きいろドライブ ドラマ

マイノリティに憧れる普通に幸せな女子高生の話。
的場友見 274 0 0 06/04
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第一稿

登場人物
渋谷由真(18) 高校3年生
茂田朋子(32) 浜中自動車学校の生徒
川瀬 光(18) 由真の同級生
高畑慎吾(30) 浜中自動車学校の教官  
ディアナ(4 ...続きを読む
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登場人物
渋谷由真(18) 高校3年生
茂田朋子(32) 浜中自動車学校の生徒
川瀬 光(18) 由真の同級生
高畑慎吾(30) 浜中自動車学校の教官  
ディアナ(41) 浜中自動車学校の生徒・フィリピン人
渋谷多恵(47) 由真の母
川瀬邦和(39) 光の父
鈴木萌音(18) 由真の同級生
田村菜緒(18) 由真の同級生
外山竜太(29) 浜中自動車学校の教官
渋谷 稔(50) 由真の父

教官1
女子1
男子1

○浜中自動車学校・全景
   のどかな田園風景にポツンと建つ古びた自動車学校。
   赤い古びた軽自動車が止まっている。
   校名入りのマイクロバスがやってくる。  
   マイクロバスの後部ドア、ステップを降りてくるピンヒールの足元、
   黄色いトレンチコート、バッグストラップを握るデコラティブなネイル、
   大きなサングラス。茂田朋子(32)である。

○県立西高校・外観
   チャイムが鳴っている。

○同・食堂・外
   賑やかな話し声が聞こえる。

○同・食堂・中
   グループで楽しそうに食事する生徒たち。一緒にテーブルを囲む渋谷由真(18)、
   鈴木萌音(18)、田村菜緒(18)。
   萌音、ダルそうに紙パックのジュースをチューっと飲み、
萌音「あー腹痛い、死ぬ」
   菜緒、菓子パンを食べながら、
菜緒「また?まじ死ぬんじゃない?」
   由真、弁当を食べながら、窓際の席で1人
   カップラーメンをすする川瀬光(18)を見つめている。
   菜緒、由真の視線を追って、
菜緒「あぁ、川瀬?また1人でカップラーメ
ン食ってるし。何?あの影あるでしょ感」
   萌音、スマホを見て、
萌音「はぁ?昨日の“由真ちんおめでと写真
 全然いいね増えてないんだけど」
   スマホの画面、萌音と由真の2ショット写真、
   “由真ちん大学合格!はやっ!からのオメー”のテキスト入り。いいね!が14。
菜緒「えー私押したよー」
   ウンウンと頷く由真。
萌音「由真数字持ってねーなぁ」
菜緒「まぁ実際“いいね”なのか?って言わ
れたら、ビミョーだしな」
   プッと吹き出す萌音。
   え?と傷ついた表情の由真、
萌音「“いいね”でしょーよ。受験ナシでいち早く合格ゲットしたんだから」
由真、作り笑顔で、
由真「いや、そ、そうだよね。地元のFラン
 ク推薦ってね。普通に受験しても誰でも受
 かるし。志低っ!て感じだよね」
   顔を見合わせる萌音と菜緒。
萌音「いやいや、いいって。あの山ん中の大学でさ、
 チャラくもガチでもないサークル入ってさ、
 イケメンでもキモメンでもない彼氏作って結婚して子供産んで、
 うちの高校入れて推薦とって…」
菜緒「ループ!普通に平凡のループ!」
萌音「由真っぽくね?最高に由真っぽくね?」
由真「普通に平凡って…ディスり?」
   引きつった笑顔の由真。
菜緒「あるなー。中古の赤い軽で“ギガラ”にパート行ってな」
萌音「それ、まんま由真母だから!」
由真「イヤだわー。ないない、ないってー」
   キャッキャと盛り上がる菜緒と萌音。
   作り笑いで合わせる由真。
   由真の方を冷めた目で見る光。


◯浜中自動車学校・事務カウンター
   背中に『ビデオ・DVD・CD レンタルショップ ギガラ』の
   ロゴの入ったジャンパーを着た渋谷多恵(47)が座っている。
多恵「どうも、じゃあ、娘のこと、よろしく
 お願いします。失礼しますー」
   カウンターの中の事務員にお辞儀をし、
   書類の詰まった封筒を手に、立ち去る多恵、笑顔である。

○同・エントランス・外
   朋子、サングラスを外して辺りを見渡し、満面の笑み。
   校舎から出てくる多恵、朋子と目が合い、会釈する。朋子も会釈で返す。
   多恵、数歩歩いた後、首を傾げて、
多恵「あら、誰だったかしら?」
   多恵、振り返り朋子をじーっと見て、
   ああ!と思い出して頷く。

○道
   並んで歩く由真と萌音、菜緒。
萌音「あーー20時まで塾とか。死ねる」
菜緒「私なんてバイトだし。むしろ死にてー」
   あははと笑う萌音、菜緒、由真。
菜緒「あ、んじゃねー」
由真「うん。頑張ってね!」
   右折する萌音と菜緒、2人に手を振る
由真。
萌音「頑張ってね、てか。気楽よなぁ」
菜緒「まぁ、由真だし」
萌音「うちの母親、超学歴コンプじゃん?」
菜緒「そうだっけ?」
   萌音、顔をしかめて頷く。
萌音「高校落ちた時、マジ殺されるてか、死なれるかと思った」
萌音、俯き、
萌音「もうこの人生で二度と落ちるとか許されないんだわ…腹痛い」
   菜緒、ため息をつき、
菜緒「うちはとっとと働けって。専門の金も引越しの金も
 1円も出さねーっとか言って。もうずっとバイトバイト」
   しばし、無言で歩く萌音と菜緒。
萌音「由真羨ましいかも」
菜緒「だな。意外と」
萌音「てか、新しいハーゲン食った?」
菜緒「え?何味?知らない」
   談笑しながら歩く、萌音と菜緒。
◯交差点
   スマホを見ながら信号待ちする由真。
   萌音と由真の2ショット写真、いいね!が13。
由真「え、減るとかなくない?」
   青信号を知らせる音が鳴り、
   顔を上げる由真。道の先、光の姿。
   パァっと笑顔になり、光を追いかける由真。
由真「川瀬さん!」
   由真をチラリと振り返る光。
由真「あ、あはは。お疲れー」
   プイッと前を向く光。
由真「あのさ、川瀬さんって、大学行くの?
受験は?するの?」
  光、前を向いたまま、
光「しない」
由真「あ、そうなの?いや、私も推薦でって
言ってもあの、いや普通に誰でも入れる大
学なんだけどさ」
   光、無反応で歩き続ける。
由真「でも、皆、受験とかで忙しそうで、
 あの、私、暇で…よかったら、
 あの、何かSNS、アカウント教えてよ」
   光、前を向いたまま、
光「“普通”…“皆”…」
由真「え?」
   光、前を向いたまま、
光「スマホ、持ってないんで」
由真「え?嘘?何で?」
  光、前を向いたまま無反応。
由真「あ!あと、あと、あの、いつもカップ
 ラーメン食べてるよね?毎日。何で?」
   光、キリッと由真を見る。
   由真、ドキッとした表情。
光「死にたいんで」
由真「え?」
光「“何で?”って。早く死にたいんで。人と繋がる必要ないからスマホは持ってない。
 お腹は減るけど栄養とかどうでもいいから、カップラーメン食べてる」
   無表情でスタスタと歩き去る光。
   立ち止まり、光の背中を見送る由真。
由真「かぁっこいーー」

