ただ、 ドラマ

中学生男子の初恋と、女性シンガーソングライターの初恋の話。
辻本央 29 0 0 07/30
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第一稿

◎学校・教室(休み時間)
青々とした空。
窓で中間テストの結果表を見ながら溜め息を着く惺一朗。
肩を叩かれ、振り向いた右頬に人差し指。犯人は美咲。

美咲「ださっ。」
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◎学校・教室(休み時間)
青々とした空。
窓で中間テストの結果表を見ながら溜め息を着く惺一朗。
肩を叩かれ、振り向いた右頬に人差し指。犯人は美咲。

美咲「ださっ。」
惺一朗「(手を払って)何?」
美咲「さっきの国語聞いてなかったでしょ。日向先生担任なんだからちょっとは印象よくしとけば?ほら日直、持ってってよ。」

美咲の手には大量の国語のノート。

惺一朗「・・・」

面倒くさそうにノートを受け取る。


◎同・三年職員室
日向のデスク。
机の上には飴の入った瓶。
不躾に置かれるノートの束。
ふてくされている顔の惺一朗。

日向「あぁ、ありがとう。・・・宮地。顔、眉間にしわ。」
惺一朗「中間悪かったんで。」

日向、飴を取り出すと惺一朗に。
いぶかしげに見る惺一朗。

日向「理科はよかったじゃないか。大丈夫、大丈夫。リラックス、リラックス。」
惺一朗「・・・失礼しました。」

惺一朗、出ていく。


◎学校・理科室(数日後)
黒板には天体の図。
教卓の上には、太陽と地球の模型。
鈴本が説明している。

鈴本「地球が自転しながら太陽の周りを回ってるのは勉強したよな。さて(小さいボールを取り出す)テスト前に説明した月の満ち欠け。お前ら随分間違えてたぞ。」

惺一朗の手元には返却されたテスト。点数は九六。
のぞき込む灰原。

灰原「惺は相変わらずだな。」
惺一朗「理科だけな。」
鈴本「月は何で輝いてるんだっけ、灰原。」
灰原「(慌てて)あ、えっと、太陽の光を反射してるから。です。」
鈴本「じゃ、満ち欠けは何で起こるんだ?」
灰原「えっと・・・(惺一朗をつつく)」
鈴本「宮地、隣が助けを求めてるぞ。」
惺一朗「・・・月が地球の周りを回っていて・・・その太陽の光を反射する面積が変わるから。」
鈴木「うん、そうだな。(模型で説明する)だから地上から見える月は毎日形を変えるんだな。さて、それじゃぁ日食は・・・」

鈴木の説明する模型を見つめながら、頬杖を着く惺一朗。


◎商店街(夜)
学校帰りの惺一朗。歌声に、足が止まる。見ると、人だかり。
閉まったシャッターの前で歌っている唯。
歌い終わると、人々が拍手と共にお金を置いていく。
笑いながらお辞儀をしている唯。
客が引いてから、惺一朗も百円を。
惺一朗の顔を見て。

唯「どうしたの?」

いつの間にか惺一朗頬には涙が。
笑って、唯は軽く惺一朗の涙にキス。
惺一朗の百円をポケットに入れると、去る。
茫然と立ち竦んでいる惺一朗。


タイトル『ただ、』

◎同・教室(翌日)
国語の授業。
日向が黒板に書く和歌。
『浅茅生の小野の篠原しのぶれどあまりてなどか人の恋しき』

日向「たぶんこの和歌は試験には出ませーん。(生徒達、笑う)木村、詠んでみろ。」
美咲「『浅茅生の小野の篠原しのぶれどあまりてなどか人の恋しき』」
日向「うん。これは小倉百人一首の三九番目の歌だ。意味わかるやつはいるか?」

誰も手を挙げない。

日向「浅茅が生える小野の篠原じゃないけれど、恋しさを忍んで堪えようとしても堪えきれないほどに、どうしてあなたのことが恋しくてならないのだろうか。これは気持ちが溢れる恋歌なんだ。」
惺一朗「・・・」
日向「お前達も年頃で好きな子がいるかもしれない。百人一首にはこういう恋歌は結構あるから読むとなかなかおもしろいぞ。」

おもしろくなさそうな惺一朗。
チャイムが鳴る。


◎公園(夕方)
下校中の惺一朗。トボトボと歩く。
芝生まで来ると、そのまま寝転がる。
鞄からはみ出る天文の本。
大の字になって、空を見つめる。
どこからともなく、聞き覚えのある歌声が。
飛び起きて、周りを見渡す。
歌いながら散歩している唯を見つける。唯、惺一朗に気づかず前を通り過ぎていく。

