書店アルバイター鈴木 学園

小さい頃書店のアルバイト店員に助けられ書店アルバイターになることが夢になった鈴木晋也。いざ高校生になり夢であった書店でのアルバイトを始めるが理想とは程遠い生活を送っていた。書店アルバイター以外に夢が無かった鈴木は学校の友人と共に将来について悩みながら夢を探っていく。
泉山涼太 6 0 0 10/08
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第一稿

登場人物
鈴木晋也(5)(18)  主人公。高校3年。
金本 壮(18)     晋也のクラスメイトで幼馴染。
如月春華(17)     晋也のクラスメイトで幼馴染。
日下 ...続きを読む
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登場人物
鈴木晋也(5)(18)  主人公。高校3年。
金本 壮(18)     晋也のクラスメイトで幼馴染。
如月春華(17)     晋也のクラスメイトで幼馴染。
日下篤史(20)(33) 小説家(元アルバイト)
竹沢 灯(16)     バイトの後輩
鈴木 薫(45)     晋也の母。
高庭 泉(享年32)   晋也の父。小説家。
女店長
子ども
近所のオヤジ
教師
編集者

○(回想)松山書店・児童向けコーナー
   ズラリと児童向け小説の並ぶ棚。客で
   賑わう店内。鈴木晋也(5)、踏み台
に上り頭上にある本に手を伸ばす。
晋也(18)の声「あの日、俺は誓った」
晋也、踏み台から足を滑らせてバラン
スを崩す。日下篤史(20)、終始光で顔が見えない。踏み台から落ちる晋也をキャッチして助ける。
日下「坊や、大丈夫かい?」
晋也「う、うん」
   日下、晋也の取ろうとしていた本を取
   り晋也に「はい」と手渡す。
晋也「うわー、ありがとう!お兄さん、だあ
れ?」
日下「僕はこの松山書店のアルバイトさ」
   日下、晋也の頭を撫でて去る。
   晋也、去り際にネームプレートに「日
   下」という字を見る。
晋也の声「彼のような、恰好良い書店のアル
 バイターになると」

タイトル「書店アルバイター鈴木」

○(回想終了)同・玄関(夕)
T『13年後』
   晋也、客のいない店内を意気揚々と歩
   きレジ裏へ向かう。
晋也「お疲れ様です!」
   竹沢灯(16)、レジで漫画を読みな
   がら気怠そうに挨拶を返す。
竹沢「お疲れさまでーす。」

○同・レジ裏
   晋也、荷物をロッカーに入れて制服を
   取り出し着替える。
   女店長が入ってくる
店長「鈴木くん、今日もよろしくねー」
   晋也、体を隠す。
晋也「は、はい。てか着替え覗かないで下さ
 いよー!」
店長「いいじゃないの、減るもんじゃあるま
 いし」
晋也「そーゆー問題じゃないっすよ!」
   晋也、着替え終わりタイムカードを押
   して顔を両手で2回叩く。
晋也「おし!今日も気合いれて頑張るぞ!」

○翌・松山高等学校校門(朝)
   校門の前で挨拶をする教師。多くの生
   徒が登校している。

○松山高等学校・教室
   晋也、机に体を任せて腕を両脇にダラ
   リと垂らす。如月春華(17)、前の
   席で眼鏡を掛けて厚い小説を読む。金
   本壮(18)、周りのクラスメイトに
   挨拶しながら晋也の右隣の席に着く。
壮「おはよー晋也!・・・ってどした?朝か
 らそんなにどんよりしてよ」
晋也「んあー、昨日のバイトで疲れてさ」
壮「書店のバイトってそんなに忙しいのか?」
晋也「まあ、な」
   春華、小説を閉じ眼鏡を取って振り向
   く。
春華「違うのよ、壮」
壮「違うって、何が?」
春華「晋也が疲れている理由よ。忙しいんじ
 ゃなくて暇すぎるのよ」
壮「いや、なんで暇すぎて疲れるんだ?」
春華「夢にまで見た松山書店でのアルバイト
 だったのに、全く充実感がないから」
   晋也、体をわなわなと震わせながら机
   を両手で音を立てて叩く。
晋也「なんでこんなにも客が来ないんだよ!
 全っっっ然楽しくないわ!もっとさぁ、子
 どもがいっぱい来てピンチになった子ども
 を助けたいんだよ俺は!」
   如月、読んでいた小説で晋也の頭を叩
   く。
晋也「いてっ」
春華「子どもを危ない目に遭わせたいとか言
 うんじゃない!」
   壮、二人の様子を見て声を上げて笑う。
壮「あっはっは。本当に仲いいなお前ら」
(声を揃えて)
晋也「仲良くねーよ!」
春華「仲良くないわ!」

○同・校門前(夕)
   晋也、壮と二人で下校。制服を着崩し
   ながら校門を出る。
壮「今日もバイト?」
晋也「あぁ。また暇なんだろーなー。たまに
 は遊びに来いよ」
壮「今日は予定あるからまた今度な!そーい
 えば朝春華が言ってたアルバイトが夢って
 マジ?」

