おとぎの住人 ドラマ

窓が泣く 窓が泣く 私は都会の椅子でひとり 空を飛ぼうとしています  佐藤千鶴は詩集を自費出版する。田中明子は客のいない古本屋が好き。長谷川優は俳優のオーディションに落ちる。清水小枝は絵描きの才能を押し殺しながら、幻の少女と共に墜落する。小林静子は孤独なマネキンを偏愛する。季節はめぐり、主人公たちはすれ違う。
キクチイサオ 47 0 0 08/01
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第一稿

○ 雑居ビル・屋上(未明)
都市の街並みと空の眺め。
千鶴N「窓が泣く、窓が泣く、私は都会の椅子でひとり、空を飛ぼうとしています、私は見境なく、何かをしでかしそうです、消えてゆ ...続きを読む
「おとぎの住人」(PDFファイル:583.59 KB)
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○ 雑居ビル・屋上(未明)
都市の街並みと空の眺め。
千鶴N「窓が泣く、窓が泣く、私は都会の椅子でひとり、空を飛ぼうとしています、私は見境なく、何かをしでかしそうです、消えてゆくラジオの歌声、嘘つきな手話、お皿のクランベリーショートケーキ、ああ、私たちはみんな、ゆううつなおとぎの住人です」

○ タイトル『おとぎの住人』

○ バス停のベンチ
膝の上の詩集を閉じる。白い表紙に、傘を持った少女が宙に浮かんでいる絵が描いてある。手のひらサイズで薄い。タイトルも著者の名前もない。
佐藤千鶴(25)、ベンチに座っている。携帯電話を持ち、個人でやっているラジオ放送の生配信中。
千鶴「私が初めて書いた詩。誰か聞いてる?」
薄着の裾が風に揺れている。土のうのような古カバンをそばに置いている。
千鶴「自費出版で作ったの。十冊だけ。七〇〇円。高いって思わないでよ。本作るのに、たしか十万円くらいしたんだから」
膝を抱いて縮こまる。
千鶴「白い表紙に女の子の絵が描いてある。女の子が傘さしてて、空から落っこちてる。…飛んでるのかな。この絵、好き」
バイクが大きな音を立てて走り過ぎる。
千鶴「寒い…。アパート追い出されちゃった。お腹すいたー。いい加減なんか食べないとな。ドーナツ食べたい。携帯代も払ってないから、ラジオも今夜でおしまい。少し寝よ。じゃあ、おやすみなさい」
と配信を切る。

○ 原稿用紙の文字『冬』

○ 路地
椿の花が咲いている。
家の前の路上に植木鉢が並べられている。
清水小枝(25)、歩いてくる。椿の花を見つけると、辺りをうかがって花を摘む。

○ シャッター通り商店街
誰もいない中、ぽつんと人影。
小林静子(25)、木の丸椅子に座り、前かがみになっている。
路上に絵を並べて売っている。都会の鳥瞰図に巨大な花が咲いている絵が、スケッチブックにオイルパステルで描かれている。一枚三万円。
静子、クンと鼻をならす。
小枝、前を通り掛かり立ち止まる。
小枝「売れてないね」
静子「(無反応)」
小枝「生きてる?」
静子「その花」
小枝、上着の裾をめくって、椿の花をたくさん入れている。
小枝「食べられるかと思って」
静子「ふーん」
小枝「あ。高くなってる。三万円は高いよ」
静子「家賃払わなきゃ」
小枝、絵の前にしゃがむ。
小枝「ぜんぶ買うよ。お金ないけど」
静子、地べたに横になって寝始める。
小枝「ウチに来ない?」

○ 原稿用紙の文字『春』

○ 新聞販売店・外

○ 同・中
作業場、その奥に事務机。
田中明子(25)、パイプ椅子に座って面接を受けている。
明子「早朝とか深夜とか、人のいない時間が好きで。毎日でも大丈夫です」
店主「ホント? 助かる」
と、履歴書に目を通す。
明子、パイプ椅子の軋む音が気になって何度も座り直している。
店主「あと、携帯の番号書いてもらって」
明子「持ってないです」
店主「携帯?」
明子「持ってなくてもできると思って応募したんですけど」
店主「まぁ…なくても出来るけど。本当に持ってないの?」
明子「はい」
店主「あぁ、そう…うーん」
明子「あの。少し考えさせて下さい」
店主「えっ…ちょっと」
明子、会釈して立ち去る。

○ 路地
明子、歩いてくる。

○ 路地裏
明子、抜道のような狭い道を歩いてくる。

○ 東京書店本店・外
一軒家の古い古本屋。看板の印刷は消えかけていて読みにくい。木の引戸が少し開いていて『開かなくなるので閉めないで下さい』と貼紙。明子、歩いてくる。なれた手つきで引戸を開け入る。

○ 同・店内
明子、ぶらつく。古い文学全集、分厚い地方郷土史、昔のマンガ雑誌など売れそうもない古本でごちゃごちゃしている。
レトロなコーヒーカップやガラス製のシュガーポットなどもある。
青森の声「いらっしゃいませ。無理して買わなくていいですよ」
古本が床に積み置かれている隙間に、古い木製の椅子がある。明子、椅子に座り、体を沈める。レジ台の方を覗き見する。
青森新一(35)、レジ台の椅子に座り、昔のマンガ雑誌を読んでいる。厚ぼったいジャケットに、祖父の代から使っているエプロンをしている。手元に真っ白いコーヒーカップ。
明子、手の届く所にあった本を適当に取り、レジ台へ行く。
青森「タダでいいですよ。常連さんだから」
明子「私が買わなきゃこの店は潰れます」
と、本を出す。白い表紙の詩集。青森、詩集を手に取って見る。
青森「ああ、これ。まだ残ってたんだ。自費出版の詩集」
明子「自分でお金払って本出すヤツ?」
青森「そう。十冊くらいしかない貴重なヤツだよ。だからタダでいいですよ」
明子「だからタダじゃダメでしょ」
と、ガマ口の中を見て、止まる。
明子「次来た時に払う」
と、詩集の表紙の絵を見る。
黒く細いペンの線と、淡い色彩の透明アクリル絵具で描かれた、空を浮遊する少女の絵。少女は傘をさして、風に身を委ねている。落ちているようでもあるし、飛んでいるようでもある。笑顔である。

○ トイレの鏡の前
長谷川優(25)、強張った表情で外郎売りの口上をつぶやいている。長い黒髪をぎゅっと結い直す。

○ 俳優事務所の部屋
優、オーディションを受けている。
優「長谷川優です。よろしくお願いします」
*  *  *
優「二十四才です。あ、二十五です」
*  *  *
優「高校の時に演劇部で。主役とかはないですけど。はい。演技の経験はないです」
*  *  *
優、パイプ椅子がガタガタして気になる。
審査員の声「特技とかあります? アクションができるとか、英語ができるとか」
優「(答えにつまって)忍耐強い、です」
審査員の声「例えば?」
優「ずっとじっとしていられる、とか」
審査員たち、失笑する。優、思わず顔を伏せる。台本が手渡される。
審査員の声「ちょっと読んでみて下さい」
優「(つまりながら棒読みで)私の母は無口な人で、いつも何か考え込んでいるみたいで、フラッといなくなったり、急に怒り出して家中のガラスを割ったり、何を考えてるのかわからなくてね。私が中学生の時に、父は一人で家を出ていって、その後すぐに母は死にました。居酒屋でケンカして刺されちゃって。呆気なく死にました。ケンカの原因も刺した相手もわからなくて。最後までわからない人だったな。はい、きれいな人でしたよ」

○ 公民館・全景

○ 同・教室
演技のワークショップ。おじさん、おばさん、年配の参加者が多い。外郎売りをみんなで楽しげに練習している。
一同「そりゃそりゃそりゃ、そりゃそりゃまわってきたは、まわってくるは、あわやのど、さたらなぜつに、かげさしおん。はまのふたつはしんのけいちょうかいごうさわやかに、あかさたなはまやらわ、をこそとのほもよろお」
優、参加者の中にいる。テキストを読んでいる人が多い中、ひとり暗唱している。

○ 同・教室
講師のおじいちゃん、ニコニコしながら話す。
講師「外郎売りはすべての芝居の基礎です。(滑舌悪く)カツゼツと発声の訓練をおろそかにしてはいけない」
優、席で頷きながら聞いている。
講師「あと腹式呼吸による健康効果、小顔効果、ダイエットにもなる。暗記するから認知症予防にもなります」
と、自著『外郎売りで健康寿命を伸ばそう』を取り出す。
講師「これ私の本ね。くわしいことはこちらに書いてます。一冊千五百円ね。本屋にもありますし、アマゾンでも買えます」

○ スーパーマーケット・店先
新商品のプロモーション。鈴木清美(25)、衣装を着て試供品を配っている。着ぐるみ姿の優、おどけながら子供たちに風船を配っている。

○ 同・裏手の休憩場所
優、着ぐるみの頭を外して携帯電話で話している。沈んだ表情。
優「ありがとうございました。失礼します」
と、電話を切って清美に返す。
優「私もダメだった」
清美「も、って言うな。私はまだ結果出てないから。…たぶん、も、だけど」
優「なんか一気に疲れた…」
清美「まだあそこ通ってんの? 外郎売りばっかじゃオーディション無理だろ」
優「楽しいから」
清美、缶ジュースを飲み干しゴミ箱に放り投げる。
清美「もう何でもいい。タレントでもお笑いでもアイドルでも、役者にこだわらずオーディション受けまくってチャンスを掴む」
優「(眠そうに)アイドルは無理」
清美「わかんないよ。今の世の中おかしなことになってンだから」
優「アイドルは無理」
清美「オーディション、一緒に申し込んでおくからね。どっちが先に受かるか競争」
優「無理」
清美「何でもやるっきゃないっしょ。ギリギリだぜ、私ら。わかってる?」
優「わかってる(大あくびをする)」
清美「わかってる態度じゃねぇな。いいかげん携帯買え」

