好きなドレスの色を着て 恋愛

独身OL・綿貫芽生は婚活に励んでいるが成果はない。ある日の街コンの帰り道に見つけたバーで、芽生はマスターの大崎晃と出会う。酒を飲むうち芽生は7年前の元彼が忘れられないことを打ち明ける。あれが最後の恋だった、もう誰にもときめかない。だけど両親に孫の顔を見せてやりたいと泣く芽生は……。
杉森窓 96 0 0 06/12
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第一稿

『好きなドレスの色を着て』

≪登場人物≫
綿貫芽生(28)OL・独身
    (21・20・19)大学時代
大崎晃(34)Bar OLIFANTマスター
結城沙織(2 ...続きを読む
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『好きなドレスの色を着て』

≪登場人物≫
綿貫芽生(28)OL・独身
    (21・20・19)大学時代
大崎晃(34)Bar OLIFANTマスター
結城沙織(29)芽生の友人・同僚
原卓也(28)芽生の元恋人
   (21・20・19)大学時代
里美健太(34)大崎の友人

お見合いパーティースタッフ
女子社員1・2
クリーニング店店員
Bar OLIFANT客たち
女性ジムインストラクター
動物園女性客
アナウンサー
男性美容師
ガソリンスタンド店員

芽生の女友達1~4

≪本文≫
〇ホテル・お見合いパーティー会場(夜)
   豪華なホテルの一室。男女各20名程が席につき談笑している。
   着席する綿貫芽生(28)の前に、胸元に苗字が書かれた名札をつけた男性たちが回転寿司
   のように次々と回ってくる。
   男性1はイケメンだが服がダサく、
男性1「それで、僕の趣味は……」
芽生M「顔は良いけど服がダサい」
   男性2は誠実そうな雰囲気で、
男性2「僕、こういう場は初めてなんですが、結構緊張しますね」
芽生M「爽やか。ありかも」
   男性3は顔の汗をハンカチで拭き、
男性3「あっ……えっと、うん。あの、そうだな。えっと」
芽生M「喋り下手」
   チャラい風貌の男性4は、
男性4「あのさ、この後、二人で仕切り直ししない? ぶっちゃけ疲れたっしょ」
   窓の外にあるラブホテルの看板をちらりと見る男性4。
芽生M「……論外」
   × × ×
   げんなりした表情の芽生。
   パーティーのスタッフが腕時計を確認し、マイクを手に取る。
スタッフ「はい! 以上でこの場に来ている全員の方とお話していただきました。これより連絡
 先カードを回収し、集計出来た人からお渡しさせていただきます」
   芽生、スタッフにカードを渡す。伸びをし、息を吐く芽生。
   と、隣の席に座る結城沙織(29)からのアイコンタクトに気付く芽生。
   首を横に振って苦笑する芽生と、対照的に嬉しそうにニヤニヤと笑う沙織。
   パーティーのスタッフが芽生の前にそっと封筒を差し出す。
スタッフ「お受け取りください」
芽生「あ、どうも」
   芽生が封筒を開く。中身は空。肩を落とす芽生。
   と、横から沙織の声。
沙織の声「いいんですか!?」
   見ると、連絡先カードを持ち『田中』と言う名札をつけた男性と照れくさそうに会釈する
   沙織の姿。
   愕然とし、自分の空の封筒をもう一度見る芽生、ため息をつく。

〇繁華街(夜)
   人通りのまばらな商店街。
   ほろ酔いで陽気な芽生と沙織、肩を組んで歩く。
芽生「実質三択だったよね~今日の街コン。あんだけ人いてさ」
沙織「三人もいた? 一択じゃなかった?」
芽生「何~? もう惚気~? 田中さん捕まえたからっても~」
沙織「違います~」
   芽生、周りに向かって、
芽生「皆さん聞いてくださいこの人が~」
沙織「まぁまぁそう拗ねないで。ほら、もう一軒行こ!」
芽生「行く~! 今日は飲む!」
沙織「いいぞ~! え、どこ行く?」
芽生「ん~なんか、バー的な……あ、ここいいじゃんここ!」
   芽生が『Bar OLIFANT』と書かれた看板を指差す。
沙織「いいじゃんいいじゃんここにしよ」
芽生「決まり~!」
   芽生が店のドアを開ける。カランコロンと呼び鈴が鳴る。

〇Bar OLIFANT 店内(夜)
   店内は客がまばらで照明は薄暗い。
   カウンター内で酒を作っていた、大崎晃(34)が芽生と沙織に気付く。
大崎「いらっしゃい」
芽生「二名で~」
大崎「はい。……じゃあこっち、カウンターの奥座って」
   案内された席に座る芽生と沙織。
   机に置かれた象の人形が目に入り、つつこうとする芽生。
   その手の甲を大崎が叩く。
大崎「こら」
芽生「いたっ」
大崎「痛くねぇだろ。ん、メニュー。もうラストオーダー過ぎてっから飲みもんだけね」
   芽生、手の甲を擦りながら唇を尖らせ、
芽生「……は~い」
   沙織、芽生と大崎のやりとりを見て笑い、
沙織「ふふっ。何してんのもう」
   × × ×
   シェイカーを振る大崎の手付き。
   大崎、酒を出し、
大崎「はい、どうぞ」
芽生「ありがと~ございます」
   芽生、受け取り、酒を飲む。
芽生「……ん!」
   目を輝かせる芽生。グラスを指差し、
芽生「マスター、これ美味しい! これもう一杯!」
沙織「え~いいな、私も次それがいい~」
   じたばたする沙織。
大崎「来た時から思ってたけど随分酔ってんな、お二人さん」
芽生「……それ聞いちゃいます?」
里美「え、聞きたい聞きたい~!」
大崎「お前はまた客にちょっかい出す」
   芽生たちと離れた席に座っていた里美健太(34)が席を移動してくる。
   不貞腐れた顔の芽生、お見合いパーティーで受け取った封筒を鞄から取り出
   し、開けて里美に見せる。
芽生「見てくださいこれ! 空っぽ!」
   そう言って机に突っ伏す芽生。その芽生の背中を沙織が擦る。
沙織「今日ね、街コンに行ってたんです、私たち。だけど全然いい人いなくって」
芽生「さおちゃんはいたじゃん~!」
沙織「はいはいごめんって。……私は、いいなって思った人から連絡先もらえたんです
 けど、芽生は……」
大崎「参加費払い損だったってわけか」
沙織「……まぁ、そうですね」
里美「え~可哀想。芽生ちゃん、俺は芽生ちゃんの連絡先聞きたいよ!」
   芽生の肩を叩く里美。
大崎「ナンパなら外でやれこのチャラ男」
   大崎、芽生を指差し、
大崎「お前も! 寝るなら帰れ!」
   芽生、目を閉じたまま、
芽生「寝てません~」
大崎「目閉じてますけど~」
芽生「ねぇ~そんなことよりどう思います? 結婚出来るのかなぁ、私……」
沙織「始まった。こうなると長いですよ」
大崎「おいマジかよ。なんとかしろよ友達」
   へらりと笑う沙織。
芽生「聞いてくださいよマスター! 私、もう7年も彼氏いないんですよ!? 7年って
 ……小学生も卒業しちゃってますよ!」
   喚く芽生の背中を撫でながら腕時計を見る沙織。
沙織「げっ。そろそろ出なきゃ終電……」
大崎「おい。こいつも連れて帰れ」
沙織「私と芽生、家逆方向なんですよ~」
大崎「は!?」
   沙織、帰り支度を済ませ、
沙織「それじゃあ皆さん、さようなら。また来ます!」
   と、店を出て行く。その沙織に手を振る里美。
   大崎は慌てて、
大崎「おいこら友達! お前!」
里美「まぁま晃。女の子が泣いてるんだから話くらい聞いてあげようよ」
   芽生、大崎の服の袖を掴み、
芽生「そうですよ~」
大崎「(諦めたように)……ったく」
   × × ×
   時計は夜中の2時を指している。
   暗い顔で話す酔っ払いの芽生と、芽生の話を聞く大崎と里美。
芽生「私、もう誰かを好きになるのなんて無理なんですかね……」
里美「そんなことないよ~大丈夫大丈夫」
芽生「全然大丈夫じゃないです……。どれだけ街コン行ったって駄目、運よくデートするとこま
 でいけても次に続かない、楽しくない、すぐ帰りたい、好きになれない。もう駄目なんで 
 す……」
里美「あ~ほら、職場とか! いないの? 独身の良い人!」
芽生「おじさんしかいません……」
里美「あ……はい。すみません……」
芽生「私だって、普通に出会って普通に好きになって普通に付き合いたいんですよ。でも出来な
 い……」
大崎「なら転職すりゃいいじゃん。職場変えようぜ」
芽生「私が今の職場入るのどんだけ苦労したと思ってんですか~!」
大崎「はぁうぜぇ」
   ため息を吐く大崎、時計を見て、
大崎「……うわ、閉店時間過ぎてんじゃん。ほら、今日の所は帰れ。送ってってやるから。おい
 ケン、運べ」
   カウンターから出て腰のエプロンを取り、上着を羽織る大崎。
里美「うーす」
   椅子から降り、芽生をおんぶする里美。
芽生「ていうか私の恋なんてもうどうでもいんですよこの際~どうせ出来ないし~。でもぉ」
大崎「でも? なに」
芽生「(大声で)親に孫の顔だけは見せてあげたいんです~!!」
   里美の背中に顔をぶつけるようにして黙る芽生。
里美「め、芽生ちゃん? お~い芽生ちゃん?」
大崎「……ケン、諦めろ。こいつ」
   目を閉じ、寝息を立てる芽生。
大崎「寝てる」
   里美、げ、という顔。

