ファルネーゼ軍記 歴史・時代

舞台は15世紀後半の西洋の架空の国。 物語の中心にいるのは王の三男ジュリオ。そして、その甥マルコ。 押し寄せる荒波に抗い、平和のバトンを繋いでいく。
城田蒼 269 0 0 01/10
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第一稿

【主要登場人物】( )内は初登場時の年齢
・ジュリオ=ファルネーゼ(28)「家族を愛する王の三男」
主人公。伝説の国王フィリッポの三男。

・マルコ=ジュリアーノ(17)「 ...続きを読む
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【主要登場人物】( )内は初登場時の年齢
・ジュリオ=ファルネーゼ(28)「家族を愛する王の三男」
主人公。伝説の国王フィリッポの三男。

・マルコ=ジュリアーノ(17)「フィリッポの血を引く勇敢な青年」
物語後半の主人公。ジュリオの兄ミケーレの長男で、ジュリオの甥。


☆ファルネーゼ家
・フィリッポ=ファルネーゼ(63歳没)「西洋最強の戦士 伝説の王」
ファルネーゼ家の当主。若くして王位につき、西洋の大国を次々と撃破していく。全ての敵対勢力を排除し、自国を強力で集権的な国家に育て上げた。しかし、栄光の絶頂期に裏切りにより横死。物語は彼の死から始まる。

・シモーナ=ファルネーゼ(58)「愛と勇気を兼ね備えた一家の大黒柱 王の妻」
フィリッポの妻。ジュリオの母。

・ルイーザ=ファルネーゼ(58)「家族をまとめ支える影の大黒柱 王の妹」
フィリッポの実妹。一族の女性たちのまとめ役であり女中のリーダー。

・アレッサンドロ=ファルネーゼ(42)「勇猛果敢な王の長男」
フィリッポの長男。

・アメデーオ=ファルネーゼ(26)「極悪非道な王子」
物語後半より登場。アレッサンドロの息子。

・アンドレア=ファルネーゼ(16)「ジュリオの愛息子」
物語後半より登場。ジュリオの息子。

☆ジュリアーノ家
・ミケーレ=ファルネーゼ(旧姓)
 ミケーレ=ジュリアーノ(38)「平和を愛する王の次男」
フィリッポの次男。婿養子に出ているため苗字が変わっている。

・クラウディア=ジュリアーノ(15)「乱世に咲く可憐な花」
ミケーレの長女。ジュリオから見ると姪。

☆家臣団(フィリッポの死後、領土を分け合い支配する)
・クリスティアーノ=ジュリアーニ(55)「筆頭家臣 王の戦友」
筆頭家臣。フィリッポと長年共に歩んできた戦友。

・シモーネ=フォルナーラ(43) 「百戦錬磨の戦士 王の懐刀」
百戦錬磨の名の知れた戦士。軍団長。

・ルーカ=グラビーナ(70)「狡猾な軍師 王の毒蛇」
フィリッポの同盟者にして軍師。由緒正しき名家の出身。

・オッタビオ=マリーノ(38)「王を殺した男」
フィリッポ暗殺の実行犯。家臣団の中では最年少。

☆貧民街
・ラウラ=マリーノ(24) 「復讐者 貧民街の英雄」
物語後半より登場。貧民街に拠点を持つ犯罪集団のリーダー。オッタビオの息子。

☆アッカルド家
・マッテオ=アッカルド(30)「眉目秀麗な王子」
物語後半より登場。ジュリオの母シモーナの実家、アッカルド家の王子。


戦いを終え、凱旋する大軍勢。

その先頭にいるのは、王フィリッポ=ファルネーゼ。
並み居る列強諸国を撃破し、今や西洋最大にして最強の国家を作り上げようとしている。

そのすぐ後ろに王の長男、アレッサンドロが続く。
父親と同じく勇敢な戦人であり、優れた剣士でもある彼は、今や王の親衛隊長として大軍を指揮して戦場を駆け回っている。

王の家臣団も錚々たる顔ぶれが揃う。
フィリッポの勢力拡大には彼らの存在が欠かせない。
中でも、3人の家臣は別格である。

1人目はクリスティアーノ=ジュリアーニ。
彼は最も初期にフィリッポの家来になった人物で、30年以上忠実に仕え続けてきた。
王の一番近くで、政に関する助言を要所要所で与える役割だ。

2人目はシモーネ=フォルナーラ。
軍団長である彼は、西洋中でも名の知れた剣士であり、王の息子アレッサンドロと歳が近く、若い頃は互いに切磋琢磨し合った仲でもある。
あまりいい家柄ではない彼は、誰よりも出世欲が強く、野心家である。
そのため、戦では無類の強さを発揮。王に認められ軍団長まで上り詰めた。

3人目はルーカ=グラビーナ。
銀色に輝く髪が印象的なこの男は、王の軍師、参謀である。
彼は名家の出身で、もともとフィリッポと敵対する国の指導者であったが、戦争を経たのち、フィリッポと同盟を締結。軍師としてフィリッポの勢力拡大に貢献してきた。
彼の率いている軍は、もともと彼の配下の者たちが大多数を占めている。
高齢ゆえに自ら武器を取り戦うことは無くなったが、今でもその戦術眼は健在だ。


王の軍勢がファルネーゼ家の居城に帰還すると、城内の女性たちや子供たち、城下に住む国民が歓声と共に出迎える。
王の三男ジュリオも、久々の故郷、そして家族との再会を喜んだ。
ジュリオは、王の親衛隊に属する弓兵で、先の戦では多くの武功を挙げた。彼の弓の腕前は国内外で高い評価を得ている。
王家の激動の歴史に、彼の人生は翻弄されることになる。

家族の中で、一番に軍勢を出迎えたのは、シモーナ=ファルネーゼ。フィリッポの妻だ。
元々隣国との盟約の証としてフィリッポに嫁いできたシモーナは、その類稀なる勇気と大胆さでこの混沌とした戦乱の世を生き抜いてきた。
三人の息子にも分け隔てなく愛情を注いだ。
「あなた達は私達の宝物よ」が口癖で、今は息子たちも成人したというのに、三人が集まると「宝物」と言って一人ずつしっかり抱き締めるのだ。

そんな母親の愛から多くを感じ取り、三兄弟で一際穏やかで優しさに溢れている人物。それが王の次男、ミケーレ=ジュリアーノだ。
彼は当主を継承する予定ではなかったため、成人する前から同盟関係にあるジュリアーノ家に養子として出されていた。現在はジュリアーノ家の当主であり、自らの領土を平和に治めている。


この度の戦は、前哨戦を含めると7年という長きにわたるものだった。
勝利こそしたものの、この戦争で敵味方ともに多くの死者を出し、家臣団も皆疲弊していた。

長い戦の疲れを癒やす為、また国の益々の繁栄を祈念して、晩餐会が開かれることとなった。
晩餐会の前日、3人の家臣たちが密かに会合を持つ。

「私の軍は多くの兵を失った。このまま次なる戦争に突入するなら、悲惨な結果は免れん」
自陣の兵を多く失ったルーカは苛立ちを隠せない。
「王は国を大きくすることに邁進されている。多くの犠牲が生じていることに気がついておられないようだ」
クリスティアーノもフィリッポのやり方に疑問を持っていた。
「お二方の言う通りだ。誰かが食い止めなければ…」
シモーネも同意する。

「王を討つ、時が来た…」
クリスティアーノが俯きながら呟く。

「しかし、王を討ったところで、アレッサンドロが王になる。あの者はフィリッポと同じ支配の仕方をするに違いない。そうなるとまた同じことの繰り返しだ。私は若い時からあの者を知っている。あいつはあくまで戦士だ。王になる器ではない。」
シモーネがそう言うと、しばらく沈黙したのちルーカが口を開く。
「私に良い策がある。我々全てにとって良い方向にことが運ぶ策が…」
「どのような策だ」
「王の側近の1人、オッタビオを利用する。オッタビオは召抱えられて日が浅く、アレッサンドロとも面識のある人物だ。彼に王を殺させ、アレッサンドロがオッタビオと通じていたという噂を国中に流す」
「妙案だな。そうなれば、アレッサンドロは王ではいられなくなる」
「そして、アレッサンドロは追放。というわけか」
クリスティアーノとシモーネが頷く。
「しかし、問題はその後だ。いくら何でも、我々が王位を継ぐわけにはいかないだろう。正当な順番で言うと、三男のジュリオが王座に就くことになる」
ルーカが顎に手を当てて考える。
「私が側近としてジュリオに仕えることになる故、ご安心されよ。もうファルネーゼ家の好きなようにはさせない」
クリスティアーノのその提案に、他の2人も納得した。

「では、我々3人で、密に連絡を取り合い、協力関係を維持しよう」
3人は内密に同盟を結んだ。

「私は早速動こうと思う。噂が広まるのは早い。各々、準備を進められるように」
ルーカはその足で、オッタビオ=マリーノを調略しに出て行った。
オッタビオは巨額の報酬と、謀反後の高い立場を約束され、王暗殺を請け負った。


晩餐会当日。アレッサンドロ、ジュリオをはじめとする王家の人間が食卓に座している。
そこへ、王の家臣団が入ってくる。

「アレッサンドロ様、この度の戦でのお働き、見事でございました」
席に着くや否や、クリスティアーノがアレッサンドロを讃える。
「実に。ファルネーゼ家の未来は安泰ですな」
ルーカもそう言いながら席に座った。
「もったいないお言葉です。この度の勝利は、皆様のお力あってのこと」
アレッサンドロが家臣団を一瞥し礼を述べる。
「アレッサンドロ様が王になった暁には、西洋一の剣であなたをお支えします」
「シモーネ、何を言っている。まだまだ父上にはご活躍して頂かなければ」
シモーネも席に座り、王以外の全員が揃った。

肝心の王自身が一向に現れない。
「王はまだ来られないのか」
家臣団の1人が口を開く。
「準備に手間取っておられるのかも知れない。長く厳しい戦であった故、お疲れなのだろう」


しかし、その宴に王が来ることは無かった。

栄光の絶頂期に、王は暗殺されたのだ。


王位を誰が継ぐのか、王家の男子と有力家臣団で構成される会議が開かれた。
「アレッサンドロ兄様が適任だ」
そう言ったのは王の三男、ジュリオだ。
「私も同感だ」家臣たちも賛同していく。
「王が誰よりも愛していたし、兄上は勇敢さと力強さを兼ね備えているじゃないか」
ジュリオのその一言が最後の一押しとなってアレッサンドロが当主の座につくこととなった。


あのアレッサンドロならば問題なく国を治めてくれるだろう。
誰もがそう期待していた。

が、早晩、長男のアレッサンドロは家臣達の策略によって、追放への道を歩み出す。

ジュリオと王の家臣団のもとに、使いが走って来た。
「急ぎの連絡です! ジュリオ様は居られますか?」
「私ならここに居る。何があった?」
「オッタビオ=マリーノの身柄をフィリッポ様を暗殺したかどで拘束致しました! 即処刑をという声が寄せられていますが、いかが致しましょう」
「オッタビオ……。王直々に側近にまで取り立ててもらっておいて、王を殺害するなど、何という恩知らずだ」
それに対してクリスティアーノも大きく頷いた。
「全くでございます。暗殺などを企てる輩だったとは、思いませんでした……」
「しかし、何故このようなことに」
ジュリオは全く腑に落ちない。
「そんなことはどうでもよい。ジュリオ様、まずは処刑をせねば民衆の気が済みますまい」戸惑うジュリオに対し、シモーネは即刻の刑執行を勧めた。
「しかし…。何か考えがあってのことだろう。話す機会を与えてみるのはどうだろううか」
「その必要はないかと」
ルーカもジュリオをオッタビオに会わせようとしない。

ジュリオは気が進まないものの、オッタビオを処刑することに決めた。

その意思を兄であるアレッサンドロに伝えると、「確かにその方がよいだろう」と答えた。新たに即位し、王となったアレッサンドロに加え、ジュリオ、全ての家臣たちの立ち会いの下、処刑は行われた。
「何か言い残すことは?」
そう処刑人が言うと、オッタビオは「俺だけじゃない……。家臣団みん」
刑は執行された。