○フラッシュ
 教室
春華「夢にまで見た松山書店でのアルバイト
 だったのに、全く充実感がないからよ」

○(戻って)下校路
晋也「ん?あぁ、マジだよ」
   壮、一人で大爆笑。晋也、呆れた顔で
   壮を見る。
晋也「笑い過ぎだっての」
壮「だってさ、夢がアルバイターって、夢小さいな!」
   壮、言い終えた後で再び爆笑。
晋也「もう笑われ飽きたんだよ。それにいいだろ?夢に大きさなんて関係ねーんだよ」
壮「ほう、良いこと言うじゃねーか」
   壮、にやにやして晋也の顔を覗き込む。
   晋也、鬱陶しそうに壮の顔を右手で掃
   う。
晋也「壮はなんかねーのかよ、将来の夢ってやつはよ」
壮「うーん。俺は特にないかな。卒業したら適当に就職して適当に過ごすんだろうよ」
晋也「なんだよ!夢ねーのか!夢があるだけ俺のほうがマシじゃねーか」
   壮、眉間に皺を寄せて晋也を見る。
壮「ん?てことはお前は卒業しても夢だった書店のアルバイトを続けるってことなのか?」
晋也「(言葉を濁しながら)い、いやそーゆーんじゃ、ないかな、うん」
壮「じゃあ俺ら変わんねーじゃんか!」
   壮、笑いながら晋也の背中を叩く。晋
   也、軽く咽る。
壮「でも俺らもそろそろ将来のこと考えなきゃな」
晋也「・・・珍しいな、お前がそんな真剣な顔でまともなこと言うの」
壮「(笑いながら)馬鹿にすんなって!だって俺らもう高3だぜ?今までは何となく生きてきたけどこれからはそうはいかねーだろ?」
晋也「まあな。如月みたく頭が良いわけでもないし」
壮「スカウトされるほどスポーツが出来るわけでもない」
   晋也、壮と同時に下を向きながら大き
   い溜息を吐く。
晋也「じゃあ俺こっちだから、また明日な」
壮「おう、また明日。頑張れ、夢の書店アルバイター!」
   晋也、呆れ顔をするが突っ込む気力も
   無くとぼとぼと松山書店へと向かう。

○松山書店・レジ
   晋也、仕事を放置し漫画を読む。隣
   に同じく漫画を読む灯。
灯「あの、鈴木さんってどうしてこんなとこでバイトしてるんすか?」
晋也「どうしてって、小さい頃からの夢だったからさ。ここで働くの」
   灯、笑いながらも漫画から目を離さな
   い。晋也表情を変えずに漫画を読む。
灯「なんすかそれ。小さい頃からの夢って普通がんばってようやくなれるくらいのことに設定してるもんすよ。」
晋也「別にいいだろ。小さい頃にここのアルバイトのお兄さんに助けてもらって以来ずっと夢見てたんだよ」
   灯、漫画を閉じて爆笑。
灯「ははは!もう笑わせないで下さいよー。漫画に集中できないじゃないっすか」
晋也「(ぼそっと)もう笑われ飽きたんだっつーの」
灯「え?何か言いました?」
晋也「いいや、なんでもないよ」
   晋也と灯、外から店長が近づくのが見
   えた途端漫画を隠して仕事を再開。店
   長、日下篤史(33)を連れてレジに
   近づく。
店長「二人とも、一旦手を止めて頂戴」
   晋也と灯、「はい」と返事をして持っ
   たばかりのモップをレジに置く。
店長「紹介するわね。この人、10年くらい前にこの松山書店でアルバイトをしていた日下先生よ」
日下「店長、先生だなんて止めてくださいよ」
店長「あらそう?でも実際そうなんだからいいじゃないの」
晋也「(日下・・・?)」