〇(回想)居酒屋・店内(7年前・夜)
   活気のある店内。
   ビールを持って向かい合って座る、芽生(21)と原卓也(21)。
   笑いかける芽生に対し、原の表情はどこか不安げ。
芽生「テストお疲れ様~!」
原「お疲れ」
   乾杯をする芽生と原。芽生はぐびぐびと飲むが原は控えめ。
芽生「あ~テスト明けのビール最高!」
原「芽生も大分ビール慣れてきたね」
芽生「ふふ。卓也の影響かな?」
   芽生の言葉に表情を曇らせる原。
芽生「あ、そうだ。動物園、いつにする?」
原「え、動物園?」
芽生「うん。テスト終わったら行こうって前言ってたよね」
原「……それって、さ、友達として、じゃダメ……?」
芽生「え?」
   ジョッキを持ったまま固まる芽生。
原「友達に戻れないかな、俺たち」
芽生「え、っと」
原「芽生のこと、嫌いになったわけじゃないんだ。でもずっと……考えてて」
芽生「ほ、他に好きな人でも出来た?」
   原、首を横に振り、
原「まだ。でもそのうち、出来ちゃうと思う」
芽生「どういうこと……?」
原「俺、芽生のこと、好きだけど……。もう、そういう……異性としての好きじゃなくなっ
 ちゃったんだ。……家族みたいって、言うのかな」
芽生「……それ、何かいけないの? だって、そのうち、もし、け、結婚とかしたら、それって
 普通のことなんじゃないの……?」
原「そうだね。俺もそう思うよ。結婚するなら、芽生だなって。もし俺が今30歳とかだったらプ
 ロポーズしたかもしれない。でも、俺たちは、まだ21だ……」
   映像がぼやけていく。
   去って行く原の姿に、手を伸ばす芽生。

〇芽生の部屋(朝)
   ピンクを基調としたワンルームの部屋。
   机の上は空のペットボトルやカップラーメンの容器、床には雑誌が散らばっている。
   芽生は男物のジャケットを被せられた状態でベッドで寝ている。
芽生「待って、行かないで! やだ……!」
   芽生が空に手を伸ばしたと同時に、目覚まし時計が鳴る。
芽生「たくや……! あれ?」
   ぼやけた視界がだんだんクリアになり、自分の部屋だと理解する芽生。
   芽生、急いで上半身を起こし、
芽生「なんで私……! っ、頭いた~……」
   頭をおさえる芽生。と、被せられていたジャケットがベッドから落ちる。
芽生「……え? 誰の……?」
   ジャケットを拾い首を傾げる芽生。
   ふと、スマホが鳴る。
芽生「うわっ!」
   画面には『さおちゃん』の文字。
   芽生は通話ボタンをタップする。
芽生「……もしもし?」
沙織の声「あ、もしもし芽生? あんた大丈夫だった? あの後」
芽生「あの後……って?」
沙織の声「覚えてない? 昨日初めて行ったバーのマスターに絡んで」
芽生「バー? マスター? ……あっ!」
   × × ×(フラッシュ)
   芽生をおんぶする里美と、ジャケット
   を羽織り店を出る大崎の姿。
   × × ×
   芽生、ジャケットを指差し、
芽生「あ~!」
沙織の声「ちょっと芽生? 聞いてる?」
芽生「ご、ごめん。聞いてます……えっと」
沙織の声「(呆れたように)もう。だから、あの調子だと迷惑かけてるだろうから、早めに謝り
 に行った方がいいんじゃない? って言ってたの。あのマスター怖そうだったし」
芽生「そ、そだね……。あ、ねぇさおちゃん」
沙織の声「ん?」
芽生「私、昨日なんの話を……」
沙織の声「あ~いつものやつ。恋を何年休んでますか~ってね」
芽生「ああ……」
   芽生、しばらく項垂れた後ジャケットを目の前で広げ、
芽生「クリーニング、出すか……」

〇会社・給湯室
   沙織と女子社員2名が座ってコーヒーを飲んでいる。
女子社員1「あんたたちもよく行くよね~。これで何回目?」
沙織「ん~月1回は行くようになってもう3年だから……何回だろ」
女子社員2「げ。芽生、そんだけ行っててダメなの?」
沙織「芽生は一途なんだよ。よく言うでしょ? 男は名前を付けて保存、女は上書き保存って」
   沙織の言葉に頷く女子社員1、2。
沙織「あれって嘘だよ。少なくとも、芽生にとっては……」
   沙織、遠くを見つめお菓子を一口齧る。

〇クリーニング店・店内(夜)
   店員からジャケットを受け取る芽生。
   片方の手には菓子折り。
店員「こちらになります」
芽生「ありがとうございました、お世話になりました~」
   ジャケットと菓子折りを持ち、店を出る芽生。

〇同・店先(夜)
   店を出ると、芽生に頭痛が襲う。
芽生「う……頭いた……」
   その場にしゃがみ込む芽生。
芽生「駄目だ……さおちゃんに相手が出来たのが寂しくて飲み過ぎた……」
芽生N「思えば、卓也との始まりだって」

〇(回想)大学・食堂(9年前)
   向かい合わせに座る原(19)と芽生(19)。
   ラーメンを食べ終わった原と、ヨーグルトを食べている芽生。
   芽生、ため息を吐き、
芽生「はぁ……ミカちゃんにも彼氏出来ちゃった」
原「これであの4人の中で彼氏いないの、綿貫さんだけ?」
芽生「……そうです」
原「でも俺、綿貫さんに彼氏出来たらいやだなぁ」
芽生「へ」
   顔を上げる芽生。原は照れくさそうに笑い、
原「俺とか、どうですか」

〇Bar OLIFANT・店前(夜)
   看板の前に立つ芽生。
芽生N「もしも私が、友達の幸せを羨ましがらずにいられる人間だったら、卓也とのことも、今
 日みたいな失敗も、なかったんだろうか」
芽生「全然成長出来てないじゃん、私」
   大きくため息を吐きながら店のドアを開ける芽生。
   呼び鈴が鳴る。

〇同・店内(夜)
   カウンターの隅に里美が座り、料理をする大崎と談笑している。
大崎「はい、いらっしゃいま……げ」
里美「あ、芽生ちゃ~ん!」
芽生「あの、昨日は本当に申し訳ございませんでした!」
   深く頭を下げる芽生。
   面食らって瞬きする大崎と里美。
芽生「家まで送っていただいて……本当にありがとうございました、もう金輪際このようなこと
 がないよう善処します。こちら、お詫びの品です。地元の名産なんですけど美味しいんで是 
 非……」
大崎「お、おお」
   芽生から山梨銘菓とジャケットを受けとる大崎。
里美「なに? 晃、ジャケットとか掛けてあげちゃった系? 俺が車で待ってる間にやらし~」
大崎「うるせぇな、こいつがなかなかジャケット離さねぇからこっちは仕方なくだな」
芽生「すみません……すみません……」
   芽生、申し訳なさそうに何度も頭を下げる。
大崎「なんだ、えらく凹んでんな」
芽生「……自分の駄目さが辛くて……」
   今にも泣き出しそうな芽生。
大崎「おいおいほんとに大丈夫か?」
   不意に芽生の腹がぐぅと鳴る。
里美「お、いい音鳴ったねぇ。あ、芽生ちゃんも食ってけば? 晃の料理、美味いよ!」
芽生「え……」
   芽生、大崎を見る。
   大崎、ぶっきらぼうに顎で前の席を指し、
大崎「……座れば」
里美「素直じゃねぇだろぉ、こいつ」
大崎「うるせ」
   芽生、大崎と里美を交互に見て
芽生「……じゃあ、いただきます」
   × × ×
   大崎がパスタをテーブルに置く。パスタからは湯気。
   芽生の腹がまた鳴り、芽生は腹をおさえる。それを見て微笑む里美。
芽生「美味しそう……。フードメニューもあったんですね」
大崎「ああ。ほんとは昨日もまだ頼めたけどめんどいからメニュー隠した」
芽生「ひどっ!」
大崎「なんだよいらねぇのか」
芽生「いります! いただきます!」
   パスタにがっつく芽生。
里美「うんうん、仲良しだねぇ」
   大崎、里美を睨み、
大崎「あ?」
芽生「ん! 美味しい~!」
里美「ね? 美味いっしょ」
芽生「はい! 天才です……!」
大崎「んな大袈裟な……」
芽生「私こんな栄養のありそうなもの食べる
の久しぶり……」
大崎「あ~まぁあの部屋だもんな」
芽生「見たんですか!」
大崎「そりゃ見るだろ。誰が運んでやったと
思ってんだ」
里美「え~晃ずるい! 俺も芽生ちゃんの部
屋見たかった!」
大崎「うるせぇチャラ男!」
芽生「ごちそうさまでした~!」
   パスタを完食した芽生、ナプキンで口を拭う。
大崎「早ぇな」
芽生「早食いの家系で……んっ」
   芽生が喉を詰まらせ、大崎から水が渡される。
芽生「あ、ありがとうございます……」
   水を飲む芽生を眺める里美が、
里美「元気出た?」
芽生「……元気、なかったですかね」
里美「なかったね~。晃、おかわり」
大崎「ん」
   大崎、里美から空のグラスを受け取り、酒を継ぎ足す。
芽生「……マスターとケンさんは、彼女いますか」
大崎「お前ら女ってそういう話ほんと好きな。飽きねぇの」
芽生「飽きません。私にとっては大事な問題なんで。で、彼女いますか?」
   里美、手を挙げ
里美「はいはい! 俺はいます!」
   芽生、里美を見て頷く。次に、黙る大崎をじっと見つめる。
大崎「……いません」
芽生「いつから?」
大崎「……3年くらい?」
芽生「その、3年前付き合ってた彼女とはどうやって出会ったんですか」
大崎「覚えてねぇ」
芽生「そんなわけないです。学生時代からの付き合いでしたか? それとも社会人になってか
 ら? 友人のご紹介? 合コン?」
   里美、手を挙げ、
里美「俺は~大学からの彼女と遠恋中です!」
   里美に頷く芽生。次に大崎を見て、
芽生「マスターは?」
大崎「……社会人になってから。初めて入った会社」
   芽生、里美を指差し、
芽生「学生恋愛」
   芽生、次に大崎を指差し、
芽生「社内恋愛。……どっちも参考にならない……」
   と、頭を抱える芽生。
大崎「てめぇふざけんなよ人が言いたくもないことを仕方なくだな」
里美「まぁまぁ晃」
芽生「友達の紹介とか合コンで出会ったって言うんならコツが聞けるかと思ったのに」
里美「コツ?」
芽生「そういう場で出会った人を好きなるコツです」
大崎「お前なぁ」
芽生「なりたいんです、私。そういうので好きに」
里美「あ、じゃあさ。お見合いとかは?」
芽生「あ~それもありですね」
里美「親父とかお袋の世代は結構普通だよね」
芽生「いいなぁ~。この人と結婚しなさいって親に決めてもらった方が楽な気もしてきた……。
 ね、象さん」
   机上の象の人形に話しかける芽生。
大崎「大分拗らせてんな」
芽生「7年も恋愛してないとね……。あ~あれが私の最後の恋だったんですよ~もう無理だ~」
   机に突っ伏す芽生。
   大崎、グラスを拭きながら黙る。
   × × ×(大崎の回想)
   芽生を背負い、車から降りる大崎。
   里美は助手席で寝ている。
大崎「おい。着いたぞ、おい」
   芽生、寝言で
芽生「卓也……。やだ……行かないで……」
   と、大崎のジャケットを掴む芽生。
   切ない芽生の様子を見つめる大崎。
   × × ×
   大崎が拭き終わったグラスを置き、
大崎「お前は恋愛してなくなんかねぇよ」
里美「あっれ~? どうした晃」
大崎「お前が次にいけない理由、教えてやろうか」
芽生「は、はい」
大崎「次の恋次の恋言いながら、する気がないからだ」
   大崎が真っ直ぐ芽生を見つめる。
   里美は冷やかすように口笛を吹く。
芽生「そ、そんなことないです。現に街コンだって何回も……」
大崎「じゃあそこで出会った奴らはどこが悪かった? 何回か会ってれば自然と付き合う、付き
 合わないの話になっただろう? そう言う前提で出会ってるんだから」
芽生「……」
大崎「お前はたった一回会っただけで駄目だ好きになれないと切り捨てる。もう少し踏み込ん
 で、付き合ってさえみればそいつを好きになれてたかもしれないのに」
芽生「そ、れは」
大崎「お前はまだ好きなんだよ、7年前のそいつが。次にいけないんじゃない。もう思ってる人
 がいるから、次もクソもねぇんだよ」
芽生「う……」
   涙ぐむ芽生。
里美「あ」
   芽生、机に突っ伏して本格的に泣き始める。
里美、大崎を指差し、
里美「泣かせた~!」
大崎「ちが! 俺は思ったことをだな!」
芽生「そんなこと私が一番わかってるんですよ~! でもどうにもならないじゃないですか
 ~!」
大崎「悪かったって。俺が悪かった。な?」
   宥めようとする大崎。しかし、芽生はいっこうに泣き止まない。