アレッサンドロが即位して数日も経たぬうち、アレッサンドロ自身がオッタビオと結託し父親暗殺を行ったという噂が既に広がりを見せていた。時期に民衆へも広がるだろうと思ったジュリオは、どうにか出来ないかと母であるシモーナを頼った。


「母上、アレッサンドロ兄様が暗殺に関わっているという下種な噂が広まっております。どうすればよいでしょう」
「噂はもう広まっているのね……。一度広まった噂を回収することは不可能。私には、何も出来ることがないわ……。とても歯痒いけれど」
そこへルイーザ=ファルネーゼが急ぎ足でやって来る。
彼女は王の実妹で、家の女性たちのまとめ役である。
「大変よ! アレッサンドロを追放することが会議で決まってしまったわ!」
「なんですって!そんなこと、通るわけが無いじゃない!家臣たちが勝手に決めたことでしょう?」
「兄フィリッポの暗殺を画策した罪で訴えが挙がったの。家臣たちはそれについて裁判を開いて、アレッサンドロ追放を決めてしまったの」
「そんな! 兄上にが!」
ジュリオは王座に座しているであろうアレッサンドロのもとへ急ぎ向かった。

王座に座しているアレッサンドロの前に、家臣団が跪く。
「王座から降りていただきたい」
家臣たちはそう口を揃え、アレッサンドロを王座から引きずり下ろした。
アレッサンドロは見るからに厳しそうな顔をして、眉間に皺を寄せた。
「我々は満場一致でアレッサンドロ様を追放することと決定致しました。さあ、王座から降りて、ここから出て行っていただきたい!」
シモーナが恫喝する。
アレッサンドロは王座から立ち上がり、マントを翻して王の間を出て行った。
王室を後にしたアレッサンドロのもとへ弟ジュリオが走り寄る。
「アレッサンドロ兄様! 何もここを出なくとも…。ここに留まられて下さい!私が家臣団を説得してみせます!」
ジュリオがそう言うとアレッサンドロはふと微笑んだ。
「大丈夫だ。ジュリオ。私はこれしきのことでは負けぬ。だから必ず帰って来る。約束する」
「兄上!」
 そしてアレッサンドロは僅かな手勢と共に、遠い地へ旅立って行った。

その後、家臣団は自分たちで領地を分け合い、前王の領土を支配するようになった。
ジュリオはそんな中、いつアレッサンドロが戻って来ても良いようにと、密かに暗躍する。
次兄であるミケーレに便りを送り、父親の死と兄の追放を知らせ、可能な限り早くに来てほしいと送った。

ジュリアーノ家の屋敷。フィリッポの次男ミケーレが、ジュリオから届けられた手紙を読んでいる。
「そんな…、父上が、殺された。なぜ、兄上が…」
ミケーレは手紙を読むとすぐ、ジュリオのもとに出かける用意をする。

「父上、どうされたのですか?」
ミケーレの長男マルコが父の動揺を感じ取り、声をかける。
長女クラウディアも父のもとに駆け寄る。
ミケーレは、フィリッポの死と、兄アレッサンドロの追放の件を説明した。
「一刻も早く弟のもとへ行かなければならない。お前たちは残れ」
マルコとクラウディアは、父ミケーレの支えになりたいと思い、一緒に行きたいと言った。
ミケーレは、子どもたちの思いやりの気持ちが嬉しかった。
「いいだろう。お前達も来るといい」
ミケーレは共に行くことを許した。
「はい!」と元気に返事をするマルコ。
花のような笑みを浮かべるクラウディア。

ミケーレは妻に留守の間しばらく家を頼んだと言い、ジュリオが待つファルネーゼ家へと急いだ。


現在、家臣たちの推挙により、王座には三男ジュリオが座している。
しかし、形だけのものだった。傀儡、担がれた神輿同然である。
事実上は家臣団がそれぞれ領地を決めて、その領地を思うがままに支配しているのだ。
筆頭家臣クリスティアーノ=ジュリアーニはジュリオ達の拠点である国の中央を支配し、軍団長シモーネ=フォルナーラは東側を、そして家臣団最年長の策謀家ルーカ=グラビーナは西側を支配した。
仮とは言え、ジュリオが現在の王である。


ジュリオは平和を愛する男だった。
どうすれば人のため、世のため、国のためになるかを考えていた。
「本当に、どうすればいいのか……」
その時だった。
「ジュリオは居るか!」
城に入ってきたのは次男のミケーレである。
「ミケーレ兄様!」
ジュリオはすぐにミケーレの前まで走り寄った。
「これは一体どういうことだ! 父上が亡くなったと聞いた。兄上も追放されたと言うではないか!」
「ミケーレ兄様、どうか落ち着いてください。私もあまりに急なことで上手く頭の中を整理できていないのです。とにかく、落ち着いて話したいので、応接間へどうぞ」
 応接間に行くと、何やらがやがやと声が聞こえる。
「ジュリオ様なら……」
「我々も……、でも……」
「ならば」
「! 誰だ!」
 ドアが開いた。
 ドアを開けたのはクリスティアーノ。
「ジュリオ様でしたか。何も聞き耳を立てずとも良いものを。ああ、ミケーレ様。いらっしゃったのですね。侍女達に紅茶を持って来るように言いましょう」
そう言いながら家臣団達は応接間から出て行った。
そしてミケーレとジュリオ、そしてマルコとクラウディアも応接間のソファーに座った。
「私も、少し落ち着かなければならないな……。ジュリオ、兄上が父上を殺した罪で追放されたとは、一体全体どういうことなんだ?」
「オッタビオ=マリーノを覚えていますか? 家臣の中で年少で父上の側近になった……」
「ああ、あの者か。王が特に目をかけておられたとは伝え聞いている。オッタビオがどうした?」
「オッタビオが父上を暗殺したということで、処刑されました」
「暗殺の実行者、と言う訳だな」
「はい。それで、アレッサンドロ兄様がオッタビオと通じていたと言うのです」
「策略だ、兄を追い落とすための罠に違いない!」
「はい、私もそう思っています。そしてもう一つ、重大なお話が……」
「何だ?」
「家臣団により、勝手に領地が分けられ、それぞれ家臣がその地を治めています」
「王はお前ではないのか?その王冠、王の尺は国を治める王の象徴ではないのか!」
「それは父上の時代の話です。私はと言うと…ただの家臣たちに操られる傀儡同然、情けないです」
「ということは、実質王族は象徴としかなっておらず、中身がないもの……ということだな?」
「……そうなります」
「何故そのようなことが許されているんだ! お前は何をしていた!」
「私は、ただ平和に家が存続すればいいと思っており、そのように努めてまいりました」
「何と無力な…。すまない、今のは撤回する。私も家族を愛しているし、争い事は大嫌いだ。お前の気持ちは理解できる。心底辛かったろうな」
「ミケーレ兄様、どうかお力を貸してください。この家が、国が平和になるように……。このままでは国の中で戦争が起きかねません。家臣の三名が、息の合う者達ではないのは、ミケーレ兄様もわかっておられるはずです」
「そうだな……。しばらく、私はここに滞在しよう。マルコ、クラウディア、話は聞いていたな。共に居てくれるか? それとも、家に帰るか?」
「いえ、僕はお父様と共に居ます! それに、フィリッポお祖父様が治められたこの国に留まりたく思います。お祖父様は僕の憧れなんです」
「私も、お父様と一緒に居たいです。私達が居れば家臣の方々も下手なことは出来ないと思いますの」
「二人とも、ありがとう。ジュリオ、全員でここに滞在する。部屋は昔の私の部屋と、それから客室を二部屋貸してほしい」
「もちろんです。ミケーレ兄様。ご滞在いただけて嬉しいです。ですが、国に残された義姉さまは大丈夫でしょうか」
「案ずるな。家臣は全て信頼のおけるものたちばかりだ。それに、妻は私より強いかも知れない」
「そうですか、安心致しました」
「ジュリオ、辛い戦いになるだろう。だが、兄上もやられたまま黙って過ごすような方ではない。王の旗を高々と掲げ戻ってくる日も遠くはない。その日が来れば…」



前王フィリッポ=ファルネーゼの葬式が盛大に執り行われ、民は喪に服した。
王の死により、ファルネーゼ家は急速に衰えたように見えたが、一家の絆は強く、王家としての誇りも捨てていなかった。

そんな中、長男であるアレッサンドロから手紙が届く。
「今、城から少し離れたところにある王国の親衛隊のある騎士の家に匿ってもらっている。何かあったらこの住所まで手紙をくれ。宛名は何でもいい」
アレッサンドロの無事を知った家族は胸を撫で下ろした。

新しい王として祭り上げられたジュリオだったが、実際のところ、家臣団達はジュリオを甘く見ていた。
三男の優男は何も出来ないと。
実際、ジュリオは幼少の頃から家臣団に大変世話になってもいた。

しかしジュリオは決して無能な男ではなかった。
冷静に、自らの知恵と知識を振り絞って国のためにと政をしている。
それに加え、兄であり隣国の王であるミケーレが常に目を光らせていた為、家臣団も安易に口を出せる状況ではなくなった。

そのことに、筆頭家臣であるクリスティアーノ=ジュリアーニが危機感を覚える。
クリスティアーノは度々、家臣団を呼び集めた。
「くっ……、ジュリオ、あのような抜け目のない男とは。長年王の側近だった私でも知らなかったぞ。どうしたらよいのだ……」
「知恵を貸して欲しいときは遠慮なく言ってくれ」
そう言ったのはルーカ。
頭脳戦を繰り広げ相手を打ち負かすことに長けている彼は、早速策略を巡らせ始めた。

ジュリオの王としての支配が軌道に乗り始めると、ミケーレは自国へと帰っていった。
このままでは完全に領土を支配出来ないと感じた家臣団は、ジュリオをどうにか出来ないかと頭を悩ませ、失脚させる機会を虎視眈々と伺っていた。

一方のジュリオは、そんな家臣達をうまくまとめながら、国民のために政をすることを最優先した。
自らの命が危険にさらされていることは重々承知の上だった。
ジュリオは国内外の対立し合うところからやって来る沢山の意見書に、どちらを通すかでよく悩んでいた。しかし、いつかは決めなければならないこと。
兄ミケーレはそんな弟の様子を見聞きし、幾度も励ましの手紙を送った。
「ジュリオ。どちらが国民にとって一番か、それを考えて最善を尽くすのが我々王族の役目だ」
「兄上…」
ジュリオは王として責任を持って物事を推し進めていった。
国民達は始めこそ心配していたものの、むしろ徐々に良くなっていく国に対し、王ジュリオに信頼を寄せるようになってきていた。
また、長男であるアレッサンドロの耳にもその噂は届いていた。


アレッサンドロは国のことは一時的にジュリオに任せ、追放先にて秘密裏で勢力を作り上げていく。

あの家臣団と戦うために。
兵力はまだ少なく弱いものの、着実に集まりつつあった。
また、王族を何よりも大事にしている騎士達の中には、アレッサンドロ自ら「仲間になってほしい」と頭を下げる姿を見て心を動かされる者もいた。
「頼む。ファルネーゼ家、いや、国家の一大事だ。国のために、私と共に戦ってはくれないだろうか?」
本来なら王であるはずの人物が、自らに手を差し伸べてくるのだ。
しかし、中には拒否する者もいた。
「今と同じ生活が出来るのなら、私はどちらでも構わないのです」
自分の決定により、今ある幸せも失いたくないという考えだ。
それならば仕方がないと、アレッサンドロも「すまない」と言って潔く手を引く。
アレッサンドロらしい実直な性格だ。

城ではフィリッポの実妹、ルイーザが一族の女性達をまとめ、女中に「城の中で何か不審なことがあったらすぐに報告するように」と申しつけていた。
そのようにして、城の中では女中達による監視の網が張り巡らされていた。
家臣団が長い時間まとまっている時は女中達が「あら、皆様お揃いで。少々こちらお掃除させていただきますね」などと言って、その部屋に居座り、話し合いが出来ないようにすることもあった。
あまりやり過ぎると勘繰られるので、女中たちは、王ジュリオに直接相談する方法を取った。