○ 明子と優の家・全景
古い木造平屋の賃貸住宅が並ぶ。

○ 同・外
その中の一軒。錆びたポストに『田中明子、長谷川優』の手書きの表札。ポストの上に空瓶が並んでいて雑草の花が挿してある。

○ 同・玄関
履き潰したスニーカーが二足並んでいる。

○ 同・台所
明子、ハンバーグのタネを手のひらで叩いて空気を抜く。
明子「私は詩人になる」
と、タネをフライパンに投入する。
優、居間で仰向けに寝転がり、足を壁に寄り掛けてブラブラさせている。
優「またダメだったの、面接」
明子「詩人は貧乏じゃなきゃ」
優「じゃあハンバーグも食べらんないのか」
明子「ハンバーグは食う」
優「貧乏じゃなきゃいけないんでしょ」
明子「それはハンバーグは贅沢だと思ってるってこと。ただの貧乏。詩人の貧乏は違う」
優「どう違うの?」
明子「心が満たされないってこと」
優「バイト関係ないじゃん。携帯持とうよ」
と、体勢を変えて、だらだらと効果のない筋トレをやり始める。
優「携帯持っていい?」
明子「やめときな。携帯とかインターネットっていうのは、窓じゃない。壁だ。何も見えなくする」
優「お金ないだけじゃん」
明子、こまめにフライパンを揺すり、
明子「あんなモン持ってると自分で何も考えなくなる。いや、考えてる気になってる。だからタチが悪い」
と、口を動かしながらも小まめにハンバーグの焼け具合を見る。
優「だって、友達に借りるの悪いし」
明子、上手にハンバーグをひっくり返し、火加減を調節してフライパンに蓋をする。
明子「そのうち人間は言葉を忘れるね。自分で言葉にしないで、少ない選択肢の中から指先で選ぶだけ。微妙なニュアンスなんか考えない。その方が脳を使わないから」
と、喋りながらもテキパキと食器の準備を進める。
明子「脳はたくさんエネルギーを消費する。だから脳を使わない方が楽なんだ。言いたい事があるなら自分の言葉で伝えなきゃ」
優「お腹すいた」
と、筋トレをやめて寝転がっている。

○ 同・玄関
大家のおじさんが家賃を受け取る。
大家「引越し先は決まった?」
優「まだ…今アパート探してて。見つかったら、すぐに出ていきますんで」
と、ニコニコと愛想よくしている。明子、優の背中で大人しくペコペコしている。
大家「急いでね。いや、意地悪で言うんじゃないよ。この家もだいぶボロいし」
優「レトロ、って言うんですよ」
大家「地震でもあったら怖い」
優「大丈夫ですって」
大家「君らはそう言うだろうけど、でももし何かあってこの家で…、何てことになったら、あんたたち化けて出るだろう」
優「え? バケて?」
大家「そう。特にあんた(と、明子を見て)化けて出そうな顔してるよ」
明子、愛想笑いをする。

○ 同・居間
手作りハンバーグにスーパーの惣菜の唐揚げがちゃぶ台に並ぶ。優、ちゃぶ台に付いて箸を持っている。
優「料理うまいからさ、料理研究家は?」
明子、台所からフライパンを持って来て、
明子「何でも研究家つければいいと思って」
優「貧乏研究家。屁理屈研究家」
明子「屁、つけんな」
優「ニート研究家。オーディション受からない研究家」
明子「何で野菜買って来ないの?」
優「お金払って野菜買う意味がわかんない」
明子、二人のハンバーグの上に目玉焼きを乗せる。
明子「卵は完全栄養食だけどビタミンCと食物繊維が含まれてない。野菜は大事よ」
優「いただきます」
と、無視して食べ始める。明子、台所にフライパンを置いて来て、食べ始める。
目玉焼きの黄身を崩す。半熟。
優の目玉焼きの黄身は固め。
明子「固い目玉焼きっておいしい?」
優「半熟って、温かい生卵じゃん」

○ 同・台所(夜)
優、食器を洗っている。

○ 同・居間
明子、仰向けに寝転がり、足を壁に寄り掛けている。白い表紙の詩集を読んでいる。優、洗い物を終えて来る。
優「またあの本屋で買ったの?」
明子「貴重品だって」
優「だまされてんじゃない?」
と、詩集を取ってペラペラと読む。
明子「まだまだ世界の見方が画一的だな。独善的でヒクツだ。書いたヤツはたぶん中二だ。同世代の中二病のヤツだ。仲間だ」
優「詩とか、よくわかんない」
明子、壁から足を下ろして、大の字になって目を閉じる。
明子「詩情を、ポエジーを解さない人。私はケーベツするね」
優、詩集を閉じて表紙を見る。
優「表紙の絵が可愛い。好き」
と、詩集をタンスの上に立てて置く。

○ 雑居ビル・屋上
錆びた物置がある。小枝、物置の戸を閉める。
野ざらしのベンチに座る。
エプロンのポケットから白い表紙の詩集を取り出す。
ベンチの上に表紙を下にして置き、立ち去る。

○ 同・喫茶店・外
雑居ビルの一階に店舗がある。店先に植物の鉢植えがたくさん並んでいて、小さな雑木林のようになっている。小枝、丁寧に水をやっている。

○ 同・店内
落ち着いた雰囲気だが、気の利いたインテリアなどはなく、何となく殺風景。テーブル席にガラスのシュガーポットが点々と置いてある。客はいない。高齢の店主、カウンターの奥で居眠り。
小枝、カウンターに寄りかかって立っている。
その目線の先に、何もない白い壁がぽっかりと広がっている。

○ 小枝と静子の部屋・居間
白いキャンバス。
静子、木の丸椅子に座ってキャンバスに向かっている。
新品のアクリル絵具、パレット、絵筆。
小さなテーブル、その上のガラス瓶に赤いビーズ玉がたくさん入っている。
ビーズ玉をつなげた間仕切りのカーテンなど、部屋の中には透明な物が多い。

○ 同・台所
食器棚の中に古いガラス製のシュガーポットがたくさん並んでいる。全部空っぽ。

○ 同・居間
静子、木の丸椅子に座ったまま。絵具やパレットは手を伸ばしても届かない畳の上。
隅に静子のカバン、使い古したオイルパステル等の私物が無造作に置かれている。スケッチブックに描いた絵の束がクリップで挟んで立て掛けてある。
ベランダのカーテン越しの外の明かり。その明かりにキャンバスが白く浮かび上がっている。静子、キャンバスを見つめるばかり。

○ 同・外(夕)
古い二階建てのアパート。小枝、錆びた外階段を上がる。

○ 同・台所
小枝、笑顔で夕飯の支度。鍋にインスタント麺を入れ、菜箸で雑に突っつく。

○ 同・居間
静子、小さなテーブルの前に座っている。小枝、台所からインスタント麺の丼を二つ持ってくる。

○ 同・台所
洗った食器が置いてある。

○ 同・居間
赤いビーズ玉を次々と糸に通していく。
小枝、安価なアクセサリーを作る内職をしている。静子の方を見る。
静子、相変わらずキャンバスを前に木の丸椅子に座っている。キャンバスは白いままで、目を伏せている。
小枝、ビーズアクセサリーを作り続ける。しん…としている。
小枝、テーブルのガラス瓶からビーズ玉を取る。ビーズ玉がこぼれて落ちる。
ビーズ玉はテーブルを転がって落ちる。そのまま部屋を横切るように転がって行く。畳の溝で止まる。
小枝、立ち上がってビーズを拾いに行く。
小枝「(笑って)この部屋、傾いてんの」
静子、椅子に座り直す。椅子がきしんで嫌な音がする。
小枝「絵を仕事にできるよ」
と、アクセサリー作りに戻る。
静子、じっと身を固くする。

○ 同・居間(夜)
壁に掛けられた小さな鏡。電気が消える。
静子、布団に入っている。小枝、静子から少し離れて敷いた布団に入る。
小枝「寒くない?」
静子「大丈夫」
小枝「おやすみ」
しん、とする。小枝、静子の方を向く。
小枝「私、モデルになろうか?」
静子「イヤだよ」
小枝「何で? 描いてよ」
静子、小枝から顔をそらして、
静子「ごめん。これ以上迷惑かけない」
小枝「迷惑じゃないよ。私が誘ったんだし」
静子「早く仕事見つけて、出ていくから」
と、布団に顔を埋める。

○ 同・台所
食器棚の上にガラスの花瓶がある。しおれた椿の花がたくさん入っている。

○ 会議室の長机
優、椅子から前のめりになってオーディションを受けている。
審査員の声「レポーターということで、色々やってもらうんですけど、中でも大事なのがね、食レポ」
と、ペットボトルの水が渡される。
審査員の声「普通の水だけど、美味しそうに飲んでもらって、で、何か一言。表情が見たいから。あと気の利いたコメント」
優「…気の利いた」
審査員の声「そう。一口飲んで、で何か」
優「はい」
と、蓋を開けないまま飲もうとする。
優「あっ…すみません」
と、慌てて蓋を開ける。
審査員の声「緊張しないで」
優、蓋を落としてしまいカラカラという音が響く。ペットボトルを置いて蓋を拾う。長机にぶつかってペットボトルが倒れる。こぼれた水を拭こうとして、慌てて自分のカバンから拭くものを探すが、ない。追い詰められて、服の袖で拭く。
審査員の声「ティッシュ、そこに」
優、ティッシュで拭きながら、
優「後味が…すごくさわやかです」
審査員の声「飲んでないじゃん」
審査員たち、失笑する。