惺一朗「(立ち上がって)あのっ」
唯「(振り返る)あ!泣いてた子。」
惺一朗「・・・(バツ悪そう)」
唯「この前はありがとう、百円。」
惺一朗「いえ・・・(キスを思い出す)!」

惺一朗、バッと右頬を隠す。
そんな様子を気にも止めずに、唯はポケットから飴を取り出す。

唯「ほら。」
惺一朗「あ(日向と同じ飴な事に気が付く)」
唯「あの百円で飴買ったの。あと七個しかないんだけどいる?」
惺一朗「いえ・・・」
唯「あ。」
惺一朗「え。」

唯、惺一朗の足下の本を拾う。
拾って座ると、めくる。

唯「星、好きなの?」
惺一朗「・・・嫌いじゃないですけど。」
唯「はっきりしないガキだなぁ。若いんだから、シャキッとしな(膝裏を叩く)」
惺一朗「(膝かっくん)・・・」

惺一朗も座る。

唯「天文部?」
惺一朗「いえ。」
唯「そっか。ないもんね天文部。」
惺一朗「え。」
唯「その制服、東中でしょ。私、合唱部。卒業生なの、私。もう六年前だけど。」
惺一朗「・・・へぇ。」

唯、惺一朗の鞄をあさる。
国語の教科書を取り出し懐かしそうに見る。

唯「三年二組、宮地惺一朗君。」
惺一朗「は、はい。」
唯「(教科書の名前を見せて)惺、学校楽しい?」
惺一朗「・・・別に。」
唯「友達いっぱいでいいでしょ?」
惺一朗「多くないし。」
唯「好きな子とか。」
惺一朗「苦手なんです。女子って何でトイレ行くのにあんなに大勢で行くんですか?」
唯「(笑)それはね。」
惺一朗「?」
唯「女子トイレには女の子の秘密がいっぱいだからよ。」
惺一朗「は?」

唯、笑いながら立ち上がって。

唯「さて。(行こうとする)」
惺一朗「あ、ちょっと。」
唯「え?(止まって振り返る)」
惺一朗「その・・・名前。」
唯「(笑って)唯。じゃあね。」

行ってしまう唯。
惺一朗の足下に散らばった国語の教科書と天文の本。


◎学校・音楽室(翌日)
リコーダーのテスト中。惺一朗と灰原、こそこそ話をしている。

灰原「何、ナンパ?」
惺一朗「違う・・・と思うけど。」
灰原「どんな女?」
惺一朗「よくわかんない。きれいだけど。」
灰原「あーいいな。年上の女。やりてぇ。」
惺一朗「お前の頭ん中はそればっかりだな。」
灰原「考えたことねぇのかよ。」
惺一朗「あるけど・・・」
灰原「やっぱ年上の女ってすげぇのかな。なんつーの、技?みたいな」
惺一朗「それは個人差が・・・」
灰原「したことあんのかよ。」
惺一朗「ないけど・・・」
灰原「あぁ、お願いしてぇ~。あ、合唱部なら堀内知ってんじゃね?」

惺一朗、堀内を見る。
チャイムが鳴る。

堀内「じゃ、残った子は次の時間テストしましょう。」
委員長「起立、礼。」

バラバラと出ていく生徒達。

灰原「あぁー、次って進路指導だぜ。たりぃ。ん、惺?」
惺一朗「先行ってて。」
灰原「何、例の女のこと?だったら俺も」
美咲「(やって来て)何々、女って?」
灰原「実はこいつさぁ~」
惺一朗「いいから先教室帰れって。」

灰原、しぶしぶ行く。
美咲、少し惺一朗を見ると出ていく。
惺一朗、堀内の所へ。

惺一朗「堀内先生。」
堀内「ん?何、宮地君。」
惺一朗「先生って、ここ何年いるんですか?」
堀内「私は八年かな。ちょっと居すぎかしらね。あはははは」
惺一朗「六年前の卒業生って覚えてます?合唱部だったらしいんですけど。」
堀内「六年前・・・もう誰が何年前の子かわからないわね。あ、でもそれくらいの年の卒業生の子の中で、すごく印象的な子がいるの。合唱部だったんだけどね。歌が大好きな子で、笑顔がとっても素敵な子。そう、その子コンクール前に声が出なくなって・・・」
アナウンス「堀内先生、お電話が入ってます。」
堀内「あらっ。じゃぁね。あ、ちゃんとリコーダー練習しとくのよ。」