ジュリオは家臣団だけでの会議を一切禁止にした。
その結果、家臣団達は集まることが出来ず、各々の判断で動かざるを得なくなった。
手紙のやりとりを介して動くということが最初はなされていたが、懐疑的な彼らは、使いの者も信用できぬ故、圧倒的に回数は減ってしまった。
お互い自分の領土以外は手を出さないということ、いつしか王族を象徴だけにして、実際の政などは家臣がするように取り決めること。そしてその先には、王とは別の支配者の座を作り出す意図もあった。その盟約のもと、家臣たちは対等に協力する関係を維持していた。

クリスティアーノはジュリオをどうにか王座のお飾りにしようと、あれやこれやと吹き込もうとするが、ジュリオは王として着実に成長しており、それを決して鵜呑みにしない。
「ジュリオ様、この政策を実行するのは如何と存じます。民からも必ず批判があるでしょう」
「果たしてそうだろうか。王である私が、率先して取り組めば、私の思いを感じ取った民がきっとついてきてくれる」
「そうですか……」
 クリスティアーノの言葉に影響されず、毅然とした態度で政策を進める。
その度に、顔を顰めて家臣らしく後ろに戻って行く。
最初はあんなにも王に相応しくないと思ったファルネーゼ家の三男坊が、今では立派に王の役目を担っている。
だが、とき経つうちに、状況は悪化していく。
国は3つに分裂している状況で、行政、司法は各地の支配者が権利を有していたため、住んでいる場所や意見の食い違いが原因で、小競り合いなど起こるようになってしまった。
戦のために食糧を蓄えているとい噂が広がると、その国に強奪がはびこり、その報復として無残な殺し合いが起こる…。ジュリオの尽力も虚しく、王国はだんだんと荒んでいった。


アレッサンドロの追放から5年が経過した頃、アレッサンドロからの便りがジュリオへ届けられた。
良質な紙に書かれた手紙を受け取った瞬間、ジュリオは震えた。

「明朝、家臣団を倒すために挙兵する」
それだけが書かれていた。
その手紙を受け取ったジュリオはすぐにミケーレに使いを出した。

「兄上がついに戻ってこられる!これこそ待ち望んでいた時だ!」
そう叫んだのも束の間、ミケーレの頭に浮かんだのは、愛する家族のことだった。
兄の帰還は誰よりも待ち望んできた。願わくば、王位に復帰して頂きたい。しかし…。
いくら大義名分があるとは言え、戦をするのは決して良いことではない。
戻ってくれば、ジュリオが兄を公式に許し王国に迎え入れ、幾らでも再起の道はある。
兄のためなら、この王位を投げ出して差し出しても良いくらいだ。
悩むミケーレに、息子のマルコが寄り添い、後押しした。
「私は父上の息子であり、フィリッポ大王の血を引く者です!叔父上にお味方し、王国の栄光を再び取り戻したいと思います!」
まだ年若いマルコだが、王国の支配者となるための自覚と責任感をすでに持ち合わせているようだ。

息子の成長を誇らしく思いつつ、ミケーレは軍勢を率いて兄アレッサンドロに合流した。
これが、記念すべき、マルコの初陣となった。
「皆様どうぞご無事で……!」
そう言って、クラウディアが城の窓から身を伸ばし、一行を見送った。
朝早くに摘んだ花を窓から思い切り風に乗せて地面に散らばらせた。

ジュリオも、自らの親衛隊を招集し、城の防御を固めた。
「クリスティアーノ、すぐにシモーナとルーカの国に手紙を送るように。我が兄、アレッサンドロが挙兵した。私の父が守ってきた領地を荒らし、私欲の限りを尽くす家臣たちを討伐するためだ!宣戦布告である!私も兄上にお味方する。真の王がついに帰還される!」
クリスティアーノは焦りを隠せなかった。家臣団の企みと、己の心の内までジュリオに知られてしまったことで、額から汗が滴り落ちた。
「…急ぎ使いを出します」
「念のために言っておくが、無駄な小細工は無用だぞ」
ジュリオにさらに釘を刺されたが、クリスティアーノはこの機会を、王国を完全に滅ぼし手中に収めるチャンスだと判断し、すぐに王から離反。家臣団のもとに合流した。

「見なさい!王が帰ってこられた!ミケーレ王も一緒だ!」
城の中庭でジュリオの軍勢がアレッサンドロとミケーレの軍勢を出迎える。
久々に王家三兄弟が揃い、立派になった姿を見て、兵士たちは皆喜びの涙を抑えることができなかった。
「我々の手で、反逆者達を討ち滅ぼそうではないか!」ジュリオが軍勢を鼓舞する。


三兄弟の率いる軍勢に立ちはだかったのは、シモーネ=フォルナーラ。
百戦錬磨の名の知れた戦士だ。尋常ではない野心の持ち主であることから、前王フィリッポも生涯警戒していた。

両方の国にまたがる平原で、シモーネの軍と三兄弟の連合軍が向かい合う。
幼い頃、兄たちと駆けまわり遊んだ美しい平原。
それが戦場となり、炎により荒れ野になってしまうのか…。ジュリオは胸が締め付けられる思いがした。
しかし、これは平和のための戦。悪を滅ぼすための戦。そう自分に言い聞かせた。

アレッサンドロの力強い掛け声を合図に、戦争が開始された。
一斉に両軍の兵士が走り出し、平原の中で激突する。
剣の触れ合う音、馬の嘶きが戦場に飛び交う。
シモーネの軍勢は屈強な戦士たちばかりで、ジュリオ達はかなり苦戦を強いられる。
しかし、アレッサンドロたちは臆することなくシモーネの本陣に向かって進んでいく。
王家の三兄弟の勇敢な姿に力を得た兵士たちは、獅子奮迅の戦いぶりでシモーネの軍勢を突き崩していく。

やがて、シモーネの軍勢を押し戻し、形勢は逆転した。
アレッサンドロは敵軍の将シモーネに狙いを定める。
「ミケーレ、もう勝負はついた。私はシモーネを追う。お前は戻って味方の負傷者を看病し、みんなの力になってやってくれ。敵から襲撃される可能性もある。お前にしか頼めない」
「心してかかります。マルコ、お前はどうする」
「私は叔父上と共に敵を討ち果たして参ります!」
マルコはミケーレと共に戻らず、アレッサンドロとジュリオと共に戦いを続ける。

アレッサンドロとシモーネ、馬に乗った二人の戦士が対峙する。
「アレッサンドロ……。何をしに戻ってきた、父を殺した身でありながら。王としてふさわしくない人間はここに戻ってくる資格などない!」
「王を殺したのは私ではない。お前のもとにいる者たちは分からんが、私を信じてついてきてくれた者たちは、真の敵が誰であるか、真に王であるべきは誰かを知っている!」
「皆の者!この者の言葉に騙されるな」
「私こそが真の王、フィリッポの後継者である。私に刃向かうというのなら、このアレッサンドロがお前を討ち果たす!」
「面白いことを言う。さあ、剣を抜け!一騎討ちだ!」
アレッサンドロとシモーネは馬から降り、剣を抜いた。
そして一歩、また一歩と歩を進めていく。

「共に剣術を学んでいた頃が懐かしい、どれだけ腕を上げたか見ものだな」
「こちらも同じ思いよ」
剣と剣が触れ合うと、戦いの火蓋が切って落とされた。

まずはアレッサンドロが攻撃を仕掛けるもシモーネに見破られ、背後を取られる。
しかしアレッサンドロは身を翻し、そのまま背後へと剣を振った。
シモーネは少しばかり押され、身体が後ろへよろける。
アレッサンドロはさらに剣で押しかかる。
「その剣は、フィリッポのものか」
「そうだ、ファルネーゼ家代々に伝わる宝剣だ」
「ふん、そのようなガラクタ、私にとってはただの錆びついた古い剣にしか過ぎん」
「確かにこの剣は古い…しかし、お前もこの錆の一つとなり得るということを覚えておけ」
剣と剣が交わる音がする。
二人は歯を食いしばり、剣で語り合う。
「お前は父親が王であった故に、支配者になることができる。しかし、生まれが賤しい俺は、お前より強くなっても王になることはできない」
シモーネは剣に益々力を込める。
「そんな時、支配者となるまたとない機会が訪れた。家臣たちの心が王から離れていき、王は殺された。この機会を逃すわけにはいかない。お前を倒し、俺が支配者となる!王家の歴史を、この剣で断ち切ってみせる」
シモーネはそう言うと、アレッサンドロに渾身の攻撃を仕掛ける。

しかし、その攻撃がアレッサンドロに傷を負わせることは無かった。
「お前は優秀な戦士だ。できることならお前を配下にしたかった。だが、王を、我が父を殺した罪は重い。この戦いはお前も死をもって終わらせる」
そう言って、アレッサンドロはシモーネの腕を斬りつける。
「さようなら。シモーネ=フォルナーラ」
アレッサンドロはシモーネの構えが甘くなった隙を見、シモーネの胴を斬り払った。
シモーネは息絶え、アレッサンドロはその首をはねた。

赤い血飛沫が側にいたマルコの頬まで飛び散る。
「マルコ…、怖いか」
 アレッサンドロはそう言いながら眼を細めた。
「こ……怖くない、と言ったら嘘になります。でも、王であるのならば、兼ね備えねばならぬ強さだと存じます」
「いい答えだ。さあ、俺とお前で、城にいる残党を一人残らず始末しよう」
「はい!」
アレッサンドロ、ジュリオ、マルコ達は城へと向かって行った。

ジュリオはこの時、残虐だと言われても仕方がない行為をした兄が恐ろしく思えた。
だが、同時に胸に湧き上がる想いもある。
それはファルネーゼ家としての誇り。
「アレッサンドロ兄様……」
「何か言ったか? ジュリオ」
「いえ! 何でもありません!」
この強い人と同じ家の、家族の血が流れているのだ。
そう思うととても心強かった。


シモーネを倒すと一行は、敵方の城へ入っていく。
するとすぐに兵士の一団から取り囲まれた。

見知った顔がちらほらと目に入ってくる。
戦の始まりとともにジュリオから離反したクリスティアーノがそこにはいた。

「これはこれは、お久しぶりでございます。アレッサンドロ様」
「その者達は、皆もともと我が王国の者達だな。何で買収した。金か? 権力か? それとも欲しいものを全てやるとでも言ったのか」
アレッサンドロがそう言うと、クリスティアーノは笑った。
「まさか。私に勝手に付いてきてくれたのですよ。有能な王がいない国は時を待たずして崩れるので、あなたが支配者になってほしいと言われてね」
「私の留守中はジュリオが王をしていたのではないのか」
アレッサンドロは語気を強める。
「兄様、私はしっかりと政をしておりました。至らぬ点も多々あったとは思いますが、それでも、王としての義務を果たしてきたつもりです」
クリスティアーノは嘲笑する。
「義務を果たしてきた?だとしたらジュリオ様、何故こちら側に兵がいるのかご説明いただけますかな?王なのでしょう、あなた様は」
「…」ジュリオは答えることができない。
「必死にやってきた弟達を、王家の後継者を愚弄するのは、いくら前王の筆頭家臣と言えど、許すことはできぬ」
そう言って、アレッサンドロは剣を抜き、クリスティアーノに向かっていく。
「この者たちを殺せ!」
クリスティアーノが号令をかけると、側に居た兵士達がアレッサンドロに立ち向かってくる。

西洋一の剣士としても名の通っているアレッサンドロは、多数の敵兵たちを次々と討ち倒し、クリスティアーノは追い詰められていく。

マルコはアレッサンドロの後に従い、敵兵に勇敢に立ち向かっていく。
ジュリオもアレッサンドロとともに剣を振るった。兄アレッサンドロを、勇猛果敢な戦士であった父の姿と重ね合わせ、共に戦っている喜びを噛みしめながら…。

アレッサンドロのあまりの強さに恐れをなしたクリスティアーノは兵士数人をアレッサンドロに差し向け、自らはジュリオに狙いを定める。
しかし、もともと剣術に関しては不得手であったクリスティアーノは、あっけなくジュリオに追い詰められ、なすすべもなくよろめき倒れた。