○渋谷家・外観
   一般的な2階建住居。
   古びた赤い軽自動車が止まっている。
由真の声「ただいまー」

○同・由真の部屋
   6畳ほどの部屋。小さな本棚にはファッション誌や音楽雑誌、
   『10代の空』などの思春期感漂う詩集など。
   制服から私服に着替える由真。

○同・リビング
   テレビを見ながら洗濯物を畳む多恵。
   由真が入ってくる。
由真「ママぁ、カップラーメンない?」
   多恵、由真を振り返り、
多恵「は?あるわけないでしょ。何年うちの子やってんのよ。
 もうすぐご飯できるから、パパもそろそろだし。待ってて」
   由真、不服そうにキッチンの方を見る。
   炊飯器から湯気が上がっている。
多恵「あ、そうだ。お金払ってきたよ」
由真「は?」
   多恵、立ち上がり探し物をする。
多恵「自動車学校。やっぱり大学早めに決めといて、良かったわ。何かと楽よね。
 今の時期ならガラガラで毎日教習車乗れるって。春休み近くなると混むからさぁ」
    多恵、自動車学校の書類の入った封筒を由真に手渡す。
多恵「早いとこサクッと取ってきなね。
 車ないと大学通えないし、ママが一生送り迎え
 するわけいかないんだからさ」
   じっと封筒を見つめる由真。

○浜中自動車学校・全景
○同・教習コース
   止まっている一台の教習車。

○同・同・教習車の中
   緊張の面持ちでハンドルを握る由真。
   助手席には外山竜太(29)。
   ブレーキから足を離す由真。車がクリープ現象でゆっくりと進む。
由真「おおおおー!」
   感動の面持ちの由真。
外山「はい、ブレーキ」
由真「は、はい!」
   ブレーキを踏む由真。ガックンと大きく前後に車が揺れ、
   由真と外山も大きく揺れる。
由真「す、す、すみません!ごめんなさい」
   外山、落ち着いた様子で。
外山「大丈夫。もぉ5万回目くらいだから」
  感心した様子で外山を見る由真。
外山「じゃあ、さっき見せた感じで、ゆっくりコース回ってみよう」
由真「は、はい!」

○同・教習コース
   ゆっくりと走る教習車。

○同・同・教習車の中
   緊張の面持ちでハンドルを握る由真。
   助手席の外山、書類を見ている。
外山「18か。ん、高校生?」
  由真、前を向いたまま。
由真「は、はい。そうです」
外山「今時期珍しいねぇ。最近、パンチ効い
 たヤツ多いからなぁ、カリン様とか」
  ニヒルな笑みを浮かべる外山。
由真「え?」
外山「次、左!はい、ウィンカーあげて」
由真「ここ、ここ?ウィンカー?」
   由真、慌ててハンドルを切ると、左から教習車が飛び出してくる。
由真「いやぁっ!!」
   目をつぶる由真。助手席の外山、ハ
   ンドルを切りブレーキを踏む。
   教官、落ち着いた様子で、
外山「こら。目はつぶらないぞー」
   そぉっと目を開ける由真。
   飛び出してきた教習車の運転席、笑顔
   で頭を下げる朋子。

○同・食堂・中(夕)
   人はまばらで静か。窓際で1人、カップラーメンをすする由真。
由真「(光を真似て)早く死にたいんで」
   由真、悦に入っている表情。
   朋子がやってくる。
朋子「さっきごめんねー」
   朋子を見上げ、その顔に見とれる由真。
朋子「何?」
由真、慌ててクールを装い、
由真「いえ。別に。こっちこそ、すみません」
   由真の向かいに座る朋子。え?と朋子
   を見る由真。朋子、持っていた紙袋からパンプスを出し、
   安っぽい白のスリッポンから履き替える。
由真「は?自動車学校でハイヒール?」
朋子「何よ」
由真「いえ、別に」
朋子「ダメって言われたから、そこの靴流通センターでこれ買ってきたんでしょーが」
   朋子、手元のスリッポンを眺めながら、
朋子「こういうの履きなれてないから、なーんか、塩梅悪くってさぁ」
   無言で朋子の全身を盗み見る由真。
   朋子、胸が豊かでウエストは細く、
   身につけている洋服やアクセサリーはいず
   れも高級そうである。
   じっと由真を見つめる朋子。
   慌てて、目をそらす由真。
朋子「ぼっち飯?今時の若者は1人じゃ食事
 できないんじゃないの?」
   由真、どこか得意げに。
由真「はぁ、私は、1人とか、全然」
朋子「へぇ、スマホも見ずに?」
   由真、得意げに、
由真「私、スマホ持ってないんで」
朋子「フゥン」
   フッと笑い、席を立つ朋子。
朋子「じゃねー」
   不満そうな顔で朋子を見る由真。
   由真のポケットの中、スマホの着信音が鳴る。
   由真、慌ててポケットに手を
   入れスマホを切る。由真、朋子を見る。
   朋子、無反応で出ていく。
   ホッとして笑みを浮かべる由真。
   由真、あ!と何か思い出し、悔しそうな表情。
   キョロキョロと周りを見渡し、急いで立ち上がる由真。