〇芽生のマンション前・大崎の車内(夜)
   運転席に座る大崎。助手席では芽生が寝ている。
大崎「結局こうなんのか」
   大崎、ハザードランプを押し、ため息を吐く。
   大崎、芽生の肩を揺すり、
大崎「おい、着いたぞ。おい」
   芽生、寝言で
芽生「ん~……もう食べられない……」
大崎「いつまで食ってんだ!」
   大崎、芽生の頬をつまむ。
芽生「いひゃ! いひゃい~!」
   芽生、悶えながら目を覚ます。
大崎「今日は運ばねぇからな」
芽生「あれ……マスター。え、あれ!? 私、また!?」
大崎「二度と迷惑かけないんじゃなかったのか」
芽生「(気まずそうに)すみません……」
大崎「つーかお前途中から完全に謝罪で来たこと忘れてたよな」
芽生「え……う、はい、すみません……」
   芽生の腹が鳴る。
芽生「あ……泣いたらまたお腹空きました(乾いた笑いで)ははは」
   大崎、呆れ顔で、
大崎「この時間からまた食う気かお前」
芽生「……さすがにやめときます」
大崎「そうしとけ」
芽生「……あ、あのマスター!」
大崎「あ?」
芽生「今日は、ありがとうございました。ちょっと、スッキリしました」
大崎「……そうか」
芽生「あ、でも私はいいけどマスターは怖かったですよね、すみません……」
大崎「何が」
芽生「何が、って……フラれてちょっとの間引きずってるんならまだしもこんな何年もうじうじ
 元カレのこと言ってる女……怖いじゃないですか。キモいですよね。すみませんこんな奴の相
 手させて」
大崎「別に。キモいとも怖いとも思ってねぇけど」
芽生「え?」
大崎「ふらふら男渡り歩くヤツよりよっぽどいいんじゃねぇの。そんな何年も一人のヤツのこと
 想い続けられるってすげぇことだよ」
   芽生、瞳を潤ませ感動したように
芽生「マスター……」
   しかし芽生はすぐ首を横に振り、
芽生「で、でも好きでいたって望みないし」
大崎「本人に聞いたのか」
芽生「いやそういうわけじゃ……」
大崎「ならわかんねぇだろ。もし今そいつに相手が仮にいたとして、明日別れるかもしれない。
 今突然、何かの拍子でお前を思い出すかもしれない。一度は惚れた女なんだから、望みがない
 わけねぇよ」
芽生「……マスターって、結構ポジティブですね」
大崎「……」
   大崎、芽生にデコピンをする。
芽生「いたっ」
大崎「とりあえず、うじうじ引きずってていいから自分のこと責めんのやめろ」
芽生「……善処します」
   大崎、乱暴に芽生の頭を撫で、
大崎「よし。じゃあ今日はちゃんと自分で帰れよ」
   芽生の髪がぐしゃぐしゃになる。
芽生「……はい」
大崎「はは、ぐしゃぐしゃ」
芽生「マスターがしたんです!」
大崎「かっこいいだろ。無造作ヘアー」
芽生「……あの、マスター」
大崎「なんだ」
芽生「また、お店行ってもいいですか」
大崎「……そりゃもちろん。金落としてくれんなら」
芽生「(笑って)……じゃあ、お腹空かせて行きますね。おやすみなさい」
大崎「おう、よく寝ろよ」
   芽生が車から降り、大崎の車が発進する。見送る芽生。

〇(回想)芽生の家(8年前・夜)
   青色で統一されたワンルーム。
   冷蔵庫から2つ、缶チューハイを取り出す原(20)。
   原、芽生にチューハイを渡し、
原「彼女4割、大親友2割、お袋2割、姉ちゃん1割、ペット1割って感じかな」
   芽生(20)、缶チューハイを受け取り、
芽生「何それ」
原「俺の中の芽生の比率?」
芽生「えっ! ひど!」
   原、芽生の頭を撫で
原「嘘だよよしよし」
   と、芽生の隣に座る原。
芽生「嘘じゃないじゃん、ペット扱いじゃん」
原「違うよ。ペットだし、彼女だし、大親友だし、お袋だし、姉ちゃん」
芽生「……私一人で?」
原「そう。すごいっしょ。俺もう芽生なしじゃ生きてけないね」
芽生「……もう、口が上手い」
原「ありがとう」
芽生「褒めてない」
   キスしそうな芽生と原。

〇芽生の部屋(朝)
   キス顔で起きる芽生。
芽生「あ、あれ……。また夢……?」
   辺りを見回す芽生。
   × × ×(フラッシュ)
大崎の声「お前はまだ、好きなんだよ。7年前のそいつが」
   × × ×
   芽生、頷き、
芽生「その通りだ……」

〇会社・給湯室
   お茶を飲む、芽生と沙織。
芽生「ということでさおちゃん! 私決めました!」
沙織「お、おお。……何を?」
芽生「私が今一番したいのは新しい恋。でも出来ない。何故ならそれは元カレが忘れられないか
 ら。……つまり」
   芽生、スマホを取り出し沙織に見せる。
沙織「え……もしかして元カレと連絡取るつもり!?」
   芽生、人差し指を左右に振り、
芽生「のんのん」
   一枚の封筒を取り出す芽生。
芽生「ここに一通の結婚式の招待状があります」
沙織「はい」
芽生「お招きされたのは私の大学時代の友達カップルの結婚式です」
沙織「……ってことは」
芽生「そう。卓也も呼ばれてるかもしれない」
沙織「おお!」
芽生「まずそれを周りの友達から聞いてみたいと思います。恋とは情報収集」
沙織「情報収集……」
芽生「そう。学生の頃を思い出して? あの人素敵だな、彼女いるのかな。部活は? 家はどの
 辺り? どんな友達とつるんでる? そう言うの、情報を集めていったもんでしょう」
   沙織、頷き、
沙織「……そうだったかも」
芽生「お見合いパーティーの自己紹介カード。誰かからの紹介。そういうの、一旦止めにする。
 私は今、卓也のことが好きなんだから」
沙織「……芽生は、元カレくんとどうなりたいの?」
   芽生、微笑み、
芽生「思い出させてもらおうと思って。恋ってどんなだったか」