堀内、行ってしまう。
誰もいない音楽室を見渡す惺一朗。

惺一朗「・・・いたんだ。ここに。」


◎同・教室
教壇で進路指導の授業をする日向。

日向「三年になって一回目のテストが終わったけどどうだ。志望校には行けそうか?」

ざわつく教室。

日向「(笑って)なんて、志望校が決まってない奴の方が多いだろうな。これから、どんどん個人の進路指導を増やして行くから、そのつもりで。で、何を基準に高校を選ぶか。木村。」
美咲「偏差値。」
日向「ピンポン。大正解。でも、実は答えはいっぱいあるんだ。わかる人。」

誰も発言しない。

日向「(苦笑い)ホントに自主性のないクラスだな。流行りか?じゃ、奏倉。」
奏倉「家の経済面、とか。」
日向「お、なかなかいい意見出た。他に。」
灰原「部活?」
日向「はい、来た!部活。灰原はバトミントン部だったな。」
灰原「はい。」
日向「好きか?」
灰原「好きッス。これでも成績いいんすよ。県四位。」
日向「国語もそれくらい上げてくれ。」

ドッと笑いが起きる教室。

日向「もし灰原の様に好きなことややりたいことがあればそのために高校を選ぶのもひとつの手だ。部活、勉強、制服で選ぶのもいいかもな。そこに入るために、頑張ればいい。まず頑張ればいい。まだ六月だ。大丈夫。そしてもし、やりたいことも決まってないし、どこでもいいと考えている人は、自分に合いそうな学校を今からゆっくり探せばいい。最終手段が偏差値だ。な。」

穏やかな日向の表情。
反対に曇った惺一朗の顔。


◎公園(夕方)
芝生に寝ころんで詩を書いている唯。下を向いてやって来る惺一朗に気が付く。

唯「惺!」

顔を上げる惺一朗。先には屈託のない笑顔で手招きする唯。


◎同(時間経過)
寝転んで詞を書きながらの唯。
その隣りに座っている惺一朗。

唯「(飴を剥きながら)ふぅん。」
惺一朗「俺は何にも決まってない側だからさ。特にやりたいこともないし、何か・・・こう、何て言うか焦っちゃって。」
唯「そっか(食べる)」
惺一朗「・・・ちゃんと聞いてる?」
唯「聞いてる、聞いてる。ね、星の話してよ。」
惺一朗「はい?」
唯「してして~」

惺一朗、唯の笑顔に話し始める。

惺一朗「星じゃないけど、月の話。」
唯「うん。」
惺一朗「月には四つの海があって。」
唯「水があるの?」
惺一朗「ないよ。勝手に付けられた場所の名前かな。『雨の海』『晴れの海』『雲の海』『静かの海』の四つ。」
唯「へぇ、初めて知った。習うの、そんなこと。」
惺一朗「いや、自分で調べた。」
唯「すごいね。」
惺一朗「でね、月のクレーターって大きくて直径一三五キロメートルもあるんだ。でも、月自体の直径は約三四七六キロメートルあって、地球の約三分の一なんだ。で、地球の直径を一、三センチとすると月までの距離は約三十九センチで・・・何?」

見ると笑っている唯。

唯「ううん。」
惺一朗「?」

紫陽花に水滴が落ちる。
降り始める雨。二人、慌てて立ち上がる。唯が惺一朗の手を取って。

唯「行こ。」
惺一朗「え。」
唯「受験生に風邪は厳禁。」

雨の中を駆け出す二人。繋いだ手。
少し恥ずかしげな惺一朗。
下校中の美咲、二人を見てしまう。


◎学校・理科室(翌日)
休み時間。
惺一朗の席にやってくる美咲。

美咲「ね、昨日のって誰?」
惺一朗「は?」
美咲「年上の彼女?」
惺一朗「っ!お前には、関係ないだろ。」

チャイムが鳴り、席に戻る美咲。
授業が始まる。
惺一朗を気にする美咲。


◎同(時間経過)
授業中。
こそこそと話す惺一朗と灰原。

灰原「好きなんじゃねぇ?」
惺一朗「え。」
灰原「手握ってドキドキしたんだろ?」
惺一朗「・・・」
灰原「いいよなぁ、女と手繋ぐとか。」
惺一朗「灰原もドキドキしない?」
灰原「するだろうなぁ。ってかする。絶対する!」
惺一朗「好きじゃなくても?」
灰原「よっぽどブスじゃなきゃするっしょ。」
惺一朗「じゃ、別に好きじゃないじゃん。」
灰原「・・・確かに。」
惺一朗「だいたい、好きって何?」
灰原「・・・さぁ?」
惺一朗「・・・」
灰原「・・・」

