<登場人物>
山本(24)フリーター
オッサン 同僚
主任 現場の社員
駅員
店員
山本の母
アナウンサー 声のみ
<本編>
○川越駅(朝)
電車に乗り込む山本(24)。
○走る電車
○両国駅・入口
周囲を見回しながら立っているオッサン。その周囲にも数名の人。そこにやってくる山本。
山本「あの……今日、派遣のバイトで来たんですけど」
オッサン「あ、おはようございます。(リストを見て)えっと……山本さん?」
山本「はい」
オッサン「じゃあ、全員揃ったので行きましょうか」
オッサンを先頭に歩き出す山本達。
○メインタイトル『山本の3.11 -両国~川越間の出来事-』
○倉庫・外観
都内にある二階建ての倉庫。
T「2011年3月11日」
揺れる画面。
○同・二階作業場
仕分け作業中の山本、オッサンら従業員達。揺れに気付く。
山本「? 地震?」
オッサン「ですね」
大きく揺れる建物。
山本「え、ヤバくね?」
オッサン「机の下に避難しましょう」
慌てて作業台の下に避難する山本ら従業員達。しかしその作業台はキャスター付きであり、揺れと共に動く。
山本「おいおい」
動かないように作業台の足を掴みつつ、揺れが収まるのを待つ山本。
山本「これ、震源地相当近いんだろうな……」
館内アナウンスが流れる。
主任の声「従業員の皆さんは一階にお集まりください」
○同・一階作業場
広めのスペース。全フロアの従業員が集められており、山本のようにテレビの前に居る者もいれば、外に出ている者もいる。テレビでは震源地が東北と伝えられている。
山本「震源地が東北で、あの揺れ? ヤバくね?」
そこにやってくる主任。
主任「え~、皆さん。揺れも収まりましたので、作業に戻ってください」
ブーイングする作業員達。
○同・二階作業場
戻ってくる山本、オッサンら従業員達。
山本「ったく、コレで死んだらどうしてくれるんだっての」
オッサン「僕らみたいな派遣は、身元不明の遺体って事になるんだろうね」
山本「うわ~。俺もう、派遣でバイトすんのやめよっかな~」
再び揺れる建物。
山本「え、また?」
主任の声「え~、皆さん」
○同・一階作業場
広めのスペースに集められた山本ら全従業員。その前に立つ主任。
主任「こういう状況ですので『どうしても家に帰りたい』という方は、帰って頂いても構いません」
ざわつく従業員達。
主任「ただ、電車は全線止まってます」
山本「じゃあ、無理やん」
○同・外観(夕)
○同・前(夕)
帰っていく従業員達。その中に居る山本とオッサン。携帯電話(ガラケー)を取り出す山本、バッテリー切れ。
山本「うわ、マジかよ。ったく、こんな時に限って……」
オッサン「お疲れ様。大変だったね」
山本「あぁ、お疲れっス」
オッサン「お兄さん、家はどこなの?」
山本「埼玉の川越っス」
オッサン「え、川越? 帰れるの?」
山本「さぁ? まぁ、行ける所まで行くしかないっスよ」
○両国駅・中(夕)
やってくる山本。駅員に誘導され、出ていこうとする利用客たち。
駅員「申し訳ありません。大江戸線は運転を見合わせます」
山本「え?」
駅員「シャッターも締めますので、速やかに退去願います」
駅員に半ば追い出されるように出ていかされる山本。
○同・入口(夕)
入口のシャッターが下りていく様子を見ている山本。
山本「マジかよ……」
○コンビニ・前(夕)
公衆電話の前に長蛇の列。そこにやってくる山本。
山本「マジかよ……」
仕方なく、最後尾に並ぶ山本。
× × ×
公衆電話の前に立つ山本。手に持った一〇円玉を見つめる。
山本「一〇円で説明しきれっかな……? まぁ、いいや」
一〇円玉を一枚入れ、公衆電話を使用する山本。
山本の母の声「はい、山本です」
山本「あ、山本です」
山本の母の声「あぁ。今どこ?」
山本「両国」
山本の母の声「帰れないんでしょ?」
山本「うん、そう」
山本の母の声「帰らないんでしょ?」
山本「うん、そう」
山本の母の声「じゃあ、気を付けてね」
山本「は~い」
通話が切れる。
山本「さすが、話が早い」
○大通り(夜)
歩いている山本。
山本「さて、どうすっかな~。東上線もJRも止まってるし……」
周囲に視線をめぐらす山本。他にも多数の歩行者(帰宅難民)の他、バス停には長蛇の列ができている上、到着したバスは既に超満員。
山本「絶対、無理。となると……」
○雑居ビル・前(夜)
個室ビデオの看板がある雑居ビル。その前に立つ山本。
山本「(鼻の下を伸ばしながら)まぁ別に、深い理由はない。こういう状況なんだ。仕方あるまい。ね?」
軽い足取りで中に入っていく山本。
○同・個室ビデオ(夜)
カウンターに立つ店員。
店員「ただいま、満席でして」
○雑居ビル・前(夜)
出てくる山本。
山本「ちくしょう。どいつもこいつも、考える事は同じか」
自分の下半身に目をやる山本。
山本「あ~、ちくしょう」
○大通り(夜)
歩いている山本。疲れからか、足取りは大分重い。
山本「歩いて川越は、さすがに無いよな……。とりあえず、飯田橋くらいを目指すか」
店頭のラジオから流れるニュース。
アナウンサーの声「そして大江戸線は運転を再開し……」
立ち止まる山本。
山本「は!?」
○両国駅・中(夕)
駅員に半ば追い出されるように出ていかされる山本。
駅員「大江戸線は運転を見合わせます」
山本の声「ふざけんなよ!」
○大通り(夜)
ラジオの前に立つ山本。
山本「もう何駅歩いたと思ってんだよ! くそ、こうなったら意地でも帰ってやるかんな! 絶対諦めねぇかんな!」
○山本家・外観(夜)
一軒家。
鍵を開ける音。
○同・中(夜)
入ってくる山本を見て驚く山本の母。
山本「ただいま……」
山本の母「あれ? 帰ってこれたんだ?」
山本「西武線が生きててね」
玄関に座り込む山本。笑みを浮かべる。
山本「見たか。これが俺の、底力だ」
(完)
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