最後のエンターテイメント その他

主人公の有北利男(としお)は売れない三流俳優。そんな彼は今、ビルの上にいた。意を決し飛び降りようとした瞬間、彼の元に一本の電話が…。  心のどこかに生に対する執着のあった彼はその電話に出てしまう。電話は疎遠になっていたかつての友人、星野からのもので、その内容は「いま隣の部屋で人質事件が起きている」というものだった。そして「どうせ死ぬなら、人の役に立って死ね」という内容のものだった…。 そして星野が利男の前に現れ、衝撃の真実を伝える。彼の本当の目的とは一体……
古屋貴幸 487 6 0 04/14
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第一稿

【最後のエンターテイメント】

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【最後のエンターテイメント】

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2019.4.14(日)

古屋 貴幸(ふるや たかゆき)


【登場人物】

有北利男(29)11年間、売れない三流俳優。本名は(としお)なのだが、音読みすると(あり
        きたり男)。
星野流一(29)売れっ子俳優。反対から読むと一流の星(スター)。
城田武美(35) 逃走中の殺人犯。
山田花子(6) 人質の少女。
三木実(58) 敏腕ディレクター。
女子アナ(22) NEWSフジのアナウンサー。
花子の父と母、カメラマン、リポーター、警察官、消防隊員、野次馬たち。


【最後のエンターテイメント】

※この物語は前半が全て伏線になっています。
 その為、台本の状態じゃないと読みにくい可能性があります。
 申し訳ございませんが、あらかじめ了承下さい。
 
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○ホテル日の出・外観(朝)
   さびれたホテル。   
   
○同・部屋1・室内(朝)
   ホテル高層階の一室。
   机の上には食べかけの豪華な食事と、スケジュール帳。
   殆ど「バイト」の文字で埋まっており、たまに「エキストラ」の文字。
   有北利男(29)窓の鍵を壊している。
  #1壊れた鍵。
  『#』繋がっているシーンは全て(伏線)です。
   部屋の外は大人一人が立っても多少余のあるスペースが空いている。
   そこに立つ有北。

○同・部屋1・外(朝)  
有北N「人間は生まれながらに不平等だ」
   #2有北、目をつぶり両手を広げる。
有北「よし(飛び降りようとする)」      

○同・ホテル下の歩道(朝)
   飛び降りようとする有北の姿。
   通行人たち「キャーーーーー」
  #3驚いた鳥たちが一斉に飛び立つ。
   
○同・部屋1、2・外観(朝) 
  #3驚いた鳥たちが部屋1の方向から部
   屋2の方向へ飛んで行く。
   部屋2の中で倒れる人影。

○同・部屋1・外(朝)
通行人たち「キャーーーーー」
有北「(下を見てしまう)あ…」
通行人1「おい!バカな真似はよせ!!」   
通行人2「死んじゃダメよ!考え直して!!」
有北「何も知らねぇくせに…うるせぇんだよ」
   有北、飛び降りようとするが、通行人達の悲鳴が気になり、飛び降りれない。
有北「見てんじゃねぇよ…」
   通行人たちは有北に釘付けである。
   呼吸を整える有北。
有北「…よし(飛び降りようとする)」
   通行人たちの悲鳴。
   と、携帯電話が鳴る。
   有北、携帯電話を見て顔をしかめる。
有北「…は?」  
   有北、電話に出る。
有北「…もしもし」

   タイトルロール『最後のエンターテイメント』

○フジテレビ・スタジオ
   スタッフ達は背中に「NEWSフジ」の文字が入ったTシャツを着ている。
   星野流一(29)の姿。
女子アナ「明後日からスタートする新ドラマ、敗北ヒーローに出演する星野流一さんです」
星野「よろしくお願いします」
女子アナ「まずはこちらをご覧下さい」  
   告知映像が流れる。
   中年男性がビルから飛び降りる。
   猛スピードで走って行き、それを受け止める星野。
星野「おじさん…火事場の馬鹿力って信じますか?(決めゼリフ風に)人間は…どん底の時ほど力
 を発揮出来る生き物なんだ」
N「明後日、夜9時からスタートする新ドラマ、敗北ヒーロー。主人公の佐藤はヒーローとは真逆
 の冴えない普通のサラリーマン。そんな佐藤はある日、電車に跳ねられそうなっていた少女を救
 ったことで、火事場の馬鹿力の能力を手にします。嫉妬、欲望、挫折。負けることでしか強くな
 れない、世界一弱いヒーローの活躍を描いたヒューマンドラマです。この後、主人公の佐藤役を
 演じる星野流一さんにドラマの魅力を語って頂きます」
   告知映像終わり。
女子アナ「さ、改めてご紹介いたします。主人公の佐藤役を演じる、星野流一さんです」
星野「よろしくお願いします」
女子アナ「よろしくお願いします。早速一話、拝見させて頂きました。ヒーローなのに弱い。でも
 負け続けても絶対に諦めようとしない。そんな佐藤くんの強さに、わたし感動しちゃいました」
星野「ありがとうございます」
女子アナ「主人公の佐藤は星野さんとは真逆の人物だと思いますが、演じる上で何か心がけた事は
 ありますか?」
星野「そうですね。僕はいつも、役作りをする時に、役の中に自分を見つけるようにしています。
 そういった意味では今回の役も自分の一部だと思ってます」
女子アナ「星野流一。反対から読むと一流の星。つまり一流のスターでいらっしゃる星野さんで
 も、佐藤くんのように悩み苦しむ事はあるんですか?」
星野「(笑って)その呼び方やめませんか」
女子アナ「(笑って)すみません」
星野「僕はね、悩みがある事はいい事だと思ってるんですよ。悩みは努力から生まれるものだと思
 ってるので。でも諦めずに挑戦し続けられる人間はほんの一握りなのかなって思いますけどね」
女子アナ「まさにこのドラマで描かれている事ですね」
星野「そうですね」
   CMに入る音楽が流れ出す。
女子アナ「敗北ヒーロー。明後日、23日。夜9時スタートです!」
スタッフ「はい。CM入りまーす」
スタジオを後にする星野。

○同・セット裏。
   星野、ピンマイクを外して貰っている。
   スタジオの方が慌ただしくなる。
星野「なんだろ」
スタッフ「何かあったんですかね?」
   近くをADが足早に通り過ぎる。
星野「何かあったんですか?」
AD「飛び降りらしいです!」
星野「飛び降りですか!?」
   星野、スタジオに走って行く。