顔を見合わせ、二人同時に溜め息。


◎同・廊下
休み時間。
教室から出てくる惺一朗。
廊下で美咲たち女の子が日向を取り囲んでいる。

美咲「奥さんの写真いつも持ってるってホント?」
日向「家族のな。ほら。」
女子①「見せて見せて。」
女子②「きゃー、子供かわいい!いくつ?」
日向「五歳。」
美咲「てか、奥さん綺麗!」
日向「だろ~。」
女子①「うわっ、のろけ~!」

笑い合う美咲たちと日向。その側を迷惑そうに通り過ぎる惺一朗。


◎学校・外(放課後)
学校沿いの歩道。下校していく生徒たち。校舎を懐かしそうに、愛おしそうに見上げる唯。
ゆっくり目を閉じてみる。
聞こえるのは下校する生徒達の楽しげな笑い声。部活に励む声。ランニングの足音。かけ声。吹奏楽の音色。合唱。
合唱に合わせて唯も小さく歌を口ずさむ。昔に返ったような感覚。
しばらくして。

惺一朗「唯さん?」
唯「(目を開ける)あ、お帰り。」
惺一朗「・・・どうしたんですか?」
唯「ん、ちょっと。懐かしくなって、来てみた。変わらないね、何年経っても。」
惺一朗「・・・」


◎歩道
二人並んで帰り道。
まだ運動部の声が聞こえてくる。

唯「惺は部活やんないの?」
惺一朗「運動は得意じゃなくて。」
唯「文化部は?」
惺一朗「みんなと何かやるのが、苦手で。」
唯「科学部だと思った。」
惺一朗「すぐ辞めたんだ。」
唯「なんで?」
惺一朗「何か、おもしろくなくって。」
唯「みんなで何かできるなんて、今のうちだけだよ。」
惺一朗「・・・何か」
唯「ん?」
惺一朗「唯さんて時々年寄りみたいな発言しますよね。」

唯、惺一朗の頭を軽く殴る。

唯「先生の影響かなぁ・・・」
惺一朗「・・・」
唯「すっごくいい先生で、みんなその先生のこと好きだったの。」

惺一朗、ゆっくり足を止める。
気づいて唯、振り返る。

唯「どうしたの?」
惺一朗「『好き』って何なの?」
唯「ん?何の?」
惺一朗「何の、って・・・?」
唯「好きにも色々あるでしょ。家族が好き、友達が好き、先生が好き、あの子が好き、この子が好き。」
惺一朗「・・・」
唯「(ガードレールにもたれ掛かって飴を食べる)私なら歌が好き、惺なら星が好き。好きも色々。」
惺一朗「よくわかんない。」
唯「嬉しい気持ちだと思う。」
惺一朗「嬉しい気持ち?」
唯「好きなものを思い浮かべると嬉しくならない?(胸を叩いて)ここが、なんとなーく暖かくなるっていうか。あと楽しい。」
惺一朗「楽しい・・・」
唯「星の話してる惺は、楽しそうだったけど?」
惺一朗「・・・」

唯、微笑むと歩き出す。
ハッとして、慌てて後を歩く惺一朗。

唯「私は旅が好きだなぁ。特に電車の旅!流れれてく景色とか、揺れる心地とか。あと駅弁が大好きでさ。神戸牛弁当!知ってる?ワイン付いてるんだよ。あ、惺一朗は何弁好き?」
惺一朗「べ、弁当?」
唯「あ、じゃ、場所。」
惺一朗「・・・あるよ。」
唯「どこどこ?」
惺一朗「子供の頃」
唯「今も子供じゃん。」