○同・喫煙所(夕)
   校舎の前、灰皿とベンチが置かれただけの簡易的な喫煙所。
   ベンチに座りタバコを吸っている朋子。
   由真がやってきて、風下に立つ。
朋子「そこ、煙かかるよ」
由真「はい。死にたいんで」
   意味ありげに俯く由真。
朋子「ん?」
由真「早く死にたいんで、副流煙活用?」
   不気味に笑う由真。
   朋子、ふぅっとタバコの煙を吐き出し、
朋子「そっかぁ。死にたいかぁ。きっと特別
 な経験をしてきたんだね。だからかな?
 何か独特の存在感でちゃってるもんねぇ」
   え?と嬉しそうに朋子を見る由真。
   朋子、感心したように頷く。
朋子「でもその繊細な感性は、愚鈍な田舎者には理解されないでしょ?
 音楽とかアートとかで表現してさ、世界に発信しちゃえ!」
   口元をほころばせる由真。
由真「いや…いや、私なんて…」
朋子「って言われたら嬉しいの?」
   立ち上がり、タバコを灰皿にポイっと
捨て、由真を一瞥する朋子。
あれ?と驚いた表情の由真。
朋子「勘弁してよーその影ある風?演出。思
 春期きついわぁ。もう18超えてるんでしょ?
 免許取れるし選挙権も持ってるんだからさぁ」
   怒りと恥じらいで顔を歪める由真。
由真「は?え?何が?」
   由真、朋子を睨む。朋子、遠い目で、
朋子「自分は大切な部分では普通だって安心
 感あるから、そんなどっかから借りてきたような言葉で個性派ぶれるのよ」
由真「え?…」
朋子「いいね、逆に憧れちゃうー」
   朋子、意味深な笑みを浮かべ立ち去る。
   朋子を、目で追う由真。制服姿の高畑
   慎吾(30)がやってくる。高畑、す
   れ違いざま朋子の顔を見て驚き、
高畑「あ、あ、あ!カリンさ…!」
   朋子、高畑にシーっと合図する。
高畑「そうっすよね?すよね?え?何で?ちょ、マジやばいんだけど…」
   高畑に笑顔で手を振り立ち去る朋子。
   勢い良くお辞儀する高畑、高揚気味の笑顔である。
   不思議そうに朋子と高畑を見る由真。
由真「何者?何なの?」

○県立西高校・外観

○同・3年A組教室・内
   授業中である。窓際、後ろから3番目の席に座っている由真、
   難しい顔で頬杖をつき、うーんと首を傾げながら一人一人生徒を見つめる。
   30人くらいの生徒、皆同じ制服を着て同じように前を向いているが、
   ボーッとしていたりこっそりスマホを見ていたり、
   真剣に授業を聞いている生徒はいない。
   萌音は授業を聞かず、熱心に問題集を解いている。
   菜緒は頬杖をついたまま眠っている。
   光の顔は、窓に向いている。
   物憂げに窓の外をじーっと眺める光。
   光の横顔に見とれる由真。小さくため息をつく光。
   真似して小さくため息をつく由真。

○浜中自動車学校・教室(夕)
   ひな壇型に長机と椅子が備え付けられた広めの教室。
   最後列の席に座って、教室を見渡している由真。
   水商売風の派手な服を着た、東南アジア人らしき容貌のディアナ(41)、
   金髪にオーバーサイズのジャージを着たマスク姿の若いカップル、
   首元がタルタルになったTシャツを着たボサボサ頭の若い男性、
   額に傷のある強面の中年男性が座っている。
   朋子がハイヒールをかつかつ鳴らして入ってくる。
   由真、朋子に気づき顔を歪め、
由真「うわっ」
   朋子、他の生徒たちに、“よぉ”とか
   “ハロー”とか挨拶しながら由真の方へ向かう。怪訝そうに朋子を見る由真。
朋子「よー“影ある系気取りたガール”どした?変な顔して」
由真「え、は?何?友達なの?」
   眉を顰め、ぐるりと教室の生徒たちを指差す由真。
   朋子、ニコッと笑顔で返し由真の隣に座る。
朋子「少女、君の名は?」
   由真のファイルを手に取り、見る朋子。
由真「ちょ、勝手にやめてよぉ!」
朋子「渋谷由真、18ちゃいかぁ」
由真「先に自分が名乗るのが礼儀でしょー」
   ファイルを由真に返す朋子。
朋子「私、茂田朋子。モコちゃんね。由真た
ん、よろー」
   ニコッと微笑む朋子。呆れ顔でため息をつく由真。チャイムが鳴る。
   年配の教官1が入ってくる。 
教官1「はい、じゃあ始めますよー」
   笑顔でノートを開く朋子。チラリと朋子を横目に見る由真。窓の外、夜空。