○フラッシュ
松山書店
日下「僕はこの松山書店のアルバイトさ」

○(戻って)松山書店
   晋也、日下の顔をまじまじと見る。
日下「・・・僕の顔に何か付いてるかい?」

○フラッシュ
 松山書店
   日下、晋也の頭を撫で去る。晋也、去
   り際にネームプレートの「日下」とい
   う字を見る。

○(戻って)松山書店
晋也「あー!やっぱりそうだ!」
   晋也、日下を指さす。
日下「え?」
晋也「憶えていませんか?13年前この書店
 で助けていただいた者です!」
店長「それは流石に、ねぇ?」
   日下、晋也の顔をじっくり見た後首を
   傾げる。
日下「ごめんね、やっぱり思い出せないや」
晋也「そ、そうですよね・・・」
灯「あー、この人が鈴木さんがこの書店でアルバイトすることを目指すきっかけになった人っすか」
日下「え?僕がきっかけで、アルバイト?」
晋也「はい、そうなんです。あんまり恰好良かったもんで、その日から将来は松山書店のアルバイターになるって誓ったんです!」
日下「そうなのか。それは・・・申し訳ないことをしたね」
晋也「申し訳ないって、どーゆー・・・?」
日下「君はここでアルバイトすることが目標になってしまったと言ったね。他に将来の目標はないのかい?」
晋也「はい、これと言ってないですね」
日下「じゃあ今までの人生はここでバイトするために生きてきたんだね?」
晋也「・・・はい」
日下「そんな空っぽな人間を、僕が作ってしまったと聞いて申し訳なくなってしまったんだ」
晋也「空っぽって・・・」
   灯、気まずそうに二人の顔を交互に見
   る。
店長「日下先生、ちょっとその言い方はきついんじゃない?」
日下「いいんです。本当のことを言ってやったほうが彼の為になりますから。」
晋也「さっきから何なんだよあんた!そんな偉そうに・・・。13年前のあんたと何も変わらねーじゃんかよ!」
店長「鈴木くん、彼は現在人気の小説家さんなのよ」
   晋也、目を丸くして「えっ」と声を漏
   らし店長を見る。
日下「『シンメトリー』って作品なら君も聞いたことあるんじゃないかな」
灯「あ、あたしそのドラマこの前見た・・・」
日下「君と違って小説家になる夢を持って、少しでもその為になればとここでアルバイトをしていたんだ。君にはなりたいものはないのかい?」
   晋也、口を開くもぐうの音も出ない。
○松山高等学校・教室(昼)
   晋也、壮と春華と机を合わせ弁当を広
   げて不機嫌そうに足を揺らす。
春華「ちょっと晋也!やめてくれない?さっきから気になるのよね、その貧乏ゆすり」
晋也「ん?あぁ、わりー」
壮「なんだよ、またバイトでなんかあったのか?」
春華「どうせまた充実感がないとか言い出すんでしょ?」
晋也「それもそうなんだけどよ、昨日書店に小さい頃俺を助けてくれたあの人が来たんだ」
   春華と壮、同時に顔を上げる。
壮「まじかよ!良かったじゃねーか!」
春華「・・・で、なんでその憧れの人に会ったってゆーのに不機嫌なのよ」
晋也「『(日下の口調を真似て)君のような空っぽな人間を作ってしまって申し訳なく思っている。君にはやりたいことはな
  いのかい?』だってさ。ムカつくだろ?初対面の相手に向かって空っぽな人間だなんて」
壮「初対面ではないけどな」
春華「本当のこと言われてるだけじゃない。ムカつくんなら見返せば?」
晋也「・・・どーやって」
春華「その人よりずっとすごい仕事をするのよ。そのためにはやりたいこと見つけなきゃね」
晋也「無理だって。だってあの人『シンメトリー』ってドラマの原作者らしいし」
壮「『シンメトリー』ってこの前やってたドラマの?すげーじゃん!あれ面白かったよなぁ」
春華「晋也はそれを聞いてその人より上になることを諦めたの?」
晋也「そ、そりゃあ誰だって諦めるだろ!」
春華「あんたはまだ何の夢も持っていない。でもそれって良く言えば何にでもなれる
  可能性があるってことなのよ」
晋也「んなのただの綺麗事だろ!どの道選んだってもうすでに努力してる人間がその道にはぜってーいるんだよ。俺はあいつどころかそいつらにも勝てねーよ」
春華「呆れた。晋也がこんなに弱っちー人間だったなんてね」
   春華、弁当を片付け教室を去る。
壮「あんなに怒ってる春華始めてみたよ」
晋也「なんだよあいつ。感じ悪りーな」
壮「まぁまぁ、わかってやれよ。お前のことが心配だからあんなに怒ってるんだって」
晋也「・・・あぁ」
   壮、両手でパンっと手を叩く。
壮「そうだ!今日の放課後バイトか?」
晋也「いや、今日は休みだけど」
壮「じゃあ久しぶりにバスケしよーぜ!」
晋也「おう、いいぜ!」

○北岡ストリートバスケ場(夕)
   空が徐々に橙色に染まる中、ハーフコ
   ートが2つ並ぶストリートバスケ場の
   奥側で、晋也と壮が汗を流しながらボ
   ールを奪い合う。
晋也「負けたほうがジュース1本奢りだからな!」
壮「おう!望むところだ!」
   ☓     ☓     ☓
   晋也、コート側の自販機に300円を
   投入。
   ☓     ☓     ☓
   壮、仁王立ちで缶ジュースを開け、腰
   に手を当てて飲む。晋也、体育座りを
   しながらちびちびと缶ジュースを飲む。
晋也「やっぱり俺は何をやっても誰にも勝て
 ねーよ・・・」
壮「ぷはー、うまい!やっぱ人の金で買った
 ジュースは格別だな!」
   ため息を吐く晋也。壮、空き缶を捨て
   晋也の隣に座る。
壮「この場所懐かしいな。初めて来たのって
  いつだったっけ?」
晋也「小3くらいの時じゃなかったか?」

○回想・同
T『9年前』
   少年の壮、走ってコート内へ入る。
壮「うわー、すっげぇ!晋也も早く来いよ!」
   ボールを持って遅れてコート内へ入る
   少年の晋也。
晋也「すごい!ここだったらいつでもバスケ
 し放題だね!」
   夢中でバスケをする二人。

○(戻って)北岡ストリートバスケ場
壮「あの頃は疲れなんてものも感じないで、
 暗くなるまでバスケしてたよなぁ」
晋也「そうだったな。そんで二人揃って将来
 の夢は―」
   二人声を揃えて。
晋也「プロのバスケット選手」
壮「プロのバスケット選手」
   一拍置いて笑い出す二人。
晋也「ははは。純粋だったなぁ俺ら」
壮「いつから諦めたんだろうな、この夢」
晋也「さあ?いつの間にかそんなの無理だっ
 てことに気づいた」
壮「でもそんなの勝手に決めつけただけだろ
 う?あの時から諦めないで必死でバスケ練
 習してたら、今頃どうなってたんだろうっ
 て時々思うんだ」
晋也「意外だな。お前はとっくにバスケなん
 てどうでもいいと思ってるもんだと思って
 た」
壮「まあそうなんだけどね?」
晋也「(笑いながら)どっちだよ」
壮「だから、ほんと時々だって」
   ☓     ☓     ☓
   辺りは暗く、ボールもよく見えなくな
   っている。二人は立ち上がり帰路につ
   く。話は尽きず歩きながらも談笑。
   ☓     ☓     ☓
   分かれ道。
壮「じゃあまた来週な」
晋也「おう。・・・なあ、壮」
壮「なに?」
晋也「俺は決めたぜ。俺はあいつを超える男
 になる!・・・あと春華に弱っち―なんて
 言わせない」
壮「ははは、頑張れよ。何やりたいか決まっ
 たのか?」
晋也「いや、それはまだ・・・。この土日で
 考えてみるよ」
壮「そっか。夢に向かって頑張る姿見せれば
 春華だってお前を弱っちーだなんて言わな
 いさ」
晋也「うん、ありがとな。じゃあまた!」
壮「おう、じゃあな」
   晋也、壮と別れた後両手を高く上げる。
晋也「やってやるぜー!見てろよ日下!」
   夜道に声が響き渡る。近くの家の窓が
   勢い良く開きオヤジが怒鳴る。
オヤジ「うるせーぞ!何時だと思ってやがる
 !」
   通りかかった黒猫がその声に驚き走っ
   て暗闇の中に消える。