○ ホテルの中の小洒落た喫茶店の席
優、真剣な顔でオーディションを受けている。
演出家の男の声「日本に未来はないよ。どっちを見てもアホばっかりだ。毎日毎日、アホ同士、ネットで叩き合ってる」
優、紙袋を渡される。
演出家の男の声「頭にかぶりなさい」
優、戸惑いながらも紙袋をかぶる。
演出家の男の声「逆。前と後ろが」
優、かぶり直す。紙袋には大きな目玉が描かれている。
演出家の男の声「見えるか?」
優「見えないです」
演出家の男の声「だろう。それがお前だ。なんで見えない?」
優「えっ…(迷って)紙袋をかぶってる…」
演出家の男の声「ん? なんて?」
優「(声を張って)紙袋をかぶってるから」
演出家の男の声「ちゃう! お前が見ようとせーへんからや。俺がこの舞台で訴えたいテーマはな、『目を開け、破滅は待ってくれないのだ』ちゅう事なのよ。わかるな?」
優、紙袋をかぶったまま、ウンウンとうなずいている。

○ きれいな会議室
優、きりっとした表情でオーディションを受ける。
優「長谷川優です。よろしくお願いします」
と、深く頭を下げる。
審査員の声「えっと(と戸惑う)」
優「はい。やる気はあります」
審査員の声「いや、あの」
優「高校の時は演劇部でした。乙女さん役をやったんです、市の文化会館で。坂本乙女役。坂本龍馬のお姉ちゃんです。もしも現代の高校生が坂本龍馬に転生したら、っていうコメディーで、評判も良くて。私はあの…とにかく頑張ります。お願いします」
審査員の声「裸になれる?」
優「えっ」
審査員の声「裸になって、まわしを締めるの」
優「…」
審査員の声「力士、おすもうさん役のオーディションなんだけど」
優「…」
審査員の声「日にち間違えちゃったかな」
優、頭を下げて逃げるように去る。入れ替わりにオーディション参加者が来る。大男。

○ 商業施設のイベント会場
優、着ぐるみ姿で風船を配っている。子供たちに取り囲まれている。清美、隣で試供品を配っている。子供の母親が優に携帯電話を向ける。
母親「動画動画。何かやって」
優、清美に助けを求める。清美、拍手をして火に油を注ぐ。優、一生懸命動いて、それっぽく踊ってみせる。

○ 同・休憩所のテント
優、椅子でぐったりしている。
優「バイト代同じってどういう事?」
清美「しょうがないじゃん。背高いんだから」
優「もうやめよっかな」
清美「暑くなるしね」
優「違う。オーディション」
清美「…あぁ」
優「でも、やめ時がわかんない」
清美「やめて何すんの?」
優「わかんない」
清美「アタシも」

○ 同・駐車場の隅
優と清美、座っている。花屋のワゴン車が止まる。
月丘伸夫(25)、運転席から顔を出す。
伸夫「ここかよ」
清美「おせぇ」
伸夫「わかりにくいわ。(優に)どうも」
優「こんにちは」
清美「家まで送れ」
伸夫「ふざけんな、配達の途中。駅までな」
清美「家まで」
伸夫「道細いんだよ、あそこ」
清美「家まで」
伸夫「…俺ってスゲーいい人だよな、ホント」
優、二人のやり取りを見て笑っている。
清美「乗んなよ」
伸夫「どうぞどうぞ」
優「いい」
清美「気遣うなって」
優、手を振って歩いていく。
清美「じゃーね」

○ 東京書店本店・外

○ 同・店内
明子、レジ台の青森の椅子に座っている。
青森の椅子からの眺め。薄暗い古本の山、ほこりっぽい空気、外光の入らない窓と、その向こうの人通りのない道。
明子「いらっしゃいませ…無理して買わなくていいですよ…」
と、頬杖をついて目を閉じる。
青森、買物から帰ってくる。明子、レジ台にうつぶせている。
青森「びっくりした…何してんの?」
明子「店番。不用心ですよ。泥棒でも来たらどうすんです?」
青森「古本盗む泥棒なんていないよ」
明子「いる。私とか」
青森「泥棒なの?」
明子「(顔を上げ)違う。お金払いに来たの」
青森「…何だっけ?」
明子、白い表紙の詩集を見せる。
青森「ああ、いいよ。別に」
明子「泥棒じゃないから」
と、七百円をレジ台に置き、青森の椅子を離れる。
青森「それ、読んだの?」
明子「え? ああ、はい」
青森「どうでした?」
明子、詩集をペラペラめくりながら、
明子「そうですねぇ。詩情が、こう、行間から溢れてくるというんですかね。孤独で寂しいけど凛とした強さがあって、えーっと、技巧に走らない直情的な表現が…」
青森「(目を糸のように細くしている)」
明子「(黙ってしまう)」
青森「自費出版を勧めたのは僕なんですよ」
と、明子から詩集を取ってペラペラめくりながら、
青森「出版社探したり、編集さんと打ち合わせしたり。ウチのお客さんの中に絵を描く人がいて、表紙の絵描いてもらったらって提案して(詩集を明子に返し)、僕の方が一生懸命だったなぁ」
と、店の奥の住居の方へ引っ込む。
明子、青森の背中を見送る。
青森の声「書いたりはしないんですか?」
明子「えっ?」
青森の声「詩、とか」
明子「…。書きますよ。身近なものをテーマにして、例えば、ささいな日常とか身の回りの自然とか、あと恋愛とか」
青森の声「出版したいと思わないの?」
明子「…私にできますか?」
と、青森の返事を待ちながら、間を持て余している。
青森、コーヒーを淹れて持ってくる。
青森「出版する時は言って。で、最初の読者にして」
明子「はい」
青森、コーヒーを勧める。
明子「コーヒーはあんまり」
青森「飲まない?」
明子「飲めないわけじゃないけど」
青森「どうぞ。喫茶店で買ってきた豆だから」
明子「そんな事言われたら、美味しくないって言ったら私の味覚がおかしい事になるじゃないですか」
青森「無理にとは言わないけど」
明子「味覚には自信あるんです」
と、コーヒーカップを持って、古い木製の椅子に座る。
青森「金平糖好きですか?」
明子「あ、いいですねぇ」
青森、店の奥に引っ込む。明子、コーヒーを一口。
*  *  *
金平糖の入ったガラスのシュガーポット。

○ 雑居ビル・喫茶店・外
蛇のように路面を水が流れていく。
小枝、鉢植えに水をやり続けている。

○ 同・店内
客が店を出て行く。
小枝、テーブルのコーヒーカップを片付ける。シュガーポットから角砂糖を一つ取って口に放る。ふと目が止まり、思わずじっと見てしまう。
視線の先。何もない白い壁がある。

○ 同・屋上
野ざらしのベンチに白い表紙の詩集が置いたままになっている。小枝、ベンチに座り風景を眺めている。
都市の街並みと空の眺め。
小枝、目を閉じる。
小枝のとなりに、詩集の表紙絵の少女が座っている。絵が等身大になって、そのまま抜け出したかのよう。
表紙絵の少女はベンチを離れ、小枝の前に立つ。小枝、目を閉じたまま。少女はうやうやしくお辞儀する。小枝、目を開け、初めて少女を見る。少女はにっこり笑いかける。
少女は踊り出す。小枝、表情を変えず見ている。少女は陽気なミュージカルのように、あっちに行ったりこっちに来たり、傘を回しながらふわりと浮かび上がったりする。
少女は小枝の前に来る。小枝をダンスに誘うように手を差し出し、手を取る。
小枝、その手をやんわりと拒む。

○ 同・店内
小枝「**円になります」
と、レジを打つ。青森、コーヒー豆の入った紙袋を受け取る。
小枝「ありがとうございました」
と、レジカウンターを離れようとする。
青森「あの」
小枝「(振り向かず立ち止まる)」
青森「また絵を描いてもらえないですか? 本を出版したいという人がいるので」
小枝「…やめました」
青森「え?」
小枝、レジカウンターを離れて、何となくカウンター席を拭き始める。
青森「壁に飾ってあった絵は?」
小枝、知らんぷりをする。が、思わず壁を見てしまう。
表紙絵の少女が白い壁に映写されたように、楽しそうに踊っている。
小枝、目をそらす、がその先の視界。
別の白い壁、窓ガラス、卓上のシュガーポット、ガラスのコップ、色々な所で少女が踊っている。
小枝「(悲鳴のように)もう消えてよ」
青森、驚いている。店主、カウンターの奥で目を丸くしている。
表紙絵の少女たちは魔法が切れたように延々と墜落し始め、消える。
小枝「(何事もなかったように)仕事が忙しいので」
と、申し訳無さそうに目を伏せて、カウンター席を拭く。

○ 河川敷
ざあっ…と草がなびいている。
雑草が小さな花をつけている。
静子、花の絵をスケッチしている。黒で描かれた大小の花がスケッチブックのページを病的に埋め尽くしている。
スケッチブックを閉じ、座っていた木の丸椅子を持って去る。