○同・食堂(夜)
   窓際の席で1人、窓の外を物憂げに眺めながらカップラーメンを食べる由真。
   テーブルの上、ガチャンと定食を乗せ
   たトレイが置かれる。驚いて前を見る由真。笑顔の朋子が正面に座る。
朋子「この定食いくらだと思うー?」
由真「360円でしょ」
朋子「え、それ知ってて、敢えてのそれ?」
   カップラーメンを指差す朋子。
朋子「何?360円高い?じゃなくて…あー」
   意味有り気に頷く朋子。
由真「家じゃ食べないから。お母さんこうい
うの買ってこないから」
朋子「あら。“デブ過ぎて死ぬんで”とか“栄養とかどうでもいいんで”とかいうかと思った」
   ふん、と鼻で笑う由真。
由真「んなこと言ったら、どーせ思春期とか普通とか言ってバカにすんでしょ」
   食事しながら由真を見つめる朋子。
麺をすする由真、咀嚼しながら、
由真「すごい言うよね。あなた」
朋子「モコちゃん」
由真「も、モコ、モコ山さんさぁ」
朋子「おい!どっから山持ってきた!」
由真「思春期に向かって思春期とか、その、
 恥ずかしい感じのとこエグるとか、
 しなくない?大人って普通」
   ズルっと麺をすする由真。
朋子「そう?なんか、由真たんはエグっといた方がいい気がして」
   え?と朋子を見る由真。
朋子「特別、だお。好きでしょ?特別」
由真、麺を咀嚼しながら朋子を睨む。
ディアナが教科書を持ってやってくる。
ディアナ「モコぉ」
朋子「どした?ディア。座んな座んな」
   朋子の隣に座るディアナ。
朋子「あ、ディアちゃんね。由真ちゃん」
ディアナ「由真ちゃん、よろー」
   曖昧な笑顔で会釈する由真。
ディアナ「ねぇ、“高齢者が通行しているそばを通るときには、
 一時停止か徐行をしなければならない”何でバツ?」
   教科書を覗きにこむ朋子。
朋子「ん?え?マルじゃないの?」
   由真、教科書を覗き込む。
由真「あー…“しなければならない”ってところが間違いなの」
ディアナ「何でよ。優しさ、必要でしょ?」
由真「そうだけどーマストじゃないの」
   由真を感心したように見つめる朋子。
○県立西高校・食堂・中
   デーブルを囲む由真、萌音、菜緒。
   弁当を食べながら、ぼーっと1点を見つめる由真。
   視線の先、いつも光が座っている席に光の姿がない。
   萌音、スマホをいじりながら、
萌音「あーまたウザいDMきてる」
菜緒「何て?」
萌音「芸能界のお仕事に興味ありませんか?ってヤツ。これ系めっちゃくるんだけど」
   萌音、顔をしかめながらもどこか得意げである。
菜緒「あー。あれって何なの?詐欺?エロ?」
  萌音、少しイラっとした表情。
萌音「え。私の写真って、全然エロ系じゃな
 いんだけどなぁ。ま、最悪エロもありっち
 ゃありだけど。最終ね」
   弁当を食べながら萌音と菜緒の話を聞いている由真。
菜緒「えー、仕事なんていっぱいあるじゃん。
 そっち系行く人て、よっぽど、超絶、笑え
 ない闇抱えてるとかじゃない?」
萌音「あぁー川瀬とか?」
   え?と、表情がこわばる由真。
菜緒「わーあるなぁ。すでにやってそう。いや、やってるわ。
 あの無駄にイケてる顔と体であの闇は。うん。やっとるやっとる」
   俯く由真、箸を握る手に力が入る。
萌音「エロー。やばー。あーだめ、川瀬のこと、もうそういう目でしか見れない」
   由真、箸をバンとテーブルに置いて立ち上がり、
由真「川瀬さんはそんなことしない!」
   箸、勢い余って床に転がる。
萌音「はぁ?何キレてんの?こっわ」
菜緒「情緒不安定かよ」
   昂ぶった様子で拳を握り、震える由真。
萌音「何あんた。そんな言い切れるほど、川瀬のこと何か知ってんの?」
   由真、俯く。
菜緒「ソースなしかよ」
   由真を一瞥し、転がっていた箸を蹴飛ばしながら出ていく萌音と菜緒。
   由真、深呼吸し、箸をゆっくりと拾う。
由真「何にも知らないくせに。バッカみたい」
  由真、袖で目元をぬぐい、
由真「私…」

◯川瀬家・光の部屋
   ベッドの上で、仰向けになり放心状態の光、胸元ははだけている。
   バタンと扉が閉まる。
   光の目から、すーっと涙が流れ落ちる。

◯浜中自動車学校・外観(夕)

◯同・喫煙所(夕)
   ベンチに座りタバコを吸っている朋子。
   朋子の隣、ベンチの上で体育座りし、膝に顔を埋める由真。
由真「エロいとか、やってるとか、闇とか…
そんな最悪なこと、するわけないし…」
 目を伏せ、憂いを秘めた表情でタバコを吸う朋子。
由真「で、でも。私、オワタ…」
朋子「後悔してんの?」
   ズズッと鼻をすする由真。
由真「してない…あそこで、いっつもみた
いに、テキトーに笑って、合わせてた方が、
何か、後悔してた…多分」
   由真の頭をポンポンと軽く叩く朋子。
朋子「やっぱ由真たんは、いい奴だ」
   え?と朋子を見る由真。
朋子「友達のことでムキになれるなんて」
由真「友達ってほど、話したこともないって
とこがアホすぎる…」
   ふっと笑う朋子。
朋子「私も由真みたいな友達がいたらなぁ」
  遠い目をする朋子。
由真「友達じゃないの?」
   え?と由真を見る朋子。由真、きょとんとした顔で朋子を見ている。
   朋子、優しい笑顔で由真の頭をポンポンする。
   

◯一般道を走る教習車(夜)

◯教習車の中(夜)
   ハンドルを握る朋子。
   助手席の高畑、朋子をチラチラ見る。
朋子「何ですかぁ?」
   高畑、慌てて、
高畑「え?あ、いえ…運転慣れてますね」
朋子「そうですか?あ、言っときますけど、初めてですからね!免許とるの」
高畑「あ、そうなんすか…へ、へぇ…」

◯道(夜)
   赤信号で停車する、教習車。

◯教習車の中(夜)
   助手席の高畑、朋子をチラチラ見る。
   朋子、高畑の方をくるっと向いて、
朋子「どうぞ!信号待ちの間だけカリン様ターイム」
  高畑、嬉しそうに、
高畑「カリン様ぁ!ずっとお世話になってました!
 15年間お疲れっした。ありがとうございます!
 痴女教師シリーズとかまじ最高でした」
   朋子、ブッと吹き出す。
朋子「割と最近のじゃん。ありがとう」
高畑「あー信じらんないこの状況。てかてか、
 何でこんなとこに?出身こっちなんですか?
 あ、合宿で来てるんでしたっけ?」
   自嘲気味にフンと笑う朋子。
朋子「縁もゆかりもない街だからよ。ま、君には即バレしちゃったけど」
高畑「あー…すんません!」
   朋子、明るい調子を繕い、
朋子「あと、合宿って言っても、ホテル
 ステイで通えるし。セントラルホテルに2週間って最高ねー」
   高畑、優しく微笑む。

◯渋谷家・外観(夜)

◯同・リビング(夜)
   食事をしている由真、多恵、渋谷稔(50)。
由真、手に持った箸を見つめて、ため息をつく。
由真「やっぱ死にたいかも」
   由真を見る多恵と渋谷。

◯道(夜)
   車通りの多い道、ふらふらと生気のない顔で歩く光。
   光、足を止め、車道を行き交う車を見つめる。

◯渋谷家・リビング(夜)
   多恵、パクパクご飯を食べながら、
多恵「あんた、死ぬって意味わかって言ってんの?」
  正面の席、多恵を見る由真と渋谷。
   
◯教習車の中(夜)
ハンドルを握る朋子。
   腕時計を見ている助手席の高畑、
高畑「カリン様…」
朋子「今は茂田です。茂田朋子」
高畑「あ、茂田さん次右曲がって戻りま…」
高畑、ふっと視線を上げる。