○松山書店・レジ前(昼)
   晋也、日下に頭を下げる。それを若干
   軽蔑した目で見守る灯と店長。
晋也「頼む、俺に夢の作り方を教えてくれ!」
日下「・・・え?」
灯「ちょっと、何言ってるんすか鈴木さん」

○同・同
T『数分前』
   いつも通り出勤する晋也。レジで漫画
   を読む灯。
晋也「おはよう」
灯「おはようございまーす」
   レジに近づく店長と日下。
店長「あ、鈴木くん。おはよう」
晋也「おはようございます・・・ってなんで
 またこいつがいるんですか!」
日下「こいつって・・・。」
店長「暫くこっちにいるみたいだから少し店
 を手伝ってくださるんですって」
日下「1か月くらい経ったらまた東京のほう
 へ戻るけどね。それまでよろしく。空っぽ
 な鈴木くん」
   晋也、顔を日下に極限まで近づける。
晋也「(歯を食いしばりながら)どうぞ宜し
 くお願いします。日下センパイ・・・」
日下「・・・顔が近いな」
   晋也、「あっ」と声を漏らし、少し下
   がる。
晋也「ちょうど良かった。あんたに言うこと がある」
日下「何だい?夢でも見つかった?」
晋也、日下に頭を下げる。それを若干
   軽蔑した目で見守る灯と店長。
晋也「頼む、俺に夢の作り方を教えてくれ!」
日下「・・・え?」
灯「ちょっと、何言ってるんすか鈴木さん」
日下「・・・はっはっは!何を言い出すかと
 思えば、夢の作り方を教えてくれだって?」
晋也「あぁ。ずっと考えてたけどわからねー
 んだ」
日下「じゃあ教えてあげるよ」
晋也「本当か?」
日下「あぁ。家に帰って布団に包まって寝て
 みなさい。その前にホットミルクを飲むと
 もっと効果的だ。そしたらいい夢が君の頭
 の中に作れるよ、きっとね」
晋也「・・・」
   灯、晋也と日下の顔をレジに隠れなが
   ら交互に見る。
日下「じゃあ僕のシフトは君と交代制だから
 これで失礼させてもらうよ」
   日下、去る。
   店長、晋也の顔をそっと覗き込む。
店長「鈴木くん、大丈夫?」
晋也「・・・はい」
灯「いやー、あんな言い方はないっすよね」
店長「そうよね。でもね、鈴木くんが彼に敵
 意むき出しなこともいけないと思うの。先
 輩だしあなたの恩人でもあるんでしょう?」
晋也「まあ。でもだからこそなんかいつもよ
 り腹立つんです。」
灯「そりゃそうっすよ。憧れの人にあんな酷
 いこと言われたんっすもん」
   晋也「ふう」と息を吐く。
晋也「よし、切り替えて働くか!灯、サボる
 んじゃねーぞ!」
灯「鈴木さんこそ」
   晋也、レジ裏に入る。

○同・児童向けコーナー
   晋也、棚の本を整理している時近くの
   棚を見上げる子ども客に気が付く。
晋也「どうしたんだろ。取りたいのかな?」
   晋也、子どもに近づき、子どもが見て
いた本を取って手渡す。
晋也「はい、どうぞ」
子ども「・・・」
   子ども、黙って受け取り晋也と目を合
   わせずに去る。
晋也「礼の一言もなし、か。にしてもあの本
 しか見てなかったな」
   晋也、先程取った本と同じシリーズの
   本を手に取り、読む。
晋也「懐かしいな、このシリーズ俺も昔読ん
 でたな。まだ続いてたのか。どれどれ」
   灯、晋也に近づく。
灯「ちょっと鈴木さーん?サボるなって言っ
 ってたの誰でしたっけー?」
   晋也、慌てて本を閉じ元の場所へ戻す。
晋也「いやいやサボってないよ?商品の確認
 をしてただけだって」
灯「この書店でそんな仕事聞いたことないっ
 す」
晋也「わかったよ、ちゃんと仕事するから」
   晋也、灯にモップを手渡され掃除を始
   める。

○梅沢ホテル・外観
   都心部の立ち並ぶビルの間に建つ地味
   なビジネスホテル

○同・4階
405と書かれた部屋の扉を開ける日下。日下、暗い部屋の電気のスイッチを入れ、着ているジャケットを脱ぎ椅子に投げ掛ける。
日下「・・・ふう」
   と軽く息を吐き鞄からパソコンを取り
   出し開き立ち上げ、小説の原稿データ
   を広げるが手を付けない。
日下「くそ!・・・子供にあんな事言うなん
 てな」
   日下、パソコンをそのままにベットへ
   倒れこむ。