○ シャッター通り商店街
静子、歩いてくる。絵を売っていた場所の前で、思わず立ち止まる。木の丸椅子を置いて座る。しん、としている。
静子、ふと視線を止める。視線の先に洋品店。静子、気になって洋品店の方へ行く。汚れた陳列窓から中を覗く。
がらんとしていて暗い。はっ、と目を奪われる。
マネキンと目が合う。
昭和レトロな女性のマネキンの物憂げな表情。

○ 小枝と静子の部屋・台所
小枝、タマゴサンドを調理中。
小枝「喫茶店のマスターね、いつも寝てんの」
と、タマゴの味見をしながら、
小枝「でもね、タマゴサンドがすごい美味しい。でも作ってる所見たことないの。いつの間にかできてる。魔法?」

○ 同・居間
小枝、タマゴサンドを食べながら、
小枝「うーん。店の味を再現しようと思ったけど、ちょっと違う。何か足りないなぁ。今度お店に来てよ」
静子「おいしい」
と、タマゴサンドを食べながら、スケッチブックにオイルパステルをこすりつけて絵を描いている。
視線の先に裸のマネキンがいる。

○ 同・台所
お皿にタマゴサンドが一切れ残っている。

○ 同・居間(夜)
静子、マネキンを描き続ける。スケッチブックをめくって、すぐに次の絵を描き始める。
小枝、静子を気にしながら、ビーズアクセサリーを作る内職をしている。
静子、マネキンを見つめたまま、ピタリと手を止める。小枝も手を止める。
静子、カバンをごそごそとあさって、櫛を取り出す。そしてマネキンの髪を梳き始める。
ビーズがテーブルから次々と落ちてきて、ころころと部屋を転がっていく。

○ 雑居ビル・屋上
小枝、野ざらしのベンチに座ってうつむいている。表紙絵の少女がかわいらしく踊っている。笑顔で、足取りはますます軽く、傘を回しながらふわりふわりと飛び回る。
少女は小枝を誘うようにベンチの周りを回りながら踊っている。小枝、強くうつむいたまま。少女はますます調子づいてきて、屋上中を縦横無尽に、スイスイと飛び回る。
小枝、顔を上げる。
少女の傘が弾けるように上空に飛んでいって、消える。
少女はダンスの途中の姿勢で静止している。パッ、と首に傷が開き、絵具をこすった様に赤い血が噴き出す。少女の首がもげて落ち、赤いかたまりがゴロゴロと転がっていく。絵具で赤く塗り潰されていく。一面が赤くなる。

○ 原稿用紙の文字『夏』

○ ある劇団の稽古場
ボロい扇風機がノロノロと回っている。
オーディションが行われている。参加者は車座になって汗だくで熱弁をふるう。
参加者A、短髪であぐらをかいている。
参加者A「女らしくしろと母は私に言いました。私は家出しました。色々経験しました。そして役者になろうと思いました」
参加者B、真っ白いシャツの女性で雑に髪を下ろしている。
参加者B「息が臭いんです。みんな、息も体も臭い。臭い臭い! でもわかってるんです。私が一番臭いって。昨日、辞職願を出してきました」
参加者C、スキンヘッドに、顔中タトゥーとピアスのお兄ちゃん。
参加者C「とにかくムカつく。わかんねぇけど、いつもムカついてる。すげぇムカつくから、自分でも何すっかわかんねぇ。マジで世の中メチャメチャにしてやりてぇ」
優の順番。参加者たち、優を凝視。
優「えっと…(気圧されて口ごもる)」
好々爺の演出家、涼しい顔で静かに語る。
演出家「テーマは『若者の怒り』です。あなたも心底怒りを感じたことがあるでしょう」
優「(考えて)バイト代が安い、とか」
演出家「(にこやかに)それなら雇用者に言ってやりなさい。怒鳴ってやりなさい。その人を殴りなさい。殺しなさい」
参加者C、急に床を殴りつける。優、ビクッとなる。
演出家「若者はもっと怒り、叫び、破壊しなければならないんです」
参加者たち「ハイ!」

○ 商業施設・広い駐車場
炎天下、車はない。外郎売りの声。
優、ぽつんと一人、着ぐるみ姿で黄色い風船を持っている。外郎売りの声がお経のように頭の中でこだまして、消える。
風船がすーっと青空に吸い込まれていく。

○ 東京書店本店・店内
明子、アイスコーヒーふたつとシュガーポットに入った金平糖を持って店の奥から出てくる。
明子「どうぞ」
と、金平糖を一つ取って噛じり、古い木製の椅子に座ってコーヒーを一口。青森、古本の整理をやめて、レジ台に来る。コーヒーを一口。
青森「僕より上手、コーヒー淹れるの」
明子「お湯の温度が高すぎるんですよ。前飲んだ時思ったけど」
古本の上に置かれた古い扇風機がカラカラ回っている。
明子「古本の匂い、好き。ずっとここにいたくなる。古本のお墓に囲まれて、そのうち私も…」
青森「(割って入り)書く方は進んでる?」
明子「え? あ、はい」
青森「出版社には話しといた。いつでも原稿見せてくれって。表紙の絵は、まぁ…」
明子「え、ちょっと」
青森「あとはまぁ、頑張ってよ」
扇風機の風が明子に届く。
明子「待って。なんで勝手に話進めんの」
青森「早いほうがいいかなと思って」
明子「出版の話とか、まだ早いよ」
青森「(少し笑ったように)早くない早くない。創作意欲のある人は若いうちに世に出ないと。もっと焦らなきゃ」
明子「なにそれ、ちょっと待って」
青森「うちに帰って書きなさい。こんなとこにいたらダメになる」
明子「なに、その知ったふうな言い方」
青森「僕みたいになったらダメだ」
と、言い終わらないうちに店の奥へ引っ込んでしまう。

○ 明子と優の家・縁側(夕方)
風鈴が鳴る。
明子の声「ただいま」

○ 同・台所
明子、来る。優、一人でハンバーグを焼こうと奮闘している。
優「おかえり…そしてごめん」
明子、フライパンを覗く。
明子「あー。つなぎ入れなかったな」
優「つなぎ?」
明子「甘辛くして、そぼろにしちゃえ」
優、ハンバーグを崩す。明子、居間へ。
明子の声「外で食べる? 暑いし」
優「(少し嬉しそうに)えー、私おごるの?」
明子の声「心まで貧乏になるな。心は錦だ」
優「…コニシキ?」
明子の声「…そう。小錦。どんなに押されてもどっしり構えて、決して慌てない」
優「小錦がどうしたの?」

○ 同・居間
明子、うつ伏せに寝転がっている。優、来る。
優「小錦って横綱だっけ?」
明子「…生ハム」
優「担担麺」
明子「うーん、チョリソ、辛いの」
優「あー…うーん…やっぱ担担麺」
明子「よし、ケンカすっか」
と、勢いよく立ち上がる。

○ 公園の砂場
明子と優、四股を踏む。
明子「変化とか、しょっぱいことすんなよ」
優「四つに組んでからが相撲じゃ。鬼のガブリを喰らえ」
明子「差せるもんなら差してみぃ」
相撲で勝負する。小細工したり文句を言ったりで勝負はつかない。笑いながらだらだらとじゃれ合う。
明子「…あっつい」

○ ドーナツ店・全景(夜)

○ 同・店内の二階
明子と優、窓に面した席に座りドーナツを食べている。
優「おいし」
明子「ドーナツで一番美味しいのは、ドーナツの穴だ」
優「またわかんないの出てきた」
明子「私もわかんない。ずっと前に誰かに聞いた気がすんだよなぁ」
優「たあぷぽぽ、たあぷぽぽ、ちりから、ちりから、つったっぽ。たぽたぽ、ひだこおちたらにてくを、…っと」
と、こぼれたドーナツのかけらを食べる。
優「演劇部楽しかったなぁ。みんなへたくそで、友達いなくて、変な子たちだった」
明子「あんたも変だよ」
優「ビンでカエル飼ってる子でしょ。ゾンビ映画大好きな子。アニメのコスプレばっかしてる子もいた。私がいちばん普通だった」
明子「楽しそ」
優「オーディションに受かるイメージ湧かないんだよね。もし受かったとしても、ちゃんとやれる自信もないし。向いてないんだろうね」
明子「何がしたいの?」
優「わかんない」
明子「あきらめな」
優「うーん…」
明子「あきらめるっていうのは、明らかにするって事、理解するって事だよ。いいんだ私たちは。才能も運もないんだから。人畜無害。いいじゃん、気楽で」
と、あんドーナツをかじる。
優「でもさ、どっかでちゃんとやれるかもしれないって思ってる自分もいるんだよね」
と、ドーナツを二つに割って、
優「あの本がきっかけ、傘持った女の子の本。こうやって、ちゃんと形にしてる人がいるなら私も、って思ったの。あげる」
と、ドーナツを半分明子に差し出す。
明子、あんドーナツを口いっぱいに詰め込んで無言。

○ シャッター通り商店街
明子と優、グミチョコパインをしながら歩いている。明子、ジャンケンで連勝して、優を置いて先に進む。二人の楽しそうな声だけが響いている。
洋品店の陳列窓が割れている。優、ジャンケンで連勝して逆転する。どんどん先に行き、二人の距離が遠くなっていく。
優、パーで勝って遠くで手を振っている。
優「パ、イ、ナ、ツ、プ、ル」
と、ずっと先に行く。
明子、ぽつんと立ち尽くして優を見送る。
優の姿が消える。