惺一朗、少し拗ねる。

唯「ごめんごめん。子供の頃?」
惺一朗「父さんに連れていって貰ったんだけど・・・(指さして)あの小山の頂上の広場。車から降りたとき星がいっぱいで、何か空に浮かんでるみたいで・・・」
唯「・・・ここからどれくらい?」
惺一朗「え?車で一時間くらい、かな。」
唯「(立ち止まって)よし、行こう!」
惺一朗「えぇ!」
唯「(時計見ながら)ほら、ちょうどいい時間だし行こう。」
惺一朗「でも俺塾・・・」
唯「(歩き出す)サボれ、サボれ。」
惺一朗「車・・・」
唯「レンタルすりゃいーじゃない。心配しないの。結構お金持ちなんだから。」
惺一朗「運転・・・」
唯「大丈夫!お姉さんに任せなさい!」

自信満々の唯の笑顔。


◎車内
勢いよくドアを閉める唯。
不安気な惺一朗。鼻歌を歌いながらシートベルトを締める唯。緊張しながらベルトを締める惺一朗。

唯「(嬉しそうに)運転すんの、二年ぶり!」
惺一朗「え!」

急発進する車。


◎車内
楽しそうに運転する唯。心配そうにギュッとベルトを握る惺一朗。

唯「何そんなに緊張してんのよ。」
惺一朗「だって。」
唯「だって?」
惺一朗「発進した途端エンスト起こすし、一通逆送するし、さっきは一時停止無視した。」
唯「(笑って)気のせいよ。」

惺一朗、さらにベルトを強く握る。


◎車内
話で盛り上がる二人。

お菓子を奪い合う二人。

寝そうな惺一朗。
唯、コツンと惺一朗の頭を叩いて起こす。

寝そうな唯。
慌てて起こす惺一朗。

歌を歌う唯。
横ノリに手拍子を打つ惺一朗。

楽しそうに笑う二人。

惺一朗「そういや堀内先生に聞いたんだけど」
唯「堀内先生!懐かしい~、元気?」
惺一朗「すっごく。」
唯「よく喋るよね、あの先生。」
惺一朗「唯さんも似たようなもん・・・」
唯「ん?」
惺一朗「いえ。あ、前言ってた影響受けた先生って堀内先生のこと?」
唯「・・・ううん。三年の時の担任。」
惺一朗「・・・」
唯「で、何を聞いたって?」
惺一朗「え、あぁ。コンクールん時声出なくなったって。」
唯「なったなった。一週間前くらいかな。急にね。」
惺一朗「風邪?」
唯「プレッシャー。」
惺一朗「プレッシャー?」
唯「ほら、私『でりけいと』だから。」
惺一朗「・・・」
唯「なんで黙るのよ。」
惺一朗「いえ。続きお願いします。」
唯「受験にね、結構関わってくるもんだったしソロとかあって・・・怖くなっちゃったんだね。」
惺一朗「歌えたの?」
唯「(頷く)助けてくれた人がいたの。大丈夫だよって励ましてくれた人がいて・・・」
惺一朗「・・・彼氏・・・とか?」
唯「(笑って)違うわよ。」
惺一朗「(何となくホッ)」
唯「片思い。しかも振られた。」
惺一朗「・・・」

唯の傍らに置かれた飴、ころっと傾く。


◎小山の広場(夜)
だいぶ暗くなった風景。
止まる車。
降りる惺一朗と唯。空を見上げる。
無数の星々。声が出ない二人。
シンとした空気。ただ、夜空があるだけの風景。
自然と笑顔になる惺一朗。
そんな姿を見て、唯。

唯「これが好きってこと。」
惺一朗「(唯を見る)え。」
唯「(空を見上げて)会いたい。見ていたい。・・・ただ、愛おしいんだよ。」
惺一朗「・・・(また空を見上げる)」

また黙って夜空を眺める二人。

唯「なんかここだけ地上じゃない空気の匂いがするね。」
惺一朗「・・・」
唯「(笑って)ってここも地上だけど。」
惺一朗「・・・地球は惑星だからゆっくり熱をあげているんだ。星はいつか爆発してなくなる。今も宇宙のどこかで星が消えてるかもしれない。」
唯「そしてまた熱くなって生まれる。」
惺一朗「・・・そう。」
唯「何か恋みたいだね。」
惺一朗「(唯を見る)」
唯「なくなっても、あったことは事実で。胸の中で熱いものがちゃんと存在してた。生きてた。」
惺一朗「詞を書く人はロマンチストだね。」
唯「さっきの。」
惺一朗「え?」
唯「好きってこと。好きなものを思い浮かべると、楽しくて、嬉しくて(胸に手を置く)ここが、暖かくなるって。あれ、恋には当てはまらないかも。」
惺一朗「・・・」
唯「悲しくて、切なくて、心が痛い時もあるもの。楽しいだけじゃない。」