◯渋谷家・リビング(夜)
   パクパクご飯を食べる多恵。
   多恵を見る由真と渋谷。
由真「は?何歳だと思ってんの?」

◯教習車の中(夜)
驚いた表情の朋子、助手席の高畑。
高畑「あぶないっ!!」

◯渋谷家・リビング(夜)
テーブルの上に箸をバシッと置く多恵。

◯道(夜)
   クラクションの音が響く。
走る教習車の前、立ち尽くす光。
ブレーキ音が響く。

◯渋谷家・リビング(夜)
   ビクッとする由真と渋谷。
   正面に多恵が座っている。
多恵「だからよ」
由真「え?」
多恵「18歳で終わらせたいと思うような生活、
 そんな悲しい生活させてきたつもりないんだけど」
   ハッとする由真。静かにご飯を食べる渋谷。遠くで救急車のサイレン音。

◯浜中自動車学校・外観(夜)

◯同・エントランス・中(夜)
   ベンチに座る光、暗い顔で俯いている。
   しゃがみこんで光の顔を見上げる朋子。
朋子「どこも痛くないのね?」
   力なく頷く光。朋子の隣に立つ高畑、
高畑「転んでもないから、大丈夫かと。いやぁ、ナイスハンドル捌きでした」
朋子「で、お家は?親御さんにいちおさ、ね」
   光、ぐっと唇を噛み締め黙り込む。
   困り顔で見合う朋子と高畑。

◯渋谷家・外観(朝)

◯同・玄関・中(朝)
   靴を履く制服姿の由真、暗い表情。
   弁当を手に、多恵がやってくる。
多恵「お弁当、はい」
   多恵から弁当を受け取る由真。
多恵「行ってらっしゃい」
   ニコッと由真に微笑みかえる多恵。
   由真、照れ臭そうに多恵に背を向け、
由真「行ってきます」
   由真、出ていく。
   ウヒっといたずらっぽく笑う多恵。

◯県立西高校・外観(朝)
   賑やかな生徒たちの声。

◯同・3年A組教室・内(朝)
   談笑している生徒たち。おはようと挨拶しながら入ってくる生徒たち。
   2人でスマホを見ながら、ヒソヒソと話している萌音と菜緒。
萌音「やっば」
菜緒「絶対そうでしょ、これ」
   暗い表情で由真が入ってくる。
   由真に、気づき萌音に合図する菜緒。
   由真、自分の席に座る。
   萌音と萌音が由真の席にやってくる。
由真、萌音と菜緒を見上げ、
由真「お、おはよ…」
   菜緒、由真の顔の前にスマホを差し出す。スマホの画面を見る由真。
   スマホの画面、動画のスタート画面。
萌音「再生してみ」
   スマホを受け取り、動画を再生する由真。動画にはベッドの上に座る光の姿。
由真「え?」
   ニヤニヤし合う萌音と菜緒。
   動画、光の肩に伸びる、男性の手。
   そのまま、ベッドに押し倒される光。
   仰向けになった光の顔のアップ。
   光の頬に伸びる男の手。
男の声「光…光ちゃん」
   動画を停止させる由真、唖然とした顔。
萌音「だから言ったじゃん」
菜緒「もしかしてーと思って、検索したら、
 マジで出てくるとか。びっくり。名前とか
 地名とかタグついちゃってるし」
   ゆっくりと萌音と菜緒を見上げる由真。
萌音「知らなかったでしょ?」
由真「知らない。何にも知らない」
菜緒「でしょ?なのにいきなりキレて。うちら悪いみたいなさぁ」
由真「でも、萌音も菜緒も知らないでしょ?
何で、何で、川瀬さんが、こんな、こんなことしてるか…どんな気持ちで…とか」
   え、と驚いたような萌音と菜緒。
由真「わ、私は知りたい!」
   勢いよく席を立つ由真。カバンを手に、駆け出す。
萌音「ちょ、由真!」
   由真、振り返り、
由真「誰にも言わないで、見せないでね!それ。絶対だよ!」
   由真、出ていく。数名の生徒が萌音、菜緒に近づいてくる。
女子1「何何?」
男子1「見せろよ」
   慌ててスマホを隠す菜緒。
菜緒「何でもねーよ!うざいな」
萌音「しっし!」

◯道(朝)
   全力疾走する由真、ハッと何か思い出し、ゆっくりと足を止める。
   大きく肩で息をする由真。
由真「ど、どこ行けばいいんだ?か、かわせ
 さん、どこ?」

◯セントラルホテル・外観
   高級感ある大きなホテル。      

◯同・エントランス・中
   黄色いトレンチコートを着た朋子と光
   が一緒に歩いている。
朋子「話したくないなら聞かないけど、家、
 どうしても帰りたくないなら、また泊めて
 あげるからね」
   静かに頷く光。
朋子「って言っても私、あと1週間もいないんだよなぁ。こっち」
   え?と不安げに朋子を見る光。
朋子「あっ!」
   朋子、バッグから真新しいスマホを取り出し、光に差し出す。
朋子「持ってなよ。これ。貸したげる。誰に
も番号教えてない、まっさらな奴だから」
光「え?」
朋子「ちょっと、別の人生をと思って。って
 それは良くて。何かあった時、死にたいって時、
 助けてって言える人、登録しとき」
   光、スマホを受け取る。

◯駅前の道
   うーんと悩みながら歩く由真。
   由真、ふと顔を上げると、セントラルホテルから出てくる光の姿が見える。
由真「え?ウソ!川瀬さん!」
   由真、光と並んで歩く朋子に気づき。
由真「はぁ!?」
   朋子、由真に気づき、
朋子「あら、由真たん!」
   え?と由真を見る光。
   由真、ホテルと朋子と光とを見て、
由真「何で?え?は?」

◯駅前ロータリー
   浜中自動車学校の校名が入ったマイクロバスが発車する。

◯マイクロバスの中
   後部座席に並んで座る由真、光、朋子。
由真「そして、なぜこうなる」
朋子「だってぇ。私、今日仮免なんだもん。
 落とせないでしょー。でもサボりのJK2人
 街に放って行けないしさぁ。あそこも学校
 っちゃ学校だから、ね」
   ため息をつき、光を見る由真。
   物憂げに俯く光の横顔。