しかし、ジュリオはクリスティアーノにとどめを刺すのを躊躇った。
「ジュリオ! 何をやっている! 殺せ!」
アレッサンドロがそう言うが、ジュリオは剣を振り下ろさない。
「クリスティアーノ、覚悟!」かわりにと言わんばかりに、マルコが剣を振りかざす。
「手出しは無用!」ジュリオが声を上げ、止める。
アレッサンドロは溜め息を吐いて、クリスティアーノに近付くと、目の前まで剣を突きつけた。

そしてクリスティアーノは空を仰ぐ。
「ここで仕舞いか……。ならば」
そう言って自身の持っている剣で自害しようとするも、ジュリオが剣を蹴飛ばして阻止し、二人の間に割って入った。
「ジュリオ……。何をしている。私の言うことを聞け。そこを退くんだ!」
「嫌です! アレッサンドロ兄様に言われても、聞けません!」
クリスティアーノは人生最後の瞬間、ジュリオに救われた。

クリスティアーノはその時見た背中を一生忘れないだろう。
これほどの勇気を持って、自分の前に出て来たそのジュリオの背中を。

「ジュリオ!」
再度アレッサンドロは叫んだ。
しかしジュリオは首を横に振って動かない。
「アレッサンドロ兄様、聞いてください!この戦で、剣を無我夢中で振るいながら思いました。私が望むのは、この国の平和です。いざこざは人同士でも国同士でも同じです。何か原因があって、それが障害となり、争いが繰り返されるのです。その原因さえなくなれば、それ以上人を殺す必要もありません」
ジュリオは真っ直ぐアレッサンドロを見ていた。

クリスティアーノはそのジュリオの背中に伝説の国王フィリッポの姿を見た。
「ジュリオ、そこをどけ」
「それはできません」
ジュリオは兄を信じていた。

「クリスティアーノ=ジュリアーニ、捨てるはずの命なら、私に拾わせてほしい」
その時のジュリオを、クリスティアーノは前王フィリッポのように感じた。

瞬間、クリスティアーノはこれまでの自らの行いを思い出し、心から悔いた。
戦に猛進するフィリッポを止め、自らのやり方で政を推し進めたい…。
当初は良い動機であったかも知れない。
しかし実の所、己の権力や支配権に固執し、王家を滅ぼし去ろうとまでしているではないか。気がついた時にはもう遅かったのだ。

そんな自分に、ジュリオは助けを差し伸べてくれている。
もう一度、生きることが許されるなら、この人物に賭けてみたいと思った。

前王フィリッポに強い憧れを持ち、家来になろうと決めた、まだ純粋な心を持っていたあの時のように…。

「ジュリオ様、もし、よろしければ、あなた様の家来にさせてはいただけないでしょうか。最も卑しい仕事でも構いません。心を入れ替え、力を尽くしていきたいと思っています。叶わぬなら、ここで私は死にます」

アレッサンドロも訳がわからないといった様子で、一旦剣を仕舞った。
周りの兵士達も戦いをやめ、事の成り行きを見守る。

「クリスティアーノ、その言葉が真実であるならば、私は受け入れよう。死ぬことは容易い。生きて、生き恥を晒し、死ぬ気で努力して、もう一度這い上がってきて欲しい!」
「あなた様のご命令であるならば……」
アレッサンドロはジュリオに跪いたクリスティアーノを見て、心を打たれた。

事の次第を見届けた兵士たちは、皆剣を鞘に収め、ふっと息を吐いた。

若いマルコは、叔父2人の姿を間近で見、多くのことを学びとった。

最後の敵、ルーカ=グラビーナとの闘いが始まる。
ルーカ=グラビーナはフィリッポと同盟を結んで配下となり、持ち前の狡猾さを武器に軍師にまでなった男だ。
西側の領土は元々ルーカ=グラビーナが前王と同盟を結ぶ前に支配していた領地でもあり、相当な思い入れもあることだろう。

アレッサンドロを陥れる噂話を流布したのもルーカであった。前王フィリッポの在位中も、各所に情報屋を雇い、国内外の情報を逐一自分に知らせていた。


三兄弟の軍勢は、ジュリオの居城でひと時の休息を取った。
皆が寝静まった後、ミケーレはこれ以上の戦を避けるため、ルーカを直接説得して和睦しようと単身、ルーカのいる城へと赴いた。
危険な行動だが、ミケーレにはそれだけの覚悟があったのだ。

「ルーカ様と直接会って話したい。中へ通してくれ」
西側の城壁の守衛は、ミケーレがたった1人でルーカのもとを尋ねてきた事に驚いた。
「通す訳にはいかん」
「ルーカに尋ねて欲しい。私が一人で来たと聞けば、きっと会ってくれる」
守衛はルーカのもとに向かい、ミケーレは入城を許可される。

ルーカの部屋にミケーレが入ってくる。
「ミケーレ王自ら、お一人でここまで来られるとは。その勇気、感服致します」
「夜分にすまない」
「ミケーレ様にこうしてお会いするのは何年振りでしょう。若い頃に婿養子として嫁がれていきましたからね」
「随分と白髪が増えたんじゃないのか。その美しい白髪に、お前の豊かな経験が透けて見えるようだ」
「ここに来ても無駄だ、私はファルネーゼ家を滅ぼす決意でいる」
「何故だ、訳を聞かせてくれ」

ルーカはミケーレに背を向け、徐に語り出す。
「フィリッポは私が必死に作り上げた王国を横取りした。あいつは同盟を結ぶよう要求してきたが、あれは同盟などではない。私は奴の望みを一方的に飲まされ、不服なら戦を仕掛けると脅された。私は戦によって国が滅ぶよりもと、同盟を結ぶことにした」
ルーカはミケーレの胸ぐらを掴んで叫ぶ。
「由緒正しき血筋の私こそが真に支配者としてふさわしい!成り上がり者のフィリッポの配下に下り、国を奪われ、あの者から指示をされ、頭を下げ使えなければならない!お前に私の気持ちが分かるか?分かるのかお前に!」
「…正直、お前の気持ちは分からなくもない」
「何!」
「私はフィリッポの息子だが、フィリッポとは違う人間だ。平和を望んで国を治めていたお前の気持ちも、自分の国を奪われた悲しみも激しく同情する」
ミケーレはルーカをなだめる。

「私は戦いが大嫌いだ。それはお前も同じであろう。どうだろう、ここは一つ戦が嫌いな者同士、座って話し合いで解決してみないか」
「話し合い、だと?」
「ああ、父親とは違い、私は少し話がわかる男だ」

ミケーレとルーカは座って対面する。
「シモーネはアレッサンドロの兄により討ち果たされ、クリスティアーノも投降した。ルーカ、お前が我々の仲間になると今宣言してくれれば、無要な戦を避けることができる。お前がかつて支配者だった時から守ってきた民を救うことができるのだ。それに、私の兄は父によく似ており、勇猛果敢な性格である故、戦をせずして物事を動かせる者の力が必要なのだ。お前が必要なのだ。だから頼む」
ミケーレはルーカに心から懇願した。

「…ミケーレ殿、私はあなたの思いに心打たれた。あなたの願いならば、聞き入れましょう」
「良かった。本当にありがとう」
ルーカは、ミケーレに深く頭を下げた。召使いを呼び、すぐにミケーレに飲む物と食べ物を用意するように命じた。

ミケーレが出された飲み物を一気に飲み干す。ルーカはミケーレを見つめる。
「…なぜだ、なぜ何も起こらない!」

ルーカは、初めから降伏する気などなく、紅茶とパンに猛毒を仕込んでいたのだ。
しかし、召使いがそれを何も入っていない物と取り替え、ミケーレのもとに出したのだった。
「ありがとう、君のおかげで命が救われた」召使いに感謝するミケーレ。
「貴様!裏切ったな!」

「策略や罠では人の心を動かせん。人の心を動かすのは、信じる事、そして、愛だ」
「…」
「ルーカ、お前の策略に私の王国の者たちは屈せぬ」
ルーカは食器を投げ飛ばし、ミケーレに迫る。
「私は自らの手に王国を取り戻したいのだ。お前たちの配下になることはできん…う!」

ルーカが胸を押さえ、その場に倒れ込む。
心臓発作だった。
狡猾な軍師の突然の、そしてあまりに哀れな最期である。

ミケーレがいないことに気づき捜索していた家来たちが、ルーカの家に入ってくる。
「ミケーレ様、ご無事でしたか」
「心配をかけたな」
ミケーレと家来たちは、夜が明ける頃、自陣へと戻った。

ミケーレから、事の次第が家族の者たちに伝えられた。
「ルーカ配下の者たちは降伏を願い出ている。我々の勝利だ!!」
アレッサンドロが兵士たちに大声で知らせ、軍勢一同は歓喜する。

ルーカ=グラビーナは高齢のため病に倒れ、西側も三兄弟の前に降伏。三人の家臣団による王国は崩壊した。
分裂した三国は三兄弟で割り振り、治めることになった。
話し合いの結果、中央は引き続きジュリオが治め、シモーナの支配していた東をアレッサンドロ、ルーカが支配していた西をミケーレが治めることになった。
前王フィリッポの息子たちが治める三国は、分裂していた頃の悲惨な状態から急速に回復していき、フィリッポの時代を凌ぐほどに繁栄した。

かつてない平和が続く日々...。
そんな中、ジュリオはこう思った。
やはり王として支配するべきは兄アレッサンドロだと。
5年間、分割支配は続いた。その間、三兄弟は頻繁に集まって、それぞれの国の状況を伝え合い、知恵を出し合った。住まいをそれぞれの統治する国にある城に変えていたため、三人集まるのはなかなか難しいところ だったが、出来る限り会うようにしていたのだった。
そんな中、農家の使用人として働き始めていた、かつての家臣クリスティアーノをジュリオが王室に呼び出す。
「お呼びでございましょうか」
「クリスティアーノ。領地をアレッサンドロ兄様に返上したいのだが、どう思う?」
「それを、なぜ私のような者に...」
「誰に相談しようかと考えていたら、お前の顔が浮かんでな」
「...もったいなきお言葉でございます。私のようなものに」
「私に知恵を貸してくれ、父を支えた頃のように、私の耳にささやいてくれ」
しばらく考え、クリスティアーノは口を開いた。
「ジュリオ様の政により、現在国は豊かに潤っております。アレッサンドロ様に譲り渡す必要はないかと思います」
「それは、そうかもしれないが......。だが、この国は私の手に余るものだ。私よりも兄上の手に、......次の王にふさわしい方の手にある方がいいと思う」
「私はジュリオ様に救われた身です。ジュリオ様にお考えがあるならば、そちらを優先してくださいませ」
「......ありがとう。クリスティアーノ」
ジュリオはクリスティアーノを自らの側近に召抱えた。
ジュリオの家臣たちの中にはそれをよく思わない者たちもいたが、クリスティアーノのひたむきさに、徐々に考えを改めていった。


ミケーレ達、ジュリアーノ家は自分達が統治する国でのんびりと過ごしていた。 善政を施し、この時代では珍しく、安心して子供達を遊びに行かせることも出来るほど治安も良好 だ。
「あーあ、マルコ兄様。次はいつジュリオ叔父様に会えるのかしらー」
クラウディアがそう言いながら街をぶらついていた。
「またその話か。会おうと思えばいつでも会えるって言ってるだろう」
マルコはまたか、といった顔をしてクラウディアの横を歩く。
「私、どうせ生まれるならもっと違う国のお姫様がよかったなー」
「違う国のお姫様? 今だってお姫様だろう」
「そういうものじゃないのー! もう、マルコお兄様ってば。わかってる癖に」
「わからないよ。クラウディア、一体どうしたって言うのさ」
「......私、恋をしているのよ」
「あ、そう」
マルコはクラウディアの先を行ってしまう寸前で、クラウディアが立ち止まっていることに気づいた。
「......。どうしたんだよ。クラウディア」
「マルコ兄様、なんで私、ミケーレお父様の子なのかしら。もし、ミケーレお父様の子じゃなければ、 私はジュリオ叔父様と結婚、出来ていたかもしれないのに。結婚は無理でも、恋人くらいには......」
「それは叶わぬ夢だよ。忘れてしまうんだ」
「でも......だって......っ」
クラウディアは泣き出した。
その肩をマルコはそっと抱き締める。
クラウディアの淡い気持ちは風に乗って空へと消えていった。