○同・廊下
   星野が誰かに電話をかけている。

○ホテル日の出・部屋1・外(朝)
   有北の携帯が鳴る。
有北「こんな時に誰だよ…」
   有北、携帯を見て顔をしかめる。
有北「は?」  
   有北、電話に出る。
有北「もしもし」
男「よう!」
有北「なんだよ」
男「おまえ、今どこにいる?」
有北「……」
男「よし!当ててやろう!ゴーゴーうるさいからきっと風の強い場所にいるな」
有北「……」
男「それから遠くの方で人の声がするな」
有北「……」
男「てかおまえ、呼吸荒くね?大丈夫か?」
有北「切るぞ」
男「やっと喋ったと思ったらそりゃないぜ〜」
有北「俺は忙しいんだ」
男「ほーほービルの上でかい?」
   有北、辺りを見回すが誰もいない。
男「ったく、早まった真似すんなよな」
有北「(叫ぶ)おい、どこだ」

○向かい側のビル・部屋(朝)
   電話をかけている男の後ろ姿。
男「こっちだ」  
   男、手鏡を取り出すと太陽の光を反射させる。
   
○ホテル日の出・部屋1・外(朝)
   向かい側のビルから光が反射してくる。
利男「え?」
  有北、光の方を見るが光が目に入って男の姿を捉えることができない。
有北「う…」

○向かい側のビル・部屋(朝)
   手鏡を手に電話をしている男の後ろ姿。
男「お前に大切な話があるんだ」
   何かを言う男の口元。
有北「え!嘘だろ!?」

○フジテレビ・廊下
   星野、電話をしている。
星野「星野です。三木さんいますか?(三木に変わる)こんにちは!星野です。人が死ぬところ撮
 影してみたくありませんか?」

○ホテル日の出・ホテル下の歩道(朝)
   窓の外に有北が立っている。
   野次馬たちが騒いでいる。
   警官、野次馬たちを見回し、シーバーに向かい“芝居がかった”大きな声で、
警官「ビルの壁に男性が一名。至急応援願います!」 

○ロケ車・車内(朝)
   ホテル前にロケ車が停車している。
   背中に「NEWSフジ」の文字が入ったTシャツを着たリポーターとスタッフ達が乗ってい
   る。
スタッフ「外、寒いので」
   配られたジャンパーを羽織る一同。
   “このジャンパーには「NEWSフジ」の文字はない“

○同・ホテル下の道路(朝)
   野次馬たちで溢れている。
カメラマン「3、2、1」
リポーター「こちらホテル日の出前です。若い男性がホテルの窓から身を乗り出し壁際に立ってい
 ます」
   リポーター、近くにいた野次馬にマイクを向け。
リポーター「あの男性はいつからあそこにいるんですか?」
野次馬A「私が来た時にはもういました。でもさっきからずっと誰かと話してるみたいなんですよ
 ね」
リポーター「話ですか?…あ!本当ですね。男性は誰かと電話をしている模様です」
   警官が一人、ホテルの中に入って行く。
リポーター「あ、今、警察の方が一人、ホテルに入っていきますね。おそらく男性の説得に向かっ
 たものと思われます」

○同・ホテル下(朝)
   消防隊や警察官がマットを広げている。
   その様子を撮影するスタッフ達。
リポーター「現場では着々と準備が進められております」
   マットを広げる隊員たち。
   その様子はどこか芝居がかっている。
隊長「おい!そっちもっと広げろ」
隊員たち「はい!!」
隊長「よし!そこでいい。空気を入れろ」
隊員たち「はい!!」
隊長「よーし、それでいい」
隊員たち「はい!!」   
警官1「あんな高い所に…」
警官2「これ役に立ちますかね」
警官1「さぁな。人騒がせな奴だ」
   一連の様子をカメラが撮影している。
   
○同・エレベーター
   警官、エレベーターから降りてくる。
   警官、シーバーに向かい、
警官「到着しました。部屋に向かいます」

○同・部屋1・廊下 
   シーバーを手にした警官が歩いてくる
警官「到着しました……了解です。入ります」   
   警官、部屋1に入ろうとするが、中から鍵がかけられていて開かない。
警官「やっぱりダメか…鍵がかかっています…了解です。計画通りやります。でわ、後ほど」
   警官、隣にある部屋2をノックする。
警官「すみません」

○同・部屋2・室内
   移動されたベットや机、布団などで、
   “部屋の角が隠されている”異様な光景の部屋である。
   殺風景な部屋の真ん中に椅子がある。
   城田武実(35)が椅子に座っている。
   ドアをノックする音にビクつく城田。
警官の声「すみません」   
城田「誰だ?」
警官の声「突然すみません。警察です」
城田「(小声で)なぜここが分かった…。何の用だ?」
警官の声「ご協力して頂きたい事がありまして。開けて頂けますか」
   城田、枕を手にするとドアを開ける。
警官「すみません。実は今、お隣の部屋で―」
   城田、突然警官を部屋に押し入れると、銃を取り出し撃ち殺す。
   銃声と共に枕が赤く染まる。
  #3窓の外を一斉に飛んでゆく鳥。
   倒れる警官。
   通りかかった家族が悲鳴をあげる。   
家族「キャーー」

○同・ホテル部屋1・外(朝)
   有北、飛び降りようとしている。
通行人たち「キャーーーーー」
  #3驚いた鳥たちが一斉に飛び立つ。
   有北、野次馬たちの叫び声で、部屋2の騒動に気づかない。
   悲鳴に気を取られ下を見てしまう有北。
有北「あ…」

○同・部屋2・室内
城田「動くな!!」
   子供に銃を突き付け、部屋に連れ込む。
母親「花ちゃん」
城田「動くな!」
子供「ママー、パパー」
城田「黙れ!」
   ドアが閉まる。

○ホテル日の出・部屋1・外(朝)
   有北、男と電話で話している。
男「今、お前の隣の部屋には、逃走中の殺人犯がいる」
利男「え?」
男「しかも人を一人撃ち殺し、小さな子供を人質に立て籠もってるらしい」
有北「そんな突拍子も無いこと信じられるか」
男「嘘だと思うなら自分の目で確かめてみろ」 
有北「…も、もし仮にそれが本当だとしても、これから死ぬ俺には関係ないことだ」
男「おまえ死にたいんだよな?」
有北「だからそう言ってるだろ」
男「どうせ死ぬなら人の役に立って死ねよ」
有北「ふざけんな。勝手なこと言ってんじゃねぇよ」
男「おまえ本当に死にたいと思ってんのか?」
有北「死にたいさ」
男「なら、今すぐ隣の部屋に飛び込めよ」
有北「いや、それは」
男「怖いのか?」
有北「違う!俺は自分のタイミングで死にたいんだ」
男「ならそこから飛び降りるか?」
有北「ああ、そうだ」