◯浜中自動車学校・外観

○同・食堂
   黄色いトレンチコートを着ている由真、朋子と光がいる。
由真「いや、おかしいでしょ。この格好」
朋子「何よぉ。サボりのカモフラージュ手伝ってあげてんのにぃ。そのコート30万く
 らいしたんだから。汚さないでね」
   驚いて着ているコートを見る由真。
由真「やっばぁ!センスと財力!何この色」
朋子「普通に黄色でしょーよ」
由真「アウターに黄色って。選ばないでしょ
普通」
朋子「えー。可愛いじゃん。あ、ほらほら信号も、
 黄色って“ビビってる暇あったら進め”でしょ?私にぴったりーって」
由真「いや、黄色は基本“止まれ”だから。止まった方が危ない時だけ進め、だから。
 マジ仮免落ちるよ」
   フッと笑う光。同時に光を見る由真と朋子。朋子、歩きながら、
朋子「受かる受かる!じゃ、私、行ってくるから、2人、仲良くなるんだよ。
 あ、学校行けるんなら行きなよ!ね、ね」
   朋子、出ていく。
朋子の声「あ!」
   バタバタという足音。
   朋子、入口から顔を覗かせ、
朋子「ピカリン、アレ!由真の聞きな、ね」
   静かに頷く光。
   ニコッと笑顔を向け、立ち去る朋子。
由真「ピカリンて…」
   不思議そうに光を見る由真。
   由真をまっすぐ見る光。
光「何?」
由真「あ、いや、あ…あの…」
× × ×
(フラッシュ)
   仰向けになった光の顔のアップ。
   光の頬に伸びる男の手。
   × × ×
   光から目をそらす由真。
光「さっきみたいに言えばいいのに」
由真「え?」
光「ズバって。思ったこと、はっきり」
   由真、驚いた表情。
光「面白かった」
   ふふっと、笑顔になる光。
   パァッと笑顔になる由真。
由真「川瀬さんも笑った方が、可愛いよ」
   光、ポケットからスマホを取り出し、由真に渡す。え?と光を見る由真。
光「わかんないから。やって」
由真「私と連絡先、交換してくれるの?」
   頷く光。嬉しそうに頷く由真。
   ディアナがやってくる。2台のスマホを左右にフリフリしている由真。
由真「これで交換できるんだよぉって…あれ?!」
   スマホの画面、『ディアナを追加しました』の表示。バッと顔を上げる由真。
   ディアナがスマホをフリフリしながら立っている。
ディアナ「ディアちゃんだよー。よろー」
   ディアナに向けて、ペコっと小さく会釈する光。
由真「もぉーーー勝手に参加しないでよぉ」
   
◯同・エントランス・中
   由真、弁当を光に手渡し、
由真「よかったら、これ。うちのお母さんが作った、普通の、ふっつーの弁当だけど」
   え?と由真を見る光。
由真「栄養、摂らないとダメだよ」
   光、弁当箱を受け取り。
光「いいの?」
   由真、笑顔で頷く。
光「いただきます」
   光、笑顔で出ていく。手を振る由真。
   由真、エントランスの外、『試験中』
   の表示をつけた教習車の運転席へ向かう朋子の姿に気づく。

◯同・エントランス・外
   由真がやってきて、朋子の乗った教習車を見ている。
由真「うっわ。緊張してんじゃん」
   スマホを取り出し、楽しそうに教習車を動画撮影する由真。
外山の声「お、カリン様だ。仮免か?」
   声の方を振り返る由真。
   喫煙所でタバコを吸っている高畑と外山の後ろ姿が見える。
高畑「茂田さん。“茂田朋子さん”だろ」
外山「いやぁ、こんなとこにあの伝説のAV嬢
 が来るなんてなぁ」
   驚いた由真の顔。
高畑「やめろよ。ここじゃ免許取りに来た、ただの生徒さんだろ」
外山「でも、何でこんな中途半端な田舎に。
 あ、スカウトでもしに来たんかな?純粋な田舎娘を!」
   ガシャッと物音がして、振り返る高畑
   と外山。落ちたスマホを拾い上げ、走り去る由真の姿。
外山「やべ、聞かれたかな」
   心配そうな高畑の表情。

◯公園
   ベンチに座る由真、俯き、深刻な表情
   で一点を見つめている。黄色いトレンチコートを着たままである。
由真「最悪…最悪すぎるでしょ…」
   頭を抱える由真。

◯浜中自動車学校・食堂(夕)
   朋子が慌てて入ってきて、キョロキョロと辺りを見渡す。朋子、寂しそうに、
朋子「いないか…」
   ため息をつき、出ていく朋子。

◯同・廊下(夕)
   朋子、歩いてくる。
朋子「てかコート!」
   うなだれる朋子。高畑がやってくる。
高畑「茂田さん!」
朋子、ん?と高畑を見る。

◯同・喫煙所(夕)
   ベンチに座り、タバコを吸う朋子。
朋子「そっかぁ…バレちゃったか」
   朋子の隣に座る高畑、
高畑「すみません」
朋子「何で謝るのよ。誰も悪くないでしょ」
高畑「まぁ、そうですけど」
   朋子、ふぅーっと煙を吐き、
朋子「でも、何か。やっぱ、嫌われちゃうかなぁ。アレなのかなぁ。
 信用とか…人として?友達として?無理なのかなぁ」
高畑「うーん。自分はまぁ、色々教わって。
 マジで、ねぇ。女の子を傷つけたり、
 取り返しのつかないことしないで済んだのもカリン様のおかげで」
   朋子、悲しげな微笑みを浮かべる。
高畑「感謝しているし、尊敬してるんで」
朋子「ありがとう、先生」
高畑「はい!ここでは僕が先生です!」
   微笑み合う高畑と朋子。
 
◯渋谷家・外観(夜)

◯同・由真の部屋(夜)
   床に脱ぎ捨てられた黄色いトレンチコート。ベッドの上に、うつ伏せになっている由真。

◯コーポ南田・外観(夜)
   年季の入った、小さな木造アパート。

◯同・川瀬家・ダイニングキッチン(夜)
   玄関を開けてすぐの狭いスペース。キッチンの周りには
   酒の空き缶やカップラーメンの空が散在している。
   古びた安っぽいダイニングテーブルの上、由
   真から受け取った弁当箱をおく光。
   光、弁当箱の蓋を開けて驚く。
   弁当、ご飯に海苔で『死ナセン!』と書かれている。フッと笑う光。
光「これが、普通?」
   涙目で弁当を食べる光、どんどん涙が溢れ、嗚咽が漏れる。  

◯県立西高校・外観(朝)

◯同・3年A組教室・内(朝)
   神妙な面持ちで席に座っている萌音と菜緒。由真が入ってくる。
   由真に気づいて、駆け寄る萌音と菜緒。
萌音「何かわかった?」
由真「あ…うん、まだ…なんだけど」
光が入ってくる。光に気づき、深刻な顔で俯く由真。光がやってくる。
   え?と光を見ると萌音と菜緒。
   光、弁当箱を由真の机に置く。
   光を見上げる由真。
光「ごちそうさま。って、お母さんに」
   立ち去る光。
由真「あ、うん…」
   光の背中を見つめる由真、悲し気。