○鈴木宅・外観(夜)
   住宅街にある普通の一軒家。

○同・1階・リビング
   晋也、引き戸を開けてリビングに入る。
   母の鈴木薫(45)。キッチンで夕飯
   の支度中。
晋也「ただいまー」
薫「おかえりなさい。今ちょうど夕飯出来る
 ところよ。お父さんにも挨拶してきなさい」
晋也「うん、わかってるよ」

○同・同・和室
   父の遺影がある仏壇の前で正座をし、
   目を瞑って手を合わせる晋也。
晋也「ただいま、父さん」

○同・同・リビング
   薫と晋也、向かい合わせで座る。間の
   テーブルには夕飯のカレーライスとサ
   ラダ。
薫「いただきます」
晋也「いただきまーす」
   晋也、スプーンでカレーライスを忙し
   く食べる。
薫「晋也、もっとゆっくり食べなさい」
   晋也、咀嚼しながら「ん」と返事を返
   す。口の中のものを全て飲み込む。
晋也「そうだ、母さん。俺が小さい頃好きだ
 ったものって何かある?」
薫「好きだったもの?どうしたの、急に」
晋也「俺ももう高3だろ?やりたいことそろ
 そろ決めないとだめだと思うんだけど何や
 りたいのかわかんなくてさ・・・」
薫「なるほどね。晋也もそんなこと考えるよ
 うになったのね。晋也はよく壮くんとバス
 ケしてたわ。あとは本かしら?夢中で読ん
 でる時は話しかけても何も聞こえていない
 ようだったわよ」
晋也「本、かあ・・・」
薫「流石、お父さんの息子よね。血は争えな
 いわ」
晋也「父さんも本が好きだったの?」
薫「(笑いながら)何言ってるの、当たり前
 じゃない。小説家だったんだから」
晋也「ふーん。・・・って、え!何それ!初
 耳なんだけど!」
薫「あら?知らなかったの?」
晋也「なんで言ってくれなかったんだよ!」
薫「だって知ってると思ってたんだもの。父
 さんの書斎に行けば父さんが書いた本も置
 いてあるわよ。ペンネームは、高庭泉よ」
   晋也、残っていたサラダを一瞬で平ら
   げる。
晋也「ご馳走様!」
   晋也、急いでリビングを去る。

○同・同・父の書斎
   古びた机に埃が被さっている。周りに
   は様々なジャンルの本が重なっている。
   机側の棚にはズラリと小説が並ぶ。そ
   の中に『高庭泉』と書かれた本が幾つ
   か並ぶ。晋也、部屋の電気を付け父の
   本を一冊手に取る。タイトルは『血酔
   い人』。
晋也「これが・・・。名前が違うから言われ
なきゃわかんねーよ」

○同・2階・晋也の部屋
   机は教科書や小説が混じり散らかって
   いる。壁にはロックバンドのポスター。
   床にはゲームやゴミが無造作に置いて
   いる。晋也、椅子に座り机の電気を付
   け父の書斎から持ってきた本を広げる。
   ☓     ☓     ☓
   外が段々明るくなっていく。
   ☓     ☓     ☓
   徐々に暗くなり、本を開き眠る晋也。

○松山高等学校・教室(朝)
   晋也、自分の席で『血酔い人』を読む。
   春華、晋也にゆっくり近づく。
春華「・・・晋也、おはよう。この前は怒っ
 ちゃってごめんなさい」
晋也「・・・」
春華「・・・ちょっと、何とか言いなさいよ」
   晋也、小説のページを捲る。壮、教室
   に入りクラスメイトに挨拶しながら晋
   也に近づく。
壮「おはよう、二人とも!」
春華「うん、おはよう」
晋也「・・・」
壮「ん?晋也どしたー?」
晋也「・・・」
春華「ずっとこの調子なのよ」
壮「そうなのか。晋也が小説読むなんて珍し
 いな」
   壮、晋也の読んでる小説の表紙を覗き
   込む。
壮「『血酔い人』って、怖ーな!」
   チャイムが鳴る。
春華「もう授業始まるよ、座ろう」
壮「そうだな」
   壮と春華、自分の席に座る。
   ☓     ☓     ☓
   国語の授業、教師が話しながら黒板に
   文字を書く。晋也、小説を読み続ける。
   教師、授業を聞かない晋也に気づく。
教師「おい鈴木!ちゃんと授業聞け!教科書
 くらい開け!」
晋也「・・・」
教師「おい!聞いてんのか!」
晋也「・・・」
壮「先生、無駄ですよ。こいつ朝から何にも
 聞こえてないみたいで」
晋也「・・・」
   教師、溜息を吐き諦める。
   ☓     ☓     ☓
   昼休みに春華と壮、弁当を広げる。晋
   也、小説を読み続ける。
壮「晋也、弁当食うぞー」
晋也「・・・」
春華「もう今日は何言っても駄目よ」
壮「大丈夫なのかこれ・・・」
   ☓     ☓     ☓
   放課後、チャイムが鳴りクラスメイト
   が次々に教室を出る。晋也、小説を読
   み続ける。
壮「晋也帰るぞー」
春華「だから無駄だって」
   晋也、小説を勢いよく閉じる。壮と春
   華、体を弾ませて驚く。晋也、背伸び
   をする。
晋也「ふー、終わった!」
壮「驚かせんなよ!どんだけ集中してたんだ
 よ」
晋也「ん?どしたの?二人とも」
壮「どしたのじゃねーよ。話しかけても全然
 気づかないからさー」
晋也「あぁ、ごめんね。俺昔から本読んでる
 時は周りの声聞こえないらしくて」
春華「珍しいわよね、晋也が本読むなんて」
晋也「あぁ、これ俺の死んだ父さんが書いた
 本らしくて、なんとなく読んでみようと思
 ったんだ」
壮「え!お前の父さん小説家だったの!」
晋也「そうみたいなんだ。俺も一昨日知った
 んだけどさ。それより先生遅いね。まだ授
 業始まらないのかな?」
   壮と春華、声を揃えて。
壮「は?」
春華「え?」