○向かい側のビル・部屋(朝)
   男の後ろ姿。
男「あーあ。下をよく見てみろよ〜。お前がもたもたしてるうちにマット引かれちまってるぞ〜。
 こりゃあ仮にお前がそっから飛び降りたとしても、骨が粉々になるか、開放骨折程度ですんじま
 って死ぬより辛い思いをするだけだな〜」
   有北の後ずさる姿が見える。
   含み笑いを浮かべる男の口元。
男「それだったらまだ隣の男に銃で撃ち殺して貰った方が楽に死ねると思わないか?」
有北「だから自分のタイミングで死にたいって言ってんだろ!!別に無理してここで死ぬ必要なん
 てないんだ」   
   部屋に戻ろうとする有北の姿。
   含み笑いを浮かべる男の口元。
   男、シーバーを取り出し、
男「スタンバイ」
   
○ホテル日の出・部屋1・外(朝)  
   有北、窓を開けようとする。
  #1鍵が壊れていて開かない。
有北「くそ!」

○向かい側のビル・部屋(朝) 
   シーバーを持つ男の後ろ姿。
男「ホールド!待て、窓が開かないようだ。プランA失敗。…ったく手間かけさせやが って。ま
 た連絡する。そのまま待機しててくれ」
   男、携帯電話に向かって。
男「どうしたんだ?」
   
○ホテル日の出・部屋1・外(朝) 
   有北、電話に向かって
有北「鍵が壊れた…」
男「やっぱりな…こうなったらもう隣の部屋
に突入するしかないな」
有北「…本当にいるのか?」
男「…え?」
有北「殺人犯だよ」
男「だから自分の目で確かめてみろよ」
有北「それは嫌だ。そもそもおかしいんだ。
何でそこまで俺を隣の部屋に行かせたがる」
男「え…だから子供の命を」
有北「だっておかしいだろ。これだけ外が騒がしいのに(部屋2を指差し)普通は外を気にするだ
 ろ」
男「さっきニュースで見た。犯人は耳が不自由らしい」
有北「見え見えの嘘だな。なに企んでやがる」
男「俺を信じないのか?」
有北「ああ、お前は役者だからな。人を騙すのは得意だろ」

○向かい側のビル・部屋(朝)
   男の姿が露わになる。星野流一である。
   星野、シーバーに向かい。
星野「対象が部屋を気にし始めた。ただ幸いなことに対象はテレビを見られない状況だ。対象にニ
 ュース映像を見せる。プランBに移行する」

○ホテル日の出・部屋1・外(朝)
   有北、電話に向かい、
有北「そもそも、久しぶりの電話がこんなタイミングな事もおかしい!おまえ、何か隠してる
 な?」
星野「(突然大声で)あーもう面倒クセェ!」
有北「うわ」   
  #4驚いて足を踏み外しそうになる。
   悲鳴をあげる野次馬たち。
有北「急に大声出すな。お前のタイミングで死ぬところだったじゃねぇか」
星野「おい!そんなに俺が信用できねぇんなら証拠を送ってやる」
   有北の携帯に一通のメールが届く。
有北「これ開いたらウイルスとか―」
星野「(遮り)とっとと開け!!!」
有北「わ、分かったから。大声出すなよ」
   URLを開く。
   【ニュース動画】
リポーター「こちらホテル日の出前です。我々が壁際男のリポーをしていた所、新たな事件が発生
 しました。先ほど男性の説得に向かったと思われる警官が拳銃で撃たれた模様です。警官を撃っ
 たのは死体遺棄事件で全国指名手配中の城田武実(しろたたけみ)容疑者35歳。城田容疑者
 は、たまたま近くを通りかかった山田花子ちゃん6歳を人質にとり、現在もホテルの部屋に立て
 こもっている模様。壁際男の立つ部屋の隣では、一体何が起きてるのでしょうか?なお犯人は耳
 が不自由で外の音が―」
有北「くそ、なんだよ!壁際男って!」
星野「そうだよな!窓際男だよな!」
有北「そこじゃねぇよ!!」
星野「でもこれで嘘じゃないって分かったろ」
有北「ああ…疑って悪かった」
星野「なあ。もう一度下をよく見てみろよ」   
有北「え?(見下ろす)」  

○同・ホテル下の歩道(朝)
   野次馬たちがどよめいている。
   野次馬1、有北がこちらを見下ろしてることに気づき、
野次馬1「あ!兄ちゃん!今、隣の部屋で子供が捕まってるんだと。なあ、助けてやってく
 れ!!」
野次馬2「ねぇ、お願い。助けてあげて」
野次馬3「私からもお願い!!これはあなたにしかできないことよ」 
野次馬4「君の存在はまだ犯人に気づかれていない。だから頼む!助けられるのは君しかいないん
 だ!!」  
周囲の人々が口々に「助けてくれ」「助けてあげて」などと叫ぶ。

○同・部屋1・外(朝)
   野次馬たちの叫ぶ声。
   電話から星野の笑い声。
星野「いや〜集団心理って怖いよな」
有北「ハメやがったな」
星野「こりゃすごい人気だな。みんながお前に期待してるぞ」
有北「勝手に期待すんな!……おい、犯人のいる部屋はどっちだ」
星野「お、やっとやる気出したか!犯人は上手の部屋だ」
有北「そうか。ありがとな」
   有北、左隣にある部屋2に向かい、壁づたいに歩いて行く。
有北「てめぇら全員、人の命をなんだと思ってやがる。俺は人殺しと戦うなんてまっぴらごめんだ
 ね。こんな所にいつまでも居てたまるか」
   有北、部屋2の前に着くと、中を見て慌てて部屋1の壁に戻る。
有北「てめぇ!またハメやがったな。犯人いるじゃねぇか!」
星野「いや、だから上手の部屋に犯人いるって言っただろ」      
  #5野次馬たちの大歓声。