◯教習車の中(朝)
   ハンドルを握る朋子、物憂げ。

◯県立西高校・3年A組教室・内
   授業中。窓の外をボーッと眺める由真、
   悲し気に、物思いにふけっているよう。

◯浜中自動車学校・教室
   授業中。窓の外をボーッと眺める朋子。
   悲し気に、物思いにふけっているよう。

◯渋谷家・由真の部屋(夜)
   机に座り、ジッと1点を見つめ、物思
   いにふける由真。
   由真、ラックにかかった黄色いトレン
   チコートを見つめ、悲しく気な表情。
    
◯渋谷家・外観

◯同・由真の部屋
   ベッドで眠っている由真。
多恵の声「ゆーまー!ゆーまー!」
   ドタドタと足音がして扉が開き、多恵が入ってくる。
多恵「ちょっと!何時まで寝てんの?!」
   由真、頭まで布団をかぶり、
由真「うるさいなぁ、今日土曜でしょー?」
多恵「自動車学校!最近サボってるでしょ!
行きなさい!」
  由真、布団の中で目を開ける。
  多恵、ラックにかかった黄色いトレンチコートをじーっと見て、
多恵「あら?これ、あれじゃない?もしかしてカリン様着てたやつ?」
   ガバッと起き上がる由真。
由真「何で?何で知ってるの?」
多恵「えーだって、お金払いに行った時、教習所ですれ違ったもん。着てた着てた!」  
由真「カリン様って!何で知ってるの?」
多恵「あんた、ママが何年ギガラで働いてると思ってんの?」
   驚いた顔で多恵を見つめる由真。
多恵「見覚えある顔だなぁって、うっかり挨拶しちゃって。
 そしたら笑顔で返してくれてさぁ、いい人!」
   多恵、ベッドの上に座る。
由真「挨拶だけで、そんな…」
多恵「いやぁ、あの人はすごいわよ。10年?もっとか。
 ずっと第一線で、すごい人気だったんだから。カッコいいよね。ママ憧れちゃうわぁ」
   え?と多恵を見る由真。
由真「カッコいいって、AVでしょ?」
多恵「は?自分が決めた道で頑張って、成功
した人よ?カッコいいじゃない?違う?」
   由真、ハッとした表情。
多恵「仲良くしてもらいなぁ」
由真「ママって、そういうの“うわっ”とか
言って眉間にしわ寄せるタイプの、普通の大人だと思ってた」
  多恵、フッと笑い。
多恵「何年ママの子やってんのよ?送ってくから準備しなさい。コートも持って、ね」
由真「うん!」

◯浜中自動車学校・喫煙所
   ベンチでタバコを吸っている朋子。
黄色いトレンチコートを手にやって来る由真、朋子の隣に座る。
朋子「副流煙吸いに来たの?」
由真「やめてよ」
   フッと笑う朋子。
朋子「AVって」
   え?と朋子を見る由真。
朋子「AVって、何歳で出れるか知ってる?」
由真「二十歳じゃないの?」
朋子「18」
   え?と朋子を見る由真。
朋子「私、18でデビューしたの」
由真「今の、今の私と同じ年…」
朋子「でも、スカウトしたりなんかしないからね、私」
由「だ、だよねー」
  フフッと笑う朋子。
朋子「私はさ、別に事情ってほどのものはなくて、
 背景はあったかもしれないけど、
 まぁ、軽い気持で。でも、自分で決めたことだからって、
 うん。やりきった。うん」
   朋子をじっと見つめる由真。
   朋子、遠い目をして、
朋子「今までの選択、全部後悔とかないし。
 でも、できなかったこと、しなかったこと、
 いっぱいあって。免許取るとか、友達とは
 しゃいだり、喧嘩したり?」
   朋子、フフッと由真に笑いかける。
由真「うん」
朋子「やってみようかなって。選ばなかった、別の生活、普通?の生活。やってみようかなって」
   朋子をじっと見つめる由真。
朋子「でも、他の人は、知ったこっちゃないよね、過去の、これまでの続きの人生…」
   ははっと諦めたように笑い、タバコを灰皿に捨てる朋子。
由真「お母さんが…」
   え?と由真を見る朋子。
由真「うちのお母さんが、あなたはカッコいいって。仲良くしてもらえって」
   由真、意を決したように、
由真「私、あなたみたいな大人になりたい」
  由真を見つめる朋子、驚いた表情。
由真「モコさんみたいな…免許持ってなくても、
 友達いなくても、変な名前で呼ばれてても。
 うん。好きだもん。18歳の茂田朋子も、きっと好きって思うよ。うん」
   涙を流す朋子、笑いながら、
朋子「免許は取れ!」
   由真、笑顔で、
由真「はい!てか、あ、そうだコート…」
   血相を変えて、ディアナがやってくる。
ディアナ「由真!!」
   え?とディアナを見る由真と朋子。

◯道
   走る車

◯走る車の中
   深刻な顔で後部座席に座る由真と朋子。
   由真、黄色いコートを膝に抱えている。
朋子「そんな動画…何で、もっと早く誰かに
相談しなかったの」
由真「だって、言えなくて…」
   険しい表情でハンドルを握る高畑。
助手席に座るディアナ。
ディアナ「次の信号、右ね」
高畑「ディアさんが家知っててよかった」
ディアナ「川瀬の子でしょ?川瀬、ディア
 の店来て、すげぇ酔っ払って、家運んだよ。
 アイツ、嫌な奴。動画、もしかしたら…」
  怒りと悲しみを押し殺すように固く目を瞑る朋子。
  信じられないという驚きと恐怖の表情を浮かべる由真、
  スマホを握る手にギュッと力が入る。スマホの画面、
  光から由真とディアナ宛のメッセージ『たすけて』。

◯ハイツ南田・外観

◯同・川瀬家・光の部屋
   ドンドンとドアを激しく叩く音。
   ドアの前、カラーボックスや本などが置かれ、ドアが塞がれている。
川瀬の声「なぁ、光?開けろよ!なぁ」
   スマホを握り、震えている光。
◯同・ダイニング
   ドアを叩く、川瀬邦和(39)。
川瀬「こないだのさぁ、すげぇ金になったん
だよ。もう1回やろうぜ。な、1回だけ」