○ 小枝と静子の部屋・居間
雨音。使い古したオイルパステルの山。
静子、木の丸椅子に座って一心にスケッチブックに向かっている。じっと見つめる。
視線の先にマネキン。
オイルパステルがごしごし動く。
マネキンを描いた絵があちこちの壁に貼ってある。キャンバスは白いまま部屋の隅に追いやられている。
静子、マネキンを見て、描く。
マネキンもまた静子を見ている。
静子、マネキンを見る。手が止まる。

○ 雑居ビル・喫茶店・外
雨降り。

○ 同・店内
雨宿りの客で混んでいる。店主、珍しくレジカウンターに立っている。
小枝、客の注文を聞いている。途中で窓の外に目が行く。
表紙絵の少女が歩いている。
小枝、目を奪われるが、気を取り直して注文の続きを聞く。が、外が気になる。
注文の途中でその場を離れる。

○ 同・外
小枝、出てくる。傘もささず少女を追う。

○ 路地
小枝、周囲の路地に目を散らす。

○ 路地
表紙絵の少女は誘うような足取りで傘をくるくる回したりしている。
小枝、付いて行く。

○ 小枝と静子の部屋・居間
畳の上のオイルパステルとスケッチブック。
静子、マネキンを見ている。
静子「何、考えてるの?」
マネキンは静子を見ている。
静子「洋服買いに行こっか?」
マネキンは見ている。
静子「…これからどうする?」

○ 路地
表紙絵の少女は歩いて行く。
小枝、少女を追っていく。
少女はちらっと振り向いて、パッと走り出す。
小枝、走って追う。
少女の背中が路地を出て大通りへ。
小枝、大通りに出る。

○ 駅前大通りの歩道
歩行者の色とりどりの傘の色彩。
小枝、周囲に目を散らす。

○ 小枝と静子の部屋・居間
静子、赤系のオイルパステルの中から色を選んでいる。真剣に、楽しそうに一色を選ぶ。
マネキンの唇に口紅のように赤いオイルパステルを塗る。
ガラスの花瓶の花びらが毒々しい色に腐敗し始めている。

○ 駅前デッキ
横断歩道が見える。信号が青になり、歩行者の傘の色彩が流れる。
小枝、傘の流れを眺めている。
にじんだ傘の色彩の中に表紙絵の少女の傘がある。
少女は歩行者の傘の上を軽やかに飛び回り、信号機の柱につかまってくるくる回ったり、電線を綱渡りのように渡ったり、信号待ちの車の上をポンポンと飛び移ったりする。
小枝、思わず微笑んで濡れた前髪を払う。

○ シャッター通り商店街
小枝、歩いている。表紙絵の少女も隣で歩いている。
小枝「(立ち止まって)嫌なんだよ、一人は」
少女は少し先で立ち止まり、振り返る。
小枝「さよなら」
と、しっかり少女を見る。
少女は元々いなかったように消えている。
小枝も消える。

○ 明子と優の家・台所
優、歯ブラシをくわえたまま小奇麗な洋服に着替えている。
優「ウエストがゆるい。どうしよう」

○ 同・居間
明子、壁際に座り詩集を読んでいる。優、どたどたと行ったり来たりしている。
優「てるてる坊主みたいじゃない?」
明子「顔が?」
優「そっかベルト…ないわー」

○ 同・台所
優、慌ただしく歯磨きをしている。明子、裁縫道具を持ってくる。
明子「動かないでよ」
優「(歯磨きしたまま)何?」
明子、さっと針に糸を通し、手縫いでウエストの背中部分を詰める。

○ 同・玄関
優、靴をはいて家を出ようとする。明子、詩集を片手に見送る。
優「あっ、髪。髪結ぶの忘れた」
明子「いいじゃん。そのままで」
優「怖い。落ち着かないよ」
明子「縫ったところ隠れるし。髪きれいだよ」
優「(驚いて振り返り)…初めて言われた」
と、急に落ち着いたようになる。髪と服装を軽く整える。
優「先に寝てて。私は大丈夫だから」
明子「うん。私も大丈夫」
優、出て行く。

○ 東京書店本店・店内
明子、入ってくる。古本を指でなぞりながら進む。
いつも座っている古い木製の椅子がない。
明子「椅子は?」
青森の声「片付けたよ」
と、店の奥から出てくる。自分のコーヒーだけ淹れてきて、レジ台の椅子に座る。
明子「椅子がない」
青森、明子を気にしつつ本を取って読み始める。
明子、指先をレジ台にこすりつけながら、
明子「書いてないですよ」
青森「書けなくても、毎日ちょっとでも、一行でもいいから書いて」
明子「書けないですって」
青森「(少し語気を強めて)書けるかもしれないって、少しは思わないの?」
明子「詩なんか書いたことないし、書きたいと思ったこともないです」
青森「…」
明子「本も読みません。本そのものが好きなんです。古本が好き」
青森「…」
明子「誰も読んでくれない売残りの古本みたいな、昨日だか明日だかわかんないみたいな、この店みたいな、私はそういう…」
青森、急に店の奥へ引っ込む。
青森の声「(イライラして)僕みたいになったらダメだって。若い人はもっと世に出て、挑戦しなきゃ。自分より若い人が諦めてるのを見ると」
明子「私は何も諦めてない」
青森の声「ここにいたらダメだ、もう来ないで下さい」
明子「私の椅子はどこですか」
青森の声「捨てたよ」
明子「ここで働きたい。ここがいいんです」

○ 海辺の貸切レストラン
一同「かんぱーい」
拍手、歓声が沸き起こる。ウエディングドレス姿の清美とタキシード姿の伸夫。
一同「おめでとう」
友人たち、一斉に花びらをばらまく。
優もその中にいる。

○ 砂浜
一同、海を背景に記念写真を撮る。風で清美のヴェールが飛ばされ大騒ぎ。
*  *  *
夕方。波打ち際の花びらが波に飲まれる。

○ オーディション会場の部屋
優、どこか上の空でオーディションを受けている。長い髪をほどいている。
審査員の声「じゃあ…最後に何かあれば」
優「えっ? あ…頑張ります」
審査員の声「では、なければ以上で」
優、椅子を立ち、深々とお辞儀をする。
優「ありがとうございました」
女性の審査員の声「髪、きれいですよね。何か気をつけてるんですか?」
優「えっ」
女性の審査員の声「髪。お手入れとか」
優「あの(言い淀んで)あんまり洗わないんです、髪」
女性の審査員の声「えっ、そうなの」
優「シャンプー代がもったいないから。トリートメントとか、ドライヤーもしない」
審査員たちのほのぼのとした笑い声。
女性の審査員の声「何で伸ばしてるの? カット代がもったいないから?」
優「実家が床屋さんなんですけど、兄がいるんですけど、ちっちゃい時からずっと野球やってて、ずっと坊主頭で」
女性の審査員の声「うん」
優「で、お父さんがバリカンで坊主にするんですけど、私もついでに髪切られて」
女性の審査員の声「坊主に?」
優「いや坊主じゃないですけど、おかっぱにされて、前髪ぱっつんの。だから、髪切るのがトラウマで…」
審査員たちの楽しげな笑い声。優、顔を伏せている。
女性の審査員の声「いや、すごくいいなと思って。いい武器になると思う」

○ スーパーマーケット・店先
優、新商品の試供品を配っている。表情が固く、配り方もぎこちない。隣に着ぐるみがいる。いたずらしてきた子供を小突き回している。

○ ドーナツ店・店内の二階(夜)
優、窓辺の席に一人で座っている。あんドーナツを持ったまま、外を見ている。

○ 小枝と静子の部屋・居間
小枝、壁の鏡を見て髪を梳いている。

○ 同・外
静子、アパート前の路地にキャンバスを置いて、木の丸椅子に座っている。
小枝、古いビニル傘を持って、弾むような足取りで外階段を下りてくる。服を着替えている。表紙絵の少女の服装に似ている。
小枝、バサッと傘を開いて静子の前に立ち、絵のモデルになる。
静子「(独言のように)人は描いたことないよ」
小枝「(独言のように)本の表紙を描くの」
静子「キャンバスに描いたこともないし。絵具も使ったことないし。雨、降りそう」
小枝「それから喫茶店のマスターに頼んで、壁に絵を飾らせてもらおう。お客さんは少ないけど、近所の出版社の人がたまに来るから、絵を見てもらえば、表紙の絵とか挿絵とか、仕事もらえるかもしれない」
静子「椅子が…」
と、木の丸椅子ががたついて座り辛そうにしている。
小枝、傘を回しながら静子のそばに来る。
小枝「言う通りにしてよ。私は、あなたを買ったんだから。あなたは私の絵を描く、それで絵描きになるの」
静子、立ち上がる。木の丸椅子を持って、小枝に背を向け立ち去る。