○同・ホテル下の歩道(朝)
  #6
野次馬1「兄ちゃん!!頑張れ!!」
野次馬たち「頑張れ!頑張れ!頑張れ!頑張れ―――」

○同・部屋1・外(朝)   
   野次馬たちの大声援が聞こえる。
   こんな騒ぎにもかかわらず部屋2は恐ろしく静かである。
星野「(笑って)いや〜盛り上がってんな〜」
有北「…なんだよ…この状況……」
星野「(笑って)みんな、お前が子供を助けに行ったと勘違いしてるみたいだな」
有北「お前のせいだ」
星野「いや、だからちゃんと上手の部屋に犯人いるって言っただろ」
有北「左の部屋に居たじゃねぇかよ」
星野「おまえ…まさか知らないのか?上手って言ったらこの場合、俺から見て右側を指すんだぞ。
 舞台の世界じゃ常識だ」
有北「んなこと知らねぇよ。俺は舞台なんか一度も立ったことねぇんだ」
星野「…なんか…ごめんな…」
有北「うるせぇ!謝んな」
野次馬1「兄ちゃん頑張れ!!」
野次馬2「あなたなら出来るわ!頑張って」
野次馬3「みんなで勇気ある彼を応援しよう」   
   野次馬たち、口々に有北を応援する。
   野次馬たち、大いに盛り上がり拍手とコールが沸き起こる。
   あまりの熱狂ぶりに困り果てる有北。
星野「ほんと、なんか、ごめんな!」
   有北、野次馬たちを見下ろし。
有北「…俺はただ飛び降りて死にたいだけだったのに…死ににくい…しかも命を捨てようとしてる
 人間に、人の命を救えだと…」
星野「大変なことになっちまったな。とりあえず俺もそっちに行く。俺にも責任があるからな」
有北「いいよ来んな。もう一人にしてくれよ」
   すでに電話は切れている。
有北「くそ!なんで人気のある奴はみんなこう自分勝手なんだ」

○向かい側のビル・部屋(朝)
   星野、電話を切るとシーバーに向かい。
星野「多少いざこざはあったが、なんとか怪しまれずに接近できそうだ。接触するぞ」
   星野のいた部屋があらわになる。
  一台の固定カメラが星野を撮影している。
   星野、固定カメラに向かって、
星野「(興奮気味に)さあ!いよいよです!いよいよこれから、彼が撃たれる瞬間がやってきま
 す。彼は撃たれた瞬間どんな表情をするのでしょうか?わたくし星野流一、彼の最後の勇姿をし
 っかりとこのカメラに収めたいと思います!!」
   星野、固定カメラを手に部屋を後にする。

○ホテル日の出・ホテル下の歩道(朝)
   野次馬たちが有北に声援を送っている。
   その横を、マスクとサングラス姿の星野が足早に通り過ぎてゆく。

○同・部屋1・外(朝)
   野次馬たちの声援に戸惑う有北の姿。   
   右隣の部屋、部屋3の窓が開き、サングラスにマスク姿の星野が顔を出す。
星野「よう!人気モン!」
有北「あ、てめぇ」   
   有北、壁づたいに星野の元に行こうとする。
星野「待て、待て、今はまずい」   
   有北の姿を見て騒ぎ出す野次馬たちの声。

○同・ホテル下の歩道(朝)
野次馬1「おい!どこに行く気だ。犯人はそっちじゃねぇだろ!!」
野次馬2「逃げんな!!!」
野次馬3「この裏切り者!犯罪者!!」
   周囲の人々が口々に有北を罵る。

○同・部屋1・外(朝)
有北「くそ、おまえ、あとでぶん殴ってやる」
星野「え?あとで?おまえ今日死ぬんじゃなかったっけ?(笑う)」
有北「(下を指差し)どう見たってもう死ねる状況じゃねぇだろ!!」
星野「鍵が壊れていて部屋には引き返せない。俺のいる部屋にも来れない。もうおまえに残された
 道は上手の部屋だけだな(笑う)」
有北「バカにしやがって。ぜってー許さねぇかんな」
   星野の携帯が鳴る。
星野「あ、もしもし」
有北「おい、無視するな」
星野「おまえと話したいって人から電話だよ」
有北「は?誰だよ」   
星野「自分で確かめてみ」   
   星野、携帯を投げる。
有北「あ、おい」
携帯「もしもし?もしもし?」
有北「あ、え、あ、はい」
携帯「あっ。良かった…出てくれた」
   有北、星野を睨む。

○同・部屋2・中(朝)
   城田の隣に人質の花子がいる。
   城田の携帯から有北の声がする。
有北「どちら様ですか?」
城田「人質にされた子供の父親です」
有北「え?」
城田「どうか娘の命を助けて下さい」
有北「な、なんで僕なんですか?警察には?」
城田「もちろん話しました」
有北「そしたら?」
城田「え?(少し焦って)そしたら?そしたら…人質がいる場合は様子を見てからじゃないと突入
 できないとか色々と言われまして…(わざとらしく泣き出す)でもこうしてる間にも娘の命が危
 険にさらされていると思うと…(さらに泣く)どうか、どうか、どうかお願いします。娘の命を
 救ってください(声を出して泣く)」
   城田、電話を切ると冷や汗を拭う。
城田「頼む、頼む来てくれ」