その日、ジュリオは家臣に国のことを任せてアレッサンドロの治める国にやって来ていた。
「アレッサンドロ兄様にジュリオが来たと取次ぎを」
門番はすぐにジュリオを中へ通す。
ジュリオは城の応接間でアレッサンドロを待った。

「おお、ジュリオ。どうした?」
「アレッサンドロ兄様、少々お話が」
「何だ?」
「私は国を治めるのには少々荷が重く、アレッサンドロ兄様に国を返上したく存じます」 「.....何故だ、お前は立派に治めているし、そちらには優秀な家来もいるだろう? それなのに、どうして国を返上するというのだ」
「私は、父の王国を復興し、再び一つの国になることこそが平和への道だと思っております。私にも子供が幾人かおりますし、将来的にアレッサンドロ兄様やミケーレ兄様の座を狙うやもしれません。一族に三つの国家が存在していては、骨肉の争いの原因となりかねません。王族同士の争いなど、私は見たくありません」
「私も優秀な弟を持ったものだ。そのような英断、私には絶対に出来ぬことだ」
「いえ、自分の立場はわきまえておりますので、当然のことです」
「では、お前の現在統治している国を、私が責任を持って統治することとする。お前の家系はこれから末代まで最高位の地位を保証されることになる」
「はい、ありがとうございます」
「住まいはどうする? こちらの城で再び生活するか?望みがあれば何でも言ってくれ」
「いえ、住まいは今のままで問題ありません。お気遣いありがとうございます」
「お母様には報告しているのか」
「いえ、まだです。お母様にはことが決してからお伝えするつもりでしたので」
「そうか、私もお母様にお会いしたいのだが、このところ忙しい。付いていけずに申し訳ない。よろしく伝えてくれ」
「はい、お伝えしておきます」
ジュリオはその足で母シモーナのもとへと向かった。

「お母様」
「どうかしたの?」
「お伝えすべきことがありまして。実は、アレッサンドロ兄様に領地を返上したのです。私の手では余ってしまいますので」
「あら、そうだったの。でも、あなたが決めた事なのだから、十分に考え抜いてのことなのでしょう。わかったわ。報告ありがとう。そうだわ。私からも一つ、聞いて欲しい事があるの」
「はい、それはどのようなことでしょう」
「ミケーレも西の領土をアレッサンドロに返上して、息子のマルコにジュリアーノ家の当主の座を譲ろうとしているわ。ミケーレが直接伝えに来たのよ」
「! それは本当ですか」
「本当よ」
「しかし、早くないですか。そのための準備などは既に始まっているのでしょうか」
「もうミケーレは準備を進めているようね。アレッサンドロもそれを近々知るはずよ。それで、マルコが即位した時、あなたが側で助けてあげてほしいの」
「そうでしたか…。お母様の願いならば、喜んで致します。私にとってもマルコの成長は見ていたいものですし」
「ありがとう。ジュリオ。マルコの側にあなたが居ればきっと上手くいくと思う」 そう言われながら、ジュリオはシモーナに肩を豪快に叩かれた。お母様らしいなと、ジュリオは思った。兄が早期に王位を息子に譲ることについて、もしや兄上…と不安な感情が頭をよぎったが、そこから先は母親に尋ねることはできなかった。

その頃、執務室でアレッサンドロとミケーレが話し合っていた。
ミケーレはアレッサンドロに、西側の領土の返上と、ジュリアーノ家の当主の座を息子のマルコに譲るつもりでいる事を打ち明けた。
「王位を......。まだ若くはないか?」
「兄上だけにお伝えします...。私の身体は病に侵されています。そう長くはないでしょう。私が一番よく分かります」
「おいおい、ちょっと待て。そうか分かった、で済む話では無いだろう。どこが悪いんだ」 「もちろん息子のためにできることはこれからもする予定でいます。兄上も、同盟国の相手として接する事はもちろんですが、 時々家族としても接してやってほしいのです」
「ミケーレ、まずはお前の身体のことが先だ。国の問題など後まわしだ。医者なら私の国にも優秀なものが大勢いる。すぐに手配しよう」
「その必要は...ないかと」
「ミケーレ!馬鹿な事を言うな!」
「ご安心ください。実は、お母様を通して、ジュリオにマルコの側近としてついてもらう話を進めています。ジュリオがマルコの強い味方になってくれるでしょう」

こうして三国は統合し、フィリッポの時代のような巨大な帝国が再興された。
マルコはミケーレから王位を継ぎ、叔父のジュリオはジュリアーノ家の家臣としてそれを支えることになった。
ミケーレは少し早めの隠居生活だ。
ジュリオはアレッサンドロに返上した領地から今の王であるマルコのいる城に住まいを変えた。


マルコはたまに執務中にぼんやり外を眺めることがあった。
しかし街に出て遊ぶことなどほとんどできない。一国の王なのだから当たり前だ。
そんなマルコの姿を見ていたジュリオはかつての自分とマルコを重ね合わせた。
幼い頃から王の息子として暮らしてきたジュリオは、マルコの気持ちがよく分かった。
そこでジュリオはクリスティアーノに頼んで服などを調達してもらい、マルコと クラウディアを誘って、街へと遊びに行くことにした。
お忍びでの外出だ。もちろん、ミケーレにも許可を取り、一時的に仕事をミケーレが引き受けてくれた。
「マルコ様、久しぶりの外出ですね。クラウディアも、どことなく楽しそうに見えて、私は嬉しいよ」
「ありがとうございます。王になると本当に忙しくなり、遊びに行くなどほとんど出来なくて......。父の大変さが今になって分かります」
「私も、外に出たら危険だからとお父様に言われて、幼い頃からお屋敷の中で過ごすことがほとんどだったので、こんなふうに街を歩くのが夢でしたの」
「今日は私達はただの家族だ。さあ、行こう」一行は街で買い物をしたり、珍しいものを売っていると噂の店に行ってみたりと、王族では味わえない楽しさに満たされていた。
「わあ、これ可愛い......。叔父様、この髪飾り私に似合う?」 クラウディアはそう言って髪飾りを長い髪に添えて見せる。
「ああ、とても似合うよ」とマルコ。
「叔父様に聞いてるの!」
ジュリオは店主に何やら話しかけ金銭のやりとりをした。
ジュリオはクラウディアの紙に髪飾りを付けた。
「今日からこの髪飾りはクラウディアのものだよ」 そう言われ、クラウディアはしばらくぽかーんとした表情を見せる。 そして切ない表情を少し見せると首を横に振って、いつもの明るい笑顔を見せた。

「ありがとう! 叔父様......!」
帰る途中、マルコは「貧民街を見に行きたい」と言った。ジュリオはそれは勧められないと止めたのだが、マルコはその制止する声を振り切って貧民街に足を向けていった。
ジュリオはクラウディアの側を離れないようにしながら、マルコの後ろを付いて行く。
「マルコ様、もう帰りましょう。あまりこちらに長居するのは......」 そう言っているとマルコは立ち止まった。 そこには親を亡くした子供達や家を持つことさえ出来ない者達が集まっていて、さらには闇市が繰り広げられていた。
「ジュリオ叔父様、これは本当に、私の国で行われていることですか......」 マルコが唖然としてそう言った。
ジュリオは「......そうです。これが、現実です」と言った。
死にそうな物乞いがこちらを睨みつける。 クラウディアには見えないようにジュリオはクラウディアを背後に隠した。

一行の前に、大きめの外套に身を包んだ青年が現れる。
焦茶色の布で口元を隠し、真っ直ぐな目をした男だ。
「王家の方々とお見受けするが、あなた方がなぜこのような場所においでかな」
「王家の人間ではありません。人違いです」
ジュリオが2人を庇うように一歩前に出る。
「そうです、私たちの服装を見て下さい。この古びれた衣も、私たちの数少ない持ち物の一つです」マルコも弁解する。
「衣や持ち物を見窄らしくしても、ちょっとした所作や言葉遣いで分かります」
青年がジュリオの後ろに目をやると、クラウディアが怯えたような表情で見つめる。
クラウディアは恐怖で震えながらも、不思議とその青年の瞳から目を背けることが出来なかった。
「ふっ、ここはお嬢様が来るようなところじゃないよ」
青年は挑発的な視線を送りつつそう言い放った後、にこりと微笑んだ。
「ご一同、ここから先は俺たちの土地だ、王家の人間が来るとこじゃねえ。今すぐ立ち去れ」
「待ってくれ、私は貧民街の者たちと直に話がしたい願っていた。皆の意見を聞きたいと思っている。是非話し合いたいのだが」ジュリオはそう青年に持ちかける。
「断る。お前たちに何が分かる。周りを見てみろ、早く出ていかねえとこいつらが黙っていないぞ」青年がそう言うと、ぼろぼろの家が立ち並ぶ路地から、虚な目をした男たちが姿を現した。
「マルコ、クラウディア、逃げよう」
一行は貧民街を走り抜け、王宮へと帰っていった。

その青年の名は、ラウラ=マリーノ。かつて大王フィリッポに仕え、王の側近として活躍していたオッタビオ=マリーノの息子である。かつては父のように、立派な兵士として王に仕えることを夢見ていた。しかし、父が計略に嵌められ処刑されたことをきっかけに、一家全員が貧民街へと追放された。まもなく母を病で亡くし、壮絶な悲しみと絶望、孤独の中で成長する。やがて強者揃いの貧民街の人間をまとめ上げ、その指導者として君臨する。

マルコは複雑な胸中のまま城へと戻った。
マルコはあれから城から出ずにずっと執務室で仕事をしていた。
そして溜め息を吐いては「あの貧民街をどうにかしたい」とジュリオに言った。
ジュリオはこれではマルコの精神が参ってしまうと思ったため、ミケーレに相談をした。
ミケーレは父親としてもマルコのことをよく見ている。
「そうか......。それで最近上の空なのだな。貧民街は、確かにあそこはどうにかしなければなるまい。確かに、早急に取り組むべき問題だ。しかし、良い王となり良い支配を行うためには、先ず自分自身にゆとりがなければならない」
「アレッサンドロ兄様の国でお母様や叔母様に会えば、少しは気分が変わるかもしれないですね。あのお二方は強烈ですし」
「確かに......」母シモーナと叔母ルイーザを思い浮かべた二人は互いに苦笑いした。


数日後、一行はアレッサンドロの治める国の城へ行き、マルコやクラウディアは久しぶりにシモーナ やルイーザに出迎えられる。

「マルコ、クラウディア!」
シモーナはそう言って二人に抱き着いた。
二人は恥ずかしそうにしているが、嬉しそうな表情を浮かべている。
「マルコ、なんだか貫禄が出てきたわよ。クラウディアは美しさに磨きがかかったわね。さあ、どうぞ。国王もお待ちよ」
女中頭、ルイーザが城の中へと案内する。

大きめの客室でジュリオやマルコ達が待っていると、そこにアレッサンドロが現れる。
「待たせた。仕事が忙しくてな。申し訳ない」
「アレッサンドロ兄様!」
「おお、ジュリオ。それにマルコにクラウディアにミケーレか、母上も叔母上もいるから、今日は久々に家族勢揃いといったところだな」
「アメデーオはいないのですか」ジュリオが尋ねる。
「ああ、息子か。あいつは今日もふらふらと遊びに行っている。近頃は私の言うことなど聞かなくなってしまった。困ったやつだ」
「そうでしたか、苦労されているようですね。私も息子を育てることは難しく感じています」
「忙しさにかまけて、ろくに相手もしてやれなかったからな、私も反省しているところだ」
マルコとジュリオが政の相談をアレッサンドロに持ち出すと、女性たちは部屋から出て行った。