○松山書店・レジ(夕)
   灯、レジで漫画を読みながら座る。晋
   也、『血酔い人』をパラパラ捲る。
灯「珍しいっすね。鈴木さんが小説なんて」
晋也「ん、いや、ちょっとたまには読んでみ
 ようと思ってさ。漫画も見飽きたし」
灯「ふーん。私は文字だけのは無理っす。頭
 痛くなっちゃうんで」
   着替えを終えた日下、レジの前を通る。
日下「お疲れ様」
灯「お疲れーっす」
晋也「お疲れ様です」
   日下、晋也の前で立ち止まる。
日下「あれ、鈴木くんそれ高庭先生の本?」
   晋也、驚いて顔をあげ日下を見る。
晋也「え?知ってんの?」
日下「あぁ。僕ファンなんだよね。でもいつ
 からか全然新作を出さなくなっちゃって。
 僕は未だに新作を待ってるんだよ」
晋也「・・・そうなんだ」
日下「それじゃ」
   日下、去る。
灯「意外っすね。日下さんと鈴木さんの趣味
 が合うなんて」
晋也「(本を見つめる)・・・」
灯「鈴木さん?」
晋也「・・・え?ごめん、何?」
灯「別に何でもないっすよ。休憩行ってきま
 ーす」
   灯、レジの裏へ去る。

○同・小説コーナー
   晋也、棚を見て歩きながら本を探す。
   高庭泉の名前を見つけ立ち止まる。
晋也「父さんが小説家、か。面白かったな、
 『血酔い人』」

○梅沢ホテル・4階・405号室
   日下、開いたパソコンを見つめ、虚ろ
   な表情で固まる。机に置いていたスマ
   ホが鳴る。表情が変わらぬまま電話に
   出る。
日下「・・・もしもし」
編集者「もしもし、私です。日下先生、そろ
 そろ新作書いてもらえませんか?」
日下「あぁ。ずっと書こうとは思ってるんだ
 けど、何も浮かばなくて・・・」
編集者「一発当てたからってずっと人気が続
 くわけじゃないんです。私たちもあなたを
 ずっと支持する義理はないんだ」
日下「わかってるよ、それくらい」
   日下、相手の返事を待たずに通話を切
   り、スマホをベッドへ投げる。パソコ
   ンを閉じて、読み返されてボロボロに
   なった高庭泉の小説を手に取り読む。
日下「(狂ったように)ふふふ・・・。はっ
 っはっは!無理だよ。やっぱり僕にはこん
 なに面白いモノはかけないや」
   日下、天井を見上げる。自分の鞄に目
   を向け、鞄に手を伸ばす。

○松山高等学校・教室(朝)
   晋也、自分の机で高庭泉の『雪の子』
   を読む。春華、前の席で勉強をする。
   壮、晋也に近づく。
壮「晋也、聞いてほしいんだけど」
晋也「・・・」
壮「おーい!晋也!」
   春華、ペンを置き壮の方へ振り向く。
春華「無駄だって。見てよ、読み始めたばっ
 かりよ?」
   春華、『雪の子』の晋也が読み終えた
   ページの厚みを指さす。
壮「・・・しょうがない。この手は使いたく
 なかったんだが」
   壮、晋也の後ろの席に座り両手を晋也
   の脇にセットする。
壮「覚悟!」
   壮、晋也の脇をくすぐる。晋也、本を
   放り椅子から転げ落ちながら笑う。
晋也「あひゃひゃひゃひゃ!やめろ!やめて
 くれ!」
   晋也、抵抗するも壮は手を止めない。
春華「・・・それくらいにしてあげれば?気
 絶しちゃうわよ」
壮「そしたら話せなくなるな」
   壮、手を止める。晋也、息を切らしな
   がら壮を睨む。
晋也「何すんだよ!」
壮「話したい事あってさ」
晋也「ならここまでする必要ねーだろ!」
壮「ここまでしないとお前気づかないだろ?」
晋也「ま、まあな。・・・んで話って何?」
   晋也、椅子に座る。
壮「俺やりたいこと決めた」
晋也「ほんとか!何?」
壮「バスケ!」
春華「え?バスケ?」
晋也「マジか。プロ目指すってこと?」
壮「あぁ」
春華「いやいや、それはきつくない?正直壮
 のバスケの実力は知らないけどさ、最後の
 大会だって地区止まりだったじゃん」
壮「だからバスケが強い大学行って鍛えなお
 すんだ。そのために・・・」
   壮、春華に頭を下げる。
壮「頭足りないんで勉強教えてください!」
春華「はあ?・・・まあ、いいけど」
壮「ほんとか!ありがとう!」
晋也「そっかぁ。ちっちゃい頃からの夢、だ
 ったもんな。春華は決めてるの?」
春華「私?一応国立の教育学部目指してはい
 るけどその先は何も。教師になるとは親と
 かに言ってるけどほんとうになりたいのか
 はよくわかんないや」
壮「いいんじゃないか?大学に入ってから考
 えてみても」
春華「そうね・・・。晋也は、決まったの?
 最近ずっと考えてるようだったけど」
晋也「あぁ、決まったよ俺は―」