○同・部屋1・外(朝)
   部屋3から星野が顔を出している。
星野「お父さんはなんて?」
有北「(涙ぐみ)…警察が動いてくれないって…娘の命を助けてくれって…すごく取り乱してた
 よ…」
星野「(しみじみと)……こうなったらもう本当にお前がやるしかないな」
有北「でも…警察が動けない状況なのにどうやってここに来たんだ?」
星野「(動揺を隠し)ん?んなもん警察に頼んでここに来たに決まってんだろ!!おまえを説得す
 るって言って来たんだ!!」
有北「なにが説得だよ」
星野「同じ釜の飯を食った仲間だろう」
有北「そんなの昔の話だ」
星野「(話題を変えようと)なあ一つだけ教えてくれ」
有北「なにを?」
星野「お前どうして死のうとなんかしたんだ」
有北「それは…お前には絶対理解できない理由だ」
星野「なんだよ。俺に理解できない理由って」
有北「……星野流一…反対から読むと一流のスター。有北利男(ありきたとしお)読み方を変えれ
 ば、ありきたり男…名前通りの人生だった」
星野「たかが名前だろ。俺のなんか芸名だし」
有北「ああそうだ。たかが名前だ。でもお前には、俺みたいになんの特徴もない、その辺にいるあ
 りきたりな男の気持ちなんて理解できないだろう」
星野「ありきたりな男の気持ち?」
有北「どうせ死ぬんだ。死ぬ前に話してやる。俺は昨日、事務所を首になった。俺はいろんなもの
 を犠牲にして10年間必死に芝居と向き合ってきた。プライドを捨てて後輩のエキストラにさえ
 顔を出した。でもな、そんな努力も社長の、やめ時を考えろの一言で全ておじゃんになった」
星野「また新しい事務所探せばいいじゃないか。それに芝居ができなくなったからって(笑って)
 何も死ぬことないだろ」
有北「俺にとって芝居は呼吸と同じなんだよ。常にしていないと生きていけない。お前に分かる
 か?10年間真剣に芝居と向き合ってもエキストラしか回して貰えない役者の気持ちが。お前に
 分かるか?どんなに努力したって、芝居のしの字も知らねぇような顔だけの新人に、仕事を取ら
 れちまう役者の気持ちが。お前に分かるのか?日給1000円のエキストラの仕事の為に、徹夜
 でバイトをしてる役者たちの気持ちがよ!!」
星野「………」
有北「なあ!なんとか言えよクソ野郎!俺は惨めだろ!惨めだろ!くそダセェ奴なんだよ!いい
 か、俺はお前のように見た目が良くねぇ!それが分かってるから必死に努力した。舞台なんて立
 たせて貰えねぇのに、喉が裂けて血を吐くまで必死に滑舌練習した。気持ちも実力も、てめぇら
 なんかより絶対上なんだ!それなのに、それなのに…くそ、くそ、くそ!俺はこういう人間なん
 だ…10年間も泥水飲み続けて腐ってるとな…心まで腐ってくるんだ…俺なんか生きてる価値が
 ないっ気持ちになってくるんだ…お前には分からない感情だろうけどな」
星野「(明るく)ああ、分かんない!だって俺、エキストラなんて行ったことねぇもん!それに褒
 められる事ばかりだしな」
有北「……」
星野「(明るく)ただ俺の周りは甘い言葉を言う奴ばかりだぞ〜」
有北「…別にいいじゃねぇか」
星野「(真剣になり)成功すると人は集まってくる」
有北「…は?」
星野「金を持つと人は集まってくる」
有北「自慢かよ…」
星野「金や名誉に集まってくる人間はろくな奴じゃない。おまえはもっとレベルの高い男だと思っ
 てたのにな。所詮その程度の覚悟だったか。残念だ」
有北「……」
星野「もっと上を見ろよ。もっと上を目指せよ。成功してる奴らは気持ちが違うんだよ。お前みた
 いにな、途中で諦めて逃げだすような奴、そんな奴が俺達の立つ場所に立てると思うな。いいか
 自分を信じていない奴は、舞台に立つ資格なんてないんだよ!!」
有北「…」
星野「俺は仕事がなくても、馬鹿にされても、諦めないお前の事を尊敬してた(怒って)俺はお前
 の事をダサいなんて思った事なんか一度もねぇ」
有北「……」
星野「人の評価を気にしてる奴はプロじゃねえ。いいか自分の評価は自分でするんだ!俺は命を大
 切にしろとかそんな綺麗は事言わねぇ。もっとプライドを大切にしろ!男だろ!」
有北「…俺が…いつまでたってもおまえに追いつけない理由が分かった気がする………俺は……こ
 のまま惨めな臆病者で終わりたくない(決意し)どうせ一度捨てた命だ。頼む、力を貸してく
 れ」
星野「当たり前だろ。そのために来た」
有北「どうしたらいい?」
星野「俺に良い作戦がある」

○同・部屋1・外(朝)
  有北、部屋2の方を向き、震えている。
   星野、部屋3から有北に声援を送る。
星野「頑張れ!お前は誰よりも勇敢な男だ。さっきまでこんなことから飛び降りて死のうとしてた
 んだからな」
有北「死ぬとか言うなよ。余計怖くなるだろ」
星野「どん底だと思ってんだろ。不幸だと思ってんだろ。最高のチャンスじゃないか!だって全て
 を出し切れるんだ!おまえには失う物なんて何もないだろう!」
有北「失う物だらけの奴が言っても説得力ねぇんだよ」
星野「お前のその強い勇気を別のことに使うんだ。行くぞ!作戦開始だ!」
   星野、部屋3の窓を閉める。
有北「え、ちょ、え、まだ心の準備が…」
   部屋3のカーテンが閉まる。
有北「くそ、もうやるしかない」
   
○同・部屋3・中(朝)
   部屋には固定カメラが置いてある。
   ガッツポーズをする星野。
星野「(小声で)よし、よし、よし、やっと上手くいった!!」
   固定カメラに向かい。
星野「(小声で興奮気味に)さあ!いよいよ。いよいよです!!勇敢な彼はこれから銃を持った男
 の待つ部屋に乗り込みます。銃で撃たれたら彼はどんな反応を見せてくれるのでしょうか!」
   星野、シーバーに向かい。
星野「作戦成功!なんとか上手く乗せられた!対象がそちらに向かう。スタンバイ!」

○同・部屋2・中(朝)
   城田のシーバーから星野の声が聞こえてくる。
声「作戦成功!なんとか上手く乗せられた!対象がそちらに向かう。スタンバイ!」
   城田、窓の鍵を開ける。
城田「(銃を手に)いよいよですね。いよいよ待ちに待った瞬間がやってきますね」  
   城田、窓から離れた場所に椅子を置き、窓に背を向けて座る。

○同・部屋2・外(朝)
   有北、窓の下に隠れ震えている。
有北「…合図まだかよ…早くしてくれよ」
   少しして、有北の携帯が振動する。
有北「きた!俺は落ちこぼれじゃない。俺は落ちこぼれじゃない。俺は落ちこぼれじゃ
 ない。俺ならやれる。俺ならやれる。俺ならやれる。行くぞ!」

○同・部屋2・中(朝)
   城田、窓に背を向け座っている。
   有北、慎重に窓を開ける。
   有北、花子にジェスチャーで声を出さないよう合図する。
   静かに頷く花子。
   有北、ゆっくりと部屋に侵入する。
   有北、近くにあった小さな椅子を手に、城田の背後からゆっくりと近づく。
   椅子を振りかざす有北。
  #7突然、血まみれの警官が生き返り、
   椅子を奪い取る。
有北「え!??」
   城田、騒ぎに気付き拳銃を取り出す。
有北「危ない!!くそ!どけ!!」   
   有北、警官を突き飛ばし、花子の前に行き両手を広げる。 
有北「お嬢ちゃん!逃げろ!早く!!」
   花子、ドアに向かって走ってゆく。
   城田、逃げる花子に銃口を向ける。  
   有北、恐怖で叫び声を上げながら花子の前にダイブする。
   部屋に銃声が鳴り響く。
   その場に倒れこむ有北。
   