クラウディアは、1人だけになりソファーに座り込んだ。
その姿を見たジュリオの叔母、ルイーザはすぐさまクラウディアに駆け寄る。
「笑顔も可愛いけど、澄ました横顔も素敵ね」
「大叔母様、ごめんなさい。ちょっと考え事しちゃってて」
「悩み事があるなら言っていいのよ、私は一家の娘たちは全て自分の娘だと思っているから。あなたも私の娘よ」
「ありがとう。私、お父様の娘なんかに生まれたくなかったわ。結婚相手さえも自分で選べないのよ。もちろんお父様のことは大好きよ。大叔母様もフィリッポお祖父様の妹で、私と同じ立場でしたでしょ。大叔母様もお悩みになったことはある?」
「そうねー。私も王家の娘、フィリッポの妹として生まれた自分の境遇を恨んだわ。上等な洋服に豪華な食事、私はには全てのものが与えられていた。でも、私はもっと自由な生き方がしたかった」
「それで、どうされたのですか」
「お城を飛び出したの」
「ええ?」
「驚くでしょ?でも私は本気だった。王国も抜け出し、海沿いの漁師の町に移り住んだの」
「海沿いの町…あそこには美しい景色が広がっていると聞きました」
「そう、本当に美しい所だったわ。そこで暮らしているうち、素敵な人と出会った」
「素敵な人」
「私たちは親友になって、互いに支え合う仲間になった。美しく、楽しい日々だった」
「それで、どうなったんですか」
「彼の乗った船が嵐に遭遇してしまって…。船員は皆んな助からなかった。私は幸せの絶頂からどん底に叩き落とされたわ。町全体も悲しみに暮れたの」
「それは辛い出来事でしたね」
「それから数年後に、兄の王国から迎えが来た。私はずっと行方知れずだったのよね、、」
「大叔母様がそんな経験をされていたなんて、全然知りませんでしたわ」
「私は長年苦しみから立ち直れなかったけど、兄の国に戻って、王宮で暮らしていくうち、この生活も魅力的であることに気づいたの。家族の成長を見届け、困難を共に乗り越え、時には宴を開く…。身近な所に冒険は転がっているものなのよ。私は女中のまとめ役として一家を支える今の生活をとても幸福に感じているわ」

ルイーザの両手がクラウディアの両手を優しく包み込む。
「クラウディア、私はいつでもあなたの味方よ。辛くなった時はいつでも、大叔母さんの胸に飛び込んでいらっしゃい」

ルイーザはクラウディアにかつての自分を重ね合わせた。
クラウディアはルイーザに励まされ、再び花のような笑顔を取り戻した。


部屋の中では、引き続き政に関しての相談がなされていた。
マルコはアレッサンドロに尋ねる。
「先日、貧民街を初めてこの目で見ました。あのようなところをよりよい環境にするにはどうしたらよいのでしょう」

アレッサンドロは意表を突かれたようで、しばらく考え込む。
「...貧民街をすぐになくすことは出来ない。だが、その貧民街の周辺を開発し、そこで仕事をする者を募集すれば多くの者が自立して生活できるようになる。そうすれば、飢えに苦しむ子どもたちも救うことが出来るだろう」
「なくすことは不可能ですか...」
「不可能ではないが、簡単にいく問題ではない。私も自国の政については手は尽くしているつもりだが、それでも出来ぬことがあるのだよ」

アレッサンドロはマルコの肩に手を置いた。
「諦めるな。何事も、己が信じなければ。王として」
アレッサンドロがマルコの目をじっと見て語りかけた。
「はい」
マルコはそう言って、決意を新たにした。


「ねえ、皆見て頂戴ー! クラウディアが凄く可愛いの!」
ルイーザの声が響き渡ると、客室のドアが開いた。
そこには着飾られたクラウディアが立っていた。 少女という印象から女性を感じさせるその美しさに、男達は目を惹かれた。
「これ、ど、どうかしら...」

その髪にはジュリオが送った髪飾りがきらりと光って付けられていた。
「どうしてもこの髪飾りがいいって言って、この髪飾りに似合うものを選んだのよ。やっぱり女の子はいいわー! 着飾ればいくらでも表情を変えるし、その姿を見せた時の反応を見られるのが何より 嬉しいのよー!」
シモーナが楽しそうに話す。
「ああ、そうだ。家族の平和を祝って、舞踏会でも開かない? せっかくクラウディアが着飾ったんだもの」
ルイーザが大好きな催し物を開こうと提案する。
「それはいいわ!」
シモーナとルイーザが舞い上がる。

そうしてその晩、ファルネーゼ家の舞踏会は人知れず城内でひっそり行われた。
クラウディアはジュリオと踊る時、それはもう可愛らしく笑って踊っていた。
シモーナにルイーザ、アレッサンドロにミケーレ、マルコ、家臣たちとその家族…。
舞踏会は華やかに行われた。

マルコはジュリオの後ろ盾の元、支配者として成長していった。

例の貧民街の問題だが、どうしたらいいかとジュリオと知恵を出し合い、貧民街一体を再開発することにし、また働く者には家を与えた。
身寄りのない子供達には孤児院を作り、クリスティアーノにその運営を任せた。
皆等しく学ぶことが出来るような環境づくり、教育者達の選定をした。

「マルコ様、随分と王様らしくなってきましたが、ふとした時に見せる表情が、幼い頃のままですね」ジュリオが微笑みかける。
「そうでしょうか。きっと叔父様の前だから、油断してしまうのですね」
「悲しいことですが、今の時代、全ての人間が信用できる者とは限りません。油断が何より危険である事を是非ともご留意ください」突然そう言ってくるジュリオに、マルコは目を丸くした。身の引き締まる思いのするマルコだった。

「叔父様はいささか働きすぎです。少しお休みになってください。私はもう少し仕事をします」マルコはジュリオを気遣う。

成長していくマルコを間近で感じ、ジュリオは満足そうに笑った。


王国統一の記念式典が開かれ、三兄弟がバルコニーで集まって話している。
「アレッサンドロ兄様を見ていると、亡き父上を見ているようです」ジュリオが感慨深げに語る。
「父のような立派な王になる道はまだ長い...。今の私など、目の前の問題を解決していくだけで精一杯だ」自分の領国を見渡すアレッサンドロ。
「私はただ、この平和がこれからも続いていくことを願います」静かに微笑むミケーレ。 「兄様、大丈夫です。マルコは立派な王として成長しています。私もしっかりとお支え致します」そう言ったジュリオの顔をアレッサンドロがみる。
「ジュリオ、働き過ぎだ。鏡を見たか? お前、目の下に薄っすら隈が出来てるぞ」
「え!」驚くジュリオにミケーレが笑って言う。
「...兄上の悪戯心だ。本当は隈なんて出来てない。だが、少し働きすぎの自覚があったのだろうな。その様子だと」
「見事に嵌められました」

「もう。ジュリオ叔父様ってば。働きすぎです!」クラウディアが部屋の中から走ってきてジュリオに駆け寄る。
それを追いかけるようにしてマルコがやってくる。
「いくつか話があったお前への縁談、全部断るってどういうことだ。もうそろそろ嫁いだ方が...」
「いいの! 私、自分がこの人だって思った人にしか嫁がないんだから!」 二人は中庭の方へ走っていく。 「やれやれ...」まだ子どもらしさを残す二人を見て、自然に笑顔になる三人。

それが、三兄弟が揃った最後の日だった。
フィリッポの次男、ミケーレは病により48歳で生涯を閉じる。


平和を愛し、家族のために奔走したミケーレは多くの国民から慕われた。
彼の死により、国全体が悲しみに暮れた。
しかしそれと同時に、前王の面影を残す国王マルコと王女クラウディアに希望の光を見出し、すぐに明るさを取り戻していった。

平和を愛し、家族のために奔走したミケーレは多くの国民から慕われた。
彼の死により、国全体が悲しみに暮れた。
しかしそれと同時に、前王の面影を残す国王マルコと王女クラウディアに希望の光を見出し、すぐに明るさを取り戻していった。

ミケーレの死から5年の月日が経過した。
フィリッポの死から実に10年である。

王宮で執務に励むジュリオのもとに、1人の少年が駆け寄る。
少年の名はアンドレア…。ジュリオの一人息子だ。

「父上!剣術の稽古に行ってきます」
「おお、行くのはいいが、学問の方が最近疎かになってるんじゃないのか。教師たちからよくない報告が上がってきてるぞ」

アンドレアは父親のジュリオの意向で、様々な分野の教授から教えを受けていた。
「お前もやがては王家を支える人間にならなければならない。そのことを忘れるな」
もう聞いていられない、という顔をして駆け足で部屋を出ていくアンドレア。


ジュリオの息子、アンドレアは西洋一の剣士になることを夢見ており、剣術に長けている従兄のアメデーオに幼少の頃より剣術の指南を受けていた。

アメデーオはジュリオの兄であるアレッサンドロの息子だ。
しかし性格はと言うと、アレッサンドロとは全く異なる。
王家の長男として甘やかされて育ったため自己中心的で、立場と権力を利用して強気に振る舞い、召使いたちを道具のように扱っていた。親族であるルイーザも例外ではなかった。
父親の目を盗み、貧民街の悪党たちと吊るんで悪事を働いている。

「よおアンドレア、元気にしてたか」
アンドレアの前では明るい兄のような存在のアメデーオである。
「ごめん、アメデーオ兄さん。遅くなって。行こうとしたら、父さんに止められてさ」
「そうか、お前の親父も少々厳しいところがあるからな。お前も大変だろ」
「そうだね、ちょっとめんどくさいかな。父さんのことは大好きだけどね」
「いつまでも親にべったりでは駄目だ、お前もそろそろ独り立ちしないとな」

アメデーオとアンドレアの剣の稽古では、実戦で使う物よりも重い剣を使用した。
その方が実戦で剣が軽く感じ、素早い攻撃が可能となる。

アメデーオが剣を抜き、構える。
「祖父たちが生きていた時のような戦乱の時代は終わったんだ。俺たちは望むものが何でも手に入る。お前ももっと自由に生きろ」
「自由かー。確かに、もっといろんなこと見たり、してみたい」

アンドレアがアメデーオと対峙する。
「来い、教えた技、使ってみろ」
「ずっと練習してた突き技ですね」
「胴が開き、基本の構えが崩れた時に、両腕の間を突く。いいか」
「いきます…」
アンドレアがアメデーオから教わった連続技を繰り出す。

「なかなか腕を上げたな、今日はお前を面白いところに連れていってやる」

剣術の稽古の後、アメデーオはアンドレアを連れて街へと繰り出した。
アメデーオはいつもつるんでいる悪友にアンドレアを紹介し、世がふけるまで遊び回った。

アンドレアは父の顔が浮かび引け目を感じつつも、初めて体験する非日常に胸が高鳴っていた。

すっかり夜になり、アンドレアが家臣のクリスティアーノと共に帰ってくる。

「随分と帰りが遅いじゃないか。もう真っ暗だぞ。どこに行っていたんだ。みんな心配していたんだぞ。クリスティアーノが見つけてくれなければ…」
「ごめん、父さん」
「一体どこで何をしてた」
「…」
「自分の口から言えないのならクリスティアーノから教えてもらうぞ」

アンドレアは、普段は優しく、滅多なことでは怒鳴り声を上げない父親をここまで怒らせてしまっていることに、後悔と恐れを抱いていた。
「ジュリオ様、今回のことはアンドレアを責めないで下さい。アメデーオ様がお誘いになったのです」
「アメデーオと街で何をしてきた」
アンドレアが口を開かないので、ジュリオは黙ってクリスティアーノを見つめる。

クリスティアーノは悲しい表情で説明し始める。
「アメデーオ様の近頃のご様子につきましては、ジュリオ様もご存知のことと思いますが、このところ益々粗暴になられ、家中でも手を焼いているとのことでございます。アメデーオ様は、貧民街の悪党たちと付き合い、悪事を働いておられます。何でも気に入ったものは持ち主から剥ぎ取り、街の娘たちの中から目をつけたものを強引に連れ帰り、辱めます。今日、闇市の近くでアンドレア様をお連れになって歩いておられるのを偶然目にし、連れ帰りました」
ジュリオが深いため息をつき、アンドレアに語りかける。
「何だと…。アンドレア、もうアメデーオに近づいてはならん」
ジュリオはクリスティアーノに尋ねる。
「アメデーオの所業に対して、アレッサンドロ兄様は何もしておられないのか」
「もちろん気づいておられますし、度々諫言を与えておられますが、当のアメデーオ様に全く響く様子もなく、酷くなる一方でございます」