○ 駅前デッキ(夜)
横断歩道を渡る人たちが見える。
静子、隅の方で木の丸椅子に座っている。車の長いクラクションが聞こえる。静子、立ち去る。

○ 駅前大通りの歩道
静子、木の丸椅子を持って歩いてくる。

○ シャッター通り商店街
静子、歩いてくる。

○ 路地
静子、歩いてくる。

○ 小枝と静子の部屋・外
静子、椅子を置いて座っている。のっそりと立ち上がり、外階段を上がる。

○ 同・玄関
暗い。静子、ドアを開け入ってくる。

○ 同・居間
静子、明かりをつける。小枝の姿はない。白いキャンバスはある。マネキンの姿がない。壁の絵もない。

○ 路地
小枝、マネキンとマネキンの絵の束を抱えて歩いていく。

○ シャッター通り商店街
小枝、マネキンを置いて休みながら、歩いていく。

○ 駅前大通りの歩道
小枝、マネキンを引きずって歩いていく。

○ 駅前デッキ
小枝、マネキンの絵を落とす。拾い集めて、歩いていく。

○ 横断歩道
小枝、マネキンを引きずって渡る。途中マネキンの頭がもげて落ちる。車に長いクラクションを鳴らされながら、マネキンの頭を拾う。

○ 雑居ビル・喫茶店・屋上
小枝、物置の戸を閉める。
野ざらしのベンチにどっかりと座り込む。
暗い都市の街並みと夜空の眺め。
小枝N「窓が泣く、窓が泣く、私は都会の椅子でひとり、空を飛ぼうとしています、私は見境なく…」
表紙絵の少女が暗い表情で小枝の隣に座っている。少女は手摺に向かって歩いていく。
小枝、疲れた目で見ている。
少女は手摺を背に振り返り、静かに小枝を見る。
小枝、見ている。
少女はよいしょ、と手摺の上に立ち、小枝を見る。
小枝、見ている。
少女はぐらぐらとバランスを崩す。アッ…と、背中から倒れて…。

○ 原稿用紙の文字『秋』

○ 街ビルの駐車場
優、うつ伏せに倒れて動かない。長い髪がきれいに散らばっている。
監督の声「はい。じゃあ本番お願いします」
と、撮影班が動き出す。優、まだ動かない。スタッフに声をかけられる。はあっ、と止めていた息を吐き出す。

○ 停車中のロケバス・車内
優、頭と口に血糊をつけ、緊張の表情で外郎売りをつぶやいている。
男性俳優の声「外郎売りか。セリフねぇのに」
と、前方の席で振り向き、
男性俳優「ンなもん役に立たねぇよ。外郎売るより媚売っとけ」
優「はい(と直立)」
男性俳優「(優の近くに来て)座れよ、パワハラになンだろ」
優「失礼します(と着席)」
男性俳優「『実際にあった都市伝説』って、実際にあったら都市伝説じゃねぇじゃん、事件じゃん、なぁ」
男性俳優の台本は綺麗なまま。
男性俳優「うつ伏せじゃ顔見えねぇし。どうせ死ぬなら仰向けで死なせろよなぁ?」
優「頑張ります」
優の持っている台本はしわくちゃ。
男性俳優「知ってる? ベテランの役者になると、死ぬ時に本当に心臓を止めンだぜ」
優「そう…なんですか?」
男性俳優「(調子に乗り)そうそう。息を止めンじゃない、心臓の鼓動を止めンだ。本当に死ぬんだよ。精神が肉体を超越するんだな…ウン」
スタッフが来る。
スタッフ「お願いしまーす」
優「あっ、はい」
男性俳優「全力で死んでこい。俺も全力で突き落としてやッから(と寝始める)」
優「頑張ります」
と、ロケバスを下りる。

○ 静かな住宅街・坂の頂上(夕方)
家並みに夕日色が広がっている。

○ 優のアパート・外
小綺麗な外装。

○ 同・部屋
優、フローリングの床に敷いた布団で寝ている。家具や家電もそろっていない。携帯電話のアラームが鳴る。優、飛び起きる。

○ 同・玄関
新しいスニーカーがある。

○ 同・部屋
優、台所に立ったままカップラーメンを食べ始める。コップに水道水を注いで飲み、ラーメンを食べる。残り物の食パンを一枚取り出してかじり、ラーメンのスープをすする。

○ 東京書店本店・店内
優、中の様子をうかがいながら入ってくる。店内は少し片付いている。
青森の声「いらっしゃいませ。無理に買わなくていいですよ」
優、目に入ったガラス製のシュガーポットを取り、レジ台に持っていく。
青森「傷が多いからタダでいいです」
優「えっ、でも」
青森「いいですよ(とマンガ雑誌を読み出す)」
優「あの、白い表紙の本なんですけど。表紙に傘を持った女の子が描いてある」
青森「(目を上げて)」
優「置いてませんか?」
青森「…。ちょっとわからないです」
優「その本を買った女の子知りませんか。背がこのくらいで髪の長さがこれくらいで」
青森「(笑って)わからないなぁ」
優「ですよね。ごめんなさい」
青森「…。その子、何かあったの?」
優「いいえ。別に」
と、シュガーポットを持たずに去る。

○ 同・外
優、出てくる。青森、追って出てくる。
青森「喫茶店で働いている子が持ってるかも。その子が表紙の絵を描いたから」
と、シュガーポットを手渡す。

○ 横断歩道(深夜)
優、周囲に目を散らしながら走る。

○ 駅前デッキ
優、足がもつれながらも走る。

○ 駅前大通りの歩道
優、走る。

○ シャッター通り商店街
優、必死に走ってくる。息が切れて足が止まる。呼吸が落ち着いてくる。
しんとしている。気配を感じて、ハッと振り向く。目を見開く。
目線の先にカメラと撮影班。

○ 雑居ビル・喫茶店・外
植木鉢はなくなっている。優、来る。

○ 同・店内
優、入ってきてテーブル席に着く。静子、従業員として働いている。
静子「いらっしゃいませ」
優「えっと…じゃあブレンドで」
静子、愛想なく会釈して行く。
優、静子をちらちら見る。
静子、コーヒーを持ってくる。
優「あの、ちょっとお聞きしたいんですけど。白い表紙の本、知りませんか?」
静子「はい?」
優「古本屋さんで聞いたんですけど、ここの店員さんがその本を持ってるって」
静子「…」
優「表紙に傘を持った女の子が描いてあって、あなたがその絵を描いたって」
静子「…(首を傾げる)」
優「そう聞いたんですけど…ごめんなさい。人違いみたい…」
静子、テーブル席を離れる。

○ 同・屋上
静子、手摺から下を覗き込む。野ざらしのベンチに座る。置きっぱなしの詩集を手に取る。
ペラペラとめくり、最後に表紙の絵。絵を手のひらで隠す。

○ 河川敷
ざあっ…、と草がなびく。静子、草の中でうつむいて立っている。
足元に雑草の花。きれいな花を見つけて一輪摘む。

○ 病院・全景

○ 同・病室
静子、窓の方を向いて椅子に浅く腰掛けている。摘んできた花を指先で持て余している。花首がくたっとしている。
小枝、ベッドに横になっている。ケガはなく、治療も受けていない。
ベッドも壁もカーテンも白い。
医者と看護師が回診に来る。静子、立ち上がる。小枝、体を起こす。静子、ベッドの横に置いてあった洗濯物の紙袋を取り、逃げるように去る。
間仕切りのカーテンが閉められる。向こう側から声が聞こえる。静子、立ち聞きする。
医者の声「具合はどう?」
小枝の声「大丈夫です」
医者の声「だろうね。いつまでいるの? 早く出てってよ(と明るく笑う)」
小枝「(小さく笑う)」
静子、立ち去る。

○ コインランドリー
乾燥機がぐるぐる回っている。

○ 小枝と静子の部屋・居間(夜)
静子、ビーズアクセサリーを作る内職をしている。ビーズがこぼれて転がっていく。無視して内職をする。ビーズが転がっていく。内職を続ける。
ビーズが次々と転がっていく。
*  *  *
小枝、病院の真っ白いベッドの上に直立している。口に一輪の椿の花をくわえている。
*  *  *
窓の外が薄明るい。静子、木の丸椅子に座ってキャンバスに向かっている。
白いままのキャンバス。

○ 病院・外の花壇
小枝、車椅子に座って花を見ている。静子、黙って後ろに立っている。
小枝、病室に戻ろうとする。静子、車椅子を押そうと手を伸ばす。小枝、すっと立ち上がる。車椅子を押して、すたすた歩いていく。静子、その場で見送る。

○ 同・ナースステーション前
静子、目を伏せて話を聞いている。
看護師の声「運が良かったのか、どうなのか。本人にとっちゃね。言っちゃアレだけどさ」
看護師、書き物の途中のボールペンをカチカチさせながら、
看護師「何か心当たりとかないの? 友達なんでしょ?」
静子「(首を傾げる)」
看護師「すぐにでも退院できんだけどさ、出てかないのよ、あの子。家族の連絡先も教えてくれないし、こっちも困ってんの」
静子「…すいません」
看護師「長く居られてもアレだし、何するかわかんないでしょ? あなたから話してもらえる? 友達なのよね?」

○ 雑居ビル・喫茶店・外
準備中の札。

○ 同・店内
静子、カウンター席に座っている。店主、静子にコーヒーを出す。自分は立ったままコーヒーに口を付ける。
それを見て静子もコーヒーカップを持つ。
店主「申し訳ない」
静子、コーヒーが宙ぶらりんになる。
店主「彼女は大丈夫そうですか?」
静子「(うなずく)」
店主「いや、心の方です」
店主、白い壁を指し、
店主「あそこの壁に絵を飾ってたんだけど、その絵もどこかに片付けてしまって…。きっと何かあったんだ…」
静子「…あの」
店主「彼女の支えになってあげて下さい(と頭を下げる)」
静子、コーヒーカップを置く。