〇Bar OLIFANT 店内(夜)
   画面が黒いままの芽生のスマホが机に置かれている。
   それを見守るように置かれている象の人形。
沙織「で、返事は来たの?」
芽生「まだ」
大崎「お前らここをたまり場にすんな」
   大崎が芽生と沙織にげんこつする。
   痛がる芽生と沙織。
芽生「も~いいじゃないですか。ほら、2人来たらお金も2倍。儲かりますよ?」
   大崎、諦め顔で、
大崎「……30 分に1回は注文しろよ」
芽生「は~い」
   客から注文が入り、大崎が向かう。
芽生「ねぇねぇさおちゃん。この店すっごく料理美味しいんだよ。マスターさ、私たちが初めて
 来た時料理頼まれたらうざいからって隠して……いたっ」
   振り向くと、拳を見せる大崎。
大崎「おいこら、他の客いんだぞ」
芽生「はは……すみませ~ん」
   大崎、カウンターに戻る。
沙織「……芽生。随分仲良くなったね、マスターと」
芽生「え、そうかな」
沙織「そうだよ。元気になったの、マスターのおかげだったりして」
芽生「……。どうかなっ」
   芽生、照れ隠しの表情。微笑む沙織。
沙織「それにしても来ないね、返事」
芽生「ね」
   スマホを見つめる二人。そこへ大崎がピザを運んでくる。
大崎「はいお待ちどう」
芽生「うわ!」
大崎「なんだようるせぇな」
芽生「びっくりしたじゃないですか! おどかさないでください!」
   と、スマホが振動する。
   画面に『新着メッセージがあります』の文字。
沙織「あ……。芽生! 来た! 返事!」
芽生「え! うわっ! えっ!」
   指が震えてなかなかスマホが掴めない芽生。
   × × ×
   頭を抱える芽生。
芽生「あ~どうしよどうしよどうしよ」
大崎「お客さん。追加のご注文は」
芽生「困った……まさかほんとに来るなんて……。どうしよとりあえず服? ダイエット? 髪
 伸ばす?」
大崎「おら客! 追加注文は!」
沙織「あ、じゃあ水で」
大崎「かしこまりました~じゃねぇんだよ金額のあるもん頼め金額あるもんをよ!」
芽生「ごめんなさいマスター、もうお腹いっぱいです」
大崎「じゃあ飲め」
芽生「お酒ももういらない……」
大崎「だったら帰れよ!」
芽生「もう~知ってるでしょ? うちとさおちゃん家逆方向なんです! この店ちょうどいい場
 所にあるの!」
大崎「知るか!」
沙織「で、どうする? もう結婚式まであんまり時間なくない?」
芽生「だよね。と、とりあえずダイエットかな。私大学時代より太っちゃったし……」
大崎「んなもん今からやったって大差ねぇだろ」
芽生「大差あるんです! 心持ちが違うんです!」
大崎「へぇへぇ」
沙織「それにしても7年ぶりの再会か~。なんか私まで緊張してきちゃった」
   芽生、沙織の手を握り瞳を潤ませ、
芽生「さおちゃん……」
大崎「まじで帰って欲しいんですけど~」
芽生「今度服一緒に選んでね!」
沙織「もちろん!」
芽生「マスターも! 服買ったら見せるから選んでください! 男の人の視点、大事!」
大崎「別にどれでもいいんですけど」
芽生「よくないんです! あ~髪今から伸びないかな~。卓也、髪長いのが好きって言ってたん
 だよね」
大崎「一ヶ月でそんな伸びねぇよ。諦めろ」
沙織「あ、私髪が伸びやすくなるシャンプーって言うの見かけたよ!」
芽生「え、それ買う」
   芽生、スマホを取り出し、
芽生「今から注文するね。商品名何?」
沙織「えぇっとね……」
大崎「……いいから帰れ!」
   大崎が机をドン、と叩く。驚く芽生と沙織。

〇美容室・店内(日替わり)
   つやつやに仕上がった沙織と芽生の髪が鏡に映る。

〇ネイルサロン・店内
   磨かれた爪にうっとりする芽生と沙織。

〇ブティック・店内
   数着のドレスを持って店員に詰め寄る芽生。
芽生「これって男ウケどうですか!」
   苦笑しながら芽生を止めようとする沙織。

〇マッサージ店・店内
   芽生と沙織が並んでうつ伏せに寝転がり、施術を受けている。
沙織「芽生って恋するとこんな感じだったんだね」
   芽生、気持ちよさそうに目を閉じて、
芽生「ん~?」
沙織「今までやさぐれてるとこしか見たことなかったからさ。あの人ダサい、無理。あの人デー
 トしたけど全然楽しくなかった、みたいな」
芽生「……はは」
沙織「でも、本当は乙女だったんだね。こんな必死になっちゃってさ」
芽生「……引いた?」
   沙織、首を横に振り、
沙織「ううん、全然」
芽生「……優しい。さおちゃんで2人目だ」
沙織「2人目?」
芽生「マスターがね、言ってくれたの。ほら、OLIFANTの。こんな何年も元カレ引きずってる私
 を、キモくも怖くもないって。そんな風に誰かを想えるってすごいことだって」
沙織「へ~あのマスターが」
芽生「私ね、街コン行くたび愚痴りながら、そもそも一番悪いのは自分じゃんって、心の中では
 自分に石投げてた」
沙織「……うん」
芽生「でもああやって強い自分になりきらないと、萎んじゃいそうで」
沙織「……私は、気兼ねなく愚痴言い合える芽生も、今の猪みたいな芽生も、どっちも好きだ
 よ」
芽生「さおちゃん……。猪みたいって思って
たんだ……」
沙織「ちょっとね。でも好きだよ」
芽生「う……らぶ……」
   芽生、沙織の手を握り涙ぐむ。
   と、沙織のスマホが鳴る。
   マッサージ師が沙織にスマホを渡す。
   沙織、スマホを見て、
沙織「あ、田中さんからだ」
   芽生、沙織を無言でじろりと睨む。
沙織「ごめんって」
芽生「ううん。私決めたの。友達の幸せを喜べる人間になるって」
沙織「なれてないじゃん」
芽生「……今からなるの!」

〇ドラッグストア・店内(日替わり・夜)
   ダイエット食品や化粧品を手に取っては買い物カゴに入れていく芽生。
   ふと、壁に貼られているジムのチラシに気付き、眺める芽生。
芽生「……。んっ!?」
   突然背後から頭を叩かれる芽生。
   振り向くと、大崎の姿。
大崎「何してんの」
芽生「マスターこそ」
大崎「俺はちょっと店の買い足し。で、お前は……あ、なるほどね」
   大崎、芽生の買い物カゴを見て呆れ顔で頷く。
芽生「なんですかその顔」
大崎「別に~。で何?」
   大崎、芽生が見ていたジムのチラシを見て、
大崎「こっちはジムの案内か」
芽生「間に合いますかね、結婚式までに」
大崎「そもそも俺お前の大学時代の体型知らねぇし」
   芽生、頬を膨らませて、
芽生「……」
大崎「なんだよ」
   芽生、急に何かを閃き、
芽生「あ、マスター今から店帰るんですよね?」
大崎「おお」
大崎、買い物カゴを見せ、
大崎「これ買ったらな」
芽生「ちょっと、あの! 私が店行くまで閉めないでください!」
大崎「は? 何」
芽生「絶対ですよ!」
   走り去る芽生。
大崎「なんだよあいつ……」

〇Bar OLIFANT 店内(夜)
   客たちの歓声で盛り上がる店内。
   マイクを持った里美が立ち上がる。
里美「ということで始まります! 2018年! 冬のファッションショー!」
   客から歓声が飛び交う。
   げんなりした顔でグラスを拭く大崎。
   そんな大崎を見て笑う、カウンター席に座る沙織。
大崎「この店はイベント会場じゃねぇ」
沙織「まぁまぁいいじゃないですか楽しそうだし」
大崎「楽しくねぇ」
里美「さぁさぁそれでは早速いってみましょう! あなたなら、どの彼女にドキッとする? 綿
 貫芽生ちゃんドレスショー! 芽生ちゃん準備はいいかな!?」
   声を張り上げる里美。
大崎「なんであいつはあんなにノリノリなんだ……」
   げんなり顔の大崎と笑顔の沙織。
里美「はいまずはエントリーナンバー1、ピンクドレス! 芽生ちゃんはあんまりピンクのイ
 メージはないのでギャップ萌えを狙えるかも?」
   ピンクのドレスを着た芽生が現れる。
   店の中央まで歩き、ポーズを決める芽生。
   湧く店内。
   大崎、耳の穴に指を突っ込み、
大崎「騒がしいったらねぇな」
沙織「マスターも選んであげてください。芽生、喜んでたんですよ。マスターが、元カレ引き
 ずってること引かないって言ってくれたって」
大崎「……そんな喜ぶ程大したこと言ってねぇぞ」
沙織「芽生にとっては大したことだったんですよ。こんなはしゃいで、ファッションショー開い
 ちゃうくらい」
   大崎、次々とドレスを変える芽生を見ながら、
大崎「……ふぅん」
沙織「……いいんですか?」
大崎「何が」
沙織「芽生、元さやに戻っても」
大崎「……それが一番いいんじゃねぇの」
   酒を取りに行く大崎。
   沙織、その背中を見て、
沙織「ほんとかなぁ」
   と一人苦笑する。
   × × ×
   里美が『投票箱』と書かれた箱を机に置き、紙とマイクを持つ。
里美「それでは発表します!」
   ドラムロールが鳴る。それに合わせて煽る店内の客たち。
里美「エントリーナンバー1! ピンク! ……1票!」
客たち「えぇ~! 似合ってたのに~!」
大崎「なんでこんな盛り上がってんだよ……」
   大崎を見て笑う沙織。
   里美が次々と結果を読み上げていき、芽生は緊張した面持ち。
里美「よって一番得票数が多かったのは! 7票獲得した! 青~!」
客たち「おお~!!」
   どこからかクラッカーの音がする。
   里美、芽生にマイクを向け、
里美「え~それでは芽生ちゃん! 青に決まったご感想は?」
芽生「(照れ臭そうに)えっと、青は彼にもよく似合うって言われて……」
   口笛や冷やかしの声が飛び交う。
沙織「マスターはどれに入れました?」
大崎「……さぁな」
   グラスに氷を入れる大崎、青のドレスを着て笑う芽生の姿をちらりと見る。