遠くの誰かを思う唯。
その様子に、寂しさを感じる惺一朗。

惺一朗「それって・・・さっきの片思いの人のこと?」
唯「(頷いて)すっごく好きでね。その時はもう奥さんいる人だったんだけど・・・ほら、気持ちはどうにもならないじゃない?・・・想うだけで涙が出て、会うと胸が締め付けられて、身動きがとれなくて・・・」
惺一朗「・・・」
唯「奪ってやろうかとも思った。誰かを傷つけてでも、自分を傷つけてでもその人が欲しかったの。」
惺一朗「・・・そういうのよくわかんない。俺・・・ガキだから・・・」
唯「(微笑んで)昔の話。」
惺一朗「・・・」
唯「もう・・・ずっと昔の話・・・」

並んで見上げる二人の背中、微妙な距離感。



◎同・教室
国語の授業。
黒板に書かれている和歌。
『わが袖は潮干に見えぬ沖の石の人こそ知らね乾く間もなし』
チャイムが鳴る。

日向「じゃ次の時間までにこの歌の意味を調べてくるように。調べてきた奴にはもれなく嫁さんの博多土産をやろう。」

ざわつく教室。
帰りの支度をする生徒達。

日向「んじゃ、このままホームルームするぞ。明日は・・・」

連絡事項を言う日向。
和歌をメモる惺一朗。


◎同・運動場
放課後。
部活中の美咲。
フェンスの向こうの唯を見つける。
唯は愛おしそうに校舎を見上げている。しばらくして学校へ入っていく。

美咲「・・・」


◎同・教室
扉を開ける唯。夕日が眩しくて、一瞬目を細める。オレンジの光で満ちた教室。誰もいない。
聞こえてくる部活動の声。
消されていない黒板。
その和歌を見て苦笑いを浮かべる。
席について、教卓を見つめる。
誰かを想って、じっと見つめる。
机にポタッと落ちる一滴。
自然と涙が頬を伝う。
急に扉が開く。
驚いてみると惺一朗。

惺一朗「あ。」
唯「・・・」
惺一朗「(泣いていたのに気づく)あ・・・忘れ物、して。」

惺一朗、体操服を取る。

唯「私もこれ昔習ったの。」
惺一朗「宿題なんだ。意味調べてこいって。・・・どういう意味なの?」
唯「・・・好き。すごくすごく好き。こんな気持ち、あなたは・・・何も知らないだろうけど・・・」

また、扉が開く。
ハッと惺一朗と唯が見ると、堀内。
そして、その奥に日向が。
日向の姿に席を立ち、動揺する唯。
それを見逃さなかった惺一朗。

堀内「(近付きながら)月城さん!まぁ、久しぶり!合唱部の卒業生が来てるって聞いたんだけど、部室の方に来ないからこっちだと思って。」
唯「お久しぶりです、堀内先生。・・・日向先生。」
日向「(笑顔)あぁ。」
堀内「あら。宮地君、月城さんと知り合いだったの?」
惺一朗「(チラっと唯を見て)・・・いえ。忘れ物、取りに来ただけですから。」

切なげな唯の表情を見つける。
唯の目に惺一朗は映っていない。
逃げるように出ていく惺一朗。


◎同・廊下
足早に教室を出てきた惺一朗。
ゆっくり速度を落とす。
教室からは堀内と日向の楽しげな会話。時々唯の声。
足を止めて、泣きそうな顔で教室を振り返る。グッと拳を握りしめると、走り出して行く。


◎同・運動場
部活中の美咲。
校舎から走って出てくる惺一朗を見つける。気になって、追いかける。

美咲「宮地!」

足を止める惺一朗。

美咲「(追いついて)どうしたの?」
惺一朗「何でもない。」
美咲「だって・・・」

惺一朗、いつの間にか泣いていることに気づく。

美咲「・・・来てるんでしょ?あの人。」
惺一朗「!」
美咲「(腕を掴んで)ねぇ、誰なの?あの人宮地の何?」
惺一朗「・・・俺にもわかんないよ!」

振りほどいて、走っていってしまう惺一朗。
振りほどかれた手を握る美咲、追いかけられない。


◎歩道
ただ、一生懸命走る惺一朗。
涙が零れないように上を向いて疾走する。
空にはうっすらと細い月。


◎学校・教室
一人佇む唯、窓を覗くとうっすら月。
コツンと頭を着く。
ポケットの辺りに手をやると何かに当たる。取り出すと飴。
見つめて、ギュッと握りしめると涙が溢れ出す。
声を殺して泣く唯。