○ 同・屋上
静子、うつ伏せに寝ている。ごろん、と仰向けになる。白い表紙の詩集を持つ。空の逆光で表紙絵がぼんやりする。

○ 河川敷
静子、転々と移動しながら雑草の花を摘む。音もなく草がなびく。
静子N「窓が泣く、窓が泣く、私は都会の椅子でひとり、空を飛ぼうとしています、私は見境なく、何かをしでかしそうです、消えてゆくラジオの歌声、嘘つきな手話、お皿のクランベリーショートケーキ、ああ、私たちはみんな、ゆううつなおとぎの住人です」

○ 病院・病室
窓辺にガラス製のシュガーポットがあり、摘んだ花首が詰めてある。
静子、窓の方を向いて椅子に浅く腰掛けている。少しベッドの方に体を向ける。
静子「読んだよ(と詩集を差し出す)」
小枝、ベッドに横になっている。詩集を受け取ろうとしない。
静子「きれいな絵、描くね」
と、詩集をシュガーポットの横に置く。
小枝「なんだぁ…」
と、つぶやいたきり。静子、次の言葉を待つ。小枝、黙っている。
ベッドも壁もカーテンも白い中、表紙の絵とシュガーポットの花だけ色がある。

○ シャッター通り商店街(夢)
静子、木の丸椅子に座っている。目の前に大きい白いキャンバス。
小枝、病院の真っ白いベッドの上に直立している。
じっと静子を睨んでいる。
静子、小枝の強い視線に射すくめられる。
小枝、口に一輪の椿の花をくわえている。
静子、目を見開く。
小枝の姿は消え、椿の花が入った花瓶に変わっている。花はドロドロに腐敗して血のようになっている。
*  *  *
血の沼。沼の底から、手、足、胴体とバラバラになったマネキンが浮かび上がってくる。生首が浮かび上がってくる。
*  *  *
静子、走って逃げる。ハッ、として立ち止まる。
白いキャンバスが通せん坊している。
白いキャンバスに血のようになった椿の花がぶちまけられる。

○ 小枝と静子の部屋・居間(朝)
静子、目を覚ます。
キャンバスは白いまま。木の丸椅子が倒れている。持ち上げてみると、脚が一本折れて壊れている。

○ 病院・外の花壇
静子、白いキャンバスとアクリル絵具など絵の道具を持って歩いていく。

○ 同・病室
静子、じっと見ている。
小枝、ベッドで横になり目を閉じている。
静子、じっと見る。
小枝、目を閉じている。
静子、ベッドの横に立てた白いキャンバスに向かって立っている。キャンバスの表面を撫でる。
静子、小枝を見る。小枝、ベッドで目を閉じている。静子、小枝に手を近づける。静子の手が小枝の頬に近づいていく。
ふわっとカーテンが揺れて、病室の光の量が膨らむ。
静子「…(ハッとする)」
小枝が消える。透明になってしまったみたいに。
カーテンが落ち着く。
小枝、目を開けて体を起こす。
静子はいない。白いキャンバスと絵具があるだけ。

○ 雑居ビル・喫茶店・外
静子、新たに植えた花の苗に水をやる。
水をかぶって瑞々しい小さな苗。

○ 同・店内
客がちらほら。静子、硬い表情で客の注文を聞いている。
客「ブレンドと…お腹すいたな(とメニューを見ている)」
静子「…あの、タマゴサンド」
客「ン?」
静子「タマゴサンドがおすすめです」
客「じゃそれでいいや」

○ 同・店内
静子、間違えないようにレジを打つ。
客「美味かったよタマゴサンド。もっと宣伝すりゃいいのに」
と、出て行く。
静子「ありがとうございました」
客はいなくなる。
店主「(テーブルを片付けて)休憩にして」
静子「あ、はい」
店主「少し慣れました?」
静子「…(少し首を傾げる)」
店主「大丈夫ですよ。休んで」
静子「(少し迷って)あの…タマゴサンド」
店主「うん?」
静子「作り方、教えてもらえませんか?」

○ 同・屋上
静子、野ざらしのベンチに座り、もぐもぐとタマゴサンドを食べ終わる。エプロンを外す。ウトウトしてきて、伸びをする。
都市の街並みと空の眺め。
静子、ふと物置が目に入る。戸が少し開いている。気になって閉めようとするが、建付けが悪くて閉まらない。一旦開ける。
ごろん、と何かが転がり出る。はっと飛び退く。拾って見る。
マネキンの首。
静子、物置の奥を覗き込む。

○ 同・店内
静子、小枝の絵を壁に飾っていく。傘を持った少女が踊っている連続写真のような絵が一枚一枚飾られていく。
表紙の絵を見つける。どちらを上にして飾ろうか迷う。
優、来店する。
静子「いらっしゃいませ」
優「(そばに来て)きれいな絵」
と、静子が持っている絵に気付き、
優「あなたが?」
静子「…はい」
と、唇を引くようにして少し笑う。

○ ドーナツ店・外(夜)

○ 同・店内の二階
優と静子、窓辺の席に座って、ドーナツをもぐもぐ食べる。
静子「久しぶりにドーナツ食べた」
優「ドーナツ好き?」
静子「うん。わりと好き」
優「どっち好き? サクッとしてるやつと、しっとりしてるやつと」
静子「しっとりしてるやつ」
優「同じ。ドーナツって、美味しいのと美味しくないのとあるよね」
静子「穴の周りがツルツルのやつが美味しい」
優「ん? どゆこと?」
静子「ガサガサのやつはボソボソする」
優「あぁ。口の水分持ってかれるヤツだ」
静子「うん」
優「ねぇ。あんドーナツはアリ? せーの」
二人「ナシ」
優「だよねー」
静子「だったらあんパン食べる」
優「だよね!」
と、二人で笑う。
優「ドーナツで一番美味しいのはドーナツの穴だ、って話知ってる?」
静子「なにそれ。都市伝説?」
優「都市伝説じゃないよ。穴なんか食べらんないのに、何で美味しいってわかんの?」
静子、もぐもぐしながら少し考える。
静子「想像力が一番美味しい、ってことじゃないの」
優「またわかんないの出てきた」
静子「自分にとって、この世で一番美味しいドーナツを想像してみて」
優「…(想像して)うん。はい」
静子「それより美味しいドーナツって、この世にある?」
優「ない。…えっ、そういうこと?」
静子「…ん? どゆこと?」
二人で笑う。

○ 駅前デッキ
優と静子、歩いてくる。
優「絵ってどうやって描くの?」
静子「どうやって?」
優「感覚、センスの話」
静子「ちょっと休も。お腹いっぱい」
二人、立ち止まって横断歩道を眺める。
横断歩道を渡る人たちが見える。
静子の声「感覚とかセンスとかって生まれ持ったもんでしょ、たまたま。欲しくてもどうにもなんないし、いらないものを押し付けられたりして。私はセンスある、って言ってるんじゃないよ」
優の声「当たりでしょ。私はハズレた。才能ある人に憧れる」
静子の声「才能なんかないし実力もないよ。努力もしないから自信もないし」
優と静子、手摺に寄りかかっている。
静子「でも、絵なら頑張れるかもしれないって、少しだけ思う時もある、って感じ。他にそう思えるものってないし」
優「わかる」

○ 駅前大通りの歩道
優と静子、缶コーヒー片手に歩いてくる。
優「お店のコーヒー飲むようになって、ブラックコーヒーの美味しさを知った」
静子「私も。コーヒーってあんなにいい香りするんだと思って」
優「ね。でも家で淹れるとちょっと違うの。なんでだろ、豆が安物だからかな」
静子「それだ(と笑う)」

○ 歩道の分かれ道
優と静子、歩いてきて立ち止まる。
優「私あっち」
と、携帯電話を取り出す。
静子「あ…。ゴメン。私、携帯持ってない」
優「(ニッコリして)お店行く、絶対」
と、歩き出す。
静子「そうだ。何であの本探してるの?」
優「あー…。私、詩を書きたいんだよね。それで、あの本みたいな、きれいな本を出したいなーと思って、それで、だから」
静子「そうなんだ」
優「そう。そうなの。うん(と笑う)」
静子「読みたいな」
優「ただの憧れかな」
静子「ドーナツの穴だ」
優「表紙の絵、描いてほしい」
静子「ウン。いいよ(とニコッとする)」
優と静子、別々の道を帰っていく。

○ 小枝と静子の部屋・居間(朝)
テーブルの上に出来上がったビーズアクセサリーの山。
窓が開けっ放しになっている。玄関ドアが開けっ放しになっている。

○ 同・台所
静子、メモを見ながらタマゴサンドを作っている。
椿の花が入っていた花瓶はきれいに洗われて、水滴がきらきら光っている。

○ 雑居ビル・喫茶店・店内
店主、テーブル席に座っている。静子、持参したタマゴサンドを出す。店主、静かに一口。見守る静子。
店主、途中でコーヒーを一口、再びタマゴサンドを食べる。味わう。見守る静子。店主、ニッと笑う。静子、ホッとため息をつく。
優、来店する。

○ 同・店内
壁に飾られた絵。
優と静子、タマゴサンドを食べながら壁の絵を見ている。
静子「きれいな絵だよね」
優「絵に描いたような自画自賛だな」
静子、詩集の表紙と同じ絵を手に持って、
静子「どっち上だっけ?」
優「え、忘れる? あー、私も覚えてないわ」
と、静子から絵を取り、テーブルに置く。
優「それよりさ、絵教えて」
と、買ってきたスケッチブックと水彩絵具セットを出して見せる。