〇ジム(日替わり・夜)
   ランニングマシーンでひた走る芽生。
   と、女性インストラクターが芽生に近付く。
インストラクター「綿貫さん。この後のヨガ、一人空いたんだけど入る?」
   芽生、走りを止め、
芽生「えっほんとですか! やった! 入ります!」
インストラクター「じゃあ入れとくわね」
芽生「お願いします! あ、明日も同じ時間で予約入れたいんですけど」
   インストラクター、表を確認し、
インストラクター「ん~っと、ん、大丈夫。随分頑張るわね、綿貫さん」
芽生「へへ」
   汗を拭い、笑う芽生。

〇(回想)キャンプ場・広場(8年前)
   テントを組み立てる、芽生(20)と他2名の男子大学生。
男子大学生1「芽生ちゃんごめん、そっち持ってくれる?」
芽生「あ、はい!」
   芽生、テント布の端を持ち、
芽生「こうですか?」
男子大学生1「うん、良い感じ~……よし! ありがとう芽生ちゃん」
芽生「いえいえ~」
   と、そこへ別の女子大学生の声がして、
女子大学生の声「綿貫さ~ん! ちょっと!」
   芽生、振り向き、
芽生「あ、はい! 皆さんすみませんちょっと行ってきます! これ、どうぞ食べてください」
   クーラーボックスから取り出したアイスを置き、呼ばれた方へ走っていく芽生。
男子大学生1「芽生ちゃん。気が利くしかわいいよな」
男子大学生2「何、狙ってんの? あれ、でも綿貫さんって彼氏……」
原「いますよ」
男子大学生1・2「うわっ」
   原、女子大学生と話す芽生を見ながら不機嫌そうな表情。
   × × ×
   荷物を整理する原と芽生。
原「……随分人気者だね」
芽生「え? そうかな。下っ端だから頼みやすいだけなんじゃない?」
原「……そうかな」
芽生「……何? どうしたの」
原「別にぃ」
芽生「あら? あらあらあら~」
   芽生、ニヤニヤと笑い原の顔を覗き込む。
   原、芽生の顔を手で覆い、
原「うるさい。見るな」
芽生「すいませ~ん」
原「全然謝ってるように見えない」
芽生「ごめんって。……でも、私もちょっと寂しかったよ。周りの目あるからなかなか卓也と話
 せないし」
   作業に戻る芽生。そんな芽生を見る、原。
原「……あのさ、芽生」
芽生「ん?」
原「この辺さ、星綺麗なんだって」
   芽生、辺りを見回し、
芽生「え? ああ、確かに。綺麗そう」
原「夜、一緒に見よう。二人抜け出して」
芽生「え……大丈夫かな」
原「大丈夫。落ち着いたらメールいれる」
芽生「わ、わかった。待ってる……」
   立ち去る原。顔を赤くする芽生。

〇芽生の部屋(朝)
   目覚まし時計が鳴る音と同時にベッドからずるりと落ちる芽生。
芽生「……また夢か」
   落ちたままの体勢で、芽生がスマホを手に取る。
   画面には『新着メッセージがあります』の文字。
芽生「ん~……?」
   芽生、何気なく画面をタップする。
   と、メッセージの送り主に『原卓也』の名前。
   芽生、がばりと起き上がる。
芽生「ゆ、めじゃ、なかっ、た……?」
   何度もスマホを見る芽生。

〇Bar OLIFANT 店内(夜)
   カウンターに集まる、芽生・沙織・大崎・里美。
芽生「ど、どう思いますか……」
沙織「とりあえず彼女はいないってことでいいんじゃない?」
大崎「だな」
沙織「でもどういうつもりなのかはよくわかんないよね……。だって今まで連絡一切なかったん
 でしょ?」
芽生「えっと、お互いの誕生日に毎年一回だけ……」
大崎「なんだそれ。七夕か」
芽生「はは……」
里美「多分今まではそれで確かめてたんだろうねぇ。芽生ちゃんがまだ気があるのかどうか」
沙織「何のために? 自分は彼女いるんですよね?」
里美「男はそういう生き物なんだよ~。別れても、元カノの中に自分の存在があって欲しいの」
沙織「それって、未練があるってことではなく?」
里美「未練とはちょっと違うんだよね~」
沙織「何それ最低。気がないならちょっかい出さないで欲しいです」
里美「すみません……」
芽生「返事、なんてすればいいかなぁ」
   スマホを見る、芽生。
   画面には『倉本の結婚式行くんだって? よかったら翌日会えないかな』と原からのメッ
   セージ。
沙織「簡単よ。会いたいなら会いたい。会いたくないなら会いたくない」
芽生「そりゃ会いたいよ。会いたいけど~」
沙織「何今更迷ってんの」
芽生「だって予想外だったんだもん。私の計画では結婚式の時に偶然出くわして、『あっ久しぶ
 り。……懐かしいな』ってなるはずだったんだもん。聞いてないよこんなの~」
大崎「なるほど、プレッシャーか」
芽生「わかってくれます?」
沙織「何、どういうこと」
大崎「何となくわかるからだよ、向こうの意図が」
   頷く芽生。首を傾げる沙織。
   3人を微笑ましく見る里美。
大崎「今までだって連絡はあったのに元カレは誘ってはこなかった。ってことは、こいつに会い
 たいとまでは思っていなかったってわけだ」
   芽生、大きく頷く。
   沙織はまだ合点がいかない様子。
大崎「そんなヤツが初めてデートに誘ってきた。つまり、少なからず元カレはこいつとヨリを戻
 してもいいと思ってる」
   芽生、苦々しい顔で頷く。
   沙織、目を見開き芽生の肩を叩き、
沙織「やったじゃん! いいじゃん、会おうよ!」
大崎「そこでこいつのプレッシャーだよ」
   首を縦に大きくぶんぶん振る芽生。
大崎「こいつには自信がない。久々に会う元カレが自分といて楽しんでくれるのか、戻りたいと
 思ってもらえる程の魅力が自分にあるのか。偶然出くわすのと、最初からその気で会うのと
 じゃプレッシャーは大違い」
芽生「その通りです……」
沙織「すごい。マスターって恋愛マスターのマスターだったの?」
里美「まぁ若い頃は遊んでたからね、晃」
大崎「うるせ」
   大崎、シェイカーを振る。
芽生「卓也と別れてから楽しいと思えたデートも楽しんでもらえてるんだろうなと思ったデート
 も一回もない……」
沙織「え~でもチャンスはチャンスじゃん。棒に振る感じ?」
芽生「う……それは……」
大崎「お前な~何の為にシャンプー変えたりジム通ったりしてたんだよ! 何のための投資
 だ!」
   大崎、芽生の前にピンク色のカクテルを置く。
   その振動で机の上の象の人形が揺れる。
大崎「おら。それ飲んで気合い入れろ」
芽生「(嬉しそうに)かわいい。ピンクだぁ」
   芽生の反応を見つめる大崎。
   沙織、手をパンと合わせ、
沙織「あ、そうだ!」
芽生「さおちゃん? 何?」
大崎「嫌な予感がする……」
沙織「二人で予行演習してくればいいじゃない!」
芽生・大崎「は!?」
   正気を疑う顔で沙織を見る大崎。
   目を丸くする芽生。
   そして、爆笑する里美。

〇動物園・チケット売り場前(日替わり)
   寒くて身を縮こませる大崎と芽生。
   不機嫌そうな大崎と、気まずい芽生。
芽生「……なんか、すみません」
大崎「で?」
芽生「で、とは」
大崎「なんで動物園なわけ。俺今日この後仕事なんですけど。匂いつくだろ」
芽生「ご、ごめんなさいやっぱり今からでも違う所に……」
   踵を返す芽生。
   しかし大崎が芽生のマフラーを引っ張って止める。
芽生「うわっ」
   大崎、頭をぽりぽりと掻き、
大崎「あー」
芽生「ど、どうしました……?」
大崎「いいから。行きたかったんだろ? 行くぞ」
芽生「……最初からそう言ってくださいよ分かり辛い」
大崎「うるせぇな! いいか? 俺とお前が2人で会って、(語尾にハートマークでも付きそう
 な勢いで)『おはよ~』、『おはよぉ。じゃ、行こっかぁ』ってなるのおかしいだろ! むず
 むずすんだろ!」
芽生「……そりゃそうですけど」
大崎「ってことで早く済ませんぞ予行演習。おら」
   大崎、芽生を引きずり2枚分のチケットを買って動物園に入る。
   芽生、大崎からチケットを渡され
芽生「……奢られた」
   と、チケットを見て1人笑う。

〇同・入場口
   物陰から顔を出す、沙織と里美。
沙織「なかなかいい感じですね」
里美「ですね」
沙織「あ、向こう行っちゃう! ほら私たちも行きますよ!」
里美「はいよー」
   大崎と芽生を尾行する沙織と里美。