◯川瀬家・光の部屋
  光、頭を抱えて座り込んでいる。
川瀬の声「おい!ここまで食わしてやった の誰だと思ってんだよ!
 返せよ!お前が死んだあの女の、母親の代わりやれよ!」
  ガチャガチャとドアノブを激しく回す音。少し扉が開く。
光「助けて…」

◯ハイツ南田・外
   高畑の車がやってきて止まる。

◯車の中
   後部座席、ガタガタ震えている由真を心配そうに見る朋子。
朋子「大丈夫?ここで待ってる?」
   由真、膝の上の黄色いトレンチコートをギュッと握りしめる。
   
◯同・ダイニング
   光の部屋のドアを力任せに開けようとする川瀬。ピンポーンとチャイムが鳴る。
   意に介さず、ドアを開けようとする川瀬、少しドアが開く。
   チャイムが何度も連続で鳴る。
高畑の声「川瀬さーん。川瀬さーん!」
川瀬「うっせーな!」

◯同・玄関・中
   鍵を開け、扉を少し開く川瀬。勢いよ
   く押入ってくる朋子、由真。
由真、黄色いトレンチコート姿。
川瀬「てめ!おい、何だてめーら」
   朋子たちを止めようとする川瀬。
   川瀬を後ろから羽交い締めにする高畑。
川瀬「うお!何だよ!離せ!」
   朋子、由真、辺りを見回しながら、
朋子「光!光!」
由真「川瀬さん!」

◯同・光の部屋
   光、ハッとした顔で、ドアの前の荷物を懸命にどかしながら、
光「助けて…助けて!!」

◯同・ダイニング
   光の部屋の扉の前、走ってくる朋子、由真。
   光が飛び出してきて、朋子に抱きつく。声をあげて泣く光。
   高畑に羽交い締めにされている川瀬、ジタバタ暴れながら、
川瀬「おい!光!何泣いてんだよ!てめー。
俺の娘だろ!助けろよ!」
  川瀬をビンタするディアナ。
ディアナ「お前、娘に何させた?!」
   川瀬、ディアナの顔めがけて、ブッと唾を吐きだす。顔をそむけるディアナ。
   川瀬の唾を手のひらで受け止める高畑。
高畑「汚ないなぁ」
   川瀬のシャツで手を拭う高畑。
川瀬「きたねーのはこいつらだ!お前だって大した
 変わんない仕事してんだろ?女売って稼いで。
 偉そーにヨォ!そいつだって他に生きてく方法ねーんだよ。
 それを、俺が教えてやったの。自らね」
  怒りに震えるディアナ。川瀬を睨み、立ち上がろうとする朋子。
由真「(大声)わーーーわーーーわーーー」
   驚いて由真を見る朋子、光、川瀬、高畑、
 ディアナ。由真、トレンチコートの裾をギュッと握り、
由真「喋んな、クズ。黙れ、黙れ、黙れ!」
川瀬「何だクソガキ。似合わねー服着て?あーお前は金になんないな。ぶははは」
由真「違う!全然、全部違う!お前は、お前
 みたいなヤツは何も決めるな。誰のこともわかったようなこと言うな!」
   由真、しゃがみこんで光に向かい、
由真「川瀬さん!たった、18でね、死にたいと、終わらせたいと思うような、そんな、そんな悲しい生活させる人はね、親じゃないんだよ」
   え?と由真を見る光。
由真「あの人、無関係。これからの川瀬さんの人生、
 あの人、二度と現れない、関係ない、そうできるよね?
 モコさん。ピカリン、笑顔で生きてけるよね?
 今の、今までの続きじゃない、普通の、普通に幸せな生活」
   ゆっくりと頷く朋子。涙を流す光。
   パトカーのサイレン音。

◯県立西高校・外観(朝)

◯同・3年A組教室・内
   授業中である。
   光の席を見る由真。空席である。
   ため息をつき、窓の外を見つめる由真。
   窓の外、チラチラと雪が舞う。

◯道
   下を向き、トボトボと歩く由真。
光の声「渋谷さん!」
   顔を上げる由真、信号の先に光が立っている。光、笑顔である。

◯公園
   ベンチに並んで座る、光と由真。
由真「川瀬さん、学校こないし、スマホも
 繋がらないし。モコ山も、知らないうちに
 いなくなってて…」
光「ごめん。まだ色々大変で…」
由真「ううん!違う、責めてるわけじゃ…」
   光、俯き、言葉をひねり出すようにゆっくりと話し始める。
光「あの人…あの人ね、母の再婚相手で。
 でも、母が死んで、他に親戚とかいないし、
 あの人の言うこと聞く以外、生きる、生きる方法ないって…」
由真「無理に…話さなくても、いいよ」
光「渋谷さんのおかげで、できるかもって、
 なれるかもって“普通”に普通の生活」
   優しく微笑む由真。
光「学校は、何とか卒業できるように、いろいろ、先生たちもやってくれてるし」
由真「卒業できるの?よかった」
   笑顔で頷く光。
光「あ、スマホはね」
   ポケットからスマホを取り出す光。
光「これ、モコさんのなの」
由真「え?」 
光「私のこと心配して、持たせてくれたの」
   手に握ったスマホを見つめる光。
由真「そう、そうだったんだ」
光「返さないとって、思ってるんだけど」
   スマホを見つめる由真。 
由真「行こう」
光「え?」
   由真、勢いよく立ち上がり、
由真「行こう!モコさんとこ」
   じっと由真を見つめる光。
   由真、照れを隠すように、
由真「あ、ほら、私もコート返さないとで、あの黄色い、やばい奴」
   光、フッと笑い、
光「うん。行こう」
   由真、カバンをゴソゴソと漁る。
   不思議そうに由真を見る光。
由真「ジャジャジャジャーン!」
   普通自動車免許証を印籠のように光に見せる由真。え?と由真を見る光。
由真「私の運転で行こうよ!ね!どこでも行けるよ。行こう行こう!」
   じーっと由真を見つめる光。
光「いや、いい」
  光、バッと立ち上がり、歩き出す。
由真「え?何で?何でよぉ?」
   光を追いかける由真。光、振り返り、
光「死にたくないから」
由真「え?」
光「“何で?”って、まだ死にたくないんで」
   光、明るい笑顔。つられて笑顔になる由真。
由真「死なせんよ!」
   プッと吹き出す光。
光「渋谷さんって、お母さん似でしょ?」
由真「え?何で?何で?」
   楽しそうに歩いていく、由真と光の後ろ姿。

<終わり>

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