○ 河川敷
スケッチブックに子供が描いたような花の絵がたくさん描かれている。
優、しゃがんで雑草の花の絵を描いている。静子の方へ目をやる。
優「うまく描けない」
静子、少し離れて、足を放り出すようにして座って空を見上げている。
優「教えてよ」
静子、振り向いて立ち上がる。
静子「絵ならもう描けてるじゃないか、世界一小さくて大きいキャンバスに」
優「またわかんないの出てきた」
静子、目をパチパチする。
優「目に映ってるってこと? なに詩人みたいなこと言ってんの」
静子「詩情の分からない人に絵は描けないよ」
と、草の上に腹ばいになり、花を観察しながら描き始める。優、静子のとなりに腹ばいになり、静子が描くのを見ている。
ざあっ…と草がなびく。
青い空。

○ 河川敷
スケッチブックの絵。小枝の絵のタッチを真似たような、透明でにじんだ色彩の花の絵がいくつも描かれている。
静子、スケッチブックを草の上に放る。座ったまま、しばらく風に吹かれている。
静子「もういい。帰ろう」
優、仰向けになって寝ている。微動だにしない。
静子「髪の毛に虫がいる」
優、目を開ける。
静子「死んでるみたいだった」
優「特技。血糊ってイチゴ味なんだよ」
静子「帰ろう」
優「のど乾かない?」
静子「乾いた」

○ 優のアパート・部屋
壁に花の絵が貼ってある。
静子、台所でコーヒー豆に湯を注ぐ。優、横で見ている。
優「おー。やっぱプロは違うね」
静子「コーヒー淹れたことないって」

○ 同・部屋
ベランダの窓が開いている。傍にテーブルがあって、角砂糖の入ったガラス製のシュガーポットが置いてある。静子と優、ベランダに出て、外の景色を見ながらコーヒー片手に話している。
優「料理するの?」
静子「あんまり。ほとんどインスタント麺」
優「私も。あと、もやしでしょ、もやし祭り」
静子「卵、卵祭り」
優「塩こんぶ祭り」
静子「あ、いいね」
優「インスタント麺のとんこつ味のヤツあるじゃん。水の代わりに低脂肪乳で作るとおいしい」
静子「牛乳はムリだ」
優「卵祭りは何作るの?」
静子「ゆで卵か目玉焼き。だったけど、そこにタマゴサンドが入った」
優「おー、すごい。目玉焼きは半熟か固めか。せーの」
二人「固め」
静子「黄身でお皿が汚れるのがイヤ」
優「半熟の目玉焼きって温かい生卵じゃん。お兄ちゃんがさ、野球やってんの。で、晩ごはんの時にさ、生卵飲むの、三個も」
静子「三個?」
優「三個。ガラスのコップで飲むからさ、見えんの。あのトゥルン、って口に吸い込まれてく感じ? で、ダメになった」
静子「私もダメになった。今」
少し笑って、二人一緒にコーヒーを一口。
静子、テーブルの上のシュガーポットを見る。
静子「きれい。こういう絵が描けるようになりたい。透明なものを描くのが一番難しい」
優、室内に戻ってテーブルにつく。シュガーポットから角砂糖を一つ取って口に入れる。
優「私を描いてよ」
静子「(笑って)」
優「なんで? 描いてよ。あの表紙の絵みたいに。あの絵好きだからさ」
静子「ああいう絵は描けないよ」
優「描けるじゃん」
静子「ムリだよ」
優「描いたじゃん。何で?」
静子「…」
優「描いてよ。ねぇ、お願い」
静子、コーヒーカップをベランダの手摺りに置き、まだ手は離さない。
静子「先に描かなきゃいけない絵があって。まだ描けてないから」
優「どんな絵?」
静子「ん? …透明な絵」
優「難しいの?」
静子「…。ウン。難しい」
優「一緒に住まない? この部屋で」
*  *  *
夜。ベランダの手摺の上にコーヒーカップが置いたままになっている。

○ 病院・病室(夜)
静子、ぽつんと立っている。ベッドに小枝の姿はない。キャンバスも絵具もない。きれいに整っている。
看護師、来る。
看護師「面会時間過ぎてますよ」
静子「(振り向く)」
看護師「あぁ。退院したよ」

○ 同・病室の前の廊下
看護師「忘れ物っていうか、自分のじゃないから捨ててって言われたんだけど」
と、枯れた花の入ったシュガーポットと白い表紙の詩集を差し出す。静子、受け取る。
看護師「あ。あなたのか。よかった、捨てなくて」
と、ニッコリする。
静子、詩集の表紙を見る。
表紙絵を逆さまに見ると、少女が飛んでいるように見える。

○ 静かな住宅街・登り坂(早朝)
明子、新聞配達の自転車に乗っている。
ダラダラ続く登り坂をゆっくり上がる。

○ 同・坂の頂上
明子、自転車を止める。着信音が鳴っていた携帯電話に出る。
明子「はい。あと少しで終わります。もう覚えました。地図なくても平気です」
と、着信音と同じような鳥の鳴き声が聞こえて、目をあげる。

○ 東京書店本店・外
明子N「窓が泣く、窓が泣く、私は都会の椅子でひとり、空を飛ぼうとしています、私は見境なく、何かをしでかしそうです、消えてゆくラジオの歌声、嘘つきな手話、お皿のクランベリーショートケーキ、ああ、私たちはみんな、ゆううつなおとぎの住人です」
明子、歩いてくる。『閉店』の貼紙に気付く。

○ 同・店内
明子、静かに戸を開け、様子をうかがいながら入ってくる。
店内はガランとしている。古い木製の椅子だけがポツンとある。
青森、奥から出てくる。
青森「すいません。閉店しました。何か欲しいのがあったら持ってっていいですよ」
と、店内を見回すが誰もいない。ふと気づく。
古い木製の椅子の上に白い表紙の詩集が置いてある。
青森、開けっ放しの引戸から顔を出し、周囲に目を散らす。

○ 原稿用紙の文字『冬』

○ バス停のベンチ(未明)
しん、と静まり返ったバス通り。
千鶴、ベンチに座っている。真っ赤なダッフルコートを着て、土のうのような古カバンをそばに置いている。携帯電話を持ち、個人でやっているラジオ放送の生配信中。
千鶴「私のこと覚えてないでしょ。どうも、お久し振りです。死んでない死んでない。生きてるじゃん。携帯料金が払えなくて配信できなかったの。去年の冬は凍死するかと思ったけど」
と、笑って鼻をすする。
千鶴「久しぶりにドーナツ食べた。あ、思い出した。ドーナツの穴が一番美味しいって話。穴が美味しいなんて言う人は、死ぬほどお腹が空いたことないんだよ、きっと。やめないよ。ラジオは続ける。聞いてる人ほとんどいないけど、聞いてほしい人がいるから。その人に謝んなきゃ」
と、少し言い淀んでから、
千鶴「詩集に載せた詩ね、前にラジオで朗読した詩。あれ盗作なんだ。中学ン時の転校生。顔も名前も忘れたけど。その転校生が国語の課題で書いたのを盗んだの。国語の先生がやたらと詩とか俳句とか書かせる先生でさ。で、書いた詩を朗読させんの。最悪、私大嫌いだったし、みんな嫌がってたよ」
新聞配達の自転車が通り過ぎていく。
千鶴の声「その日は転校生が指されてさ。で、恥ずかしいのを隠すみたいに片手を腰に当ててさ、ちょっと斜に立ってさ、ノートにうつむいて、小さな声で少し早口に詩を読んだの。今でもはっきり覚えてる。ちょっと嫌味な感じの声とか、その時の教室の大人しい感じとか」
と、缶コーヒーを一口。
千鶴「一回だけ転校生と喋ったな。何でか忘れたけど、理科準備室に二人きりになってさ。何でだっけな。で、そうそう、ドーナツ食べた。私が持ってたちっちゃいお菓子のヤツを半分こして。そうだ、ドーナツの穴の話、穴が一番美味しいってヤツ、転校生に聞いたんだ、だから覚えてンだ」
と、思わず笑顔になって、缶コーヒーを飲み干す。
千鶴「まぁ、それきり話もしなかったし、卒業してからは会ってないし。私は一人になって、貧乏しながら何して生きてこうかなって考えて、で、本を作った。ラジオ配信を始めて、詩を朗読して。その転校生がどっかで聞いているかもしんないと思って」
バス通りが朝の薄明に青白く浮かぶ。
千鶴の声「だからなんだって話。これも作り話かも。ホント、おとぎ話みたい」

○ 砂浜(夜明け前)
波打ち際と東の水平線。
優N「窓が泣く、窓が泣く、私は都会の椅子でひとり、空を飛ぼうとしています、私は見境なく、何かをしでかしそうです、消えてゆくラジオの歌声、嘘つきな手話、お皿のクランベリーショートケーキ、ああ、私たちはみんな、ゆううつなおとぎの住人です」
優、視線を動かさずにじっとしている。黒いベンチコートを着て、海を向いて立っている。
引切りなしに強い風がぶつかって髪が散らばる。風に目を細めたりしながらも、視線は動かさない。じっと見つめている。
カメラが優の表情を捉えている。その後ろに防寒着姿の監督、大勢の撮影班。
監督「よし。じゃ行きます」
優の着ているベンチコートをスタッフが脱がせて持っていく。優は白地に赤い花を染めた薄手のワンピース姿。
監督「よーい…」
音が消える。
夜明けの水平線。
優の顔が少し色付く。
瞳の奥がキラッと輝く。
(おしまい)

「おとぎの住人」(PDFファイル:583.59 KB)
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