〇同・動物展示広場
   展示された動物にいちいち走って近付く芽生。
芽生「ペンギン! カワウソ! カピバラ! ウサギ~!」
大崎「お前全部に反応しないと気が済まねぇのか」
   大崎が追いつき、丸めた園内地図で芽生の頭をぽんと叩く。
芽生「……すみません動物園本当に久しぶりで……」
大崎「そんなに好きなのに?」
芽生「えっ」
大崎「なに。見たらわかんだろ。その年で動物園でこんなはしゃぐヤツ見たことねぇもん」
芽生「し、失礼な! 何歳でも動物園に来たらはしゃぐでしょ!」
大崎「はいはい」
芽生「あっ、マスターは好きな動物いますか? そこ行きましょう! 私どんな動物でも大好き
 なんで何が来ても楽しめる自信あります!」
大崎「いや俺は別に」
芽生「いいんですよ~照れなくて。うさちゃん触ってデレデレしても」
   芽生、ウサギ広場に入り飼育員からウサギを膝に乗せてもらう。
大崎「結構です」
芽生「ふ~ん」
大崎「あ、おいそのウサギ」
芽生「へ?」
大崎「糞してるぞ」
   芽生のスカートにウサギの糞がどんどん転がっていく。
芽生「わ! うわ!」
   芽生、慌ててウサギを地面に置き、
芽生「ごめんね~そんなタイミングで抱っこしちゃって」
   と、優しくウサギを撫でる。
   そんな芽生の様子をじっと見つめる大崎。
   と、他の場所から女性客が、
女性客「うわ! 最悪~!」
   大崎が見ると、女性客の膝の上で糞をするウサギの姿。
   騒ぎ、ウサギを追い払う女性客。
   そこへ駆けつけた飼育員が女性客に謝るが、女性客はいっこうに機嫌が直らない。
   困った様子の女性客の彼氏。
   と、芽生の声がして、
芽生の声「いえいえ全然平気ですよこのくらい!」
   大崎、芽生に視線を戻す。
   謝る飼育員を優しく宥める芽生。
   飼育員が頭を下げ、持ち場へ戻る。
   芽生、汚れたスカートを見て、
芽生「……着替えた方がいいかな」
   大崎、そんな芽生の様子を見て、
大崎「……待ってろ」
芽生「へ?」
大崎「いいから待ってろ!」
   走り出す大崎。
   つけていた沙織と里美、慌てて木の陰に隠れる。
   × × ×
   動物園の客たちがある方向をちらりと見てはくすくす笑う。
   木の陰に隠れる沙織と里美も笑いを堪えている。
   ウサギモチーフでピンク色の繋ぎを着る芽生。
   隣には猿モチーフで茶色の繋ぎを着る大崎。
   げんなりした顔で歩く2人。
芽生「いったいどんな趣味してるんですかマスター……」
大崎「仕方ねぇだろこれしかなかったんだから!」
芽生「だからって何もマスターまで着なくても……。ペアルックみたいで余計に恥ずかしいじゃ
 ないですか」
大崎「うるせぇな、こんな馬鹿そうな女連れて歩いてると思われるくらいなら俺も馬鹿だと思わ
 れた方がマシだ!」
芽生「変な理屈~」
大崎「何とでも言え!」
芽生「よかったんですよ、そのまま帰っちゃっても」
大崎「デートの予行演習だろ? まだそれらしいこと一つもしてねぇのに帰れるか!」
   芽生、驚いて目を丸くし、
芽生「……マスターって」
大崎「あ?」
芽生「意外と優しいし面倒見良いですよね」
大崎「……やめろ気持ち悪い」
芽生「ふふ。なんか私、楽しくなってきました。動物園なのに動物より私たちが見られてるの、
 ウケませんか」
大崎「……全然ウケねぇよ」
   芽生、ニヤニヤと笑う。
   大崎、芽生の頬をつまむ。
芽生「いたたっ」
大崎「おい、もう一回ウサギ行くぞ!」
芽生「え、興味ないんじゃ……」
大崎「仕切り直しだ仕切り直し!」
芽生「……はい!」
   芽生、先に行く大崎を嬉しそうに追いかける。
   木陰から様子を見ていた沙織と里美が姿を現す。
沙織「……帰りますか」
里美「え、もういいの?」
沙織「はい。なんか大丈夫そうなんで」
里美「……そうだね」
   楽しそうな大崎と芽生の姿を見て微笑む沙織と里美。

〇同・象の展示前
   並んで象を眺める芽生と大崎。
芽生「私動物園大好きなんですけど、ちょっとトラウマだったんです」
大崎「ふーん。なんで」
芽生「卓也と別れる前、動物園行こうって約束してたのに果たせないままだったから」
大崎「は~そういうこと」
芽生「動物園行けないねって言ったら彼氏彼女としてじゃなくて、友達としてで良かったら行こ
 うよって言われて」
大崎「は、なんだそれ」
芽生「ね。今思うとなんだそれって思うんですけど、当時の私は馬鹿だったから友達っていう名
 前なら仲良くしてくれるんだって思って、ちょっとの間、頑張っちゃったんですよね……」
大崎「ほんと馬鹿だな」
   芽生、苦笑しながら頷き、
芽生「別れてるのに、2人で映画に行ったりドライブに行ったりしました。でももう友達だか
 ら、恋人の時みたいに手を繋いで歩いたり、何気ない時に好きだよって言ってみたり、出来な
 かった」
   大崎、視線を象から芽生へ。
芽生「ある日卓也が改めて、動物園に行こうよ、行きたがってたでしょって言ってきたんです」
大崎「……」
芽生「私にとって動物園って、小さい頃から、彼氏が出来たらデートで行きたい憧れの場所だっ
 たんです。昔はほんと、毎週のように両親に連れてってもらってて……」
   親子連れの客を見る芽生。
芽生「大好きな場所だから、いつか、大好きな人と歩いてみたかった。でも、卓也に『友達とし
 てだったら』って言われた時、友達なんだったら行きたくないって思っちゃった。別れても、
 大好きな人なのは変わりないのに」
   芽生を見る、大崎の複雑な表情。
芽生「……気付いちゃったんです、私。友達になんか戻りたくなかったんだって。ずっと、無理
 してたんだって」
大崎「……いいのかよ、そんな大事な場所俺と来て」
芽生「……あれ、ほんとだ」
大崎「気付いてなかったのかよ」
芽生「だって急に言われてもデートスポットとかわかんないですもん」
大崎「ほんとに馬鹿だなお前」
芽生「……はい」
大崎「しょぼくれんなよ調子狂う……お」
   何かを見付け、腕時計を確認する大崎。
大崎「行くぞ。象のえさやり」
芽生「えっ、出来るんですか!?」
大崎「そこ。ハナコだって」
   大崎が顎で指す先には象のハナコの餌やり時間の案内が。

〇同・象の展示・中
   果物や野菜が入ったバケツを持って象の前に立つ芽生と大崎。
   芽生、バナナを象にあげながら、
芽生「あんな看板あったの、全然気付かなかった……」
大崎「視野が狭いんだよ」
芽生「それ、何回か友達に言われたことあります」
大崎「だろうな」
芽生「ひど」
大崎「真面目なんだよ、お前は。浮気してどっか行った、俺の元カノとは大違い」
芽生「えっ、そうなんですか!?」
   大崎、象にキャベツをやりながら、
大崎「おー」
芽生「マスター、まだ好きだったんじゃないですか?」
大崎「さぁな」
芽生「私だったら好きな人が自分を好きでいてくれるんだったらずっと好きでいられるのに
 な……」
大崎「は、お前が言うと説得力あるな」
芽生「……それ、バカにしてます?」
大崎「ちげぇよ。信じられる、ってこと」
芽生「え」
   芽生が驚いて大崎を見る。
   大崎が投げた林檎を象がナイスキャッチ。
   大崎、少し嬉しそうに、
大崎「お、やるじゃんハナコ」
   と、大崎のバケツが空になる。
芽生「……マスター、私の分もいいですよ」
大崎「え」
芽生「マスターの好きな動物、象でしょ。お店にも置物あったし」
   大崎、ばつが悪い顔で芽生の分のバケツを受け取り、再び象に餌をやり出す。
   そんな大崎を見て微笑む芽生。
芽生「マスター。私、今日一緒に動物園来れたの、マスターでよかったです」
大崎「……そうかよ」
芽生「へへ、はい」
   また林檎をナイスキャッチする象。

〇芽生の部屋(日替わり・朝)
   テレビ画面に天気予報が映る。
アナウンサー「山梨の方では今日の夜から雪が降り始め、朝にはなんと積雪60cmを超える大雪と
 なる見込みです。また、激しい風も伴い、交通機関に影響が出る可能性があります」
   芽生、テレビに背を向けピンクと青のドレスを壁に掛け眺める。
   芽生の手にはくしゃくしゃの紙が握られている。

〇(回想)Bar OLIFANT・店内(昨日・夜)
   帰り支度を済ませた様子の芽生と、それを見守る沙織、里美。
芽生「ということで行ってきます!」
沙織「頑張ってね芽生!」
里美「元カレめろめろにしてやれ~!」
   大崎は無言で、カウンター内でグラスを拭いている。
里美「確か、式の次の日だっけ。元カレくん」
芽生「はい。帰る前にごはんでもって」
里美「そっか」
沙織「ほら、マスターもなんか一言」
大崎「別に。なんもねぇよ。……あ、帰りやべぇかもな。雪」
芽生「そうなんですよね~。まぁいざとなったら有給使います」
   沙織、大崎に向かって、
沙織「おい話変えんなー!」
里美「そうだそうだ!」
大崎「ほんとうるせぇ」
芽生「マスター、いっぱいお世話になりました! ではでは」
里美「え~なんか卒業みたい。芽生ちゃん、帰ってきたら一番にこの店来るんだよ!」
大崎「お前の店じゃねぇだろ」
   大崎と里美のやり取りに笑う芽生。
芽生「それじゃ、また今度」
   芽生、店を出て行く。
沙織「……本当にいいの? マスター」
里美「いいの?」
大崎「……何が言いてぇんだよ」
   沙織と里美から視線を逸らす大崎。

