山本の3.11 -両国~川越間の出来事- エッセイ

2011年3月11日。電車もない、宿もない、携帯電話も使えない中、フリーター・山本(24)は……?
マヤマ 山本 26 0 0 03/10
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第一稿

<登場人物>
山本(24)フリーター

オッサン 同僚
主任   現場の社員
駅員
店員
山本の母   

アナウンサー 声のみ



<本編>
○川越 ...続きを読む
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<登場人物>
山本(24)フリーター

オッサン 同僚
主任   現場の社員
駅員
店員
山本の母   

アナウンサー 声のみ



<本編>
○川越駅(朝)
   電車に乗り込む山本(24)。

○走る電車

○両国駅・入口
   周囲を見回しながら立っているオッサン。その周囲にも数名の人。そこにやってくる山本。
山本「あの……今日、派遣のバイトで来たんですけど」
オッサン「あ、おはようございます。(リストを見て)えっと……山本さん?」
山本「はい」
オッサン「じゃあ、全員揃ったので行きましょうか」
   オッサンを先頭に歩き出す山本達。

○メインタイトル『山本の3.11 -両国~川越間の出来事-』

○倉庫・外観
   都内にある二階建ての倉庫。
   T「2011年3月11日」
   揺れる画面。

○同・二階作業場
   仕分け作業中の山本、オッサンら従業員達。揺れに気付く。
山本「? 地震?」
オッサン「ですね」
   大きく揺れる建物。
山本「え、ヤバくね?」
オッサン「机の下に避難しましょう」
   慌てて作業台の下に避難する山本ら従業員達。しかしその作業台はキャスター付きであり、揺れと共に動く。
山本「おいおい」
   動かないように作業台の足を掴みつつ、揺れが収まるのを待つ山本。
山本「これ、震源地相当近いんだろうな……」
   館内アナウンスが流れる。
主任の声「従業員の皆さんは一階にお集まりください」

○同・一階作業場
   広めのスペース。全フロアの従業員が集められており、山本のようにテレビの前に居る者もいれば、外に出ている者もいる。テレビでは震源地が東北と伝えられている。
山本「震源地が東北で、あの揺れ? ヤバくね?」
   そこにやってくる主任。
主任「え~、皆さん。揺れも収まりましたので、作業に戻ってください」
   ブーイングする作業員達。

○同・二階作業場
   戻ってくる山本、オッサンら従業員達。
山本「ったく、コレで死んだらどうしてくれるんだっての」
オッサン「僕らみたいな派遣は、身元不明の遺体って事になるんだろうね」
山本「うわ~。俺もう、派遣でバイトすんのやめよっかな~」
   再び揺れる建物。
山本「え、また?」
主任の声「え~、皆さん」

○同・一階作業場
   広めのスペースに集められた山本ら全従業員。その前に立つ主任。
主任「こういう状況ですので『どうしても家に帰りたい』という方は、帰って頂いても構いません」
   ざわつく従業員達。
主任「ただ、電車は全線止まってます」
山本「じゃあ、無理やん」

○同・外観(夕)

○同・前(夕)
   帰っていく従業員達。その中に居る山本とオッサン。携帯電話(ガラケー)を取り出す山本、バッテリー切れ。
山本「うわ、マジかよ。ったく、こんな時に限って……」
オッサン「お疲れ様。大変だったね」
山本「あぁ、お疲れっス」
オッサン「お兄さん、家はどこなの?」
山本「埼玉の川越っス」
オッサン「え、川越? 帰れるの?」
山本「さぁ? まぁ、行ける所まで行くしかないっスよ」

○両国駅・中(夕)
   やってくる山本。駅員に誘導され、出ていこうとする利用客たち。
駅員「申し訳ありません。大江戸線は運転を見合わせます」
山本「え?」
駅員「シャッターも締めますので、速やかに退去願います」
   駅員に半ば追い出されるように出ていかされる山本。

○同・入口(夕)
   入口のシャッターが下りていく様子を見ている山本。
山本「マジかよ……」

○コンビニ・前(夕)
   公衆電話の前に長蛇の列。そこにやってくる山本。
山本「マジかよ……」
   仕方なく、最後尾に並ぶ山本。
    ×     ×     ×
   公衆電話の前に立つ山本。手に持った一〇円玉を見つめる。
山本「一〇円で説明しきれっかな……? まぁ、いいや」
   一〇円玉を一枚入れ、公衆電話を使用する山本。
山本の母の声「はい、山本です」
山本「あ、山本です」
山本の母の声「あぁ。今どこ?」
山本「両国」
山本の母の声「帰れないんでしょ?」
山本「うん、そう」
山本の母の声「帰らないんでしょ?」
山本「うん、そう」
山本の母の声「じゃあ、気を付けてね」
山本「は~い」
   通話が切れる。
山本「さすが、話が早い」

○大通り(夜)
   歩いている山本。
山本「さて、どうすっかな~。東上線もJRも止まってるし……」
   周囲に視線をめぐらす山本。他にも多数の歩行者(帰宅難民)の他、バス停には長蛇の列ができている上、到着したバスは既に超満員。
山本「絶対、無理。となると……」

○雑居ビル・前(夜)
   個室ビデオの看板がある雑居ビル。その前に立つ山本。
山本「(鼻の下を伸ばしながら)まぁ別に、深い理由はない。こういう状況なんだ。仕方あるまい。ね?」
   軽い足取りで中に入っていく山本。

○同・個室ビデオ(夜)
   カウンターに立つ店員。
店員「ただいま、満席でして」

○雑居ビル・前(夜)
   出てくる山本。
山本「ちくしょう。どいつもこいつも、考える事は同じか」
   自分の下半身に目をやる山本。
山本「あ~、ちくしょう」

○大通り(夜)
   歩いている山本。疲れからか、足取りは大分重い。
山本「歩いて川越は、さすがに無いよな……。とりあえず、飯田橋くらいを目指すか」
   店頭のラジオから流れるニュース。
アナウンサーの声「そして大江戸線は運転を再開し……」
   立ち止まる山本。
山本「は!?」

○両国駅・中(夕)
   駅員に半ば追い出されるように出ていかされる山本。
駅員「大江戸線は運転を見合わせます」
山本の声「ふざけんなよ!」

○大通り(夜)
   ラジオの前に立つ山本。
山本「もう何駅歩いたと思ってんだよ! くそ、こうなったら意地でも帰ってやるかんな! 絶対諦めねぇかんな!」

○山本家・外観(夜)
   一軒家。
   鍵を開ける音。

○同・中(夜)
   入ってくる山本を見て驚く山本の母。
山本「ただいま……」
山本の母「あれ? 帰ってこれたんだ?」
山本「西武線が生きててね」
   玄関に座り込む山本。笑みを浮かべる。
山本「見たか。これが俺の、底力だ」
                   (完)

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