○鈴木宅・2階・晋也の部屋(夕)
   晋也、ベッドに横たわりながらスマホ
   をいじる。急に店長から着信が入り、
   画面が切り替わる。晋也、それに出る。
晋也「もしもし、お疲れ様です。どうしまし
 た?」
店長「鈴木くん?大変なの!日下先生が!」
晋也「え?」

○県立病院・外観(夜)
   都心にあるひと際目立つ建物。病院の
   周りには植物が多く植えられている。

○同・1階・日下の病室
   晋也、勢いよく扉を開ける。
晋也「日下さん!」
   ベッドに横たわり晋也を見る日下。そ
   の奥で店長と灯が座って晋也を見る。
灯「鈴木さん」
日下「・・・意外だね。君がそんなに心配し
 てくれているなんて」
   晋也、日下に近づく。
晋也「当たり前だ!あんたに死なれちゃ困る
 んだよ。俺の行く末を見せて見返すまでは
 な」
日下「そうか」
   日下、少し微笑みながら晋也を見る。
晋也「なんで自殺なんか・・・」
店長「そうよ。睡眠薬大量に飲んだって聞い
 たけど、本当に助からなかったかもしれな
 いのよ!」
日下「・・・もう、何も浮かばないんだ」
晋也「え?」
日下「一つ作品を当てることが出来た分周り
 の期待が大きくて、次もいい作品を書いて
 やるって意気込んだはいいけど何も浮かば
 ない。それで大好きな高庭先生の本を読ん
 だ。もう、無理だって思ったよ。どれだけ
 頑張ってもこの人を超えることなんてでき
 ない。そしたら、もういいやって」
灯「そんなに追い詰められてたんすね」
晋也「・・・わっかんねぇ。それって死ぬ程
 のことなのか?あんたたち小説家にとって
 書くことは命よりも大切なことなのかよ」
日下「あぁ、それが全てだ」
晋也「・・・俺の父さんは、高庭泉は書きた
 くてももう書けないんだよ!死んだらおし
 まいなんだ!あんたはまだ書きたいんだろ
 ?なら勝手に死ぬんじゃねーよ!」
   日下、驚いた顔で晋也を見る。
日下「君のお父さんが高庭先生・・・それに、
 死んだだって?」
晋也「あぁ。俺が小さい頃に病気で。死ぬま
 でずっと書き続けていたらしいんだ。書斎
 には書きかけの原稿も置いてあった」
日下「そう、なのか・・・。やっぱり凄いな、
 高庭先生は」
晋也「あんたは囚われてるんじゃねーのか?
 周りの期待に。最近父さんの小説読んでて
 思ったんだ。すっげー自由だなって。過激
 だったりふざけたりで滅茶苦茶だけど、面
 白い」
日下「そう、僕はそれに憧れたんだ」
   日下、急に声を上げて笑う。
日下「あっはっは!」
灯「え?日下さんどうしちゃったんすか?壊
 れた?」
日下「いや、こんな簡単な答えがわからずに
 死のうとして、しかも僕が空っぽと言った
 鈴木くんにその答えを教えてもらうなんて、
 自分が馬鹿らしくなってね。ありがとう、
 鈴木くん」
晋也「ふんっ」
   晋也、少し頬を赤くする。
日下「それから、色々酷いこと言ってごめん」
晋也「いいよ、事実だし。それに小説の案浮
 かばなくてイラついてたんだろ?」
日下「・・・あぁ」
   黙り込む二人の顔をニヤつきながら交
   互に見る灯。
店長「じゃあもう遅いし帰りましょ!二人と
 も送ってくわよ」
灯「ありがとーございまーす」
晋也「・・・あと一つ言いたいことがある」
日下「なんだい?」
晋也「俺、小説家を目指すことにした」
灯「マジっすか鈴木さん!」
   日下、真剣な眼差しで晋也を見る。
日下「・・・甘い世界じゃないよ」
晋也「わかってる」
日下「既に小説家になろうと努力している人
 だって大勢いる」
晋也「わかってる」
日下「何も出なくて死にたくなる時だってあ
 る」
晋也「(笑みを見せながら)あんたじゃない
 んだ」
日下「ふふっ。それもそうだ」
晋也「そしてあんたを超えて、いずれ父さん
 も超える」
日下「やってみなよ。でも先に高庭先生を超
 えるのは僕だ」
   日下、晋也を野心に満ちた目で見る。
   外が明るくなり、窓から朝日が差し込
   む。

○鈴木宅・2階・晋也の部屋(夕)
   晋也、部屋の真ん中の机で春華と壮と
   ノートを広げる。
春華「次、1399年に起きた周防などの守
 護大名大内義弘が起こした反乱を何と言う」
壮「・・・」
晋也「・・・大内デモ」
   春華、机をバンバン叩く。
春華「違う!応永の乱!真剣にやらないと入
 試に間に合わないよ!」
   部屋におやつとジュースを持って入る
   薫。
薫「春華ちゃん、ありがとうね。晋也たちに
 勉強を教えてくれて。はい、これどうぞ」
春華「いえいえ、教えることも勉強になりま
 すから。ありがとうございます」
薫「じゃあ頑張ってね、3人とも」
   薫、部屋を去る。
壮「とりあえず休憩しようぜ。おばさんがお
 やつ持ってきてくれたんだしさ」
春華「そうね。じゃあ5分後に再開するわよ」
晋也「はえーよ」
   ☓     ☓     ☓
   晋也、手が止まる。壮、ノートを下に
   して眠っているところを春華に叩き起
   こされる。
春華「壮起きる!晋也手動かす!」