○同・部屋2・中(朝)
   有北が倒れている。
花子「お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん」
   有北、意識を取り戻す。
有北「…生きててよかった」
  有顔を上げると花子の背後に銃を構えた城田の姿。
有北「うわーーー」
  移動されたベットや机、布団などで隠されていた部屋の角から声がする。
声「カーーーット!!」
有北「??」
   背中に「NEWSフジ」の文字が入ったTシャツを着たスタッフが現れる。
有北「え?は?…どういうこと??」
スタッフ「ドッキリでした」
星野「(爆笑して)おまえ!リアクション最高!!気絶するとかまじ100点だよ」
有北「どういうことだ!説明しろ!!」
星野「そう怒るなよ。お前を助けるために仕掛けたドッキリなんだからさ」
有北「俺を助けるためだと」
星野「ああそうだ。も〜大変だったんだからな〜。色んな場所にアポ取ったり、偽のHP作った
 り」
有北「偽のHP?」
星野「ああ、そうそう。ちょっと待ってな」
   星野、ニュース映像を開く。
リポーター「―模様です。警官を撃ったのは死体遺棄事件で全国指名手配中の城田武実(しろたた
 けみ)容疑者35歳。城田容疑者は―」
星野、映像のテロップを指差す。
星野「ここ、犯人の名前読んでみ」
有北「は?しろたたけみって字幕出てんだろ」
星野「漢字の読み方変えて読んでみ?」
有北「は?読み方?」
有北「…し…ろ…だ……む、じ、つ…」
星野「(笑って)な、そういうことだ。だいたいよ、娘の名前が山田花子って(笑う)」
有北「騙しやがったな」
星野「(有北の真似をし)生きてて良かった」
有北「(恥じらい)てめ、この、くっそ、どこまで人を馬鹿にすれば気がすむんだ」
   有北、星野につかみかかろうとする。
星野「(笑いながら)待て、待て、おまえを助けるためだったんだって」
有北「うそこけ!!」
星野「ホントだって。頑固なおまえの事だ、普通に説得したって聞こうとしないだろ。だからここ
 はおまえの性格を知り抜いた俺が一肌脱いでだな――」
有北、星野の話を遮り、星野の顔を枕で叩く。
有北「何が俺の性格を知り抜いただ。お前はどうせ視聴率のためだろうが」
星野「(キメ顔で)もちろん。それはある」
有北「(枕で叩きながら)こいつ!こいつ!」
   
○ホテル下の歩道(朝)
   「ドッキリ大成功」と書かれたプラカードを持った星野を先頭に、有北、花子、 警官、城
   田、がホテルから出てくる。
   星野の周りに人だかりができる。
   野次馬たちの安堵した笑顔。

○フジテレビ・企画会議室
   三木、星野、有北が話している。
三木「まったく、キャリアに傷がつくからあまり無茶するなよ〜」
星野「リスクのない所にチャンスはない。俺の座右の銘っす」
三木「星野君のキャリアじゃない。私のキャリアにだ」
星野「あ、そっちっすか(笑う)」
三木「いや〜ほんと。君が仲間の自殺を止めたいから番組作ってくれって頼みに来た時は焦った
 よ〜」
星野「反省してるっす」
三木「ぜっっっっったい!してないだろ!!」
   笑ってる星野。
星野「ってか三木さん!そんなことよりこれ企画として成り立ちますかね?」
三木「成り立つって?」
星野「(有北を指差し)いや〜この間、説明したように、一応こいつも仕掛け人の一人ということ
 になってるんすよね。その辺、大丈夫っすかね?」
三木「ふっふっふっ。この私を誰だと思ってる。編集でなんとか誤魔化してみせるさ。まぁ一ヶ月
 後の放送と視聴率を楽しみにしていなさい」
星野「さすが!三木さん!」
   
○フジテレビ・スタジオ
   スタッフ達は背中に「NEWSフジの文字が入ったTシャツを着ている。
スタッフ「本番、5秒前、4、3、2、1、」   
N「本音と建前の現代社会。現代社会では『建前』なしには生きていけません。そんな生き苦しい
 現代社会に鋭いメスを入れ、人間の本質をリポートする。バラエティNEWS番組。それがNE
 WSフジ!!本日はNEWSフジ10周年特別企画。街行く人に壮大なドッキリを仕掛けちゃい
 ましたスペシャル」
女子アナ「さあ、本日もやって参りました。NEWSフジのお時間です。本日は10週年記念とい
 うことで、盛り沢山な内容となっております。それでは、本日、最初のニュースです」

○VTR映像   
   *VTR映像は、隠し録りされていた前半のシーンを、三木が編集したという設定。
   ワイプに出演者たちが映っている。
N「かつてシェイクスピアは言った。この世は全て舞台で人間はみな役者だと。しかし、そんな人
 間の嘘偽りのない瞬間を見る唯一の方法…それがドッキリ!記念すべき10周年最初のドッキリ
 はこちら。もしも、ビルから飛び降りようとしてる人を見つけてしまったら、あなたならどうす
 る?そして」
   出演者たちのどよめき。
N「ドッキリの最中に、隣の部屋で人質事件が発生したら、仕掛け人の俳優は助けに行く?それと
 もいかない?」
   ドッキリの説明映像が流れる
N「まずは、もしも街を歩いている時、ビルから飛び降りようとしている人を見つけてしまった
 ら、人はどんな反応をするのか?今回は現場をよりリアルに見せる為にこちらのエキストラの
 方々に協力して頂き、街の人々の生の反応をスクープして来ました」  
   エキストラとして参加していた人物たちの映像が流れる。
  【銃で撃たれた警官。野次馬1、2、3、4。NEWSフジスタッフ(カメラマン、リポータ
   ー)マットを敷いていた消防隊員たち、警官たち、城田武実、山田花子とその父と母】であ
   る。
N「ビルから飛び降りようとする男性はこちらの、星野さんの友人で俳優の有北利男さんが演じて
 下さいました」
   有北の映像が流れる。
N「そして、なんと!!今回のドッキリにはあの星野流一さんも仕掛け人として参加して下さって
 います!」
   星野の格好いいカットが流れる。

○ホテル日の出・外観(朝)   
N「今回、ドッキリにご協力頂いたのはこちらのホテル日の出さん」
   ホテル日の出の紹介映像が流れる。
スタッフ「ご協力、ありがとうございます」
社長「いえいえ、こちらこそ。ここ最近、客足が途絶えていたので、こうやってテレビ
 で取り上げて頂けるのはありがたいことです。特にウチは料理が自慢です。特に魚料理には自信
 が――(映像が切れる)」
T「話が長かったので続きは番組HPから」
   出演者たちの笑い声。
芸人「どんだけアピールすんねん!!」

○同・ホテル下の歩道(朝)
   一般人が歩いている。
N「今回、ターゲットとなるのはこちらの一般の方々。それでは、ドッキリスタート!」
   有北が壁際に立っている姿が見える。
N「ホテルの壁に立つ仕掛け人の有北さん」   
   誰も有北の存在に気づかない。
   #2有北、目をつぶり両手を広げる。
N「思いの外、誰も気づいてくれないので、ここで両手を広げてアピールする仕掛け人。する
 と…」
通行人1「キャーーーー」
  #3驚いた鳥たちが一斉に飛び立つ。
N「と、ここで悲鳴に驚いた鳥たちが一斉に飛び立つ」
   通行人たち、続々と集まってくる。
N「いいタイミングで飛んでくれた鳥のおかげか、通行人たちが続々と集まってきた」
通行人1「おい!馬鹿な真似はよせ!!」
通行人2「死んじゃダメよ。考え直して!!」
N「必死に説得する心優しき人々。そこで呼吸を整えるふりをして再び飛び降りようとする仕掛け
 人」
   通行人たち悲鳴をあげる。
N「予想を超える熱演を見せる仕掛け人。もはや本当に人生を諦めている人にしか見えない!!」
  #4驚いて足を踏み外しそうになる。
   通行人たちの絶叫。
   電話に出る有北の姿。

