一人で歩く乾。前方に風香を見つける。
乾「あっ……」
○アパート・乾の部屋
無人の室内。動かないエアコン。以下、カットバックで。
風香を遠くから見ているだけの乾。拳を握り締める。
まだ動かないエアコン。
覚悟を決め、風香に向け一歩踏み出す乾。
エアコンに電源が付く。
風香に向け駆け出す乾。
無人の室内。エアコンのリモコンに表示される温度が上昇していく。
風香の前に立つ乾。頭を下げ、握手を求めるように手を差し出す。驚く風香。
無人の室内。エアコンのリモコンに表示される温度の上昇が止まらない。
乾の手を取る風香。喜ぶ乾。
「まったく、世話が焼ける奴だ」と息を吐くように、風を吹き出すエアコン。
(完)
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