○松山高等学校・教室(朝)
   晋也、壮、春華以外誰もいない教室で
   勉強をする三人。春華、黒板を使い授
   業をする。
春華「この問題は何を使って解く?」
壮「頭!」
   春華、壮に向かってチョークを投げ、
   おでこに的中。
壮「痛っ!」
晋也「三平方の定理!」
春華「正解!」
   ☓     ☓     ☓
   昼食を食べながら黙々と単語帳を捲る
   三人。

○鈴木宅・2階・晋也の部屋
   春華、晋也と壮に交互に英単語を言い
   二人は意味を答える。
春華「キャット」
壮「猫」
春華「ゼブラ」
晋也「しまうま」
春華「カム」
壮「来る」
晋也「・・・この問題ってさあ」
春華「お察しの通り中1の問題よ!何でこっ
 からやんないとわからないのよ!」
   晋也と壮、声を揃えて。
晋也「ごめんなさい」
壮「ごめんなさい」

T『数か月後』

○岩宮大学・校門(朝)
   広いキャンパスに幾つもの案内看板が
   みえ、所々に緑が生い茂る。防寒対策
   をした制服の学生が次々と足を踏み入
   れる。晋也と春華、校門の前で立ち止
   まる。
春華「いよいよね」
晋也「あぁ」
春華「教育学部と文学部、それぞれ違うけど
 お互い頑張りましょ」
晋也「もちろん。二人とも受かるといいな。
 そしたら大学でも一緒に飯食ったりしよう
 ぜ」
   春華、晋也の顔を見て頬を紅潮させる。
春華「い、いいわよ。私は当然受かるんだか
 ら、晋也も落ちるんじゃないわよ」
晋也「随分強気だね。流石俺らの先生だ」
   それぞれの試験会場に向かって歩く。

○鈴木宅・2階・晋也の部屋
   晋也と春華と壮、三人で部屋の真ん中
   の机に置いたパソコンの画面を覗き込
   む。
晋也「いよいよ今日だな、合格発表・・・」
春華「き、緊張するわね」
壮「だ、誰の結果から見る?」
晋也「・・・じゃんけんで決めるか。勝った
 人の結果から順番に見よう」
   三人がこぶしを出す。
晋也「最初はグー」
   三人声を揃えて「じゃんけんぽん」と
   叫ぶ。晋也、グー。壮、グー。春華、
   パー。
春華「私か・・・」
   春華がマウスを動かし何度かクリック
   する。
春華「あ」
晋也「あ?」
春華「・・・あった!やった!合格した!」
   春華、少し声が上ずり涙を流す。
晋也「おめでとう!」
壮「やったな!おめでとう!」
   春華、晋也に抱き付く。晋也、顔を紅
   潮させる。
春華「やったよぉ、めっちゃ不安だったよぉ」
壮「春華、あんなに強がってたのにな」
   壮、晋也の顔をニヤつきながら見る。
晋也「つ、次行くぞ!」
   晋也、何とか泣く春華を引きはがし、
   こぶしを出す。
晋也「最初はグー」
壮「じゃんけんぽん!」
   晋也、パー。壮、チョキ。
壮「ふぇ!お、俺か・・・」
   壮、マウスを動かし何度かクリックを
   する。何度も自分の受験番号を確認し
   ながら画面を見る。
壮「な」
晋也「な?」
壮「なんてこった!受かってやがる!」
晋也「おー!おめでとう!やるじゃんか!」
春華「おめでとうぅぅ・・・」
壮「ありがとう!ありがとう!」
晋也「じゃあ、俺の番だな」
   晋也、マウスを動かし何度かクリック。
   受験番号を三人とも確認し、画面を見
   た後顔を見合わせる。
晋也「よ」
壮「よ?」
晋也「よっ」
春華「よっ?」
   三人声を合わせてこぶしを突き上げる。
晋也「よっしゃあー!」
壮「よっしゃあー!」
春華「よっしゃあー!」

○日下宅・外観
   閑静な住宅街に一番大きくそびえ立つ
   豪邸。

○同・1階・リビング
   白を基調とした家具が並び、大きなテ
   レビの前にはガラスの机、更にその傍
   には大きなソファ。日下、窓際の大き
   な机の前の上質な椅子に座る。晋也、
   リビングに入り、日下の前に行く。
日下「いらっしゃい」
晋也「お久しぶりです。随分ご立派なお家で
 すね」
日下「あの日から自由に書いた小説が運よく
 ヒットしてね、買ってしまったんだ。それ
 と、敬語は使わなくていいよ。君が使うと
 何だかむずがゆくてしょうがない」
晋也「けっ!折角使ってやったのに」
   晋也、自分のリュックから原稿用紙の
   束を取り出す。
晋也「今日来たのは大学合格したって報告と、
 これ」
   晋也、原稿用紙の束を差し出す。日下、
   受け取る。
日下「そうか!おめでとう!これは、なんだ
 い?」
晋也「俺の初作品だ!最初に読んでくれよ」
   表紙にはタイトル『書店アルバイター
   鈴木』、著者『高庭晋』と書かれてい
   る。日下、微笑む。
日下「ありがたく読ませてもらうよ、高庭先
 生」
晋也「おうっ!」

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