◎学校・廊下(翌日)
惺一朗が歩いていると堀内がやってくる。

堀内「宮地君。」

立ち止まる二人。

堀内「この前言ってた卒業生、彼女よ。ほら昨日教室にいた。懐かしかったわぁ。」
惺一朗「あのコンクールの・・・」
堀内「そうそう、声出なくなっちゃったのよね!見てられないくらい落ち込んでたのよ。」
惺一朗「でも励ましてくれた人がいたって・・・」
堀内「そうなのよ。担任の先生が毎日励まして側にいてあげてね。」
惺一朗「担任・・・その人ってもしかして・・・」
堀内「あら、そういえば宮地君も同じね。日向先生。」

愕然とする惺一朗。


◎同・教室
国語の授業。
『わが袖は潮干に見えぬ沖の石の人こそ知らね乾く間もなし』

日向「はい、これの意味調べてきたやつ。」
灰原「はい。」
日向「灰原。」
灰原「(立ち上がって)私の袖は、引き潮の時も見えない沖の石のように、あなたは知らないだろうが恋の涙に乾く間もないことだ。」
日向「つまり?」
灰原「え?えーっと・・・」
日向「参考書の意味をそのまま写すだけじゃ駄目だろ。理解しなきゃ。隣り、宮地。わかるか?」
惺一朗「・・・(ゆっくり立って)好きで好きでしょうがない。あんたを思って、涙を流すくらいに愛している。・・・あんたは、知らないだろうけど。」

挑戦的な目で日向を見る惺一朗。


◎同・三年職員室
日向と向かい合っている惺一朗。
部屋には二人しかいない。

日向「第一志望校は西高だったな。今の成績だと少し厳しいから、頑張らないとな。でもまぁギリギリ合格圏内だし、宮地なら何とかなるだろ。」

ずっとムスっとしている惺一朗。

日向「どうした?」
惺一朗「・・・」
日向「そう難しい顔するな。大丈夫だよ。(飴を取り出す)糖分摂るとリラックスすっ!」


惺一朗、日向の胸ぐらを掴む。
驚く日向。

惺一朗「あんなに笑う人が・・・泣いたんだ!泣いてたんだ!あんたを・・・」
日向「・・・(苦笑)そうか。」

惺一朗、カッとなって殴ろうとする。

日向「俺には自分や誰かを傷つける勇気はなかったんだ。」
惺一朗「・・・」
日向「どうしようもないことも、あるんだよ。」
惺一朗「え・・・それって・・・」

鈴本が入ってくる。

鈴本「日向先生、D組のテストなんですけど・・・!何やってんだ!」

日向の襟から、離される惺一朗の力無い手。進路指導室の外、少しざわつく。様子を見ていた美咲。


◎公園(夕方)
芝生に寝転んでいる唯。
フッと影が覆う。見ると美咲。

美咲「初めまして。」
唯「(起きあがって)・・・なに?」
美咲「もう宮地君に会わないで下さい。」

すぐに察する唯。

唯「(体を起こして)あなた、名前は?」
美咲「・・・木村美咲です。」
唯「(笑う)心配しなくてもいいよ。」

唯、美咲に飴を渡す。
美咲、子供扱いされたと思いムッとする。

美咲「何ですか?」
唯「私ね─」
美咲「―え。」


◎商店街(夜)
唯と初めて会った場所に、うずくまっている惺一朗。誰かが隣りに座る。
そっと見ると、微笑む唯が。

唯「風邪引くよ、受験生。」
惺一朗「まだよくわからないんだ。俺、自分じゃないみたいで。頭じゃ理解できない。」
唯「・・・ん。」
惺一朗「やっぱり月は太陽に照らされてるんだ。太陽がいるから、月は輝けるんだ。どんなに側にいても、地球は月に何もしてやれない。」
唯「・・・ん。」
惺一朗「俺・・・俺ただ唯さんの笑ってる顔が見たいだけなのに・・・何も・・・」
唯「・・・ねぇ、惺一朗。」
惺一朗「(顔を上げる)」
唯「ありがとう。」