〇バス乗り場
   運転手にチケットを渡し、バスに乗車する芽生。
   芽生が席に着き、バスが発進する。
   窓の外を眺める芽生。

〇(回想)大学・構内の歩道(7年前・夕)
   自転車を押して歩く芽生(21)と原(21)。
芽生「そろそろ就活だね」
原「な」
芽生「どの辺で就活するか決めてる?」
原「俺は関西か関東、どっちかかな」
芽生「そうなんだ。じゃあ私もそうしよっかな」
原「え、芽生。地元残るって言ってたんじゃ」
芽生「うーん。でも卓也がそう言うなら出てくのもありかなって」
原「(複雑な顔で)……」

〇元のバス・車内
   走り続けるバス。外を見る芽生。
芽生N「私と卓也は、お互いが嫌になったとか、どちらかが浮気したとか、そんなありふれた、
 別れの理由TOP3に入るような理由で別れるんじゃない。私たちの場合は特別なんだって、
 何処かで思ってたけど」

〇(回想)居酒屋(7年前・夜)
   女友達と楽しく飲む芽生。
   ふと、原の声が聞こえ、振り向く芽生。
   原は男女計6名程で飲んでいて、大分酔っている様子。
原「俺フリーだから!」
後輩女子「うそ~先輩彼女いるじゃん」
原「え? 何彼女? あ~いーのいーの」
   原の言葉に驚き、傷付く芽生。
女友達1「(心配して)芽生……」
芽生「私、帰るね」
   店を出て行く芽生。

〇元のバス・車内
   窓の外には雪がちらつき始める。
   芽生は変わらず窓の外を眺め、
芽生N「こうやって改めて思い返すと、私たちが別れた理由だって、普通にありふれた、それこ
 そ別れの理由TOP3に入るようなものだったのかもしれない。別れの時の言葉が曖昧だった
 から、わからなくなっていたけど」
芽生「マスターなら、卓也みたいなフリ方しないんだろうなぁ……」

〇Bar OLIFANT・店内
   大崎と里美の二人だけの店内。仕込み
   作業中の大崎と、それを眺める里美。
里美「晃はどっちに賭ける? 芽生ちゃんがヨリ戻すか戻さないか」
大崎「知らねぇよそんなん」
里美「冷た~。動物園デートした仲だろ。芽生ちゃん、元カレと別れてから一番楽しかったデー
 トだって言ってたぞ~」
大崎「……」
   無言で野菜を切る大崎。

〇美容室・店内
   髪をセットされ終わった芽生。
男性美容師「いかがでしょう」
   男性美容師、芽生の背後から鏡を当て、
男性美容師「後ろはこんな感じです」
芽生「わぁ……良い感じです」
   男性美容師、微笑んで鏡を仕舞う。
芽生「あの……」
男性美容師「はい?」
芽生「この髪型なら青とピンク、どっちのドレスが合いますかね」
男性美容師「う~んそうだなぁ。これなら青かな」
芽生「(複雑な表情で)……です、かね」
男性美容師「ですね。……あ、雪強くなってきましたね」
芽生「わ、ほんとだ。明日、バス動くかな」
男性美容師「無理かもしれませんね~」
   窓の外は、強くなっていく雪。

〇Bar OLIFANT・店内(夕)
   テレビではニュースで山梨の雪の様子が中継されている。
アナウンサー「山梨の方ではだんだんと雪も風も激しくなってきました!」
   里美、テレビを見て、
里美「芽生ちゃん99パーもう一泊だね」
大崎「かもな」
里美「ね、芽生ちゃんもう一泊ってことは元カレくんももう一泊だよね? 久々に燃え上がっ
 ちゃう系かな~」
   里美の言葉に黙る大崎。
里美「晃? お~い」
   大崎、グラスを拭きながら今までの芽生がフラッシュバックする。
   × × ×(フラッシュ)
   酔いつぶれた芽生、
芽生「私、もう誰かを好きになるのなんて無理なんですかね……」
   × × ×(フラッシュ)
   大崎の車内で芽生が微笑み、
芽生「また、お店行ってもいいですか」
   × × ×(フラッシュ)
   青いドレスを着た芽生。
芽生「(照れ臭そうに)えっと、青は彼にもよく似合うって言われて……」
   × × ×(フラッシュ)
   動物園で
芽生「マスター。私、今日一緒に動物園来れたの、マスターでよかったです」
   と、笑う芽生。
   × × ×
   大崎、拭いていたグラスを置き、
大崎「ケン」
里美「ん?」
大崎「店番頼む」
   急いで店を出て行く大崎。
里美「……行ってらっしゃい」
   と、したり顔で微笑む里美。

〇結婚式場・受付(夕)
   賑わっている受付付近。
   女性2人組が受付係をしている。
   コートの下に青のドレスを着た芽生が受付にやって来る。
芽生「綿貫芽生です」
   受付女性、名簿から名前を探し、
受付女性「はい……って芽生!? やば! 超久しぶり!」
芽生「へへ、久しぶり。元気だった?」
受付女性「元気元気! でもさぁ」
   次の来場客が来る。
受付女性「あ、ごめん! また後で話そ!」
芽生、頷き、手を振り受付から離れる。
   様子を伺っていた女友達たちが「久しぶり」と次々に芽生に声をかける。
   と、一人が会場の出入口を指差し、
女友達2「あ。あれ原くんたちじゃない?」
   芽生、恐る恐る振り向くと原(28)と他数名の男性たちの姿。
   芽生と原、目が合い、会釈する。

〇同・披露宴会場(夜)
   雛壇に座り、笑い合う新郎と新婦。
   参列客のテーブルの皿の上は空。
   芽生の腹がぐぅ、と小さくなる。
   と、司会の女性がマイクの前に立つ。
司会女性「お待たせいたしました! ただいま準備が整いました。お食事はビュッフェ形式と
 なっております。皆さまどうぞお食事を楽しんでください」
   参列客たちが席を立ち、ビュッフェを取りに向かう。
   芽生もビュッフェの列に並ぶ。
   と、原に話しかけられる。
原「よ。久しぶり」
芽生「よ、よう。えっと、卒業式ぶり」
原「そんな経つっけ」
芽生「そうだよ」
原「あ、毎年メールするからか。久しぶりなのに久しぶりじゃない感じ」
   × × ×(フラッシュ)
大崎「七夕か」
   × × ×
   思い出し笑いする芽生。
原「芽生? どうかした?」
芽生「あ、ううん。なんでもない」
原「そっか。あ……じゃあまた後で」
   去って行く原と、その後ろ姿を見つめる芽生。

〇Bar OLIFANT・店内(夜)
   寒そうに店に入ってくる沙織。
沙織「は~外寒~。マスター、ビール!」
里美の声「はーい」
   カウンター内から里美が顔を出す。
沙織「え……? あれ、ケンさん? いつからマスターに……」
   里美、おどけた表情で、
里美「さぁ、いつからでしょう」

〇高速道路・SA・ガソリンスタンド(夜)
   店はかなり混んでいる様子。
   順番待ちをする大崎はイライラした様子で、
大崎「くそ。なんでこんなに混んでやがんだ」

〇結婚式会場・外(夜)
   二次会の指示待ちをする人たちが集まっている。
男性5「二次会行く人は8時に、さっき言ったお店にお願いします!」
   一斉に動き始める人々。
   芽生、人波に押され、よろけて、
芽生「わっ」
   ドレスが木の枝に引っかかり破れてしまう。
芽生「あ~……やっちゃった……」
女友達3「うわ、芽生大丈夫? せっかく綺麗なドレスなのに……」
女友達4「二次会どうする?」
芽生「……大丈夫。着替え持ってきてるから。あ、私後から行くね」
   女友達に手を振りその場を去る芽生。
   破れたドレスを見て、どこかほっとしたような顔をする。

〇高速道路・SA・ガソリンスタンド(夜)
   店員が大崎の車にガソリンを入れ終わり、大崎の元へ走って来る。
店員「4312円になります!」
   5千円札を渡す大崎。
   店員、受け取って走り去り、箱ティッシュを持ってまた戻って来る。
店員「こちらお釣りと、粗品になります。どうぞお気を付けて!」
大崎「……どうも」
   店員からお釣りとティッシュを受け取る大崎。
   ティッシュには象の絵が。その象を見つめる大崎。

〇二次会会場・バー・店内(夜)
   抽選大会で盛り上がる店内。
   司会の男性が当選者を発表している。
   そこへやって来る、芽生。
   女友達が芽生を見付け、
女友達3「あ、芽生こっちこっち!」
   芽生、周りを気遣いながら呼ばれたテーブルへ向かう。
芽生「ごめんお待たせ~」
女友達4「ううん。これ、芽生の分のくじびき。残念ながらまだ出てないけど」
芽生「あ、ありがとう」
女友達3「コートは? 脱がないの?」
芽生「あ……。うん、寒いから……」
女友達3「そう?」
   席に座る芽生。
   と、司会男性が、
司会男性「そして一等のペアチケットは……なんと! 原くんで~す!」
   驚き、自分を指差す原。
   周りの視線が原に集まる。
司会男性「それじゃあ原くん、一言コメントをどうぞ!」
   言われるまま前に出る原。
   マイクを渡される。
   原を見つめる芽生。
原「え~一緒に行く相手もいないのに当たっちゃいました~!」
男性6「あれ? ラブラブだった彼女そこにいますよ~!」
   と、芽生が指差され、一挙に視線が芽生に集まる。
女性1「あ、私2人がさっきこそこそやってるの見ました~!」
男性7「何? 復縁~?」
芽生「えっ」
原「違うから! まだ!」
   『まだ』という言葉に驚く芽生。
   原、冷やかしを宥め、景品を受け取り、席に戻ろうとする。
   が、その前に芽生の元へ立ち寄り、
原「ごめん、あいつら酔ってて……」
芽生「う、ううん。卓也が悪いわけじゃ、ないし……」
   芽生と卓也の間に気まずい空気が流れる。