○向かい側のビル・部屋(朝)
   電話をかけている星野の姿。
N「大いにリアクションが取れた所で、取材終了の電話を入れる。と、ターゲットには伝えてあっ
 たのだが、ここから仕掛け人を巻き込んだ二重ドッキリが始まる」
星野「お前に大切な話があるんだ」

○ホテル日の出・部屋1・外(朝)
   有北、電話をしている。
星野「今、お前の隣の部屋には逃走中の殺人犯がいる」
有北「え、嘘だろ?」
星野「遅じゃない、しかも人を一人撃ち殺し、小さな子供を人質に立てこもってるらしい」
N「それとなく状況を伝える仕掛け人」
有北「…も、もし仮にそれが本当だとしても、これから死ぬ俺に何の関係がある?俺には関係のな
 い話だ」
N「俳優としての意地なのか、こんな状況にも関わらず演技を止めない有北さん」
芸人「この人どんなプロ根性しとんねん!!」
星野「でもおまえ死にたいんだろ?」
N「ひとまず仕掛け人の星野さんも乗っかってみる」  
有北「だからそう言ってるだろ」
星野「どうせ死ぬなら人の役に立って死ねよ」
有北「ふざけんな。勝手なこと言ってんじゃねぇよ」
星野「お前本当に死にたいと思ってんのか?」
有北「死にたいさ」
星野「なら、今すぐ隣の部屋に飛び込めよ」
N「仕掛人、再び有北さんを隣の部屋に誘導してみる」
有北「いや、それは」
星野「怖いのか?」
有北「違う!俺は自分のタイミングで死にたいんだ!」
N「一番怖いのはこんな状況にも関わらず演技を止めないこの男」
   出演者たちの笑い声。

○向かい側のビル・部屋(朝)
N「このおかしな状況で、おかしな二人の芝居はなぜか成り立ってしまう」
星野「あーあ。下をよく見てみろよ〜。お前がもたついてるうちにマット引かれちまってるぞ〜。
 こりゃあ仮にお前がそっから飛び降りたとしても楽に死ねるかわからんぞ」
   有北の後ずさる姿。
N「完全に二人の世界に入ってしまった二人の俳優」
   出演者たちの笑い声。
星野「それだったらまだ隣の男に銃で撃ち殺して貰う方が楽に死ねると思わないか?」
N「何としても隣の部屋に誘導したい仕掛人」
有北「だから自分のタイミングで死にたいって言ってんだろ!!別に無理してここで死ぬ必要なん
 てないんだ」   
   有北、部屋に戻ろうとする。
星野「(含み笑い)スタンバイ」

○ホテル日の出・部屋1前の廊下
   スタンバイするスタッフたち。
N「どうやらターゲットの有北さんは隣の部屋に行く気はない様子。それが分かった所でドッッキ
 リ終了…のはずだったのだが…」

○向かい側のビル・部屋(朝) 
    #1壊れた鍵。
N「ここでまさかの鍵が壊れていて窓が開かないというハプニングが発生」
男「ホールド!待った、窓が開かないようだ」
有北「鍵が壊れた…」
星野「やっぱりな……こうなったらもう隣の部屋に突入するしかないな」
有北「…本当にいるのか?」
星野「…え?」
有北「だから殺人犯だよ」
N「次第に仕掛け人を疑い始めるターゲット」
有北「そもそもおかしいんだ。なんでそこまで俺を隣の部屋に行かせたがる?」

○ホテル日の出・部屋2・室内(朝)
N「面白い展開になってきましたね!ここで今回の事件の設定をドラマ仕立てで見てみましょう。
 10周年記念ドッキリとあって、今回はいつも以上に作りこんでいます!」
警官の声「すみません」
城田「誰だ?」
警察の声「突然すみません。警察です」
城田「(小声で)なぜここが分かった…。何の用だ?」   
城田、ドアを開けると警官を部屋に押し入れ、撃ち殺す。
  #3窓の外を一斉に飛び立つ鳥。 
   たまたま廊下を歩いていた家族が悲鳴をあげる。   
家族「キャー」
  
○同・ホテル部屋1・外(朝)
   有北が飛び降りようとしている。
通行人たち「キャーーーーー」
  #3驚いた鳥たちが一斉に飛び立つ
有北「(下を見てしまう)あ…」
N「しかしここでまたもやハプニング!なんと鳥と悲鳴に気を取られ、隣の部屋の騒動に気づかな
 いターゲット!」
   出演者たちの笑い声。

○同・部屋2・室内(朝)
城田「動くな!!」
   花子に銃を突き付け部屋に連れ込む。
N「ターゲットに気付いて貰えないまま熱演を続けるエキストラたち…」
   出演者たちの笑い声。
芸人「やめろ、やめろー!」
女子アナ「(エキストラに対し)すみません」

○同・ホテル下の歩道(朝)
   有北、ビルの下を見下ろしている。
N「このままではドッキリ続行不可能かと思われた…その時!」
野次馬1「あ!兄ちゃん!今、隣の部屋で子供が捕まってるんだと。なあ、助けてやっ
 てくれ!!」
野次馬2「ねぇ、お願い。助けてあげて」
野次馬3「私からもお願い!!これはあなたにしかできないことよ」 
野次馬4「君の存在はまだ犯人に気づかれていない。だから頼む!!助けられるのは君
 しかいないんだ」  
N「エキストラの方々がナイスフォロー!」
芸人「ナイスフォロー」
女子アナ「(拍手し)素晴らしい」
N「とここで、声援に背中を押されたのか、ターゲットが驚きの行動をとる。勇敢にも隣の部屋に
 向かって歩き出したのだ!」
部屋2に向かって歩いて行く有北の姿。
   ワイプ越しに歓声をあげる出演者たち。
  #5野次馬たちの大歓声。

○同・ホテル下の歩道(朝)
  #6
N「エキストラ達もここぞとばかりに盛り上げる」
野次馬1「兄ちゃん!!頑張れ!!」
野次馬たち「頑張れ!頑張れ!頑張れ!頑張れ―――」