惺一朗、また涙を流して、うずくまって、声を殺して。
唯、惺一朗の頭を撫でながら、空を見上げる。
消えかかっている月。


◎学校・外(翌日)
休日の学校。
運動部の声だけ聞こえる。
校舎を見上げる唯、手には荷物。
目を瞑って大きく深呼吸をする。
目を開けて晴れやかに笑うと、校舎を背にして歩き出す。


◎同・三年職員室
日向のデスク。
惺一朗、頭を下げる。

惺一朗「昨日は、すみませんでした。」
日向「いいや。びっくりはしたけど。」
惺一朗「・・・」

惺一朗、机の上を見る。
しかし、飴の瓶はもうない。
代わりに家族写真が飾られている。
惺一朗の様子を見て。

日向「『わが袖は潮干に見えぬ沖の石の人こそ知らね乾く間もなし』・・・いや(家族写真を見ながら)もう・・・幸せなんだ。」
惺一朗「・・・」

美咲が入ってくる。

美咲「失礼します・・・宮地?いいの、こんなトコで・・・」
惺一朗「え?」
美咲「あの人、今日東京戻るって・・・」
日向「デビュー前にこっち帰ってきてたんだ。知らなかったのか?」

愕然とする惺一朗。
パンっと背中を叩く日向、頷く。
駆け出す惺一朗。

美咲「待って!」

振り返る惺一朗
惺一朗に自転車の鍵を投げる。

美咲「一番右端に止めてる。」
惺一朗「(笑って)ありがとう、木村!」

駆けだしていく惺一朗。
見送る美咲と日向。


◎歩道
猛スピードで自転車を漕ぐ惺一朗。
今までの唯との思い出が走馬燈の様に頭を流れる。


◎駅
人混みをかき分けて探す惺一朗。
東京行きの新幹線ホームへ駆け上がる。階段を上るとちょうど新幹線が入ってくる。
駆けだして唯を探す。
向こうの方に、列に並ぶ唯を見つける。
近くまで行くとなぜか、足が止まってしまう惺一朗。
唯、足下の荷物を取ると、惺一朗に気づく。
新幹線のドアが開き、乗客が乗り込んでいく。
遠くから向かい合う惺一朗と唯。
流れる発車のアナウンス。
一歩、足を踏み出す惺一朗。
唯、ポケットから何かを取り出すと、思い切り惺一朗に投げる。
受け取る惺一朗、見ると飴。
発車のベル。
バッと顔を上げる。
唯は笑顔で手を振って、新幹線へ。
ただ見ているしかできない惺一朗。
ゆっくりと動き出す新幹線。
見送る背中。
遠ざかる新幹線。
手の中の飴。


◎新幹線・車内
窓の外を眺めながら、飴玉を弄ぶ唯。
少し苦笑い。


◎駅
ホーム。もう惺一朗はいない。
ただ線路が伸びているだけ。


◎山沿い道路(夕方)
必死で自転車を漕いで上る惺一朗。


◎同(夜)
日も暮れてだいぶ暗くなった道。
自転車を押して上がってくる惺一朗。息を切らして、一歩ずつ上っていく。小山の広場に着いて、空を見上げる。
瞬く無数の星々。
しかし、月はもうない。
自転車を止めて、ポケットから飴玉を取り出すと空に向かって投げようとする。
だが、投げられず。
柵に拳を叩きつけて、肩を振るわせる。
泣きそうだが必死に堪える。
涙と戦う、小さな背中。


◎同(数年後・昼)
青々とした空。
停めている車からラジオ。
空を眺める大きな背中。
眩しそうに目を細める横顔、大人になった惺一朗。

DJ「・・・でした。じゃ、メールいきましょう。ラジオネーム『ハッカ』さんから。『月さんこんにちは。最近気になる人がいます。同じクラスの友達なんだけど、いつもめで追ったりして探したりして。これってやっぱり好きなのかなぁ。』んー、私はハッカさんじゃないからわかりません(笑う)でも例えばそれが恋だとして」

ポケットから何かを取り出す惺一朗。もう形を留めていないあの飴。

DJ「会いたいとか側にいたいとかってとても素直な気持ちの表れだよね。好きってそういう単純なもので・・・そう、ただ愛おしいだけ。」

飴を懐かしそうに見つめて微笑む惺一朗。

恋人「惺一朗。」

優しい顔で振り返る惺一朗。
飴を柵の手すりに置き去りにして、行く。

DJ「リクエストは、月城唯で『ただ、』」

唯の歌。
変わってしまった飴。
変わらない空。

おわり

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