ジュリオは、これ以上アメデーオとアンドレアが関わるのは危険だと判断し、剣術の稽古をやめさせ、アンドレアの行動を制限した。

「クリスティアーノ、色々と苦労をかけたな」
「とんでもありません。しかしジュリオ様、アメデーオ様は不健全な性向を宿しています。これからも注意が必要でしょう」


王室を離れ、自宅へ戻るクリスティアーノに背後から男が近づく。
「余計なことを言ってくれたな」
クリスティアーノが振り向くと、剣を抜いたアメデーオが立っていた。
「アメデーオ様…お許し下さいませ」
アメデーオの側には、貧民街のリーダー、ラウラがいる。

ラウラは背後からクリスティアーノの口を塞ぎ、動きを封じ込める。正面からアメデーオがクリスティアーノの腹部を剣で突き刺した。

父の王座と更なる権力を欲するアメデーオと、王家の人間に恨みを持ち、王家の没落を願うラウラは、それぞれの利害関係が一致したため、結託してクーデターを企てていた。

クリスティアーノはアメデーオに殺害され、遺体は道端に放置された。

アメデーオは、自分の悪事が家中に広まることを思い、さらに悪い考えを巡らし始めた。


アンドレアが王マルコのもとに来ている。
アンドレアは幼い頃からマルコを兄のように慕っており、マルコはアンドレアにとって心の拠り所だ。
「アンドレア、大丈夫か。お父上から叱責を受けてからずっと塞ぎ込んでいると、お婆様も心配しておられた」
マルコがアンドレアの肩に手をやる。
「大丈夫。ありがとう」
「話は少し聞いたよ。貧民街に行ったんだって」マルコは優しく尋ねる。
「うん、ちょっとね」
「…あの場所は歳若いお前が気軽に行けるようなところではない。非常に危険だ。私も以前ジュリオ叔父さんと一緒に、街を見に行ったことがある。国を治める上で、自国の様子、本当の姿を見て、知っておきたかったからね」
「マルコ兄さんも行ったことあるんだ」
「ああ、ジュリオ叔父さんと一緒に。そこには憎しみと暴虐が蔓延っていて、私はすごく悲しかった。祖父の代から受け継いできた王国が、この有様なのかと」
「確かに…そうだね」
「私は問題を根底から解決しようと努力してきたつもりだが、なかなか上手くはいかない」
2人が話している部屋に、クラウディアが入ってくる。
「アンドレアいらっしゃい。これ、良かったら飲んで、採れたての葡萄で作ったの」
「クラウディアさん、こんにちは、ありがとう」

アンドレアはマルコの生き方が不思議でならなかった。
「何でマルコ兄さんは自分が楽しむ事を考えないの?いつも話すのは国のこと、家族のこと、他の人のこと。王なら、何でも好きなものが手に入るし、快楽的な生活ができるでしょ」
「アンドレア、人のことを想うなら幸せになれるんだ。本当の幸せは権力、富から得られるものではない。家族に対する愛、人々に対する愛、そこから得られるものだ」

マルコは優しく語りかける。
「行動すること、決定することには責任が伴う。それが王家の人間であるなら尚更だ」

マルコは亡き父、ミケーレのことを思い浮かべる。
「私は父に倣いたい。お前も、父親を愛し付き従って行きなさい。叔父さんはきっとお前の道標となって下さる」
「分かった。でも、正直まだどんな生き方をすればいいか分からないよ」
アンドレアはそう言って俯く。
「心配無い、私がついている」
マルコはアンドレアを優しく抱擁した。


一方、ファルネーゼ家の王宮には重い空気が漂っていた。

アメデーオが父親アレッサンドロの部屋に入ってくる。
「父上、お呼びですか」
「ああ、急に呼び出して済まない。お前と話がしたかった」
「ジュリオから何か聞いたんですか」
「先日のアンドレアのことについてならジュリオから聞いている。だが、今日こうやってお前を呼んだのは、それが理由では無い。普段は忙しく、お前と共に時を過ごす事さえ出来ていなかったから、時には腹を割って話がしたいと思ってな。本来ならもっと早くこうしているべきだった、辛い思いをさせたな。申し訳ない」
「父上…。悪いが、出ていってくれないか。父上と2人で話がしたい」
アメデーオがアレッサンドロの側近を部屋の外に出るよう指示する。側近は無言でアレッサンドロに確認を取る。
「よい。行きたまえ」

王の側近は部屋を出た瞬間嫌な予感がしたが、そう思ったのも束の間、王の悲痛な叫び声が王宮に響き渡った。
側近はすぐに部屋の扉を開ける。

そこには刃物で突き殺された王が倒れていた。
「大変だ!王が暗殺された!」
「おっと、静かにしようか」
走って行こうとする側近をアメデーオが背後から刺殺する。
アメデーオはアレッサンドロを刺し殺した短刀を倒れている側近に持たせ、王を殺した罪を側近になすりつけた。

アメデーオは王位を継承すると、古くからい家臣たちを全て追放し、自分を支持してくれる者たちだけで家臣団を構成した。

その筆頭が貧民街のリーダー、ラウラ。アメデーオの右腕である。

アメデーオとラウラが城のテラスから城下を見下ろす。
「どうだ、ここから見る景色は」
「悪くねえな、親父も見ていたかもしれない景色だ」
「この下にあるもの全て俺らのものだ。親父さんもさぞお喜びだろうよ」
不敵な笑みを浮かべるアメデーオと表情を変えないラウラ。

「アメデーオ、まず何からするつもりだ」
「貧民街の者たちを城下に住まわせる」
「感謝するぜ」
「お前の仲間の中から、強き者たちをより集め、自警団を組織する。俺たちに逆らう者たちは誰であろうと捕らえ処罰する」
「その次は」
「ジュリアーノ家を滅ぼす」
「身内だろ、いいのか」
「構わん、いずれは争わなければならない仇となろう」

アメデーオは、ラウラ=マリーノ率いる貧民街の強者たちを家臣として召し抱えた。
アメデーオとラウラは城の中庭に配下の者たちを呼び集める。
「ジュリアーノ家の王宮を襲撃せよ。奴らの財産、土地、領土は全てお前たちのものだ!」
「おお!」
アメデーオとラウラは、ジュリアーノ家を滅ぼす計画を立て、それを実行した。

ラウラ率いる武装集団は、夜遅くジュリアーノ家の城を襲撃する。


門番が、遠くから光る松明に気がつく。
「あれは何だ」
「武器を持っている。敵の襲来だ、直ちに城内に警告を!」

城内に知らせが行き届くより前に、ジュリアーノ家の屋敷に一斉に火矢が放たれ、屋敷は炎に包まれる。木製の門扉は焼け落ち、敵がなだれ込む。
「一体何の騒ぎなの!」
クラウディアが動揺する。
「城に火が放たれた。逃げなければ。マルコ、クラウディアと共に逃げてください。私は家の者たち全員が逃げるのを見届けます」


燃え盛る屋敷を後に残し、ジュリアーノ家の人間は着の身着のまま逃亡した。


城を追われたジュリオ達は、母親シモーナの実家でもある隣国のアッカルド家の元へと身を寄せる。

「全員無事に辿り着きました」ジュリオがマルコに報告する。
「匿って頂き、感謝します」
「とんでもございません。無事に到着され、安心致しました」
美しい青年が一行を迎える。

「立派になられましたね、マッテオ王子」
「ジュリオ様も。最後にお会いしてから、もう20年ほど経つでしょうか」
「ええ。随分と時が流れました」

マッテオ=アッカルドはジュリオの母親シモーナの生家、アッカルド家の王子。
ジュリオとは幼い頃から面識がある。

「家族を紹介します。こちらが甥のマルコ。亡き兄ミケーレの息子です」
「ジュリオ様、お兄様を2人とも亡くされ、さぞお辛いでしょう。マルコ、お若いながら王としてよく頑張ってきましたね」
マッテオがマルコの肩にそっと手を触れる。
「マッテオ王子、初めてお目にかかります。大変お世話になります」
「どことなくミケーレ様の面影を感じます。穏やかな目がよく似ておられる」
ジュリオが紹介を続ける。
「そして、マルコの妹のクラウディアです」
「どうも」そっけなく挨拶し、すぐに下を向くクラウディア。
「こら、すみません」マルコがクラウディアをたしなめる。
「いいんです。もし良かったら、お顔を見せて頂けるかな」
クラウディアが顔を上げ、頬を赤らめる。
「美しい…。」
マッテオは眉目秀麗な王子である。


アッカルド家の城は山間部の地域に位置しているため、敵の攻撃から逃れ、時を稼ぐのに好都合だった。

ラウラ率いる武装勢力を食い止めるため、ジュリアーノ家の領土ではマルコ配下の兵士たちが奮戦していた。屋敷の周りも激戦地と化しており、アッカルド家に避難してきたことで、家の者たちのとりあえずの安全は確保された。

ジュリオとマルコ、アンドレアはマッテオ率いるアッカルド家の援軍と共に戦場に駆けつけた。
アンドレアはこの戦いが初陣である。


稲光と共に大きな雷鳴が鳴り響き、雨が激しく降り始めた。
大雨で状況は悪化し、戦いは激しさを増していく。
ぬかるんだ地面によって兵車は思い通りに進まず、兵の足取りも重くなった。

「マルコ、山あいの砦が突破されました!」アンドレアが戦況を伝える。
「山あいの砦は屋敷へと直接繋がっている。クラウディア達が危ない。どうすれば…」
「マルコ、このまま本隊を指揮しアメデーオの居城に突き進んでください。アンドレア、お前はマルコの側で戦え。私は屋敷へ引き返します」
ジュリオが迅速に提案する。
「分かった」
「アンドレア、頼んだぞ」ジュリオがアンドレアの背中を叩く。

ラウラ達がアッカルド家の屋敷に近づいたとの知らせを受け、ジュリオはマルコとアンドレアと別れ、屋敷へと引き返した。
マッテオ王子も敵の執拗な攻撃を受けながら必死に撤退し、屋敷へと急いだ。


ラウラ達はついに屋敷の守衛部隊も突破し、屋敷へと踏み込んだ。
ラウラが上階の扉を開けると、そこにはクラウディアと家中の女性たちが集まっていた。
クラウディアは見覚えのある顔に恐怖が蘇る。
「久しぶりだねえ。さあ、お楽しみの時間だ」

クラウディアは手足を縛られ、女中達も皆捕らえられた。
「みんな、恐れないで!」
恐怖におびえる娘や子どもたちをクラウディアが励ます。

「男のくせに、女や子どもに手を出すなんて。恥を知りなさい!」
クラウディアがラウラに言い放つ。
ラウラは腰を落とし、クラウディアに目を合わせる。
「お前、俺たちの住んでる場所に一度来たことがあるよな」
「ええ。あるわよ。あの光景は鮮明に覚えているわ」
「お前ら王家の人間は、あそこに住んでいる者たちがどんな生活をしているのか、考えたことすら無いだろう」
「もちろんあるわ、それに、兄のマルコは貧しい人たちの気持ちを理解しようと努めてきた」

ラウラはクラウディアの顔を見ながら尋ねる。
「苦しみを理解し、その苦しみを取り去る一番良い方法が何か分かるか」
「そうね、ゆっくり話を聞き、解決策を考えることかしら」
「違う。人の苦しみを理解するには、同じ苦しみを味わうことが一番だ」
「どういうつもり…」
「貧民街には貧しさ故に奴隷として売られていく娘や、体を売って生計を立てている者が大勢いる。今からお前たちにもその苦しみを味わってもらおうと思ってな」
「なんて卑劣な人間なの。自分の欲望を満たしたいだけでしょ」
「仮にそうだとして何が悪い。お前たち王家だって数え切れない数の人を殺し、富を手に入れ、欲望の限りを尽くしているじゃないか。今更善人ぶるんじゃねえよ」

ラウラの手が、クラウディアに伸びる。
「何をするの!やめなさい!」


壮絶な撤退戦を潜り抜け、ジュリオとマッテオが屋敷へと到着する。
屋敷は既にラウラの手下に占領されており、敵の要塞と化していた。

2人に敵たちが襲いかかる。
「少し遅かったようですね…」マッテオが呟く。
「マッテオ、ここは先に行って下さい。クラウディアを助けなければ」
「必ずお助け致します」マッテオはそう言うとジュリオの目を見て強く頷き、駆け出す。