○向かい側のビル・部屋(朝)
N「ここで仕掛人の星野が動く」
星野「大変なことになっちまったな。とりあえず俺もそっちに行く。俺にも責任がある
 からな」
星野、電話を切りカメラ目線で。
星野「(興奮気味に)さあ!いよいよです!いよいよこれから、彼が撃たれる瞬間がやってきま
 す。彼は撃たれた瞬間どんな表情をするのでしょうか?わたくし星野流一、彼の最後の勇姿をし
 っかりとこのカメラに収めたいと思います!!」
星野、固定カメラを手に部屋を後にする。
   出演者たちの笑い声。

○同・部屋3・外(朝)
   サングラスにマスク姿の星野が窓から顔を出す。
星野「よう!人気モン!」
   会話をしてる二人の映像。
N「ここでターゲットに最後の仕掛け。最後の仕掛けは、突然、人質の父親から電話がかかってく
 るというもの。因みに電話をかけているのは犯人役のこの人!」
   城田の映像が流れる。
星野「おまえと話したいって人から電話だよ」

○同・部屋2・室内
   城田の持つ携帯から有北の声がする。
有北「どちら様ですか?」
城田「人質にされた子供の父親です」
有北「え?」
城田「どうか娘の命を助けて下さい」
有北「な、なんで僕なんですか?警察には?」
城田「(少し焦って)も、も、もちろん話しました」
有北「そしたら?」
城田「(少し焦って)え?そしたら…そしたら…人質がいる場合は様子を見てからじゃないと突入
 できないとか色々と言われまして…(わざとらし く泣き出す)でもこうしてる間にも娘の命が
 危険にさらされていると思うと…(さらに泣く)どうか、どうか、どうかお願いします。娘の命
 を救ってください(声を出して泣く)」

○同・部屋1・外
N「多少、臭い感じはしましたが…果たしてターゲットの心には響いたのか…?」
有北「(涙ぐみ)…警察が動いてくれないって…娘の命を助けてくれって…すごく取り乱してた
 よ…」
N「どうやらバッチリ響いていたようだ」

星野「(しみじみと)……こうなったらもう本当にお前がやるしかないな」
有北「俺は…このまま惨めな臆病者で終わりたくない…頼む、力を貸してくれ」
芸人「コイツ、めっちゃええ奴やん」
N「少女の父親との電話で犯人と戦う覚悟を決めた心優しき一人の青年。そんな彼の身にこの後、
 悲劇が襲いかかります」
出演者の声「ええー」「やめてあげてー」

○同・部屋3・中(朝)
星野「(小声で)さあ!いよいよ。いよいよです!!勇敢な彼はこれから銃を持った男が待つ部屋
 に乗り込みます。銃で撃たれたら彼はどんな反応を見せてくれるのでしょうか!」
   星野、シーバーに向かい。
星野「作戦成功!!なんとか上手く乗せられた!対象がそちらに向かう。スタンバイ!」

○同・部屋2・外(朝)
N「恐怖に震えながらも自分を奮いたたせる有北さん」
   感動的なBGMが流れる。
有北「俺は落ちこぼれじゃない。俺は落ちこぼれじゃない。俺は落ちこぼれじゃない。俺ならやれ
 る。俺ならやれる。俺ならやれる。行くぞ!」
   窓を開け、部屋に侵入する有北の姿。
N「慎重に部屋に侵入する有北さん」

○同・部屋2・中(朝)  
   花子に声を出さないよう合図する有北。
   椅子を振りかざす有北。
  #7突然、血まみれの警官が生き返り、
   椅子を奪い取る。
N「このまま仕掛け人が殴られたら大変なので、急遽死んだはずの警官が生き返る」  
   出演者の笑い声。
有北「え!??」
   城田、拳銃を取り出す。
有北「危ない!!くそ!どけ!!」   
   有北、警官を突き飛ばし、花子の前に行き両手を広げる。 
有北「お嬢ちゃん!逃げろ!早く!!」
   花子、ドアに向かって走ってゆく。
   城田、逃げる花子に銃口を向ける。  
   有北、恐怖で叫び声を上げながら花子の前にダイブする。
   感動的なBGMが流れる。
   銃声と共にその場に倒れこむ有北。
N「恐怖のあまり気を失ってしまう有北さん」
出演者「そんなに怖かったんだ……」
N「心配した花子役の子役が声をかける」
花子「お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん」有北、意識を取り戻す。
有北「……生きてて良かった」
   ハンカチで顔を押さえている出演者たち。
N「仕掛け人の男性が意識を取り戻したところでドッキリ終了」
声「カーーーット!!」
有北「??」
スタッフ「ドッキリでした」
   星野、ニュース映像のテロップを指差し。
星野「漢字の読み方変えて読んでみ?」
有北「…し…ろ…だ……む、じ、つ…」
N「極度の緊張状態から解放されじゃれつく有北さん」
   有北が枕で星野を叩いている映像。

○ホテル日の出・部屋1・室内(朝)
   部屋でテレビを見ている星野の姿。
N「極度の緊張状態から解放されじゃれつく有北さん」
   有北が枕で星野を叩いている映像。
   星野、テレビを消す。
星野「有北…おまえがどういう人間かよく分かったよ」

○同・部屋1・外(朝)  
   星野が壁際に立っている。
星野「人間は生まれながらに不平等だ」    
   星野、深呼吸をし、両手を広げる。

○街中(朝)
   垢抜けた雰囲気の有北が歩いている。
ファン「有北さんですよね?」
有北「(嬉しそうに)はい!」
   大勢のファンに囲まれる有北。

○ホテル日の出・部屋1・外(朝)
星野「成功すると人は集まってくる…金を持つと人は集まってくる…金に集まってくる人間はろく
 な奴じゃない…もう疲れたよ…」
   星野、飛び降りようとする。
   通行人たちの悲鳴。

○スタジオ
監督「カーット!!」
   モニターに星野の映像が映っている。
監督「いや〜星野くんいい演技だったねぇ」
   ブルーバックの前で笑っている星野。
星野「ビルの上にいるように見えました?」
監督「もうバッチリよ〜」
   スタジオの隅から有北が現れる。
有北「ちょっと台詞が違うよ!人間は生まれながらに不平だだろ!アドリブが過ぎるよ」
星野「硬いこと言うなよ〜」
有北「俺が書いた脚本だぞ」
星野「俺が仕掛けたドッキリのおかげで書けた脚本だろ」
有北「そ、それは…」
星野「あーあ。キミは一体、誰のおかげで売れっ子俳優の仲間入りを果たせたのかな〜」
有北「ぐ…」
星野「大丈夫だって!ちゃんとお前の見せ場も作ってやっからよ(モノマネ)生きてて良かった」
有北「それはやめてくれ!!」
   逃げる星野と追いかける有北。
   楽しそうな有北の表情。   



                    (了)

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