〇道路(夜)
   渋滞に引っかかる大崎の車。
大崎「くそ……まじか……」

〇道(夜)
   女友達二人と歩く芽生。
   道には雪が大分積もり始めている。
女友達3「楽しかったね~」
芽生「ね」
女友達4「芽生、今日は泊まるんだっけ」
芽生「うん、実家に。ここから近いんだ」
女友達3「じゃあさ、せっかくだしもう一軒
行っちゃう?」
女友達4「お、いいねぇ~」
芽生「賛成!」
   と、突然原の声がする。
原の声「芽生!」
   芽生、女友達3・4、振り向く。
   そこには、息を切らした原の姿。
原「ごめん、ちょっといいかな」
芽生「え……」
女友達3「あ……うん、いいよいいよ!」
女友達4「私たち先に行ってるから!」
女友達3・4「どうぞお構いなく~」
芽生「え、ちょっと!」
   先に行ってしまう女友達3・4。
芽生「行っちゃった……」
原「ご、ごめん。邪魔しちゃって……」
芽生「う、ううん。えっと、どうかした?」
原「ちょっと、話したくて。いや、明日話せるってわかってるんだけど、今、話したくて」
芽生「うん……」
原「俺、芽生がこの式来るの、実は結構前から知ってたんだ」
芽生「そう、なんだ」
原「うん……。久しぶりに会いたいなってずっと思ってて、でもなんとなくタイミング掴めな
 かったんだけど、思い切って、メールしてみようって思って。それで送ったのが、この間の
 メール」
   芽生、少しはにかみ、
芽生「そうだったんだ。あ、えっと、2人で会おうと思ってくれたのは、どうして?」
原「……俺、実は結婚するつもりで付き合ってた人がいたんだ」
芽生「え……」
   ぴしりと、芽生の顔が強張る。
原「でも、駄目だったんだ。彼女、好きな人出来たから別れて欲しいって、いきなり。1ヶ月前
 だったかな」
芽生「そ、そっか……」
原「その時、芽生のこと思った。芽生だったらこんなこと、絶対ありえなかったのにって。芽生
 は、いつも俺だけを見てくれてた」
芽生「卓也……」
原「それで、思い切って連絡してみたんだ。そうしたら、自分が思ってたより、すごく、ドキド
 キして。俺、やっぱり芽生のこと」
   芽生、原の言葉を遮り、
芽生「私は」
原「えっ」
芽生「私は出来なかったよ。卓也と別れてからずっと、好きな人」
原「芽生……」
芽生「いっぱい出会いの場にも行ったし、いっぱい紹介もしてもらって、色んな人を見てきたけ
 どいつも卓也と比べてた」
原「芽生、それじゃあ」
   原が一歩芽生に近付く。
   芽生は首を横に振り、一歩遠ざかる。
原「芽生……?」
芽生「結婚したいって、思えたんだね。私の次の彼女にも……。それで? その彼女にフラれた
 からって戻ってくるんだ?」
   原、狼狽え、
原「あ、そ、それは……」
芽生「私なら絶対にふられないもんね、ありえないんだもんね」
原「えっと、芽生ごめん。それは」
芽生「ううん、謝らなくていいよ。実際そうだもん。当たりだよ。こんな、何年も馬鹿みたいに
 ずっと……卓也のこと……」
   涙ぐむ芽生。うろたえる原。
芽生「卓也、どうしよう」
原「え?」
芽生「私、今、ムカついてるかも。卓也の話聞いて。昔だったら絶対ありえなかったよ。卓也に
 ムカついたこと、私一度もなかったのに……」
原「芽生……」
   芽生、泣きながら笑い、
芽生「すごい! どうしよう! すごいムカつく! 虫がよすぎるよ卓也、って思ってる! ま
 さかだよ、私が卓也にこんなこと思うなんて!」
原「芽生、泣いて……」
   原、芽生の涙を拭おうと近付く。
芽生「卓也。私、明日……」
   誰かが後ろから芽生の首に腕を回し、羽交い絞めの様に引き寄せる。
大崎の声「はいそこまで」
芽生「……え、え!?」
   芽生の背後には、大崎の姿。
   慌てる芽生と、呆然とする原。
大崎「話終わるまで待っといてやろうと思ったけどやっぱ無理。寒い。早く帰んねぇと雪やべぇ
 し」
芽生「マスター、なんで……」
大崎「……話は後。断んだろ、明日のこいつとのデート。だったら帰ろうぜ」
芽生「あ、え……ちょっ!」
   大崎、芽生を無理矢理担ぎ上げ、踵を返す。
   すると、芽生のコートからひらりとピンクのドレスが見える。
   原、慌てて、
原「ちょ、ちょっと! 誰ですかあなた!」
   大崎、立ち止まり、
大崎「こいつの行きつけのバーの店長」
芽生「自分で行きつけって言っちゃうんだ」
   大崎、芽生をチョップする。
芽生「いたっ」
   原、仲の良さそうな二人を見て、怪訝な表情で、
原「……」
   大崎、原に向き直り、
大崎「おい元カレ。お前、こいつの好きな色、何色か知ってるか?」
原「は? 色? なんでいきなり」
大崎「いいから答えろよ」
原「……青じゃないんですか。部屋も青だったし今日だって青のドレスを……」
大崎「……はい! 残念不正解! 一昨日来やがれ~」
   再び踵を返し、後ろ手に手を振る大崎。
   原、声を荒げ、
原「は? どういうことだよ! おい!」
   大崎、再び立ち止まり原に振り向き、
大崎「こいつの好きな色、聞いてやったことあんのかよ。こいつがどうして動物園に行きたかっ
 たのか、聞いてやったことあんのかよ」
原「な……」
   原、困惑し固まる。
   大崎、芽生に耳打ちし、
大崎「おい、なんか言い残したことは」
芽生「え? えっと……」
   芽生少し考えた後、原を見る。
芽生「卓也!」
   原、少し希望を持ったように芽生を見る。
芽生「ごめん! もう誕生日も全部、連絡取るのやめよう!」
原「芽生……」
   肩を落とす原。けらけら笑う大崎。

〇道~コンビニ駐車場・大崎の車内(夜)
   運転席に大崎、助手席に芽生が乗っている。
   渋滞で車は止まっている。
大崎「お前最後に言うのがあれって甘過ぎ。もっと言うことあんだろ」
芽生「だって、急にそんな出てきませんよ」
大崎「……まぁ忠犬ハチ公が飼い主に噛みついたと思えば上出来か」
芽生「何ですかそれ。(はッとし)……あれ? そう言えばマスターお店は……」
大崎「……お前こそ、青のドレスはどこやった?」
   大崎、芽生のドレスの袖を掴み、
大崎「これピンクじゃん」
芽生「ちょっと。はぐらかさないでください」
大崎「お前もな」
芽生「私は、二次会行く前に先に着てた青のドレス破けちゃったから、それで」
   大崎、ぶっきらぼうに
大崎「ふぅん」
芽生「ほら、言いましたよ。マスターさっき言ってたじゃないですか、話は後って。聞かせてく
 ださい」
大崎「あれはお前……別にその場のノリというか。ちょっと言ってみただけで」
   芽生、コートのポケットからくしゃくしゃの紙きれを取り出し、広げて大崎に見せる。
芽生「その話って、これと何か関係ありますか」
大崎「……なんだこれ」
   紙には『ピンク』と書き殴られている。
芽生「ピンクのドレスに一票だけ入れたの、
マスターですか?」
大崎「……。だったらどうする」
芽生「え……。なんか嬉しい、かも?」
大崎「……」
   大崎、咳払いをし、指示器を上げ、脇のコンビニの駐車場へと入る。
芽生「マスター? トイレです、か」
   芽生が言葉を言い終わる前に、大崎の指が芽生の涙の跡を拭う。
大崎「これは何泣きなの」
   芽生、驚き、瞬きを繰り返しながら
芽生「……嬉し泣き、だと思います」
大崎「嬉し泣き?」
芽生「……嬉しかったんです。私もしかして、もう卓也のこと思い出して苦しくならなくていい
 のかもしれないって」
大崎「つまり吹っ切れたと」
   芽生、ゆっくりと頷き、
芽生「……多分……?」
大崎「……お前の希望、出来れば合コンとかじゃなくて普通に生活してて普通に出会いたい、
 だっけ」
芽生「……はい」
   大崎、照れを隠すように、
大崎「俺、それにぴったり当てはまる人、見付けちゃったんですけど~」
芽生「どこですか?」
   わざとらしく辺りを見回す芽生。
   大崎、芽生の頭を掴み、目を合わさせる。
大崎「おいこら」
芽生「すみません、私視野が狭いんで」
   とぼけたような芽生の顔。
大崎、芽生の鼻をつまみ、
大崎「お前な~」
   と、目が合う大崎と芽生。
   キスをしそうな数秒の間の後、耐え切れず吹き出す。
   一通り笑った後、
芽生「コーヒーでも買って帰りますか」
大崎「じゃあお前の奢りな」
芽生「仕方ないなぁ」
   車を降りる大崎と芽生。
   雪の上を、じゃれ合いながら足跡をつけて歩く、大崎と芽生。

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