ジュリオは敵を一手に引き受け、マッテオをクラウディアの元へと走らせた。


マッテオは階段を一気に駆け上がり、クラウディアのいる部屋に辿り着く。
中ではクラウディアが手足を縛られ、ラウラがすぐ側に立っていた。

「お前がラウラだな」
マッテオは剣を抜き、その鋒をラウラに向ける。
「随分と助けが早いじゃないか。好判断だったな」
「黙れ、今すぐ王女から離れよ」
「おやおや、王家の人間お得意の正義の味方気取りか」

ラウラはクラウディアの首もとに剣を突き当てる。
「それ以上近くな、お姫様がどうなってもいいのか」
「汚らわしく卑劣な悪党よ、その人から離れよ」
「俺はお前たちのそういう態度が大嫌いなんだよ」
ラウラがマッテオを睨みつけて語りだす。
「何だと」
「自らが高潔な人間と気取る態度…、自分たちが絶対だ。自分たちが正しい。そんな考え方をする王家の人間が大嫌いなんだよ!」
「お前が手を組んだアメデーオは王家の人間であろう。なぜ王家の人間と手を組む」
「アメデーオは王家の人間ではあるが、お前たちよりよっぽどましな男だ。あいつは俺たち貧民街の人間を仲間に招き入れ、食い物と住まいを与えてくれた」
「そうかも知れないが、あいつは欲深く粗暴な男だ。あのような男と手を組むなど…」
「人は皆欲深い。その形が違うだけだ。それに、あいつにはあいつなりの考えがある。アレッサンドロのような無能な王では国は良くならない。アレッサンドロの統治のおかげで、国はすっかり廃れてしまった。アメデーオがせずとも、遅かれ早かれ誰かに暗殺されていただろう。息子自ら手を下し、腐敗した統治を終わらせたのなら、英雄とも言えるだろう」
そう言うラウラに、マッテオはきっぱりと述べる。
「英雄などではない、王を殺した反逆者だ」
「王を殺した反逆者…か。どこかで聞いたことがある言葉だ」

ラウラの表情が険しくなる。
「アレッサンドロは俺の父を殺し、俺から全てを奪った。俺の経験した苦しみなど、お前たちには到底分かるまい。この手で王家を滅ぼし、辱めを与えてやる…。年若い頃父に王家への復讐を誓った。その誓い…果たさせてもらう」
「好きに致せ。但し、私を倒した後に」

互いが剣を構えると、ラウラがマッテオに斬りかかる。
マッテオはラウラの剣の威力に弾き飛ばされそうなるが踏み止まり、一瞬の隙を見てラウラとの距離を詰めると、下から剣を振り上げる。
ラウラは間一髪攻撃をかわすが、マッテオはすぐに身を翻し素早い攻撃を仕掛ける。
マッテオは体を前傾させ、ラウラの胸めがけて突き技を繰り出す。
「ここだ!」
「甘い!」
ラウラは瞬時に後ろに下がり、両手で持った剣を振り下ろす。強靭な両腕から伝わる力でマッテオの剣は地面に叩きつけられる。
マッテオは剣を再び取ろうとするが、あと少しのところで取れない。

ラウラは両手に力を込め、四つ這いのマッテオの首を落とさんと剣を振り上げる。
「親父、見てるか」
「やめて!」
クラウディアが絶叫する。

ラウラが剣を振り上げ、マッテオは死を覚悟する。
その瞬間、鋭い風切り音と共に飛んできた矢がラウラの首を貫く。
「…!」
ラウラは首元を押さえもがき苦しむ。
マッテオはその間に剣を取り戻し、ラウラの胸を剣で突き刺し、とどめを刺す。
「親父、すまん。約束は果たせなかった…」
ラウラが倒れ、息絶える。

ラウラの首に矢を打ち込んだのは、味方の兵士たちと共に敵を制圧し、駆けつけたジュリオだった。
「間に合って良かった。よくぞご無事で」
ジュリオはクラウディアと家の者たちも無事だと知り、胸をなでおろす。

「流石の腕前ですね…。貴方が来てくれなければ、私は命を落としてしまっていた。貴方は命の恩人です」
マッテオはジュリオに深々と頭を下げる。
「とんでもない、あなたが勇敢に戦ってくれたおかげで、クラウディアは救われました。本当にありがとう」ジュリオもマッテオに感謝する。

マッテオはクラウディアのもとに走り寄り、縄を解いた。
「クラウディア様、お怪我ありませんでしたか。もう大丈夫です」
「ありがとう、マッテオ様」
クラウディアは喜びと安心感から涙を流した。
同時に、自分のために命をかけて、強大な敵に挑んだマッテオに深い愛情を抱いた。

マルコの指示でジュリオたちの応援に駆けつけた兵士たちが屋敷に入ってくる。ジュリオとマッテオは屋敷の守りを兵士たちに任せ、マルコとアンドレアの元へと取って返す。


一方その頃、マルコ一行とアッカルド家の連合軍は進撃を続け、ファルネーゼの城に辿り着いた。
マルコがアンドレアを伴い、アメデーオが座する王室に入っていく。

城内の大広間にアメデーオが座っている。
「アンドレア、ここは私1人に行かせてくれないか」
マルコがアンドレアを制止する。
「しかし、相手は強力な戦士です。侮れません」
「分かっている。だがここは従兄弟どうし、面と向かって話がしたいんだ」

アンドレアは入り口付近に留まったまま、マルコだけがアメデーオに近づいていく。
マルコが正面に立つと、アメデーオが口を開いた。
「これはこれは、国王自らお出ましになるとは」
「力強い戦士であるなら、自ら剣を取り戦えばよいものを。愛し育ててくれた父親を殺し、奪い取った王座でふんぞり返っているのか」

アメデーオが立ち上がる。
「さすが、若くして王位に就いただけある。俺と違って王としての風格があるな」
「何が言いたい」
「俺は早く王になったお前が羨ましかった。ジュリオという強力な味方も持ち、国民の支持を集め、思うがままに国を治めていた。そんなお前が羨ましかった」
「それだけか、それが王になった理由か。父親を殺し王座を奪い取った理由か。なぜお父上を殺した!立派な支配者であり父親であったお方を!」

アメデーオが天を仰ぐ。
「それだけではない。父上は勇敢な戦人だったが、支配者としては落第だった。辛い思いを強いられていた者たちも数多くいる。それが今の俺の仲間たちだ。俺にも高い志がある。王になるべきはこの俺だ。親父とは全く違うやり方で国を治め、領土を広げ、最強の支配者になってみせる」 

アメデーオが剣を抜く。マルコも剣の柄に手をかける。
「今から俺はお前を倒し、お前の王国を頂く。父親と祖父を超える大帝国を作り上げる」
「そうはさせん。お前のようなものに父から受け継いだ王国は渡さん」
「話し合いで済まそうとは思っていない。力づくで奪うまで」

マルコとアメデーオの対決が始まる。
アメデーオは次々に攻撃を仕掛けるが、マルコは必死に剣で防御し受け止める。
アメデーオは力でも剣の技術でもマルコを圧倒する。
「なんだその細い腕は、こんなのが一国の主人とは聞いて呆れるぜ。この俺が腕ごと吹き飛ばしてくれよう」
「そうはさせない…」

ぶつかりあったままの剣がジリジリと音を立てる。アメデーオは剣を持つ手により力をこめ、受け止めているマルコの剣ごと振り下ろした。
ズバッと鈍い音が響き、血飛沫が飛ぶ。
マルコは首元に深傷を負い、倒れる。
「思い知るがいい、俺の悲しみを。そして死んでいけ」
アメデーオはもがき苦しむマルコに言い放つ。
「ついに、これで俺の時代が…」
アメデーオは息も絶え絶えなマルコを見ながら高笑いする。

「おい!戦いはまだ終わってないぞ!」
目の前でマルコを打ち倒され、怒りに満たされたアンドレアは、鬼の形相でアメデーオに向かって突進する。

「よくもマルコ兄さんを!許さん!!」
アメデーオとアンドレアの剣が高い音を立ててぶつかり合う。
「アンドレア、俺と手を組め。お前に傍らにいて欲しい。俺と共に戦い、俺の支配を助けよ。そうすればお前も、西洋一の剣士に…」
「黙れ!僕はあなたの下には絶対につかない。僕の主君はマルコ様に他ならない」
アンドレアは何かが吹っ切れたように無心に剣を振るう。
「残念だ。王家は貴重な若者をまた1人失う」
アメデーオもたかが外れ、本気でアンドレアを殺しにかかる。

「流石は剣術の達人、全く隙がない…」
アンドレアの渾身の攻撃も、アメデーオにダメージを与えることはできない。
アンドレアは消耗していく体力を振り絞り、集中を研ぎ澄ました。
「どうした、アンドレア。ジュリオが応援に来るまで時間稼ぎか、情けねえなお前は」
「よく言うよ、あなたも10歳も年下の相手に随分と息が切れてるじゃないか」
「調子に乗るなよ…」
怒りに任せ、アメデーオはアンドレアに攻撃をたたみかける。
アメデーオの攻撃により負傷しようと、アンドレアはそれをものともせず鬼気迫る表情で迫っていき、アメデーオを追い詰めていく。


「基本の構えが解かれた時、両腕の間を突く…!」
アメデーオの一太刀を横に弾いた瞬間、アンドレアはアメデーオの両腕の間を目掛けて突き技を繰り出した。

アンドレアの剣は空間をも切り裂かん勢いでアメデーオの急所を捉え、そのまま壁にアメデーオを貫き通した。

「…アンドレア、強くなった…な」
「貴方の心に巣食う悪魔が見えました。おかげで躊躇なく剣を振えました」
「俺の唯一の幸せは、お前に倒されたことだ…。願わくば、お前と共に西洋を征服したかった…」
アメデーオはにやりと笑い、息を引き取る。
アンドレアは震える手を抑えながら、貫いた剣を抜いた。

アンドレアはすぐさま、マルコのもとに走り寄る。
「マルコ!マルコ!しっかり」
「ごめんな、アンドレア。私は負けてしまった。しかし、お前の戦いぶりはしかと見届けたよ。皆のことを頼んだよ」
マルコは息を引き取った。

アンドレアはマルコの手を掴み、くずおれて泣き喚き、大粒の涙を流した。


アメデーオとラウラは死亡し、ジュリオとマッテオの連合軍の進撃により敵軍は壊滅。
戦いの幕は閉じた。


マルコはアメデーオとの戦いで命を落とし、ジュリアーノ家の系譜は途絶えた。
平和を愛した若き支配者の死に国民は深い悲しみに包まれた。


ジュリオは新たな王として即位し、父と兄たちが築いた王国を支配する事となった。
ジュリアーノ家の旧領はファルネーゼ家の属国になり、ミケーレとマルコを記念する碑が建立された。

ジュリオの支配は20年にも及び、王国はかつてない平和な時代を送った。晩年は、かつて甥のマルコを補佐したように息子アンドレアの支配を支えた。


花嫁姿のクラウディアと並ぶ王子マッテオ。
王ジュリオに祝福された二人の姿をシモーナとルイーザが微笑まし気に見つめている。
クラウディアはマッテオ王子と結婚し、やがて王妃として、王となったマッテオを支える存在となる。
孫娘の花嫁姿を見届けた後、ジュリオの母シモーナと叔母ルイーザは天寿を全うするようにして亡くなった。


王家の三男として生まれ、波瀾万丈の人生を送ってきたジュリオは、その人生を全うしようとする時、自らの寝床に息子アンドレアを呼び寄せる。

「私はこれまで、平和を求め戦ってきた。長く厳しい戦いであった。恒久的な平和をもたらすことは非常に難しい。
季節が移り変わるように、人も時代もまた変わりゆくことだろう。されども平和を信じよ。人々を繋ぐ愛を説き続けよ。
如何なる時代においても、人々を確かに繋ぐものはただ一つ愛のみだ。家族を愛せ。民を愛せ。
例え人の心に巣食う悪魔に打ちのめされそうになっても、偉大な父祖たちより賜った人を愛する心だけは失うでない」

ジュリオはアンドレアに全てを託し、静かに眠りについた。



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